渋谷で百鬼夜行が行われるジャンプの漫画に転生したんで、平安の今から準備する   作:三白めめ

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最強を倒そうとする話。
アンケートの御協力ありがとうございました。


葦を啣む雁
『それ以外に負けられるか』


「いや、もう少し、見ていたいものがあるんだ」

 

 ──その手を取らなかった。

 

「……なるほど。そこな少女か」

 

 晴明は、生まれる前に京都全域のことを把握している。よって、契克が一度敗北していることも知っていた。

 

「試すとしよう。この程度で死ぬならば、それまでだったということだ」

 

 同時に、晴明の前の空間が歪む。永劫輪廻──超重力砲撃が、ゆらに対して撃ち出された。本来ならば、一射でも陰陽師一人を葬るのに過剰といえるだろう。ましてや、現在の晴明は神となっている。それが三連続でゆらへと投射された。ならば──

 

「──こん、くらいで……死ぬわけないやろ……」

 

 片腕を犠牲に防ぎ切ったのは、それだけでも偉業と称せるだろう。そして、自動で施される反転術式によって欠損は回復する。

 

「ふむ、相応の力はあるようだ」

 

 晴明が表情を変えていないのは、些事と割り切っているのか、それが当然だと思っていたからか。

 そうしていると、頭部に巨大な目玉が付いた妖──鏖地蔵が晴明の傍に寄る。その手には一振りの刀。

 

「晴明様。約束通り、刀をお持ちしましたよ」

 

 刀──魔王の小槌を手に取り、晴明は鏖地蔵へ山ン元五郎左衛門という人物への労いの言葉をかけた。その鏖地蔵本人は、山ン元の目玉と言う個体だと名乗っていたが。

 

 刀を手に取った晴明に、武曲の薙刀を形成しているゆらが接近していた。一瞬で距離を詰めたゆらに対し、晴明は横薙ぎの一閃で迎え撃つ。

 

「援護しよう。──領域展開」

「それならば、こうせざるを得ないか。領域展開」

「お前らほんまふざけんなや!」

 

 回復した契克が領域を展開し、晴明も合わせて領域を敷く。それにより発生する無差別な必中効果を避けるため、ゆらは簡易領域を使う。領域の押し合いで、術式が回復するまでは超重力圏による防御が解除されている。よって、互いの攻撃は有効。薙刀と、晴明の薙いだ刀が金属音と爆風を以てぶつかり合った。

 その激突の余波で、京都全域が炎に包まれる。ゆらの体には傷一つついていない。直後に、既に跡地と形容していいだろう弐條城の床から無数の棘──鹿のそれに似た角が波のように晴明に迫っていく。そして、それを足場に八艘飛びの如く駆ける契克。即席の連携は、しかしゆらが道満の記憶を持っていることもあって年季の入ったそれとなっていた。

 ──戦う前に、晴明の情報をできるだけ託した。蘆屋道満のその判断は間違っていないだろう。実際、何も知らなければ咄嗟の領域に対応できず、晴明が纏っている"無限の距離"に全ての攻撃が阻まれていた。

 ただ、道満は既に死んだ身として、表舞台に出ることを避けた。故に、現代の陰陽師の強さについては、ゆらを基準にするしかない。

 結果、傍から見れば、周囲の被害を考えない暴走と同義の戦いとなってしまっていた。

 そして、これは道満も契克も気づけていない、ゆらしか推測できていないことだが。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。晴明を打倒するための必要条件がそうである以上、ゆらに取れる手段は契克を殺してから晴明に挑むか、契克と共に"最強"に挑むかの二択であった。

 

「刀は──今は不要か」

 

 魔王の小槌を使うのは、あくまで鵺としてだ。現人神の安倍晴明としては、使う必要が無い。空間の軋む音と共に、魔王の小槌が高速で射出された。それに対し、二発の銃弾が叩き込まれる。続いて切先に合わせるように槍が投げられた。威力が殺された刀は、祢々切丸によって弾かれる。続いて、それを為した彼は太刀を虚空から引き出し、勢いのままに鏖地蔵へ切りかかった。両手を上げて、京の町が燃えている様を楽しんでいたその翁に反応できるはずもなく。斬撃に、続くハンマーでの殴打、斧や大質量の大剣の攻撃に加えて祢々切丸の剣閃といった全力の連撃に跡形もなく消滅した。そこまでしたのは、彼──リクオの父親を殺した仇の一人だからか。

