渋谷で百鬼夜行が行われるジャンプの漫画に転生したんで、平安の今から準備する   作:三白めめ

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我慢比べの話。


『気に食わないんだよ!』

 風を切る音と共に、連続した斬撃が飛ぶ。長柄武器としてのリーチがそのまま放出された呪力へと変換され、武器で受けるか全力で回避をするかの二択をリクオに迫っていた。

 

「……やりにくい!」

 

 現状、中距離での銃撃と回避を繰り返しているのには理由がある。一つは、受肉にはクラスメイトの体が使われているということ。もう一つは、周囲への被害だった。

 一撃が建物を両断する程度の威力を持っているが故に、ビルが立ち並ぶ東京では倒壊が致命的なものになりかねない。

 そして、都市部のビル特有の一面ガラス張りになっている構造が鳥居へと味方する。

 

「見ーつけた!」

 

 放出される呪力の射線を切ろうとしたリクオだが、周囲は透明なガラスのビルしかない。もちろんそれらは強化ガラスでできているが、この戦いの最中にあってはさほど大差なかった。

 鳥居の放った大振りの横薙ぎが、彼女の視界に収まっているビルを斜めに斬り落とす。衝撃で割れたガラスが白昼の光を反射し、その向う側にあるリクオの姿を眩ませた。

 

 ぬらりひょんの孫であるリクオにとって、姿を隠してからの不意打ちは血筋としてならしたものだ。選択するのは大剣。一撃で仕留めるのは不可能と判断し、有利に立ち回ることを優先する。

 

「鳥居さん、ごめん!」

 

 死角から振り下ろした重い一撃は、薙刀による防御で阻まれることなく片腕をへし折った。コンクリートを割ったその打撃は、床を崩して地下駐車場へと戦場を移す。

 来場者用の誘導路を通ることなく行きついたそこは、百台余りを収容することのできるほどの広さを持ちながらも静けさだけがあった。おそらくは、先ほど崩れたビルの内のどこかのものだろう。それなりの規模を持った企業だったのだろうが、今は社員が使うような車は一台も残っていない。何かの業者が止めているトラックが散見できるがその程度だろう。

 落下中に幾許かの距離を取った二人は、一度その距離を保つ。呪霊体に切り替えて折れた腕を治す鳥居──滝夜叉姫と、取り回しに長けた長剣へ武器を持ち替えるリクオ。

 

「……骨折を治した? もしかすると──」

 

 そして、そのこと自体がリクオの勝機を見出すきっかけとなった。

 

「第二ラウンド、スタート!」

 

 ガシャンという変形音と共に、鳥居の持つ武器がハンマーから薙刀へと変形する。変形と同時に繰り出された斬撃は、間違いなくリクオの首を捉えた。

 

「──鏡花水月」

 

 しかし、落としたはずの首と残った胴体は雲散霧消する。地下駐車場という光の無い環境が故に、リクオはこの瞬間、妖に変化していた。それでも、薙刀の延長線上にあったトラックは紙細工のように容易く切り刻まれ、そこからの追撃が崩壊した車体の燃料タンクに命中して散らした火花に引火する。

 炎上した車体は周囲を照らし、妖怪に変化したリクオを人間の姿に戻す。

 

「どこいったのかなぁ?」

 

 明るくなった視界で周囲を覗う鳥居だが、リクオの姿は見当たらない。考えられるのはトラックの裏か。そう見当をつけ、その場から動くことなく手当たり次第に斬撃を放っていく。

 炎に照らされて、揺らめく人影が壁に映し出される。その動きが一台のトラックの裏で止まると、下段から打ち上げられる大剣の一振りでその車が持ち上げられた。

 呪力で強化された蹴りがトラックへ放たれ、サッカーボールのように一直線に鳥居へ向かってくる。

 

「派手だね!」

 

 もちろん、トラックは金属の残骸になるまで切り刻まれた。だが、それはリクオが近づくまでの即席の盾としては十分な役目を果たしている。

 

「これで!」

「遅いって!」

 

 リクオは電光石火の踏み込みで、燃えるトラックの車体へ肉薄。残骸ごと斬った居合によって鳥居の片腕を奪う。──それが可能だったのは、リクオが片腕を捨てる覚悟だったからだ。傷としては同程度。しかし、損失としてはリクオの方が大きい。

 

「相打ち狙いだったりする? クラスメイトを殺せないからとかでさ」

 

 致命的だと呟いて、鳥居は薙刀を変形させる。呪霊体へ切り替わったと同時、呪力による欠損部位の補填が行われ、万全の状態へと戻った。同時に五寸釘を懐から取り出し、宙を舞うリクオの右腕へと照準を定める。

 

