渋谷で百鬼夜行が行われるジャンプの漫画に転生したんで、平安の今から準備する 作:三白めめ
横合いからかっさらう/『俺はお兄ちゃんだぞ!!!』
「ネットの書き込みに呪詛が混じっとるくらいじゃ本家引っ張ってこれへんけど、これならイケるやろ」
鴉羽から電脳などのネットに長けた術師を集めて行ったモニタージャックは無事に成功を収めた。まさか言う機会があるとは思わなかった百鬼夜行宣言ができて、内心の満足感が凄い。
「あとは、上手く動いてくれればいいんだけど」
百物語組や花開院、鴉羽と奴良組に加えて
──時は、回游が終息した12月16日に遡る。天海を倒してこれからどうするかと話していた中で、俺の知っていて変化の少ないだろう百物語組の百鬼夜行について話した。
「これ、私が花開院動かしたら身内贔屓とかで色々言われるやろうしなぁ……」
ただでさえ晴明が復活して天海──御門院の派閥が勢いづいているのだ。上層部の現状は、花開院に賭けるか御門院に着くかの二択を迫られていると言ってもいい。晴明側は現体制を破壊して世界を支配すればそれで終わるが、花開院の目的は現状の社会を維持することである以上、政治的なことにも気を使わなければならなかった。
「これで、東京で暴れる妖怪はオレたちの百鬼夜行と思われるわけだ。実際はどうであれね」
山ン本の○○といった部位が独立していることから、百物語組には明確なトップが存在していない。一応は脳が地獄にいる山ン本の意志を伝えているみたいだが、表に出ていない以上は関係のないことだ。
本来得るはずだった畏は、首謀者として認識された俺たち二人が横合いからその大半をかっさらう。
そして、それとは別に花開院全体を動かさなければならない理由があった。
「サンバルテルミのアレねぇ……」
ゆらちゃんは仙台で、サンバルテルミの怨霊と戦っていた。中学の学習範囲ではないから、その来歴とかを軽く話しておこう。……マサカ―デラサンバルテルミって響きが少年の心に残っていたおかげで、だいぶうろ覚えだった世界史を話すことができた。
「つまり、閉鎖空間での怨念集合体……。あっちは非術師が被害者やったからマシな規模やったけど、死滅回游でそれが起きたら」
そして、その可能性が無いとは言い切れない。術師殺しになれていた頼光や受肉組ならともかく、非術師から覚醒した術師には、呪力を篭めた武器で殺さないと呪霊に転じる可能性があるという基礎を知らない者もいるだろう。
そして、晴明が自分に何のメリットもないことをするとは思えない。間違いなく非術師を殺すという点で有効な一手──大量虐殺が可能な妖を生み出すことはしているはずだ。
「あるだろうね。妖としては特級指定の規模と強さのやつが。──特級集積怨霊・死滅回游魚とでも名付けようか」
「それは、規模としてどんくらいになるん?」
試算する。近くにいた鴉羽にも同じく計算させるが、計算結果は同じだろう。
「東京全域だな。だからオレは百鬼夜行を東京全域に指定したんだ」
12月20日、竜二はリクオとその式神という扱いになっている鴆を連れてとある暴力団事務所に押し入っていた。抵抗する者もいたが、術師二人に敵うことはなく。無事にその場の制圧を完了した。
「なあ、こいつらは裏社会の人間だろうけど、
そのあたりの線引きがどうなっているのかと鴆は疑問を口にする。対して竜二は少し顔を顰めるが、その点に答えていく。
「……数日前から、大陸の術師の動向が怪しい。原因は上空を通過したあの大蛇の式神だ。鴉羽の連中と交渉して手に入れた情報だが、元寇で神風と呼ばれた現象は、アレが引き起こしたらしい」
さらりと明かされた歴史の裏側に、高校に行ったら知識の擦り合わせで苦労しそうだとリクオは困ったような笑みを浮かべた。
「海外の術師団体は専門外だが、最近はロケットランチャーを始めとした重火器も密輸されていたらしい」
リクオの苦々しい笑みが固まる。唐突にシャレにならないことになってきた。
「それじゃ抗争というより」
「ああ。戦争だろうな」
事務所の書類を漁りながらの会話の中、竜二は引き出しの裏に隠されていた鍵を見つける。
「それと、呪詛師が一斉に鳴りを潜めている。公安に確認を取ったが、指定暴力団のいくつかが不自然なほど活動をしていない」
「まさか、呪詛師とそいつらヤクザが組んでるのか……?」