 

「千年前に死んだ奴が、この世で好き勝手やってんじゃねぇ」

 

 羽衣狐との戦いで疲弊した中で更に術式を使い、左腕は崩れかけて息を切らしているが、それでも奴良リクオは立っていた。

 

「……なんだ、お前は」

「あー、らしいで、契克」

「耳が痛いね」

 

 道満はどうか微妙なところだが、記録上千年前に死んでいた契克が微妙な表情を浮かべる。

 

「……奴良くん、今は引っ込んどき。あんたが倒さなあかんのは"鵺"や。晴明ちゃう」

「どういうことだ」

 

 語る必要はない。というより晴明のいるこの場で語るのは不利益にしかならない以上、話すべきではないと判断して、ゆらは再び攻勢に戻る。

 相手もゆらが反転術式を使えることは理解済みのようで、機動力の重点である足と、反転術式そのものの弱点である頭部を狙っていた。

 

「"最強(晴明)"は私らが倒すいうことや」

 

 そしてその場合、ゆらたちの勝敗に関わらず、平安より生きる"鵺"を倒す必要がリクオにはある。よって今後のことを考えれば、彼がここで倒れることは避けておきたい。

 

「たたっ切る!」

 

 ただし、本人は祖父や父の大切な人を利用した策略を練った晴明への怒りが抑えられていないようだが。

 

「……ゆらちゃん、そろそろだ」

「術式が戻るんか」

 

 晴明の周囲が歪む気配がした。術式の回復。それによる無下限のような守りの復活を意味しており……

 

「なん……だと……」

 

 リクオの全力の突きは、晴明の周囲に存在する無限の距離によって届くことなく動きを止めた。

 

「なるほど、祢々切丸か。それに、術師としても見所はある。だが私を倒す程ではない」

 

 そして、少し触れるだけで祢々切丸は砕け散る。

 

「盃盟操術……っ!」

「遅い」

 

 左腕を捨てる覚悟で咄嗟に自らの術式を使おうとするが、晴明は既に重力場をリクオの付近に発生させている。本来ならば誰も手が届かずに圧殺されるそれに対し、リクオの服の襟が遠くから掴まれて、辛うじて躱すことができていた。

 

「間に合ったかな」

 

 無為転変。それによって契克は自身の腕を伸ばしてリクオを引き寄せる。それでも致命傷は避けられないはずだったが、羽衣狐の残骸が庇うことによって、幸いにも無傷で下がることができた。

 

 ──そして、御門院心結心結の仕掛けた機構が起動する。安倍晴明の復活後、珱姫の体が無為転変の対象になった時に発動するそれは、天海の施した全国規模の結界を通じて、マーキングした者に対して呪物や術式の最適化を行うものだった。

 

「……では一度退こうか」

 

 それを察知し、晴明は御門院の本拠地に戻ろうとする。

 

「逃げるつもりなんか?」

「そうだ。ここは一旦退くとしよう」

 

 当然、逃がさないとばかりにゆらは攻撃を畳みかけた。契克から渡された天逆鉾を構え、貪狼や禄存といった四足歩行で速度に優れる式神も呼び出す。

 

「星辰操術・極ノ番」

 

 次の瞬間、それらは全て消滅していた。呼び出した貪狼や禄存といった式神や、自分が移動した距離を含めて初めからなかったかのように消え去っている。そして、傍らにいたはずの契克もいない。全てが数秒前に戻ったような状態の中、晴明の手には先ほど手放したはずの魔王の小槌が握られていた。

 

「千年間ご苦労だった。鬼童丸……茨木童子……そして京妖怪(しもべ)たちよ」

 

 そう語った晴明の眼前には、いつの間にか黒く捻じれた空間が現れている。

 

「回游の終わりに再び会おう。道満を継ぐ者、そして若き魑魅魍魎の主にして術師よ」

 

 空間の先に姿を消した晴明や、それに続く京妖怪を追って飛び出そうとするリクオだが、先ほど重傷を負った祖父のことが頭によぎり、一瞬ためらってしまう。そして、選ぶのは祖父の安否。そうしてそちらの方に向かうと、それとは逆方向──晴明を追って門へと滑り込んだゆらの姿とすれ違った。

 

「奴良くん、後はよろしく」

「っおい!待て!」

 

