渋谷で百鬼夜行が行われるジャンプの漫画に転生したんで、平安の今から準備する 作:三白めめ
青春。学園系漫画のインパクトで高校から始まるものだと思ってしまうが、実のところ中学生からでも青春は送れるのではないかと、精神年齢100歳くらいの俺は思う。原作でも、東堂と虎杖が中学から青春を送っていたし。存在しない記憶の中でだけど。
それはそれとして青春である。どういうことかというと、ゴールデンウィークに旅行に行くことになったのだ。……前世では旅行なんて男友達と行くことしかなかった気がする。
ともかく、その旅行先は捩眼山。牛鬼の住む場所だという。牛鬼、か。懐かしい名前だ。頼光──源頼光が討伐に向かったのを、晴明と手伝った記憶がある。まあ、関東に逃げたあたりで俺と晴明は離脱したが。流石に京の守護が
「千年前からの妖怪か」
なんというか、ゆらちゃんも呪術高専1年みたいな人生を送ってると思う。せいぜいが二~三級の鼠の危機を切り抜けたと思ったら、実質特級案件のような妖と対峙しなきゃならないハードモード。
「ま、なんとかなるだろう」
「烏崎さん、なんか言うた?」
そして今は新幹線。今生2度目になるが、ふかふかの座席はやっぱり座り心地がいい。牛車とか席が硬くて仕方がなかった。平安人からすれば当たり前だろうけれど、元現代人からすればやはりリクライニングシートが恋しいのである。
「いやさ、奴良くんは陰陽師に向いているんじゃないかとね」
まあ、矛先を向けるようで悪いがついでに話しておこう。
「──えっ!?」
話題を振られた彼の驚き具合は見ていて面白い。
「詳しくは話せないが、統計的に見て才能があるよ。陰陽師の」
「いや、確かに人のためって意味では立派な職業なんだろうけど……流石にそれは……」
思ったよりも困惑してる。妖怪の主の跡継ぎ候補と推定できるのに、
「まあ、気が向いたら言いなよ。術式の診断くらいはやってみるから」
そんな話をしていたら、清継何某がガタリと興奮で立ち上がり、それと同時に目的地に着いた。バランスを崩して倒れそうになる彼を横目に、荷物を持って新幹線を降りる。彼は自分にも才能があるんじゃないかと思っているかもしれないが、残念ながらどちらかといえば向いていない方だ。才能だけで判断するなら、一緒に来ている鳥居さんという猫目の少女が凄まじい才能を持っている。もしこの世界が呪術廻戦であれば、死滅回游に参加していたであろうレベルの潜在スペックだ。……どうしてこの世界は呪術廻戦じゃないんだ。
ただ、イカれ具合を考慮すると話は別だけど。
で、バスを乗り継ぎ山道の石段を上って一時間。梅若丸のほこらなる場所に辿り着き、化原先生なる作家が待っていたと出てきたが……
「(黒。操られてる?)」
その体の周囲から、不自然な畏の流れを感じる。少なくとも死体ではない。意識はない生餌のようなものだろうか。胸ポケットに入れていた煙草の箱から一本取り出し、呪力(という名の陽の力。命名:烏崎契克)を籠める。火行符で巻いた煙草は、ライターで着火せずとも煙を立ち昇らせる。遷煙呪法・
「そうだ。ゆらちゃん、起爆符の余りってある?」
「……?まああるけど」
爆発する符を一枚借り、手元の煙に近づけて使う。それは近くで爆発することなく、煙を伝って生餌の操り手だろう場所で爆ぜた。
「おや、手ごたえが薄いね。遠隔操作の術式だけあって、危機には聡いのかな」
下山すると告げさせてから糸を切り離すあたり、狙いは俺やゆらちゃんのような陰陽師ではない。人質を取らない主義か、騙されやすそうな奴良くんあたりが目的か。
「えっと、何したん?」
「妖を祓おうとした。まあ、ギリギリで逃げられたけど」
あ、ゆらちゃんの顔が少し青ざめた。
「誘い込まれたってことやんな」
「まあ、牛鬼が直接出張ることはないだろう。修行としてはちょうどいい命の危機じゃないかい?」
ここで下山すると清継くんを始めとした多数の人間を守りながらの逃走になるので、仕掛けてきた相手を各個撃破する方がいいという結論になって、図らずもゆらちゃんを鍛える機会が訪れたと思ったんだけど……。
清継が「女の子たち、先に思う存分入るがいい」と温泉を紹介したせいで、俺は女子と一緒に風呂に入らなければいけないかもしれないという危機に直面していた。
なんというか、現代にいるせいで変に青春真っ盛りの男子としての感覚を取り戻してしまう。
及川さんは妖怪探索に行くと言っているし、そこに便乗しよう。助けてエンジョイ勢さん!
