渋谷で百鬼夜行が行われるジャンプの漫画に転生したんで、平安の今から準備する   作:三白めめ

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改造人間を撃破したリクオ。だが……!という話。もしくは一話目のあの言葉。


『なんで戦うんですか』

 差し向けられた改造人間を鏖殺し、それを作り出した相手に怒りを覚えつつ歩く東京第一コロニーのビル街にて、リクオは目標の一つを達成した。行方不明となっていた鳥居夏実の確認。彼女は無事であり、そしてそれこそが問題であった。

 

「鳥居さん、だよね……」

 

 姿自体は彼女だが、周囲に散らばる血や術師の死体がそうでないことを示唆している。ちょうど手に持った薙刀で血振りを行っており、その光景を作り出したのが誰かは一目瞭然だ。

 

「そうだよぉ?」

 

 纏う雰囲気は強者のそれで、術式が覚醒したわけではないと察した。なら、考えられる要因は一つだろう。

 

「……受肉か」

 

 器によっては身体に影響を与えると言われるそれならば、髪色が変化していることにも納得がいく。

 

「正解! ということは、器の方の知り合い? ……あー、奴良リクオ。術師だったんだ。器の方は知らないんだって」

 

 受肉体は器の記憶を継承しているという事実が分かったこともそうだが、ひとまず対話するだけの理性があることを確認した。所持得点も百点を消費してなお百五点と、五の倍数であることから非術師に手を出していない可能性が存在している。

 だからこそ、リクオの抱いた疑問は一つだった。

 

「なんで戦うんですか」

「これは死滅回游だよ? 点数取らなきゃ」

 

 頭に疑問符を浮かべながら答える鳥居に、リクオは意図が伝わってなかったと理解して言い直す。受肉体は一応年上で、対話できるならある程度の礼儀は必要かもしれないと敬語を使っていた。

 

「いや、そうじゃなくて。積極的に戦う理由はなんですか? 力が無いなら、必死になるのも分かります。けど、今の鳥居さんなら獲りたいときに点が獲れる」

 

 

「……器が非術師だったから分かんないんだけど、カジュアル受肉が流行ってたりするー?」

 

 溜息を吐いて答える鳥居は、なんかムカつくという苛立ちを覚えつつ答えた。

 

「一度目の人生に悔いが無かったら受肉なんてしようと思わないでしょ。それに、手引きしているのが晴明の子孫に契克だよ? 備えはしておくべきだよね」

 

 それを聞いて、リクオは考える。ガゴゼや窮鼠の在り方に嫌悪感を示したように、リクオにとって重要なことは自分を優先することじゃない。だからこそ──

 

「友達とか恋人とかいないんですか?」

 

 リクオは、戦う理由を確かめたかった。

 

「……は?」

「ボクも少し前まで友達だと胸を張って言える人はいなかったけど、全く共感できない」

 

 家永カナは昔からの友達のような関係だが、リクオ自身は立派な人間でないことに引け目を抱いていた。それでも、たとえ友達のような関係じゃなかったとしても、普通の日常を守りたいと思ったのだ。

 

「悔いがあるからって、何百年、何千年越しに人まで殺して……なんで自分なんかのために必死になるんですか?」

 

 リクオが接してきた尊敬できる者たちは、妖怪や人間という区別はともかく誰かを守るために戦うことに一貫している。先ほどリクオが殺した術師も、最期に思っていたのは娘のことだった。だから、リクオにとって自分のために戦うというのは、いまいち理解できないものとなっていた。

 

「オマエ、藤原の人間か!」

 

 そして、その一言は今の鳥居──滝夜叉姫にとってラインを超えた発言だった。父である平将門を死に追いやった藤原の人間と同じようなことを言うリクオは、彼女にとって怨敵の血族と判断してもおかしなかった。器の話し方を多少模倣したものから余裕が消える。

 

 鳥居の持つ薙刀のリーチの外の距離に立っていたリクオだが、呪力の流れに不穏なものを察知して横へと移動する。直後に立っていたところを斬撃が飛んでくる。

 

「私の術式は呪力の放出だよ」

 

 なにより性質(たち)が悪いのは、一言で術式開示が終わるという事実だった。不意打ちを躱した瞬間に開示による能力の上昇。それによって、呪力の操作精度がより向上する。

 

「追ってくるのか!」

 

 刃先の延長に気を配っていようと、それとは関係なく軌道が変化してリクオを追う。立ち並ぶビルで射線を切ることができているが、決定打に欠けていた。そして厄介なのは──

 

「よっとー!」

 

