渋谷で百鬼夜行が行われるジャンプの漫画に転生したんで、平安の今から準備する   作:三白めめ

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百年後の荒野の話。


『戦争なんだよ』

 さて、俺がこの世界を呪術廻戦の世界だと仮定した理由はこの渋谷百鬼夜行だが、ならばこの時代に受肉してから澁谷に何も仕掛けをしていないだろうか。

 

「やれ」

「はい」

 

 色々考えたが、足元から吹き飛ばすのが手っ取り早い。地下道に仕掛けた爆弾を起爆させる。爆発というなら、遷煙呪法で呪力を乗せられるので妖にも効力が発揮されるのだ。

 ビルの上から、澁谷の道路が一斉に崩れる様を見る。これの最終確認とかでゆらちゃんに色々任せたのは悪いなとは思う。ちょっとだけ。

 

「なんか、こういう光景をどっかで見たことある……極道か」

 

 まあ、一般人は建物内に避難しているだろう。そう思っていると、知り合いの姿が見えた。妖怪の姿の奴良くんと、予想通り改造人間を量産していた鏡斎だ。腕は治っているらしい。地下鉄の方へ落下している二人とは別に、ビルの屋上へ跳躍する影があった。青い髪になっているが、鳥居さんだったか。術式に目覚めたか受肉体だろう。

 

「掃討開始。あの魚が胴元で取っていくのは気に入らないけど、弱らせるのは別のがやるだろうから」

 

 予想が正しければだが、天海や心結心結が東京第二コロニーにいたのは葵螺旋城への突入を警戒した以外にも理由があるはずだ。御門院が晴明の復活までの道筋を整え、帰る場所を維持する集団だとすれば、あいつが完全復活した今は特にすることが無い筈。

 そして、あいつは俺のこと行き当たりばったりなところがあるとか思ってそうだが、晴明の方も最強だからかワンマンが目立つ。大方、後は好きにしろとか部下に言ったはずだ。

 そして、デカい蛇なんて式神を使ってた陰陽師──白装だったことから安倍姓だろう。彼女が死滅回游魚なんてデカブツを調伏しに来ないはずがない。晴明や天海、心結心結から察するに、仕事に縛られなくなれば好き勝手にやり出すのは血筋だろう。

 ──ほら、金屏風が割れてデカい古代魚の式神が食らいついてきた。なんか怪獣大決戦の様相を呈してきたが、本来の百物語組編だと最後になんか青行灯ロボ? っぽい感じのなんかとか巨大な山ン本本体が出てきたような気がする。東京滅びそう。

 

「現代兵器が大量に飛び交ってる……」

 

 戦場もかくやというくらいに対戦車兵器やら地対空ミサイルやらが放たれている。神風の原因らしいとは聞いたけど、どれだけビビってるんだ。あれらを買う金でどれだけ漫画やアニメが買えるか……というか、むしろアニメを作ってもらえるくらいの金がありそうだ。

 それが地を薙ぐ蛇の式神で一蹴されるのだから無常感がある。なんか、残っていたビルが倒れて更地になってるんだが大丈夫か? まあ、いいか。

 死滅回游魚の領域効果と百物語組から奪い取った畏で、今のリソースはかつてないほど万全だ。これなら、奥の手を準備してもまだ有り余るかもしれない。

 

 

 先ほどまで空を覆っていた金の天幕が降り注ぐ中、リクオと鏡斎は地下鉄のホームに降り立った。

 

「死滅回游からここまで、お前のことは観察していたんだがね」

 

 口を開いた鏡斎は、少し不満げに続ける。

 

「どうも認識が正確じゃないようだ。それじゃ最高傑作にはならない」

「こっちはてめぇの作品を壊しに来たんだ」

 

 対して、術師の言葉は聞かないのが対策だと熟知しているリクオはいつでも仕掛けられるよう構えていた。

 相手はおそらく山ン本の"腕"だろうが、言霊などの呪力を纏った言葉だけが意味を持つとは限らない。純粋な話術の誘導も考慮し、常に警戒を続けていた。

 

「聞いてくれよ。心持ち──圓朝が言うところのゲームに関する話でもあるんだから。死滅回游は、いわば画風が違ったのさ。あれは術師の戦いで、祭りや清算と例えた方が適切だ」

「こいつは違うって言うのかよ」

 

 リクオにとっては、どちらも無辜の一般人を巻き込むものだ。戦いに駆り立て、踏み込まなくていい筈の暗闇に人を引きずり込むそれは忌むべき物として認識していた。

 

「あぁ、やっぱりか。どうせお前は害虫駆除とか、昔話の妖怪退治とか、その程度の認識で澁谷(ここ)に来たんだろ?」

 

 人を異形に変える、仁義を外れた妖怪が許せない。それは妖怪としてのリクオの原動力だった。自身が従える百鬼夜行にも、命に代えても仁義を守らせることを厳命したのは、明確に正義としての像を描いていたからだ。

 

