渋谷で百鬼夜行が行われるジャンプの漫画に転生したんで、平安の今から準備する   作:三白めめ

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死滅回游参戦者の話。


『東京第一結界』

 二つの結界が発生した東京、そのうちの一つの前にリクオはいた。

 関東一円をシマとする奴良組として結界を放置するわけにもいかず、同時に術師として花開院から届いた東京コロニーの一つを調査する要請を機に、組の戦力を二つに分けて東京結界の対処に向かうこととなる。東京第二結界には黒田坊及び青田坊、海があることから河童など。そして東京第一結界には、三代目を正式に継いだリクオが首無などの少数を率いて向かう。

 幸いだったのは、花開院からの連絡で、結界内では呪力使用の如何に関わらず結界外との通信が不可能だと事前に知っている点か。百鬼夜行ではなく、実力不明の術師に対して単独での勝機が存在する精鋭のみで構成した少数精鋭で結界で向かう。

 その道中。清十字怪奇探偵団の団長である清継から連絡が入る。結界の成立と同時に、同じく団員である青髪の少女──鳥居夏実との連絡が取れなくなったようだ。清継はリクオの事情を知らないことから、純粋に何か知らないかと連絡を回したのだろう。そしてリクオは、東京結界のどちらかにいるだろうと推測。

 

「黒、鳥居さんとは面識があったよね」

「ハッ。言葉は交わしていませんが、拙僧は一度会っております」

 

 青田坊の方は、京都の時などで何度も顔を見ている。リクオとは別の結界の方にいた際にも保護が可能だと確認し、全体に告げる。

 

「最後に確認する。目的は、結界内の調査。情報を持ち帰ることが目的だから、死なないことを優先してほしい。それと、奴良組として間違っても仁義に外れる真似をするな」

 

 祢々切丸は秋房の手によって修理が行われており、盃盟操術を始めとした呪術のみがリクオの戦闘手段となっていた。その都合上、夜間は自傷を伴うことになり、これまでと違って昼の間に戦わなければならなくなっている。

 よって、黒手袋を着けていつでも武器を取り出せるよう術式の準備をした。昼の姿でも戦えるようにというリクオの思いは、確かに実を結んでいたのだ。

 

「よぉ!俺はコガネ! この結界の中では死滅回游って殺し合いのゲームが開催中だ! 一度足を踏み入れたらお前も泳者(プレイヤー)!それでもオマエは結界(なか)に入るのかい!?」

 

 そして、結界前で出現した式神から参加の意思を確認される。とはいえ、答えが変わるはずもなく。

 

「あぁ、問題ない。みんな──いこう!」

 

 結界に一歩踏み出した次の瞬間、隣にいた仲間たちの姿は見当たらなくなっていた。結界によるランダムな場所への強制転移。そして──

 

「盃盟操術・氷凝!」

 

 眼前に広がった炎を氷の壁で防いだ。咄嗟の反応だったが、幸いにも氷を溶かしても残るほどの勢いではなかったようで、リクオ自身は傷を負っていない。

 

「……外したか」

 

 視界の先には、日本刀を持った和装の男がいた。老齢というには少しの若さが残っており、オールバックの髪を後ろで結っている。リクオを見据えていることから、先ほどの一撃は彼が行ったのだろうと推測できる。

 

「過去の術師ではないな。老獪、老練。そういった長年の経験は見受けられない」

「……退いてくれませんか。できれば殺したくない」

 

 合流しなくても問題ない精鋭を連れてきてはいるが、こうした転移先で待ち構えているのが集団だった場合、もしくは過去の術師と遭遇したとしても勝てるかは不確定なものとなる。

 

「(結界内部とはいえ誤算だった……! 総則じゃない、"結界の法則"!)」

 

 虚空から取り出したようにも見える拳銃で、足を狙って二発。すぐさま左手に持ったそれを放り捨て、今度はライフルで腕を狙った。

 

「甘いな」

 

 そして、それらは全て斬り落とされた。同時、呪力で強化した身体能力で刀の間合いまで詰められる。

 

「泳者を殺さねば点は入らぬぞ。慢心か、術師にあるまじき甘さか。いずれにせよ、そうして無為に命を散らす前に、骨の髄まで焼き尽くしてくれる!」

「……っ!」

 