 放出された呪力とは別方向から鳥居が迫ってきているということだ。自身を討とうとする武者と戦った経験などもあって、白兵能力も高い水準でまとまっている。リクオも長刀やハンマーで刃を防ぐが、同時に放出された呪力で強制的に距離を取らされる繰り返しとなっていた。

 幸いなのは、刃からしか呪力が発生しないことか。髪や足などから撃たれていれば、圧倒的不利な状況となっていただろう。それでも不利な状況には変わりなく、近接戦闘で血を流すくらいには追い込まれていた。

 そして、これは術式を施した()以外は知る由もないことだが、現状では血を流したということそのものがさらに不利な状況に繋がる。

 

「使おっか。──受胎変性。仮想怨霊へと切り替え」

 

 その瞬間、呪力の質が変化する。受肉した滝夜叉姫のものから、妖や呪いの発する畏へと。薙刀は刃の部分が九十度に曲がり、金槌のように平らな面が出来上がる。もう片手には五寸釘。この変化こそが死滅回游によって描くことのできた、鏡斎の傑作。自然発生した宿儺の業を再現した、呪いにして人であるという在り方の体現だった。

 そして、一般に知られている滝夜叉姫の姿は、五寸釘と藁人形。つまり──

 

「──"共鳴り"」

 

 リクオが傷を負い、血や髪の毛を体から離れさせた時点でその術式は使えるのだった。血の付いた藁人形に釘を打ち付ける。それはよく知られている丑刻参りのそれであり。

 

「芻霊、呪法……」

 

 術式自体は伝統的なものであったために概要を知っていたリクオも、その危険性を認識した。さほど価値の低い"血液"によるものは威力が低いが、それでも手傷を確実に負わせられている。

 相手が欠損したのが貴重な部位ほど威力の上昇する芻霊呪法と、直撃すれば一部位は持っていかれるだろう斬撃の放出。そして鳥居の純粋な技量の高さが打倒を至難な技としていた。

 

「遠距離は、弾かれるな」

 

 血や髪などを使う共鳴りの使用時は藁人形に釘を打ち込む都合上隙ができるが、うかつに接近しすぎれば呪力放出で腕を持っていかれる。そうなれば、それでの共鳴りでリクオは死ぬ。しかし、遠距離ならあの呪力出力との戦いだ。加えて薙刀で銃弾が弾かれるだろうことは想定できる。それなら、狙うのは近接。

 

 それを見越したのか、共鳴りは一度に止めて鳥居も距離を詰める。金槌から薙刀の刃へと即座に変形し、その後に一度上へと跳躍。反対側へ場所を変えた後は直線で迫ってくるように斬撃を配置し、移動ルートを限定。突進と頭上、周囲を囲む四つの刃で確実に攻撃を当てる布陣を形成していた。

 

「盃盟操術──殺取(あやとり)

 

 対するリクオは、かなりの長さを持つ紐を取り出す。盃を交わした首無が使っていたそれは、呪力を通すことでかなりの硬度となった。

 ギャリギャリと表面を削る音とともに自分を取り囲む呪力の刃を防ぐ。そう何度も使える手ではないが、牽制を防ぐには十分な役目を果たしていた。

 

「やるねー」

 

 変形する薙刀から発せられるのは畏だったことから、おそらく仮想怨霊としての滝夜叉姫に付随する物だったのだろう。呪力の込められた紐を薙刀で直接切断すると、リクオは断ち切られるまでの僅かな時間を使って大剣を取り出して振り抜く。可動部を狙って繰り出された大質量の打撃は、鳥居がそれを蹴り上げることで空を切った。足を上げたことでスカートの布が作り出した死角にリクオは新しく抜いたナイフを振るう。友達といえるだろう相手を殺すつもりはないので、狙うのは戦闘不能。そのために足を動けなくするくらいの判断は即座にできるようになっていた。

 一抹の申し訳なさを抱きつつ、スパッツごと大腿動脈を斬る。

 

「出血で倒れてくれればいいんだけど……」

 

 そう思うリクオだが、その目論見は不可能だと悟った。発せられる気配が畏に切り替わると共に、負った傷が修復される。畏によって自らを修復するのは、人にできず妖にのみ許された行いだった。

 

 四分の一が妖怪であるリクオに対し、鳥居夏実(人間)滝夜叉姫(妖怪)を十割で切り替えることのできる相手がそこには存在していた。




鏡斎からすれば、本人にファンアートを直接受け取ってもらった感じです。

原作で滝夜叉姫の戦闘描写が薙刀振り回すしかないんですけど……
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