渋谷で百鬼夜行が行われるジャンプの漫画に転生したんで、平安の今から準備する 作:三白めめ
転校の挨拶をしたら、騒がしいオカルトマニアに絡まれた。清継何某というらしく、やはり平安と同じ名義を使っていたからか、彼の琴線に触れたらしい。そんな彼は、呪物の蒐集をしているらしい。ゆらちゃんがそれに食いつき、ついでに便乗させてもらうことにした。清十字怪奇探偵団なる組織を設立したようで、これもある種のコネと言えるのだろうか。
そうして放課後に呪いの人形を見に行って、ゆらちゃんが陰陽師と名乗ったわけだ。人形本体については、日記を読んだ相手に危害を加えるという縛りでやっと一般人を殺せる程度の相手に語るようなことは少ない。
それよりも。
「なんで、妖怪が学校にいるのかな」
及川氷麗といったっけ。人間の振りをして、妖が学校に通っているということの方が興味深い。妖の分際で楽しそうだとは言ったけど、まさかここまで人生エンジョイ勢だとは。
そんなこんなで色々と楽しい中学校生活の昼休み、ゆらちゃんが自分の机でプリントとにらめっこしているのが目に付いた。人生4週目が言っても説得力はないが、休み時間にまで勉強しなきゃいけないほどの頭じゃ陰陽師は務まらない。ということは、むしろその逆。
「呪術規定か」
戦乱によって高まった負の感情から起こる呪霊の活性化を予期し、総合的な呪術対策を行うための規定。──という名目で作った、秘匿死刑というオシャレワードを使いたいがために設立したルールだ。流石に500年前に作ったときからは色々と変わっているだろう。
「そうなんよ。覚えることが多くてな。当主になろう思ったなら、これ全部覚えなあかん言われて……」
「どれどれ……」
A4用紙二枚分の本文と、注釈や特例処理について書かれた紙が四枚。文字がびっしりと詰まっているこれを、中学生に暗記させるというのは酷だろう。
「(それに、そんなに変わってないし)」
「ゆらちゃん、祖父が当主なんだっけ。世襲でいけるんじゃない?」
この様子だと、上層部やそれに紐づいた総監部も世襲や保身が蔓延っているだろうと見当をつけ、試しに聞いてみる。そういう性格ではないだろうが、俺は花開院の家庭事情を知らない。ワンチャン、禪院みたいなドロドロお家バトルが繰り広げられている可能性があるのだ。
「あー、一応、私が当主としては最有力らしいねんけど……」
そうして語るところによると、どうやら短命の呪いなるもののせいで、分家の才能ある人間を本家入りさせることもあるらしい。呪いのせいとはいえ、思った以上に御三家要素が強かった。しかも、花開院は"破軍"という式神を使える人間が当主になるというしきたりがあるそうだ。十種影法術じゃん。ゆらちゃんは伏黒だった……?今度領域展開する時は、花開院ゆらへの影響を考慮しよう。そう心に決めて、プリントを覚える作業を再開する。
「というか、なんで陰陽師の規定が呪術規定なんや」
「陰陽規定って、ゴロが悪くない?」
その辺りは、芥見先生の原作をそのままお借りした弊害だ。まさか陰陽師が呪術師じゃなかったなんて……。
「ん?呪詛師認定……?」
呪術規定にもう一度目を通していると、そんな単語が目に付く。呪詛師云々については、作った当時は決めていなかったはずだ。幕府や国が陰陽師を抱えている都合上、戦いに駆り出されて対立する可能性が高く、呪術師と呪詛師の区分があいまいになってしまう。それを避けるために泣く泣く削られたのだが……
「確か、明治くらいに呪詛師って概念が決まったはずや。歴史関係まで覚える余裕がないからうろ覚えやけど……」
ありがとう!名も知らぬ明治の術師!割と人生で一番と言ってもいいくらいには感謝してる!
