渋谷で百鬼夜行が行われるジャンプの漫画に転生したんで、平安の今から準備する   作:三白めめ

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初期構想でやりたかったことの一つ、もしくは修行パートで首都高を選んだ理由。


『回数券』

 9月2日。盆や夏季休暇も終わり、帰省から帰った人々が学校や会社への不満を漏らすその頃に、それは起きた。

 全国十箇所に発生した結界。その周辺では一般人が散見され、いずれも「仮面を着けた黒装束の男に、外へ避難するかと聞かれた」と証言していた。内部にはインターネットや携帯の電波が届かず、外部とは隔絶された環境にある。そして、以上から、花開院は存在を示唆されていた"死滅回游"の発生と断定。前当主である二十七代目秀元は戦死し、当主代行は秋房に決まる。そして、新当主と目されていた、現在は行方不明の彼女は──

 

 

 仙台結界(コロニー)成立から少しした頃。気づかずに倒していたが、妖怪の一部も回游の泳者(プレイヤー)として参加していたようで、十点を得ていたことにゆらは気づいた。既に泳者として登録を済まされていたことは、契克の無為転変が起動の鍵となっていたことによる識別の都合だろう。修行で負った欠損を治された覚えがあり、それが原因だろうと当たりをつける。現在の思考は別のこと──

 

「どないしよか……」

 

 戦闘能力のない式神に告げられた八つの総則──回游の参加者である泳者(プレイヤー)を殺して点が入る制度、十九日以内に点が変動しない場合の術式剥奪。そして非術師が一点に術師が五点という区分と百得点を消費することで可能となる総則の追加について悩んでいた。回游の継続に差し支えなければという条件はあるが、現状で必要と考えられるのは結界間での連絡手段の確立と点数の譲渡だ。

 

 ゆらに非術師を殺す選択肢が無い以上、必要なのは最低でも術師二十人。点数の譲渡ルールを追加して、術式の剥奪による死を防ぐことができれば最低限となる。問題は、ゆらにとっては連戦になるということだ。復活した晴明との戦いの直後に、御門院や安倍姓の歴代当主を相手にし、それから少ししての死滅回游開始。猶予自体は相当に存在しているが、早く総則を追加しなくては非術師の犠牲が増える可能性がある。

 なにか手段はないか。そう思いながらポケットを探ると、煙草の箱が見つかった。当然だが中学生のゆらはタバコを吸わないことから、煙の呪法を使う契克の物だと理解する。なら、わざわざゆらの懐に入れた理由はなにか。そう考えながら一本を箱から取り出す。

 

「煙草……まさか……」

 

 巻いてある紙は火行符で、呪力を流せばライターが要らずに煙が立ち上る仕様だ。道満の記憶を得たゆらはこれを知っている。こういうものを軽率に渡すあたり、身内には甘いというか。

 

「やっぱりあいつの呪具やんけ」

 

 天与の暴君に等しい頼光や特殊な血筋の金時はともかく、他の頼光四天王がなぜ平安の妖怪と互角以上に戦えていたのか。その理由でもあった。足取りは戦闘している方へ。戦う手段があるのなら、一般人を狙う、もしくは一般人ごと躊躇いなく攻撃する相手を放っておく理由にはならない。少し休んで回復した呪力で貪狼を呼び出し、巨大な式神や乱戦の最中に突っ込んで殺していく。とはいえ敵を早く排除することによって脅威を退けるスタイルでは、呪力の限界もまたすぐに訪れてしまう。よって──

 

「しゃあない。使うか」

 

 天逆鉾を左手に握ったまま、火のついた煙草を人差し指と中指の間に挟む。右手には拳銃と、対術師を想定した戦闘スタイルで、立ち昇る煙を深く吸い込んだ。

 契克が作った最高傑作。自身の術式を組み合わせて作った、量産性と効果を両立させた至高の一品。名前は、確か──

 

模倣:回数券(クーポン)、やったか」

 

 


 

 回游開始から数ヶ月。主催した天海の目的がまさしく結界の永続故に爆弾が落とされることはなく、極めて健全に回游は進行していた。そして、東京第二コロニーにて、膨れた胎でチェーンソーを振り回して戦う少女──契克の姿があった。追加された総則によって、他泳者の情報──名前や得点、ルール追加回数と滞在結界(コロニー)が判明し、"烏崎契克"を倒そうと集まった術師の山の上に座り、契克は呟く。

 