 刀に纏った炎が蛇のように迫る。大剣を取り出し、その質量での防御を迂回するように掠った火は軽傷に止まり、リクオは地面に突き刺したそれから手を放してナイフを新たに握った。夜の姿──ぬらりひょんとして身に着けていた高速戦闘を、畏による認識阻害の代わりに純粋な身体能力で行う。狙うのは相手の武器である日本刀だ。

 

「盃盟操術・鎌鼬」

 

 攻撃に使う風を加速に利用し、捉えきれない動きによって守りに回らざるを得ない刀の破壊を目指す。そして──

 

「貫くほどの一念ではあるか」

「これ以上はいいでしょう。もう一度言います。退いてください」

 

 切先を含んだ刀身の半ばが地面へ突き刺さる。彼の使っていたのは炎の術式である以上、その基点だろう日本刀が折れたことで継戦能力は著しく落ちたと判断し、更に前へと距離を詰めたその時。

 

「──術式開放。『焦眉之赳』!」

 

 折ったはずの刀身が、炎によって延長された。

 

「……躱しきれないっ!」

「刀身を折り、間合いを縮めたと判断して深く踏み込んだな。だが、私は術師だ。存在理由に由来することしかできん妖や、ただの剣士とは違う。そして、これで確証が持てた。オマエは術師との殺し合いには慣れていないのだろう」

 

 振り下ろされた刀は、先ほどとは比べ物にならないほどの爆炎を噴き上げる。咄嗟に後方へ跳躍したリクオだが、それでも右肩に深い傷を負う。熱傷によって動きにくくなった右腕に眉根を寄せつつ、武器を片手で振るえる長剣へと切り替えた。

 

「人を殺したくないというその一念は認めよう。しかし、我々術師は譲れぬ信念と呪力(ちから)を以て戦う。オマエの思いと同じように、皆手抜かりなく理由を持っているのだ」

 

 それを聞き、リクオは覚悟を決める。おそらく、この選択は後悔としてついて回るだろう。術師に悔いの無い死はないと竜二が言っていたように、死の間際ですら頭によぎるかもしれない。それでも。

 

「──覚悟は決まった。"ボク"は、お前を殺す」

「そうか。……名前はなんという」

 

 互いに事情があり、その上で譲れないのならば、こうして決着をつけるしかない。花開院のような大家ではないが、呪術界の名家に生きる者として、その覚悟を持った者への敬意として。彼はリクオへ名を問うた。

 

「リクオ。奴良リクオです」

「──いいだろう! 私は術師として、オマエを焼き尽くすべき敵として迎え撃つ!」

 

 男は刀を構える。それに呼応するようにリクオも長剣を握り、前へと駆けた。

 

「来い! 奴良リクオ!」

 

 刀と剣が交差する。斜めに切り上げたリクオの剣は、円を描くように男の首へと向かう。対して男は炎を纏わせた刀でそれの迎撃を行った。宣言通りに迎え撃つ動き。そしてそれは成功し──

 

「盃盟操術・武僧」

 

 空いていた片腕は鞘を握る構えを取っており、そこから見えない柄を握った左手は、炎で目が眩む中で一本の太刀を手に持っていた。

 

「シン・陰流 抜刀」

 

 そこから繰り出される最速の居合が、男の首を刎ねる。首から血が噴き出し、まもなく死ぬだろう彼の最期の言葉が耳に入った。

 

「……さらば、我が娘たち。……我が人生の、誇……り……」

 

 それは、一人の男の人生を終わらせたとリクオが実感するのに十分なものだった。術師を殺したことによる五点が自らの持つポイントに加算されたことを認識し、その死を悼む。目を瞑らなかったのは、結界内という戦場であるためか。

 

「──行こう」

 

 結界にいるだろう鳥居(非術師)の保護のためにも、結界外への離脱を総則に追加することが長期的な目標の一つになるだろう。そう判断し、リクオは別れてしまった奴良組の妖たちと合流するために歩を進めた。

 

 


 

 そして、東京結界内にて、結界全てにおいて最速で百点を獲得した者がいた。薙刀を片手に携えた、()()()()()。死滅回游上は鳥居夏実として登録されている彼女は、一つの総則の追加をコガネに要求する。

 

「ルール追加。全泳者(プレイヤー)の情報を開示して」

 

 彼女──鳥居夏実として登録されている彼女は、そうして目的の名前を探し始めた。




戦った男の名前は敢えて出していません。

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