さて、なぜか学校に来ていた推定雪女が親しくしていた奴良くんという少年の家に行き、この家焼き払った方がいいんじゃないかと思うくらいには妖怪が跋扈していた(花開院ゆらへの影響を考慮し、行動を起こさなかった)と思った帰り道。俺は浮世絵町の一番街──いわゆる繁華街に来ていた。
「ヤクザの真似事をしてるなら、こういうとこのショバ代が収入源だろうし」
順番に殺して歩こうか。呪力を練って、あの言葉を唱える。
「闇より出でて闇より黒く、その穢れを禊ぎ祓え」
~~っ!平安は隠す必要がなかったし、戦国は陰陽呪術が飛び交っていたから同じく使う意味がなかったが、ようやく。ようやく、都会で帳を降ろすことができた!まあ、元が夜だから帳はさほど目立たないが。
呪術規定で呪詛師の区分が存在する以上、宿儺のように区域一つを消し飛ばす領域展開はマズく、少なくとも今するべきではない。
「順番に殺していこうか」
懐から取り出した煙草のケースを叩き、指に挟んだ一本に火を着ける。傍から見ればタバコを吸う中学生と非行の代名詞だが、まあ理由もなくそんなことをするわけじゃない。
「遷煙呪法」
──煙。煙に巻く、煙幕といった隠すという意味合いに加え、憑き物落としなどにも古来から使われてきた。そして、薬草などの効能の摂取にも。では、この術式は?
前に重心を寄せ、一歩踏み出す。同時、コンクリートで舗装された足元が砕ける。轟音と共に駆け出すその姿は誰にも認識されず、纏っている煙に反応した妖の頭部を精密に破壊した。
そう。答えは全て。流石に二回の人生と、前世で培ったサブカル知識があるのだ。伊達に平安陰陽師最強の一角に名を連ねていない。むしろこの万能性で勝てない晴明とかいうチートがおかしいのだ。
「なんというか、つまらないね」
夜の繁華街を高速で駆け抜けるのは楽しいが、少ししたら飽きた。弱者蹂躙を楽しめる性格でもなし、実質的には大物が釣れるまで続ける単純作業である。
「どうせなら、ゆらちゃんを誘えばよかった」
奴良なんとやらの家からの帰り道が同じだからと、家長という同級生(彼女も清十字怪奇探偵団に所属している)を送って帰っている。もう帰っただろうが、中学生女子がどれくらい話しながら帰るのかわからない。ゆらちゃんも俺と同じ一人暮らしだし、もしかしたら家永さんの家に泊まると突発的に決めるかもしれない。そのあたりはいくら前世が現代人だったとはいえ、女子中学生の生活に詳しいわけじゃない。というかストーカーじゃあるまいし、男がそんなこと知ってるわけがないだろう。そして前世持ちで人生4週目にして女子生活1回目が、普通の女子中学生とキャピキャピ話せるわけがなく。つまり──
「電話していいのかな」
女子の友達付き合いというものがさっぱりわからない。まあ、同盟を組んだ同業者ということで業務連絡の範疇だろう。電話で片手が塞がるので、パンチや手刀の代わりに蹴りへと攻撃手段を切り替えて、携帯の電話帳に唯一登録されている番号から電話をかけた。
「……つながらない」
流石に、九時にもなってないのに寝ることはないだろう。話に夢中になっていて気づかないか、修行中か。どちらにせよ直接探した方が早いかもしれない。そう思った数秒後、路地裏にてスーツを着た人型の鼠の死体が大量に見つかった。
「獣……式神だね」
転がっている死体は、喉や頭を食い千切られたものと、爆ぜたように肉片が散らばっているものの二種類。で、ゆらちゃんも家長さんもいないってことは──
「人質にでも取られたのかな」
殲滅能力が無い方の式神使いだったかぁ……。伏黒の満象みたいに水で範囲攻撃できれば話は別なんだろうけど。いい感じの妖怪を見繕って、調伏チャレンジさせてみてもいいかもしれない。
「さて、ゆらちゃんはどっちのタイプかな」
おそらく、式神は取り上げられているだろう。その状況で、殺意のインスピレーションが湧くか、まだそこまでイカレてないか。っと。
「なんか来た。百鬼夜行もどきか」
帳の外から妖が侵入してきたのを感知する。それなりの数だったので様子を見に行ってみると、
「あれ、奴良くん?」
なんと見知った呪力の相手がいたのだ。及川さんが特に親しい相手は奴良くんだった。その彼を"若"って呼んでいたし、まず間違いないだろう。昼は妖の臭いがしなかったとなると、半妖の類だろうか。使っているのも畏というよりは陰陽術──術式に近いし、奴良くんは実のところ妖の主より陰陽師の方が向いているかもしれない。
「今度それとなく誘ってみようか」
残念ながらこの世界は呪術廻戦じゃないようだけど、まあ似たようなものらしい。なら、
それなりに長かった単純作業から未来への楽しみを見つけ、今夜はいい夢が見られそうだと気分上々で部屋に帰った。
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