渋谷で百鬼夜行が行われるジャンプの漫画に転生したんで、平安の今から準備する 作:三白めめ
なお、後は決戦だけとする。
なんかすごいことになってるというか、東京で怪獣大決戦が行われていた。深川では青い鎧の巨大人型武者が立ち上がり、空には東京全土を覆う大きさの死滅回游魚。そしてそれよりは小さいが、その分呪力が濃密な大魚がそれに躍りかかっている。
「あれ、青行灯だな」
「冷静に見とる場合ちゃうやろ」
とはいえ、俺が言い出した秘密兵器の試験運用が目的の一つである以上はゆらちゃんも呪力を適度にしか使えない。肉体への負担もあって、全力で戦うのは最後の最後、決着のまえの数秒間だけとなるだろう。
「調子の方はどうだった?」
呪力の制御が少し不安定になっていることを除けば、呪力量の増大など予想通りの効果が発揮されていた。
「問題は
「まあ大丈夫や。抑え込めばええし、晴明とやる時は後のこと考えんくてええからな」
見た目の方にも想定されている以上の変化はないので、あとは実地試験だ。
「あそこに突っ込むんやろ? もう慣れたわ」
そうして向かおうとするゆらちゃんだが、一度動きを止める。彼方には大きい蜘蛛。それが大魚の方へ襲い掛かっているのだ。そして、それらすべてを倒そうと身体を駆け上っている奴良リクオ。
「奴良くん、なんか可哀そうなことになっとるんやけど」
「まあ、なんとかなるさ、たぶん」
見物していたら、成長した奴良くんみたいな姿の人が突っ込んできた。なんか背中合わせで戦ってる。ぬらりひょんっぽい。
「これで終わりか……」
東京が怪獣大決戦で崩壊していく様を見て、どこか名残惜しい気持ちになる。考えてみれば、これで俺の持つ"原作"というアドバンテージは完全に消滅するのだ。澁谷に仕掛けた爆弾が原作知識を利用した最後の仕掛けだろうか。原作だ何だと考えていたが、この状況で原作もなにもあったものじゃない。消滅したのは東京もだった。
奴良くんとぬらりひょんは青行灯や死滅回游魚を相手に、斬っては跳びの大立ち回りを繰り返している。小さい方の古代魚とその上に乗っている式神使いは、同じくらいの大きさの蜘蛛や武器人間と戦い、新宿とか、というより東京全体を更地に変えていた。
──俺は、本質的には天海や心結心結、あの白装の式神使いと同じ部類だ。呪術廻戦じゃないと分かったこの世界で、原作という未来に囚われずに自由に振舞っていた。いわば、今まで自分で定めていた使命からの解放──仕事が終わった土曜日だろう。
だからこの夜明けに日曜日を迎えてするのは、親友と遊ぶことだ。
「じゃあ、オレは先に行くとするよ。飛べないからね」
「はぁ? なんや、あんたはこういうのに嬉々として突っ込んでいきそうやと思っとったんやけど」
踵を返した俺に対して、ゆらちゃんはそう声をかけた。まあ、たしかにそうではあるが、こればかりは俺の信条の問題だ。
「実のところ、オレが干渉したのはそこらの妖怪を狩ることと、過去の術師と戦った死滅回游くらいだ」
京都では、なんか強者に避けられていた感じが否めないが。鬼童丸が領域から俺を除外したあたりで察した。
「あれは奴良くんの将来の問題だ。オレが出張るものじゃない。芥見としての因縁と、オレと道満と晴明の因縁。オレが終わらせるのはこの二つくらいさ」
「……本音は?」
少し考えてから返されたその言葉に、一つ溜息を吐いて返答する。なんというか、道満の記憶を追体験したせいか付き合いの長さがそのまま反映されている気がした。
「あのスケールになると、傍から眺めてる方が楽しい」
要はそういうことだ。平成に転生したということは、令和の時点で存在していた怪獣映画がいくつも見られないことを意味している。ので、怪物同士の戦いで街を破壊される光景は規模がデカすぎて怪獣映画みたいな気持ちで見られた。
「んじゃ、現地集合で」
