渋谷で百鬼夜行が行われるジャンプの漫画に転生したんで、平安の今から準備する   作:三白めめ

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死滅回游編、決着。


一人は寂しいよ/『最悪の呪詛師』

 元から壊滅状態だった京都を移動すること数分。ゆらちゃんが出した飛行する大蛇が撃ち落される。旧東京第二コロニー上空数百メートル。真下からそこへ放たれた超高密度の呪力は、式神から血を噴出させることすらせず通過地点を消滅させた。

 

「あれ生きとったんか。自爆したんかと思った」

 

 落下中、ゆらちゃんのボヤキが聞こえる。どういうことかと聞くと、殺したはずの相手を動かしている術師がいるらしい。心結心結だな。

 

「天海の本領は結界術だ。領域対策は忘れずに」

 

 そして、降る雪が上へと流れていく様を見ながら着地の姿勢を整える。ここにいる全員の考えは同じだろう。ただでさえ陰陽頭として政治的な駆け引きにも長けた天海がいるのだ。話すのは隙を晒すだけとなる。言葉や嘘も呪術の一つだ。

 

 眼下には海と無数のコンテナ。いわゆる埠頭とでもいうのだろうか。そこに着地すると共に、粉砕されたコンクリートの砂塵を天海へ向かわせた。それに割り込む影が大きく口を開けると、土煙は瞬く間に消え去る。

 

「木克土。体を五行に置き換えていると、修復と再利用も楽ね」

 

 五蘊皆球という極ノ番が放たれたことで分かってはいたが、やはりゆらちゃんが殺したという相手を再利用しているらしい。なんか頭部は常に変化し続ける異形の木になっているが。

 ひとまず、あの厄介な操り人形をどうにかすべきと距離を詰めて殴ろうとしたゆらちゃんだが、その拳は近くにいた俺に当たる。

 

「同士討ちか……」

 

 近くにあったコンテナから金属の動く音がする。側面を吹き飛ばして現れたのは、無数の人型機械だった。……メカ丸!? あれ究極メカ丸っぽいな。傀儡操術ということで、武器を色々詰め込んだ人形を作ったら強いんじゃないかとは言ったが、本当に作れたのか?

 

「泰世といったかしら。鍛冶を専攻にした十三代目候補がいたから少し、ネ」

 

 相手を攻撃しようとしても味方に攻撃が当たる以上、攻撃に対して回避か防御するだけになってしまう。

 少し考えこむゆらちゃん。彼女はふと何か思いついたのか、少し笑ってから空を飛んだ。式神を出していないことから、極ノ番を使ったのだろう。けど、わざわざ逃げるために使用したのか?

 

「まあ、手を出さないのが賢明ね。ただ、御門院三人を一人で倒すのは無茶じゃないかしら」

 

 余裕を含ませて話す心結心結とは逆に、天海は怪訝な表情をしていた。

 

「芥見が連れてくるような奴が、素直に離脱する? それも単身で(やっこ)たちの拠点に攻め込んでくるような術師が?」

 

 イヤな予感がする。そう考えている天海や俺に答え合わせの時が訪れた。

 

「いや、ホント申し訳ない思っとるねんで? ──纏めて()ね!」

 

 上空から膨大な呪力を感知する。そこには、以前の戦いで見たことのあるゆらちゃんの必殺技──『虚式・うずまき』が俺ごと辺り一帯を巻き込むように放たれた。

 

「ほら見ろやっぱりイカレてるじゃないか!」

 

 味方を含めて範囲攻撃をするという戦法、それも最大火力を叩きこむと想定していなかったことで、心結心結が操っていた人型はその九割以上が消滅。残り一割は、俺がゆらちゃんに向けて全力で蹴り飛ばした。

 反撃とばかりに俺に向けて廉貞の砲撃を放ってきたので、近くにいたメカ丸もどきを掴んで盾にする。天海の放つ蝸牛の式神も同じように防御して、通過した軌道で領域を展開される前にそれらを破壊しておく。

 そうしてひとまずの脅威を排除したが、問題は天海や心結心結本体だった。

 

「私とあんたの速度が合わへん! 巻き込むから速度合わせて!」

 

 空を飛んでいることで高低差による回避ができるゆらちゃんと違って、俺は地上を走っているので天海の式神が放つ粘液を移動して避けなければならない。結果としてゆらちゃんが射撃できる位置に着く時には、俺が回避を強制されて巻き込めなくなってしまう。

 これを何とかしろというのは割と無茶だ……! まあ、できないことはないが。

 湾岸近くということもあり、倉庫近くにあったバイクを使う。エンジンがあるなら遷煙呪法で色々とやって、無事にアクセルをふかすことに成功した。

 

「いつぞやの首都高を思い出すなぁ!」

「螺旋蟲!」

 

 術式で馬力を強化したバイクを動かすと、天海も自らの式神から粘液を出してウォータースライダーのように高速で地面を滑り始める。

 粘液は海水に浮くようで、海に道を作り出して縦横無尽に駆けている。同時に蛇と百足が合わさったもう一種類の式神──毒蜷局(どくとぐろ)が俺のバイクを追って絞め殺そうとしていた。

