渋谷で百鬼夜行が行われるジャンプの漫画に転生したんで、平安の今から準備する 作:三白めめ
「……マジか」
「大マジや。元気ピンピンってやつやね」
頭を刺して殺したはずのゆらが、頼光の前に立っていた。
「紫微斗法術、道満の相伝だろ?どうやって──」
頼光の知る限り、その相伝術式に数秒前の事象を粉砕するような無茶はできなかったはずだ。そして、自動で発動する反転術式は天逆鉾で解除済み。となれば考えられるのは──
「反転術式か!」
「正っ解!」
喉を貫かれた時点で反撃を諦め、反転術式に全神経を注いだ。もちろん理論があっているからといって普通はすぐにできるわけがない。ただ、自動的な反転術式で感覚を覚えていたことで十分なきっかけはあった。
「今まで自発的にできたことはなかったし、道満の記憶でもなんか感覚でやっとったしな。適当すぎるやろ」
多くの弟子や子を抱えていたにも関わらず、本人は「ひゅーっとやってひょいっ」で済ませていたのだと愚痴を零す。頼光は以前のゆらとの戦いを思い出すが、その時と比べて考えられないほどにハイになっている様子を奇妙に思う。
「私を首チョンパせぇへんかったり逆鉾使わんかったりとあるけどな、纏めるとたった一つや」
「……んだよ」
そうして口を開いたゆらは、昂った笑みのまま話した。
「死ぬときは独りやって思い出させた。それがあんたの敗因や」
晴明を倒すのに必死で忘れていたのを思い出させてくれてありがとうとゆらは語る。あと少しで命を奪っていた相手に礼を言うくらいに、今のゆらは気分上々だった。
「──敗因?」
対して頼光は未だ不敵。相手は蘆屋の相伝。契克の使っていた煙草を持っていたことから協力関係にあるだろうが、傍から見て殺した状態でも介入してこなかったことを鑑みるに、持っているのは道具だけの可能性が高い。一対一の状態なら。
「勝負はこれからだろ」
「あ゛ー? そうか? そうやなそうかもなぁ!」
天逆鉾を構える頼光と、呪符を構えるゆら。瞬く間に駆けだした頼光はすれ違いざまに足を狙った振り下ろしを行い、そのまま背後を経由し反対側へ移動。初撃をバックステップで躱したゆらへ二撃目を繰り出そうとした瞬間──足元に大穴が空いた錯覚を覚える。ゆらはそれが起きると知っていたかのように距離を取っていた。
「(確か、相伝は六種だったよな。その中にこういうことができるのはいなかったはずだ)」
大江山征伐などで組んだときに耳にしていた、道満の術式開示を思い出す。頼光が知る限り、今の現象は当時の紫微斗法術から少し変化していると推測できた。
「紫微斗法術は、予め設定した式神を精神から出力するものや。相伝で破軍、廉貞、禄存、貪狼、武曲、巨門の六種。それに自分自身を含めて式神を融合させることができる」
「……術式開示か」
だからこそ、この術式開示は通る。式神に対して圧倒的なアドバンテージを持つ特級呪具を握っている以上、妨げる意味もないと頼光は判断するとゆらも理解していたからだ。
「術式反転は、地獄を開くんだったか」
確かに厄介だが、呪力を持たない頼光は地獄──篁の領域に干渉されない。ゆらも生者である以上意味はなく、先の戦いの繰り返しにしかならないと疑問が生まれた。術式を開示したところで、天逆鉾が当たれば強制的に式神が霧散する。
「『精神から直接』式神を出力する。それが私の術式や。であれば、術式の反転でできるのは、式神の入力」
しかし、ゆらが話したのは頼光も知らないものだった。ヒント自体は、契克と会ってそれほど時間が立っていない頃に存在している。紫外鏡と戦ったついでに語られたそれをきっかけに、ゆらはこの瞬間に"無限の手札"を手に入れていた。
「術式反転──命盤」
いつものように式神の形代を取り出したゆらだが、そこから出てきたのは今まで使役した六種に当てはまらない式神──葵螺旋城にて雄呂血が使役していた大蛇だった。
「大蛇及び禄存──虹龍」
そして、即座に自身の式神である禄存と融合。龍のような姿をした強大な式神を創り出した。体長はゆらをはるかに超えているその竜が、その質量を以って頼光に襲い掛かった。
「要は、式神をコピーして取り込む技やね」
現物を見なければならないという縛りで負担を軽減しているが、呪力の消費は著しいものとなる。それに、式神を模倣して取り込むといえば使い勝手はいいが、精神に異物を付け足すのと同義だ。
「あんま使いとうないんやけどな! ゲロ雑巾を口直しなしで食べたような気分や」