「最後まで軽いな。……後で追いつくから、全力で死んでき」
「ああ、逝ってくるとも」
決戦の地──葵城頂上で集合と告げて、倒壊した建物が並ぶ東京を歩く。その辺りに転がっていたバイクに呪力を通し、悪路を難なく走れるくらいに出力を強化した。
空を見上げれば、白装の陰陽師が笑って戦っている。鎌倉時代から考えても、現在のような規模の戦場は存在しなかっただろう。国土全体で行われた術式から誕生した呪霊、万全を期した式神使い、ぬらりひょんとその孫。東京の大舞台で戦うのに相応の格を持った連中が集まっているのだから。
それにしても、俺が会った長命の陰陽師たちはどいつもこいつも笑って戦い、そして死ぬ。この世界をメチャクチャにして、生きてる証を刻んで。
そういえば、全てが終わった後はどうなるのだろうか。晴明が勝ったら術師と強い呪いだけの世界になるのだろうけど、ゆらちゃんと俺が勝ったときのイメージがつかめいない。チェンソーマンみたいに、民間の
未来のことに考えを巡らせながらバイクを走らせ、瓦礫の積み重なる市街から段々ときれいになっていく道を辿っていく。
「さあ、最終決戦だ。御門院家ぶっ壊そーなんて」
そうして辿り着いた葵城は、既に門が開いていた。城を作ったのが天海だから、その彼が死んだらそうなるんだろう。
主の居なくなった離宮を歩く。水の張られた場は、心結心結のものだろう。所々に洋風の意匠もあり、あいつが気に入ったものが置かれているのを懐かしい気持ちで眺めた。
「……テディベア」
天海と三人で伊達藩に行った時に、ゴスロリの他に気に入ったからと持って帰ったものだ。形代としても使っていたからか、いくつもストックされている。……死体は砂となって宙に舞い、墓はない。なら、そのままでいいだろう。
次の、鏡張りの間では素直に通された。百物語、というより鏡斎とか夜雀とかの情報取引くらいしか因縁が無いし、引き留める理由もないのだろう。
吉平くんは宮を留守にしていた。まあ、言葉を交わすべきは俺じゃないのだろう。四分の三が人である妖怪こそが、四分の一が妖である陰陽師にとっての因縁だろうから。
葵螺旋城の天守閣へと辿り着く。扉を開けるとともに声が聞こえ──
「人は食物連鎖の頂点に立ち、更に高位の存在を夢想して神と呼んだ」
東京全域、いや、この日本国内すべてが夜へと戻る。
「おかしいと思わないか? 夢想せずとも、この私がいるというのに」
都市の光で見えないはずの満天の星は、いつかの大江山の戦いの帰りに三人で見た光景とひどく似ていて……
「なら、オレはこう言うとしよう。『それでも神に挑まずして、何の人間か?』」
そして、惑星が落ちる。天体の操作。個人に対してぶつけるには過剰な火力だ。最期の戦いには悪くない。
ゆらちゃんが追いつくまでのこの時間に、俺は俺の全てを以て晴明に挑む。百鬼夜行で受けた畏を、この瞬間に使い切る。
「抽出概念は北欧の主神。M■■■ing及び■■■魔術■■■目録より同一記号を模倣」
俺が妖としてゆらちゃんと戦っていた時の、最初の尾の形態。制御していなかったから単なる力を出力するだけの影法師だったが、適切に扱えば違う。
「呪的手段に基づき、魔法名を宣言する」
その本質は神降ろし。漫画にメモを書くかのように、別の物を現実に定着させる、人の形をした儀式。
「魔法名:『未だ人である我が望みと我が名において、我は神を討つ事を誓言する』」
左目を顰め、歪な笑みを浮かべる。今世の知識も前世の記憶も一切合切総動員した、俺の最後の大舞台だ。
「『
宙へと投げられた黄金の槍が、落下する惑星と衝突する。衝撃は螺旋城の頂点を吹き飛ばし、互いに空中へ立つことになった。
玉折事変でも、こんな風に周りが更地になっていたと思い出す。
「きっと産まれる前から決まってたってやつだ。
こいつがいたから呪術廻戦の法則が紛れ込んだので、だいたい無自覚マッチポンプ。