「来てよかったぁー!」
中学生とは思えないくらいの発育の巻さんが、本当に気持ちよさそうに湯船につかっている。
ダメだった。押しが……押しが強い……。女子中学生って思ったより圧が強い。これが現代の同調圧力か……。平安や戦国で婚姻を結んでいるから、女体を見ることに恥じらいがあるわけではないが、女湯に堂々と入る経験は存在しないし、普通に犯罪だ。いや、今の身体は少女だから問題ないんだけど。
「契ちゃん、ちっちゃくてかわいい!」
スキンシップが激しい!裸で無防備に触られるということに慣れていないし、自分の身体がぷにぷにしていることへの違和感もある。本当に、羂索はどういう気分でリ美肉したのだろうか。同じような状況になっても、俺ではさっぱり理解できない。
胸が薄くストンとした体だからか、動かすときの違和感が少なく、腕の稼働部位も確保できているのは喜ばしい。胸が大きくてもいいことだけじゃないというのは、そうなっていない身からしてもある程度理解できるのだなと多少なりとも女心を理解できた気がしないでもなかった。
溜息を吐きながら夜空を眺めていると、人里から離れているだけあって星が奇麗だった。ただし、視界の端に何体かの妖怪がちらつかなければ、という前提の下でだが。
それにしても、よりによって温泉で俺に挑むか……。牛鬼は千年前の妖だから、いくら京から離れているとはいえ使う術式は知っていると思ったんだが。もしかして、奴良くんご一行としか認識されてない?
「さて、ゆらちゃん。よく聞いておいてね。私の術式は遷煙呪法。煙を起点として事象を引き起こす」
あちらが仕掛けてくる前に、大勢を決しておこう。始めるのは術式の開示。よりにもよって"湯煙"に満ちた場所で戦闘を行う運の無さを理解して後悔するといい。
「正確には煙に含まれる成分及び効能の拡大が術式の効果だ」
例えば、儀式で使われるような麻であれば、知覚の強化や身体能力の増幅といった。そして。
「この場においては、硫黄による爆発のような!」
火行符に呪力を流し込む。当然その札を起点に火が着き……
「信じてるよ☆」
「ウソやろ!」
爆破!流石に硫黄は持ち歩けないので、こういった場所や地域限定の術式利用は新鮮な気分になった。そして、心は男の子なので、爆破というそれそのものに心が躍る。
ゆらちゃんも護符で巻さんや鳥居さんを含めて無事に防げたようだし、目立っていたデカブツは一掃できた。敵地ということをちゃんと念頭に置いて、いつもの護符とかを風呂に持ち込んでいたみたいだ。風呂と厠と飯時は暗殺されやすいからね。禪院っぽい家の当主になるなら、そういった意識の持ちようは大切だ。最悪、やらかしていたら反転術式とごめんなさいだった。流石に治せないのに一般人を巻き込んだりはしない。そもそも、ゆらちゃんは敵地だと伝えたのに防御を怠るような未熟は晒さないだろうし。
「ごめん、後はよろしく」
もう一度術式を使い、次は身体強化を行う。
「噂には聞いていたが。どうやら本当らしい。久しいな、烏崎契克」
さきほど殴り飛ばした彼は、一向に傷を負っていない。流石に千年以上生きる妖というだけはあるか。
「そちらからすれば、千年ぶりかな。牛鬼」
牛鬼は手に携えた刀を正眼へ。俺は、タオルの内側に入れていたラミネート加工済みの符を出し、刀へと変える。これ以上の言葉はない。俺は別に話してもいいが、あちらは言霊の警戒だとかで気を張り詰めているし、何を言っても答えはしないだろう。
場の重圧が増す。俺は体から立ち昇る煙を憑き物落とし──退魔のそれと解釈して刀に纏わせる。
「私は牛鬼。顔は牛であり、この身は土蜘蛛。ならば私は、土蜘蛛は、百鬼をも打ち砕く──災禍だ」
術式の開示。牛鬼は牛鬼であるが故に強いという、甚爾君並みに元も子もない開示だったが。
俺は先ほどの温泉で開示を終え、互いにパフォーマンスは万全だ。……遠くで、水が轟音と共に飛沫を飛ばす。
──次の瞬間、周囲の木々が吹き飛んだ。全力の踏み込み。そこから繰り出される渾身の一閃は、それ自体が強大な風となって辺りを食い荒らす。
時間にして数秒。刹那に畏と陰陽呪術との攻防が繰り広げられ、背を向けるように交差を終えた。
俺の刀が折れる。格はせいぜい二~三級とはいえ、仮にも疑似的な退魔の剣がだ。油断しているわけじゃなかったが、流石は千年クラス。俺や晴明から逃げ切っただけのことはある。
そして、牛鬼の右目が爆ぜた。
やったこと自体は簡単だ。牛鬼自身の出血──
……逃げた。まあ、この戦いはあっちからしたら想定外だったのだろう。痕跡もきれいに消していて、追跡は困難。というか、寒いし早く服を着たい。
それにしても、牛鬼は奴良くんと敵対してるにしては手緩いというか、仲間を一人ずつ殺していくみたいなことをしてないし、もしかしてただの仲間割れ……?妖怪の主とやら、純粋に内憂で外患に対処する余裕がない?
もしかして、晴明復活の準備が始まるまでは暇なのでは?ゆらちゃんを鍛えるくらいしかやることが無い……?
呪術全盛期の倫理観で現代に来てる系TS娘です。