「上に立つ奴がセコイ真似許しちゃいけねぇだろうが」

「そこが甘いんだよ。そう言った時点で、どうしようもなくお前は人間にしか寄り添えない」

 

 それは、リクオの側近たちでは至れない結論だった。雪女である氷麗ならまだ可能性があり、それ以外では絶対に不可能な。

 

「お前が初めて殺したガゴゼは人を喰う妖怪で、そういう風に畏を得る本能が存在してる」

 

 出自はどうであれ、人を守る妖怪である黒田坊や青田坊にはそういった本能はない。首無は人としての意識が強く、河童や雪女は年月の積み重ねや教育で大人しくなっている。

 

「お前がやっているのは、人に味のない食事を強要するようなものなのさ」

 

 そう言って、鏡斎は異形と化した人間や妖怪をリクオに差し向けた。今のリクオでは足止めにもならないような敵だが、人を斬るということは相応のストレスを蓄積させている。

 

「これはね、戦争なんだよ。間違いを正す戦いじゃない」

 

 筆を持って駆ける彼は、畏の滴る筆先をリクオの腕へと走らせた。畏を使って咄嗟に躱すと、それはリクオを囲んでいた改造妖たちへと触れる。

 

「混色・撥体」

 

 続いて襲い掛かる、認識をずらそうと関係のない大質量の射出。巨大な口を刀で斬って自身への被害を逸らすが、両断されたそれぞれが地下鉄澁谷駅の壁を壊して近くにいた人間を磨り潰した。

 

「お前は他の誰よりもオレに近い。お前はオレだ。奴良リクオ! オレが何も考えず人を殺すように、お前も何も考えずに人を助ける!」

 

 それは、人と妖の間で生きる故の齟齬。人を害すると定義されて畏れられる妖怪──人との共存が極めて困難な存在に対してどうするかというそれは、陰陽師として学び始めた昼のリクオも考えていたことだ。そして、それはとうに答えが出ている。不平等に救うという答えは変わらない。よって──

 

妖怪(オレたち)の本能と人間(お前達)の理性が獲得した尊厳! 百年後に残るのはどちらかという戦いだ!」

 

 人間の感性で妖怪と共存を図るか、妖怪が弄ぶために人の生存を許すのか。死滅回游が強者同士の戦いと巻き込まれる弱者という構図だとすれば、これはその逆。強者にとっては関係ないが、そうでない者にとっては世界の在り方を左右する戦争だった。

 

「未来を左右する、誰しもが当事者となる戦争! 傍観者のいないこれこそが地獄絵図と呼ぶに相応しい……」

「……ああ、そうか」

 

 千年前からの宿願とか、四百年前の復讐とか、壮大な目的と戦うことが多くて忘れていたのだ。奴良リクオは最初に──

 

「もう意味も理由もいらない」

 

 クラスメイトを助けるために人手が必要で、そのために奴良組を継ぐと宣言したのだから。関東一帯に影響力を有するヤクザの元締めの立場が欲しかったりしたんじゃない。

 

「この行いに意味が生まれんのは、俺が死んで何百年経った後かもしれねぇ」

 

 それでも構わないのだと、リクオは続ける。

 

「俺は守りたいから守るし、外道だと思ったヤツを討つ。それが間違いだったら、その時を生きる誰かが正してくれるだろ」

 

 不平等で差別的で他人任せ。それでも。

 

「人間ってのはそんなもんだろ。何百年先のことも一人でやろうとしたら、上手くいかないに決まってる」

「……違う、なんだ、お前は……」

 

 その言葉を聞いて困惑する鏡斎。なにせ今まで彼が見てきたのは悪に怒りを覚え、仁義を外れることを許さない、いわゆる正義の味方にして"いいヤクザ"だった。それが迫害する人の愚かさに絶望して玉折に堕ちるか、屍を晒すか。いずれにしろ失墜によって至高の地獄絵図は完成すると目していたのだ。

 それが、意味も理由もいらないと全てを投げ出した。それは"奴良リクオによって完成する地獄絵図"が正しいのかと思考せざるを得なくなるのに十分であり──

 

「今は妖怪だけどな、術師の言葉を聞くなよ」

 

 竜二にいくつもの修羅場へ同行させられ、そのやり口を覚えたリクオにとっては"作り出した隙"を利用することなど容易かった。首を斬り、両手を落とし、心臓を一突き。ここで術式を使うのは避けたい都合、畏による回復を警戒して体を切り刻み続けることになる。

 よろめく鏡斎は、空を見上げた。地下からでは、地上にあるだろう地獄絵図を眺めることなど到底できない。

 

「オレの地獄は残る……だが、嗚々……最期にそれを見られないのは……口惜しい、な……」

 

 消滅すると同時に、リクオに大量の畏が流れ込む。空に浮かんでいる魚の領域効果だろう。そして、畏の流れはいくつかのルートが存在した。リクオへ流れる経路、天上の魚へ行く経路。そして、どこかへ向かう三種類。

 

「アジトは、そっちか!」




全部ひとりでやろうとする人が多すぎるんですよね。

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