 

「丁寧に粘液で遠距離攻撃もしてくるしさ!」

 

 連射してくる上に、一発一発がコンクリートを深く抉る威力をしてくる。流石に普通のバイクじゃ水上を走れないので、頼りになるのはゆらちゃんだ。

 

「っぶないなぁ!」

 

 それも、俺を対象に天海や心結心結、彼女が操る各々を巻き込んで撃つという制限付きだが。

 

「こっちも必死でやっとる! ホント、殺したのに動くなや!」

 

 空から見れば、大規模な呪力の爆発が縦横無尽に飛び交っているのだろう。飛べる妖怪がゆらちゃんを追い、もはや崩れていくだけの水蛭子が自爆同然の極ノ番で特攻を続ける。屍や形代とはいえ数十体の妖を全て操っているのだから、心結心結も御門院の当主だったということだ。ゆらちゃんは龍のように尻尾で叩き落としたりと人外じみた戦い方で空中戦をこなしている。初めて出会った時と比べて、随分とアグレッシブというかイカレたというか……

 水面を廉貞の砲撃が通過することでできた水煙を使って天海を攻撃しているが、回避されて決定的な隙にはならない。

 

「ここまで機動戦闘が上手いとは思わなかったよ!」

「誰に(やっこ)たちがその必要性を押し付けられたとっ!」

 

 天海の仮面が割れる。そこにあったのは五十代半ば程の男性の顔だった。戦国当時からすれば、寿命ギリギリの年齢だろう。

 

「そんな顔だったんだ」

「お主がいなければあと十数年は老いていただろうな」

 

 ゆらちゃんがこっちに向かってくる。──やりたいことは分かった。終わらせよう。

 走っているバイクの上に立ち、差し出されたゆらちゃんの手を握る。同時にバイクの後部を蹴り上げ、車体ごと宙に浮かせた。繋いだ手を起点に一回転し、現在の場所を交代。バイクを蹴り飛ばした先にいたゆらちゃんがそれを避けると、俺が向かっていた海へと落ちていった。

 

「そんなもので今更!」

 

 もちろんバイクの爆発程度で天海を倒せるとは思っていない。呪力の籠った煙が水煙と合わさることそのものが重要だった。

 水が龍のように形を取り、俺の周囲で蜷局を巻く。呪力の籠ったそれに触れた毒蜷局は、水流に解体されるようにバラバラになって消えた。

 

「液体なら、僕の得手と言っている!」

 

 天海もそれが可能だと理解したようで、上を通って水に沈んで混ざった粘液を使って同じように螺旋の龍を作り出す。海から同じ二体の龍が出現し、互いに睨み合っていた。

 

「こっちも決めよか。──借りるで、兄ちゃん。術式反転・命盤」

 

 ゆらちゃんは新たに一体の式神を精神に入力する。兄の使っている式神である言言。水を扱うそれは確かに海に面したこの場には最適だ。

 

「呼び水をどうするかの発想はある。兄ちゃんなら、あの海をそのまま使ったんやろうけど」

 

 自身から出力するという都合上、自身の体を変化させたようにどうにかしなければならない。ゆらちゃんはその問題に対し、躊躇いなく手首の血管を噛み千切った。

 噴き出す血液が海水に交じる。現れたのは三対目の龍。俺と天海が作り出した海の青とは違い、それは赤々とした液体で構成されていた。

 

「水蛭子、これで最後よ。命を捧げなさい」

 

 そして、心結心結はもはや残骸に近い水蛭子を純粋な力へと還元する。操っていた妖すべてに命を捧げさせることで膨大な呪力を手に入れ、今までなら自爆として使っていたそれに明確な形を与えた。力の奔流を最適な形へ整えたそれは、出現している三頭と同じ龍の姿だ。傀儡操術で行っていた同士討ちの効果は解除されるが、もとより仲間を巻き込んで攻撃するという攻略方法を見出していた以上変わらないと思ったんだろう。

 

 天海は俺を、心結心結はゆらちゃんを。眼前の敵に対して、それぞれが全力を篭めて攻撃する。攻撃が相殺されたときのために、より速く一撃を叩きこめるよう龍の顎に合わせるように前へ前へと進んでいた。

 水流に乗り、高く舞い上がったまま斜め下へと蹴り穿つ。天海も似た考えに至ったようで、斜め上へ蹴りを放っていた。

 

 龍と龍、蹴撃同士がぶつかることを契機に、結界や爆発など無数の術式が相殺し合う。

 平安の烏崎契克()なら、このまま硬直状態が続いていただろう。ただ、芥見としての俺なら話は別だ。

 懐から拳銃を取り出す。

 

芥見(オレ)といえば、これだろ?」

 

 雷管の爆発と同時に遷煙呪法を使用。発射速度が強化された弾丸が、天海の眉間へと撃ち出された。

 

「その対策をしていないとでも思うたか!?」

 

 天海も対策をしているはずだ。というか、していなければ困る。

 

「術式の進化というか、使ってるものの進化だけどな」

 