「気に食わないんだよ! 悲劇のヒロインだとか、憐れみに畏が集まるのが。そうやって私を押し付けるな! 私は今度こそ、何者かに成る(私として生きる)!」

 

 打ち出した釘は寸分違わず目標を撃ち抜いた。リクオがそれを阻まなかったのは、それを撃たせるという目的に加えてなにか思うところもあったのかもしれない。

 

「芻霊呪法・共鳴り!」

 

 欠損した片腕は、血液を使ったものとは別格の威力を以て作用する。大量の血を吐くリクオだが、脳をやられていないと判断して当初の予定通り前へ前へと進む。そして──

 

「それ゛、を……待゛って゛た!」

 

 術式使用から五分経過。焼け付いた術式の回復まで、再度の盃盟操術使用は不可能となる。それでも問題ない。リクオの見出した勝機は──

 

「なにして……んんん!?」

 

 キスだった。

 反転術式を呪霊体である現在の鳥居の脳へ流すため、直線で流しやすい口を経由させたのだ。リクオとしては、銃を口に突っ込んで引き金を引くような認識での行為。

 

「我慢比べだ。鳥居さん」

 

 時間制限のあるリクオでは、中距離で引き撃ちをしてくる可能性のある鳥居を倒すのは困難だ。故に、相手には勝ちを確信させなければならなかった。戦闘中に考えられる限りで最大の効果を発揮する共鳴り。それを撃つときでなければ、呪霊体にはならないだろう。

 身体から釘が突き出してくるような感覚に、いや、実際にはそうなっているのかもしれないと考えながら、リクオは再度反転術式を吹き込む。

 

「オマエ、ふざけッ──!」

 

 呪霊体が崩れてきた。血が混じっているだけのリクオとは違い、妖怪としての滝夜叉姫と受肉体としての滝夜叉姫の二つは別々に存在している。これによって二つの術式を所持したり、欠損の治癒などの反転術式では消費が激しい行動を容易く行えたりするのだが、同時に妖怪の時──呪霊体では反転術式が害になるという妖怪としての弱点を引き継いでもいた。

 芻霊呪法を使う呪力のコントロールが、ファーストキスを奪われた怒りで乱れる。それでも術式自体の継続はされるのが流石というべきか。

 

「なんとか、なったみたいだ」

 

 術式が停止したのは、薙刀と共に妖怪としての気配が消滅した時だった。かなりの消耗だったのか、鳥居は膝をついている。

 

「……聞きたいことがあります」

「っつ。はあ? なんだ」

 

 リクオとしては、鳥居の体を殺すつもりは全くない。そして、二度目の人生という目的は戦う前に聞いた。なら。

 

「鳥居さんを返してくれませんか? 緊急時や監視下にある時に表に出てもいい縛りを結べば、命は保証します」

 

 記憶を参照できたのなら、鳥居夏実としての魂を取り戻すこともできるかもしれない。共存という形なら、ここで死ぬよりマシと相手も納得する可能性がある。落としどころとしては適切だろう。

 

「……保証はできないが、やってはみる」

 

 口に入った血を吐きながら、少し顔を赤くした鳥居は頷く。

 

「それと、あなたが持っている百点、使わせてくれませんか?」

「そっちが本来の用事だと思ってたんだけど」

 

 そうして縛りの詳細や百点の使い道について詰め、ひとまず回游終了までは今の彼女──滝夜叉姫が鳥居の体の主導権を握ることが決まった。総則の追加に関しては、当初から決めていたことを共有するくらいだ。そして。

 

『承認されました。総則10:泳者(プレイヤー)は他泳者に任意の得点(ポイント)を譲渡することができる』

 

 行方不明になっていた鳥居の保護と、戦えない者が術式の剥奪で死ぬことを防ぐ点数の譲渡ルールの追加。ひとまずの目的を達したリクオは、コンクリートの壁にもたれかかる。

 

「安心したら、なんか力が……腕、どうしよっか……」

「あ! 待って待って! 腕は拾って治しとくから! くっつけるのはなんか……頑張れ!」

 

 気を失うかのように眠るリクオは、既に止血を終えていた。その辺りはちゃんとしていると思いつつ、鳥居は自分が釘を打ち込んだ腕を回収する。

 

「ところで、現代だとキスって一般的なの……?」

 

 受肉したのが中学生だからか、彼女はそのあたりの恋愛に疎かった。




藤原を憎んでいて呪力放出で戦う、キスで倒された呪霊。流石に頭にパンツ被せるわけにはいかなかったので、ラクダワラさん要素はない。
奴良くんは、極道呪詛師とか海外の刺客とかが集まる東京百鬼夜行で主役を張るから……いつもボロボロになって勝つわけじゃないはず……

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