渋谷で百鬼夜行が行われるジャンプの漫画に転生したんで、平安の今から準備する   作:三白めめ

33 / 47
そういえば、この作品は一発ネタだったんですよね。よくここまで続きました。


死体の山

 本来は行う必要のない死滅回游を晴明が認めた理由はいたって単純で、出産のためには栄養が必要であるということだった。

 それだけなら羽衣狐の時と同じように生き胆を持ってこさせれば済む話だが、回游がある程度進んだことにより術師の力が増している。質という点では優れているものが選別されていて望ましいが、それを喰らうためには母体が直接喰らいに行くしかない。

 長距離の移動手段は、清浄──全国に存在している徒党を組んだ妖の拠点を強襲するそれ──に使う予定の飛行能力を持った大蛇を使う。ある程度の隠形を施すが、実力ある術師にはそれが見えるはずだ。

 だが、むしろそれこそが狙いでもある。強大な力を持つ式神が回游結界へ向かったということ自体が重要となっていた。

 

 以前にリクオの祓除を差し止めたように、契克は総監部へのツテを持っている。そして、"遺稿"の存在意義がメモである以上、確認のために直接の接触をする必要があった。つまり、契克──芥見の派閥である"鴉羽"は開祖が現在どのような姿をしているかを認識しているのである。

 式神の術者は1185年から当主となった安倍雄呂血だ。平安より妖などの外敵は減っていたが、清盛の死や木曽義仲の乱といった権力に内憂を抱えている最中に吉平から当主を譲られ、後に"神風"と称される鏖殺──元寇に乗じた他国の術師集団の排除を行った彼女が動くのならば、相応の相手だと認識される。よって、研究者の集まりでもある"鴉羽"は確実にそちらへ向かう。

 

 桜島コロニーだったのは偶然だ。どの結界でもあまり変わりはなく、ゆらのいる仙台コロニーではなかったのは運が良かったといえるだろう。

 

 回游はいずれ強者の睨み合いによって停滞すると察し、その状況を回避するために主催者が用意した"爆弾"があると予想する、高得点の泳者だが、外部との連絡手段がない以上はそうだと分からない。

 ただ、桜島コロニー内の人間は、結界内の泳者名に一人追加されたことに気付くだろう。烏崎契克。平安に名を馳せた術師と同名であるならば受肉体だろうということは、過去の術師が参戦する死滅回游では基本的な認識となっていた。

 

「お待ちしておりました」

 

 そして、その半日後には"鴉羽"の十数名が結界内を訪れる。術式に目覚めた一般人や、過去の術師といった個人あるいは即席のグループとは違い、統率の取れた戦闘集団への対応を余儀なくされたコロニー内の泳者は、一対多に対応できないものから次々と倒されていった。一連の行動をまるで作業のようにこなした彼らは、夢を見ているかのようにフラフラとした足取りで術師を殺す契克と出会う。

 

 

 

 彼らは、結界に到着すると同時に背負っていた棺を下ろす。そこにはぎっしりと肉塊が詰まっており、蓋が空いたことでそれは体を伸ばして現世へと出てきた。

 幾魂異性体。呪物の受肉研究の過程で保管されていた"呪物の成りそこない"を、無為転変によって合成した殺戮人形だ。それらは本来であればすぐさま燃え尽きるが、仮にも呪物になるほどの魂の強度は、戦闘経験のみを統合することに成功していた。

 回游に訪れた鴉羽と同じ数だけ起動したそれは、膨大な呪力と質量で他を圧倒する。

 

 ──鴉羽の脅威は、その装備の量産性にあった。御門院が精鋭を更に選りすぐって分野に特化させるのだとすれば、鴉羽はその逆。有する技術によって誰しもが一定以上の成果を出せるようにする。優れた兵器を代替可能な人間によって運用させるという現代に適合した考え方は、闇が薄れた平成の世には起きなかったはずの大規模集団戦──戦争にて本領を発揮した。

 結界の機構によって侵入と同時に転移場所がランダムに選択されるが、誰が契克に会ってもいいよう彼のための装備を全ての人員が持っている。ワンオフの専用装備ではなく、サイズさえ合えば誰もが使える物だからこそ、ある程度の数を作っておくということが可能となっていた。

 

 ドレスを着つけするかのように、一時動きを止めていた契克へ装備を着けさせる。袖に腕を通し、腕や背部の装置を稼働状態にして、最後にペストマスクを頭部へ固定した。

 薬草の香りに、反射で術式を使う。四本の尾で敵を屠っていた、羽衣狐を彷彿とさせる戦い方が変化する。平安の術師である烏崎契克としてのそれと、両腕に存在する撥体の射出口から、二丁の銃を使っていた芥見としての戦い方を。いわば術師としての無意識を取り戻した契克は、栄養を必要としている本能に従って動き出す。近くにいた餌として鴉羽を狙うが、彼らの連れていた肉塊──幾魂異性体が彼らを庇う。バラバラに引き裂かれたそれは、契克に周囲の状況を判断させる程度に理性を取り戻させたようで、鴉羽を自身の味方だと認識したようだ。

 そこからは簡単に語れる出来事となる。回遊結界全体で見ても上位数名に入る実力者が、泳者として登録されている術師を捕食し始めた。それだけのことであり、それを阻めるものは桜島結界内には存在していなかったのだ。

 

 


 

 戦国で暴れまわっていた時、気が楽だった。ただただ殺しの技術を披露すれば英雄と讃えられていたあの時は、平安の後期よりよっぽど楽しかったと思う。道満と別れ、晴明とも疎遠になったあの後は、ただひたすらに研究に打ち込んだ。そうして何人も屍を積み上げた血塗れの手で、原作が始まった東京で何をしたいかをメモしていた。

 俺が生きるたびに後ろには屍が積み上げられて行って、振り向いた過去を死体の山が見えなくさせている。『そんなに殺せば、何が何だか分からなくなる』というのはなんのゲームの言葉だったか。ともかく、転生して以降の俺の人生は、他者に苦痛を与えることで成り立っていたんだ。

 

 晴明には色々と言ったが、呪術廻戦のラストに何があるかなんてわからない。けど、私はそれを見るために耐えてきたんだ。

 

 だから、この世界が"ぬらりひょんの孫"で、晴明が倒されるという結末も思い出したときに。俺は今までの人生の意味が分からなくなった。よくあるオタクの会話みたいに、他の作品の引用が先に頭に浮かんで、自分が何をしたいかと思えなくなる。

 

 "我思う故に我あり"とはいうが、■■■■という前世と、烏崎契克という自意識、そして天海たちの友達としての芥見といくつも自分が存在する俺は、一体誰なんだろうな。

 そんなことを思いながら、いつの間にか手に取っていた飴玉(心臓)を飲み込んだ。夢でも不快感は覚えるのか、夏だからかすっかり暑くなっていた。




原作を間違えて人生二回溶かしたときの顔。
この作品でやるべきことの残りは、TS娘わからせです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。