現状はハイになって気になりはしないが、真っ当な術師であれば避けるべき選択肢だった。破軍で道満の記憶を経験した、つまりは他者の精神もしくは魂に触れたことがあったからこそできる術理。
「(そういえば、なんか……大変なことになっとるな。奴良くんは端数が中途半端になっとったし。けど──)」
思うところは色々とある。宮城にある花開院の分家が壊滅していたり、奴良くんの点数が非術師を殺さないとならないようなものになっていたりと、懸念すべきことも。ただ、それよりも。
「(今はただただ、この世界が心地いい)」
この瞬間が全てに勝っていた。
「巨門及び強毛裸丸──坦懐」
続いて花開院分家の一つである破戸流の創造式神である単眼の巨体と、同じように巨大な象を融合。全長7メートルほどの巨人が現れ、地面を抉りながら張り手を放つ。虹龍と同時に繰り出された純粋質量が頼光を襲う。仮に逆鉾を振るったとして、消せるのはどちらか一方。頼光は咄嗟に巨人を逆鉾で消し、虹龍の突進は後ろに跳んで威力を軽減した。それでもビルを一棟突き破ったが、瓦礫が散乱する先に既にその姿はない。
「──狙いは
その場所を、ゆらの蹴りが着弾する。極ノ番による
「外したか」
蹴りを放った足は、異形と化した槍を纏っていた。憑鬼槍。八十流の妖刀にして秋房の最高傑作は、鬼──式神を憑依させるという性質上ゆらとも相性が良い。
「反則だろ。オマエ」
頼光は呟く。契克の使っていた煙草を持っていたことから想像はできていたが、やはりロクでもなかった。
「オマエ、烏崎契克の弟子あたりか? やりたい放題しやがって」
「やめろ! 気にしとるねんぞ。それと、私は花開院や」
攻撃を当てられたが、有効打にはなっていない。相手は無尽蔵のフィジカルを持ち、ゆらは膨大とはいえ限りある呪力をバカスカと使っている。なら、必要なのは"必殺の一撃"。
「……やるか」
弓を射るかのように腕を構えた。左腕は親指を下に、人差し指と中指を伸ばす。右手は矢をつがえているかのようにしたその姿は、仮に契克が見ていれば『
もちろん、起死回生の一手となるようなものを素直に通すはずがない。直線距離で天逆鉾を突き立てに来た頼光に対し、ゆらは高高度へ飛翔することで回避する。呪力ゼロの天与呪縛に対する対処法、それは空を飛ぶことだった。
体勢の制御を考えずに宙に浮いたことで、天地逆転した状態になる。高揚と空高くにいる万能感に任せ、自らの鼓舞を兼ねて言葉を発した。
「天上天下唯我独尊」
行うのは、以前に契克と戦った時と同じくらいの無茶。形を与えず、術式の順転と反転を同時に行う。契克曰く、便宜上"虚式"と名付けたそれは、晴明以外に為した人間を見たことが無いそうだが……
「──なら、私にできひん道理はないよな!」
ゆらは知らないが、原理としては畏砲に近い。ただそれが、一体の妖で行うか、自身の呪力を含めたすべての式神で行うかの違いというだけであって。
渦を巻く力が、腕の間に形成される。間違いなく必殺。極ノ番による融合で全ての式神を自身の呪力として扱える状態でなければ不可能な最大の一撃。いつも通りにいい感じの名前を付けようと考えたゆらだが、たまには捻らずにそのままのネーミングをしようと思い至る。そして、その名前は奇しくも──
「虚式──うずまき」
百鬼夜行を操る疑似的な無限使いへ戦いを挑むには、皮肉が効いたものだった。
つがえた矢のように放たれたそれは、天逆鉾にあたらない左半身へ的中し、左腕を含めた腹部半分ほどを消失させてその先の建物すらも破壊している。間違いなく致命傷。
「……最期に言い残すことはあるか?」
地面に降り立ってそう聞いたのは、生来の気質に加えて道満の記憶を通して知らない仲ではないからか。
「逆鉾と煙草持ってるし、契克も生き返ってんだろ。いい感じに言っといてくれ。──それとオマエ、名前は?」
そういえば聞いていなかったと、頼光は名前を問う。強化された五感で、道満と一致する動きが散見されたことからなにか事情はあるのだろうと理解した上で、本人ではないと当たりをつけた。
「……花開院ゆら」
そして、ゆらが自身の名字を名乗った時、頼光は笑みを浮かべる。
「……蘆屋じゃなかったか。よかったな」
玉折事変に伴う一連の動乱後、晴明の悪評を押し付けられて、蘆屋の姓を持つ陰陽師が肩身の狭い──迫害ともとれる状態になっていたことを思い出した頼光は、最期にそう言って息絶えた。
「──じゃあな。頼光」
全部載せフォームに拡張性を追加しました。花開院を統べる当主なら、分家の力を使えてもおかしくないですよね。
次回、久しぶりのメロンパン登場回。