 そして、出現した門のような空間が消え去る直前。ゆらがそこへと滑り込んだ。

 

「行きやがった……」

 

 無事を祈るしかないと考え、リクオは祖父の下へと急ぐ。

 

 

 葵螺旋城、その頂上にて。御門院の五代目を除いた全ての当主が揃っていた。周囲には当主ではないが相応の力を持った御門院の精鋭が控えている。彼らの目的はただ一つ。祖たる晴明を迎えることだ。

 そして、晴明は大妖怪の大群を連れ、葵螺旋城へと降り立った。

 

「よくぞ、我が身の還る場所を……守り尽くしてくれたな。礼を言うぞ、息子どもよ……」

 

 そして、この場にいる安倍姓二代目こと吉平は、奇妙な気配を感じる。血縁と言うのだろうか。この場において血のつながりを明確に感じるのは父である晴明ただ一人のはずだ。しかし、それとは違う、多少薄けれども確かに感じるそれは、()()()()()()()かのように動かない一人の幼い少女が大本となっていた。

 

「(確か、父の言っていた計画の一つだったか。とはいえ私のやることは存在しなかったから、概略を聞いた程度だが)」

 

 そして、吉平は京都にて何が起きたかを知ることとなる。そして、これからのことについても。

 吉平は、玉折事変の際に烏崎契克の姿を見たことはある。確かに男だったはずだ。

 

「(……これから祖母を産む? 烏崎契克が? なぜ女に……? オレのような天与呪縛か???)」

 

 ただ、理解できるかどうかは別だった。脳が現状の理解に処理を割いている直後。

 

「──去ねや」

 

 この空間が、大きな獣の顎で噛み砕かれる。対処は各々で違った。後方へ飛びのく天海と心結心結、式神に乗って躱す雄呂血と有弘。有行は懐の鏡の中に避難して事なきを得ていた。そして最も多かった対処が──

 

「御前だぞ、場ァ弁えろや!」

「この術式──花開院の陰陽師か!」

 

 水蛭子や長親のように、攻撃を相殺することだった。

 

「晴明様の前でこんなことやらかしてんだ!覚悟はできてんだろォ……な……っ」

 

 御門院最強と言って憚らない水蛭子が先陣を切ろうとする。実際、身体を五行それぞれに置き換えた彼は、破壊性能の一点においては確かに御門院で最も優れていた。

 四肢そのものが五行になっている、ということは、常に術式が発動しているということで。それはつまり、ゆらが投擲した天逆鉾でいともたやすく無力化できるということも意味していた。体に刺さったそれを逆手で持ち、呪力で強化した身体能力で、執拗に頭部や心臓を貫く。幕末以来使ったことのないという彼の極ノ番は、その使い手ごと葬り去られた。

 

「まず一人」

 

 そして、一人やられて八対一の状況であるとはいえ、御門院側も本気で対処すべき相手だと見做す。呪具頼りの戦い方ではない、確かな戦闘スタイル。戦い方に既視感を覚えた天海は、晴明の方をちらりと見た。

 

「(結界の常として、内側から外側への脆弱性が高い。ある程度対策をしているとはいえ、葵螺旋城もまた同様だ。あの小娘が逃げる前に、晴明様が対処してくれれば最も楽なのだけれど……)」

 

 天海は思考する。今暴れている陰陽師の小娘に、晴明は見定めるような視線を向けていた。つまり、よほどの強者か、かつての知己か。花開院であることを加味するに……

 

「蘆屋道満、その受肉体といったところかな?」

「ちゃうわ。契克と一緒にせんといて」

 

 流石に風評被害は避けたいと否定するゆら。

 

「術式は相伝……紫微斗法術ですか。なら、蘆屋道満の記憶と経験を引き継いだというところでしょうネ」

 

 そして、御門院の当主は即ち少なくとも一分野を極めたと言える者たちだ。情報を与えれば、手の内は暴かれる。今回であれば、形代、即ち人間を対象とした術の専門である心結心結が正解したように。

 

「上等や。"最強"に挑むんやぞ。それ以外に負けられるか」

 

 ──全員ブチ抜いたる。そう言ってゆらは天逆鉾を構えなおした。




ラスボスと戦った後に自分がレイドボスになる系ヒロイン。
妊婦を戦わせるのはコンプライアンス的にアレなので、メロンパンはちょっとの間戦えません。
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