 現代の銃は、火縄銃より安定性と直進性が増しているのだ。ライフリングがどうのという話は知っているが、詳しい原理までは知らない。

 今重要なのは、火縄銃と同じように逸らそうとすれば──

 

「逸らし、きれない……っ!」

 

 それでも勢いが弱まった弾丸を、殴ることによって頭へと押し込む。天海の作り出した龍が消え、俺の龍が一気に押し返した。

 元の水に還るように形を崩した簡易的な式神から地面に降りると、押し流されて天海も地面へ転がる。大の字になったその末端は徐々に崩れて、身体が限界だと分かるだろう。

 

「向こうも、決着が着いたようだね」

 

 純エネルギーと全式神が融合したそれのぶつかり合いは、後者──ゆらちゃんが制したようだ。その体がボロボロで、両腕がなくなっているあたり、その激戦具合は読み取れる。……回数券を使っても、お互いに当分は呪力切れになりそうだ。

 

「敗北、か……」

「そうだな。オレの勝ちだ」

 

 戦闘が終わり、ようやく言葉を交わす。敵対しているとはいえ、術師というのは難儀なものだ。

 

「そちらがお主の地か。正直、あの話し方は似合っていなかったぞ」

「……どういう風に思ってたのさ」

「落ち着きのない餓鬼」

 

 最期になって、だいぶ色々なことを言われてる気がする。

 

「それは私も思っていたわね。思い付きで伊達や長崎に行こうなんて言い出したときはずっと色濃く」

 

 心結心結も来た。どうやら、術式でむりやり自分の体を動かしてきたみたいだ。といっても、戦えるほどの呪力は残っていない。

 

「おかげでこのドレスが手に入ったし、天海は経験を積めたから一概に悪いとは言わないけれど」

「心労はだいぶかかったがなぁ」

 

 ……悪いとは思ってる。それにしても、こうして話すのも最後か。戦国の時は先に逝ったし、平安の時は道満や晴明と離れ離れだったから、大切な友人を見送るのはこれが最初だった。

 

「あの、さ──」

 

 二人はもう消えかけで、あと一言くらいしか残せないことが分かる。この時になって初めて実感した。

 

「一人は寂しいよ」

 

 だから、最後に天海と心結心結が二人揃って笑ったことに、初めて驚いたかもしれない。

 

「「やっと気付いたか。バーカ」」

 

 フランクな言葉遣いはどこで知ったんだろうか。訊きたいことはたくさんあって、もうそれを直接聞くこともできないと理解する。

 

 主催者とゲームマスターを倒したからか、コガネが機能停止した。同時に海の彼方に見えていた黒い結界が消滅し、死滅回游が終わりを迎えたと認識できる。

 

「終わった、か」

「ああ、私らで終わらせたんや」

 

 とはいえ、これですべてが終わったわけじゃない。おそらく百物語組は動くだろう。今は12月。あと数週間で、平安から知っていたそれ──澁谷を含めた東京百鬼夜行が行われる。

 

「とりあえず、オレが知る限りのこれからの出来事を話しとく」

 

 そうして話した東京百鬼夜行と清浄だが、清浄の方は死滅回游という形であらかた終わっていた。

 

「なあ、百鬼夜行の発端は"件"が奴良くんを殺せって予言するんで間違いないな?」

「あくまでオレの知る未来だとそうだな」

 

 そうしてゆらちゃんが告げたのは、またしてもろくでもないというか、それを言うことになるとは思わなかったという作戦だった。

 

「まあ、どのみちオレもゆらちゃんも術師からするとお尋ね者だ。そこまでやるのも悪くない。文面はオレが考えるよ」

「もう私、間違いなく実家帰れんな」

 


 

 そして、12月23日。インターネット上で"件の予言"が拡散され始める。

 

「近く、この國は滅びる。助かりたくば、人と妖の間に生まれた呪われし者……奴良組三代目、奴良リクオを殺せ」

 

 その話が一部の人々の間に流れ始める中、東京全域のモニターが一斉に一つの映像を流した。

 映っているのは二人の少女。もし奴良リクオや花開院竜二などが見れば、その二人が誰なのかに気付くだろう。

 

「来たる12月24日! 日没と同時に! 我々は百鬼夜行を行う!」

「場所は呪いの坩堝、東京全域!」

 

 12月23日に上げられたその映像は、多くの反響を呼んだ。いたずらと思えない規模や、不自然な大規模テロとして知られている京都炎上や死滅回游に由来する社会不安は、百鬼夜行という言葉に信憑性を持たせていた。

 

「地獄絵図を描きたくなければ、死力を尽くして止めに来い」

 

 五条袈裟を着た少女と、いかにも陰陽師といった服装を着た中学生ほどの彼女たちは交互に話す。

 

「烏崎契克及び花開院ゆらの名の下に宣言する!」

 

 それは、平安における最高峰の陰陽師と現花開院家当主。

 

「思う存分、呪い合おうじゃないか」

 

 その二人が、最悪の呪詛師として手を組んだのだった。




これにて戦国の因縁は清算終了。
原作における空白の四か月は終わり、東京百鬼夜行編、開幕。
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