渋谷で百鬼夜行が行われるジャンプの漫画に転生したんで、平安の今から準備する 作:三白めめ
「新手……それも数が多いっ!」
炎使いの男をその手で殺したすぐ後。転移先で戦っていたからか、リクオは他の相手との連戦をすることになっていた。とはいえ、術師ではなく妖怪だろう。四つの目を持ち鋭い牙を備えた、まるでホラー映画に出てきそうな見た目のものや、縦に大きく口が裂けている六本腕のものなど、バリエーションに富んだそれらが徒党を組んでリクオへと襲い掛かってきた。
「……京妖怪ほどじゃないな。初心者狩りってヤツか?」
対戦ゲームをしていたクラスメイトが、初心者狩りがどうのと言っていたのを思い出す。ルールの定められた戦いという点では、この戦いもゲームじみていると嫌悪感を抱きながら考えた。
リクオが戦っている相手の力は京都で戦った妖怪たちほどではなく、理性もさほどないように思える。数を頼りにしているのか八体と多かったが、現在のリクオが苦戦する道理はなく、距離を離して一体ずつ倒していけば、苦労するような相手でもなかった。
「泳者であれば40点、か」
泳者であるかないかに関わらず命を奪うことは好ましくないが、理性なく襲ってきた以上、殺さなければ他に危害が及んだかもしれない。
現状、殺し合いに参加しないことを選んだ泳者のための『点数の譲渡』を百点での総則追加で行うことを優先すべきだろうと見当をつける。おそらく、強者との戦いを望む手合いが結界間の移動を追加するはずだ。なら、自分が動くべきは一般人の保護。結界からの脱出も考えたが、死滅回游の永続という総則のためには入れ替えになるだろう。もちろんこんなことを続けさせるつもりはないが、打開策が見つからない現状はやれることをやるしかない。
そう結論付け、リクオは自らの得点を確認する。そこには──
奴良リクオ:東京第一コロニー泳者。得点:13
時は少し前に遡る。外部からのランダム転移先、その一ヶ所が見下ろせる場所にて。
「奴良リクオ。オレとしてもお前には完成してほしいと思っていてね」
硯と筆を持った、緑眼の男──鏡斎はそう語る。計画では想定していなかったが、百鬼夜行において有効な一手を作り出せると考えた百物語組の総意によって東京第一コロニーへ赴いた彼は、戦闘の最中にいるリクオを眺めていた。傍らには服の背中部分が剥がれた女性が八人。手足を縛られた彼女らは、しかしそれ以外の対策をされておらず。元から東京結界内におり、回游直前に結界内の非術師に向けて一斉に行われた"逃げるかどうか"に無回答、もしくは否と言った者たちだと推測できる。
「十二月に起こす百鬼夜行にて、地獄絵図のための至高の
白い背中に筆で妖の絵を描くと、彼女らの体が歪んでいく。骨格を無視し、三本目や四本目の腕が生えたそこには、もはや元の人間の面影はなかった。
「無為転変。気に入ってるんだ。名前はさ」
そうして出来上がった六体の
「あの男──奴良リクオを殺せ」
シンプルな一言と共に、改造人間をリクオに差し向ける。もちろん、この程度で死ぬとは思っていない。しかし、鏡斎の目的は点数を与えることだ。人から生まれた呪いらしく、そこには悪意も存在しているが。
「で、百物語組の先生よぉ。ホントにあの力が手に入んだよなぁ?」
そして、それがリクオへと向かっている最中に、彼に別の来客が訪れた。関東一帯を拠点とする、非術師の
「ああ、まあそんなもんよ」
自身の術式を用いて術師に──呪詛師にする工程を行う鏡斎にとって彼らは全く興味がなかった。この前
「一時はどうなるかと思ったが、これでまた
「
眼下で戦っている
「あと……なんだったか。『あそこの奴良リクオってのが、東京の裏の支配者だ。彼がいる限り、
「若造じゃねえか」
「だが、手練れなのは間違いないぜ。実際、先生も支配者って言ってんだからよ」
敵を明確に定めさせるという、圓朝から頼まれた伝言を終わらせる。百物語組は死滅回游の先、十二月の百鬼夜行を見据えた下準備を着々と進めていた。
「んじゃ、終わらせようか。──無為転変」
まずは力を与える。そこまでが鏡斎の仕事だ。後は圓朝がなんとかするだろう。全東京極道の会長・組長・幹部を集めての扇動。そのための布石が、水面下で打たれていた。
そして、奴良組に動揺が走った。追加された総則によって、泳者の名前と点数は常に確認できる状況にある。そんな中での、獲得ポイント13。得点の譲渡が総則に追加されていない以上、五の倍数でない点は非術師を手にかけたことを意味している。
リクオが直接選んで連れてきた精鋭故に、何か事情があったのだと全員が推察するだろう。だが、何があったかを知ることはできない以上、それからの行動はバラバラとなる。総大将一人では対処しきれないことが起きたと合流を急ぐ者に、仁義を外れることはするなという命令を優先して非術師の保護を優先する者。足並みの乱れた状態で、遭遇した仲間同士の方針の食い違いで少し揉め事が発生することもあった。そして、純粋な距離もあって、リクオはまだ仲間に合流することができていない。
「追加……八点……?」
よってリクオは、現在起きたことの分析を一人で行わなければならなかった。八体倒したから八点。極めて単純な推測が可能だからこそ、今しがた倒した妖怪と思われるそれの死体を検分することに思い至る。
「──腕時計?それに指輪……まさか……」
何かないかと目星をつけて当たってみれば、反射光から腕時計を見つけることができた。四本ある腕の左側の一本に着けられており、はじめからあったものだと推測される。他の個体には、指輪をはめているものもいた。肥大化した手の中でその部分だけ指輪のサイズで締め付けられていたことから、その姿になる前のものだったのだろう。
そこから導き出される結論は一つ。
「人間、なのか……!」
例えるなら、改造人間。魂の形のみを変えることによって、非術師を奇形の怪物へと変貌させていたのだ。拳を強く握り、今までに相対したことのない邪悪への怒りを自覚する。畏や食料として人間を殺してきた妖は、ガゴゼや京妖怪などそれなりの数を見てきた。ただ、今回は違う。悪意を持って人を消耗品にしている。相手が妖怪か術師かに関わらず、越えてはいけない一線をやすやすと超えたそれに対する負の感情は、父親である鯉伴を謀殺した晴明に対するものに並ぶほどだった。
──そして、仙台コロニーにて。泳者を殺しまわるイレギュラー、源頼光はまた一つ徒党を組んでいた術師の集団を壊滅させた。ゆらとの戦いで破れたTシャツは着替え、新しく黒い無地のTシャツと白いカンフーパンツとなっていた。
そして、ゆらと戦って半日が経った頃だろうか。夕日が差し込む中で、術師たちが拠点としていたビルのドアを開けて悠々と外に出てきた彼の視線の先に、一人の少女が立っていた。髪やところどころ破れている服は頭部から流れた血で赤く染まっている。
「よぉ。久しぶりやな」
「……マジか」
瞳孔が開き、それこそキマったような目と笑みをしていたのは、頭部を突き刺して殺したはずのゆらだった。
鏡斎→全く来る題材じゃないが、仕事絵を描いている。
リクオ→非術師を改造人間にして嗾けるやつが存在すると認知。
ゆら→そうか?そうだなそーかもなぁ!!