それは、言葉で表すより深刻な事態だった。弱い妖怪の保護という目的で"組"の概念が生まれた現在の妖怪任侠は、その性質上自らの勢力を地方で区切らざるを得ない。そこに地方関係なく広域で活動を行える暴力団が呪詛師として参入するとなると、畏の取り合いを想定した百鬼夜行戦ではなく、今まで経験したことのない散発的奇襲と抗争に対応しなければいけなくなる。
「ヤクザ共の最大の利点は、人数が多いってことだ。──都内で起きた行方不明事件の四割に、複数の残穢が発生していた」
暗に、ヤクザが呪詛師集団になっている可能性を示唆した竜二は、先ほど見つけた鍵で事務所一階の床の錠前を外す。
電気の点いていない階段を降りていくと、そこに
「なんだ……これ……」
そこにあったのは、老若男女様々な人間だった。腕が銃や金槌になっている者や、檻の中で首から上がなくなった少年の横に寝ている青あざだらけの少女など、常人が見れば吐き気を催すような惨状が目の前に存在している。
「鴆!」
連れてくるよう言われていたのはこのためかと、リクオは鴆に指示を出して助けようとするが。
「吐かなくなったのは場慣れして喜ばしい限りだが、少し待て」
リクオを制止した竜二は手元の紙に何かを書いていた。
「術師は……最低でも三人だな。なにもされていないガキは、若いことから考えて式神の生贄か。呪具と融合させられてるのは、拒絶反応が思ったより少ない。詳細は……鴉羽に話付けた方が早いな。最後のはサンドバッグ代わりか。罠はないな」
淡々と分析を進める竜二は、リクオに何枚かの紙を渡す。
「状況に即したトリアージの早見表だ。他に敵対する術師もいないと確認した。そこの式神を使ってさっさと治しに行け」
人使いが荒いというか、素っ気ないのにはもう慣れた。というのもリクオは竜二に都外含めて何度か呼び出され、様々な事件の処理に同行していたからだ。それは死滅回游以前を始め、回游が終わった翌日の17日からは連日だった。とおりゃんせの怪、都市伝説の××村、呪殺のメール、縛りの失敗で術式に自我を乗っ取られた術師の対処など色々な事柄に遭遇し、それらを退けてきた。
本格的な治療は鴆に任せ、リクオは致命的な人間の命を持たせようと反転術式を施す。もちろん専門ではないリクオに完治まで至らせることはできないが、鴆が診るまで命を繋ぐことくらいならできた。
治療はなんとかなり、どうしようもなかった人間以外は確実に命が助かるくらいにまで処置を施せた時。そういった呪術的被害者のための医療チームが派遣されるまでの間に竜二は話し始めた。
「
伝えたいことは至って簡単だ。ただ、リクオに伝わるかは別として。
「寡占……?」
「ああ、そういえばお前は中学生だったか。寡占市場は少数の売り手に支配されている状態を指す。覚えておけ」
どうも判断力とかが中学生離れしていて、同じくらいの人生経験を積んだ相手と話していると錯覚していた。そう述べた竜二にリクオは怒りを滲ませて言う。
「そうじゃない!この惨状はっ」
「回游で術師の数が増えて、いわゆる極道とそいつらや現役の呪詛師が手を組んだ。呪具で実験できるほどの資金はヤクザで、取り扱いは呪詛師が握っているわけだな。……ふざけてるぜ」
少し前のリクオならともかく、今ならわかる。竜二の言葉もまた怒りが込められており、飄々とした言葉は敵地で呪力を乱さないためのものだった。
「
そして、12月23日にそれは起きた。烏崎契克と花開院ゆらによる、百鬼夜行の宣言。これによってゆらは当主を解任される。
新当主となった秋房は、東京に花開院各分家当主の派遣を決定した。この背景には、晴明の復活で勢いづいた御門院派閥が花開院の戦力を削っておきたいという政治的駆け引きもあったとされる。
御門院の派閥は皇居の守護を除いて静観。名目上は東京百鬼夜行を機に発生しうる妖の一斉蜂起への警戒とのことだった。鴉羽は百鬼夜行の討伐に参戦。同時に東京ひとつを飲み込む規模の霧──『特級集積怨霊・死滅回游魚』と名付けられたそれの存在を挙げ、総力で当たるべきとの考えを示した。
そして、ゆらの兄ということで渦中にあり、監視をつけるかどうかと議論されていた花開院竜二は──
「どけ! 俺はお兄ちゃんだぞ!!!」
そういった諸々の事情を無視して単独で東京へ向かっていた。
ゆら&契克:大勢に『百鬼夜行の首謀者』と認識されている。
リクオ:呪言によって『滅びを回避するために殺さなければいけいない相手』と認識されている。
花開院:目的は『百鬼夜行の対処』。
呪詛師:大陸のマフィアも含まれており、東京を自らの勢力下に置こうとしている。
死滅回游魚:特級過呪怨霊。サンバルテルミの怨霊と似たようなもの。
竜二:全力でお兄ちゃんを遂行する。