「『だが私の現実(リアル)には呪術(フィクション)が降りてきてしまった。私はもう読み手としても書き手としても、モチベーションを失ったのだよ』」

「偉人の言葉か?」

 

 知識人が行う英文学の引用、と例えるには些かに軽い口調、どちらかといえば漫画の名言をそのまま言ったような軽薄さで、契克は語る。眼前には千年前に見知った顔。今まで戦った有象無象とは違い、陰陽寮でも名の知られていた術師の一人だ。大人しく話を聞いているように見えて、言霊の対策を完了している。

 

「私の好きな漫画家志望者、シャルル・ベルナールの言葉だよ」

「志望かよ」

 

 なお、シャルル・ベルナールはこの世界に存在しない。

 

「さて、どうしたものか。見ての通り私は万全に動けない状態で、呪力出力も低下している」

 

 これはゆら──道満と晴明しかしらないことだが。契克がまともに話している時点で、全力ではあっても本気ではない。そもそも、契克は平安における"最新"であって、最も恐れられていたのは知識とその応用力だ。そして、呪術廻戦の原作に備えて、現代の知識を活用することはさほどない。──少なくとも素面の間は。

 

「仕方がないから、本気を出そうか。遷煙呪法・極ノ番(オーバードーズ)

 

 つまり、契克にとっての極ノ番は、極まった必殺技というよりも手札を全て解禁するための──トび方だ。チェーンソーを左手に握ったまま、煙草を人差し指と中指の間に挟む。右手には、ヤクザの事務所から強奪してきた拳銃を持つ。田中剣は本体の魂が消えて刃こぼれしたから捨てた。

 

「……なるほど、確かにそれっぽいな。生憎と今は持っていないが、天逆鉾(ドス)(チャカ)麻薬(ヤク)で敵を討つ。ぬらりひょんの孫はヤクザ(極道)漫画だし、それくらいはしてもいいと、()()は思うぜ」

 

 それは平安時代に晴明や道満の前で数度しか見せたことのない全力だった。強者としてのロールプレイを投げ捨てた、素の一人称での戦闘。無数の鳥が契克へと迫り、そのすべてが爆発する。契克は爆発の寸前にチェーンソーで全ての鳥を斬り落とし、更に前へ。強化した筋力でチェーンソーによる突きを放ち、腹を刺した。

 その程度で致命傷にならないと互いに知っているが故に、内臓をかき回すそれを放置した彼は攻撃の手を止めない。契克も考えは同じと攻撃に回し、互いに反転術式の使い手として脳を破壊する一撃を優先した。至近距離ならと拳を振るう男に対して契克は手に持った銃を発砲し、その拳を逸らす。互いに打つ手は一度止まり、男は距離を取ろうとする──直後に契克の腕が割け、内側から手榴弾が転がった。既にピンの抜かれているそれは、男の顔がある目の前で爆ぜる。当然、契克も巻き添えを喰らい、互いが頭部に深刻な傷を負った。

 ──ただし、契克は無為転変によって脳の位置をずらしていたが。

 

「……マジかよ」

「やっぱり、事前準備は大事だよな。回游が始まってからじゃ遅かったんだって」

 

 平安から準備していたか。その違いが勝敗の差だったと契克は言った。そして、自分の所持点数に五点が追加されたことを確認したと共に、仙骨から狐の尻尾が伸びて不随意に相手の心臓を貫いて吸収する。

 

「そういえば、これ使ったし言っとくべきか。──ぶっ殺した」

 

 痛覚を抑えるために高揚感が増す作用を持たせているからか、キメてから戦うと、自制が利きづらくなるという点があった。契克自身は何度か使っているので耐性がそれなりにあるが、初使用する場合はマズいかもしれない。

 

「ゆらちゃんに一箱分渡してたっけ。まあ大丈夫だろ」

 

 首都高で暴走し(はしっ)た仲間だ。麻薬(ヤク)キメても大丈夫な精神力だとは確認している。未成年だということを考慮しても、せいぜい一日くらい眠りが浅くなる程度の反動だろう。そう判断し、ゆらのことを頭から追いやった。一箱使い切っても、大した問題は発生しないはずだ。




首都高を燃やしたり妖怪解体(バラ)したりしながら暴走(はし)った、仕事の都合上裏社会でしか生きられない義務教育年齢。つまりそういうことです。

珱姫(男口調で妊娠済みヤクキメ喫煙者かつ狐尻尾TS娘)

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