いろはちゃんは先輩とゲームがしたい   作:幸イテ(旧名:kouta)

3 / 3
 ふとネタが湧いたのですっごく久々の更新! 今回は陽乃さんを愛でる回です。今回やるゲームは初代マリオとマリオメーカーです。いろはちゃんと共に陽乃さんの超絶プレイをお楽しみください。


その3 陽乃さんはゲームが上手くて下手

 

 

 どうも一色いろはです。

 

 この度とんでもない爆弾を抱える事となりました。

 

「ほら、一色ちゃん! 早くやるよ」

 そうディスコード越しに話しかけてくるのは雪ノ下陽乃さん、隙あらば先輩を狙ってくる雪ノ下雪乃さんのお姉さんです。バリバリの大学生で何でもできるパーフェクトウーマンって感じの人なんですが、物静かな雪ノ下雪乃先輩とは対極に位置するような陽キャっぷりで、一言で言うとコミュお化け。

 あ、勝てねぇなって人には極力近づかないようにしていた私ですが、めっちゃ気に入られちゃいました。なんでこんな事になってしまったかと言うと、私、あろう事かこの人に面と向かって魔王って言っちゃったんですよね。

 いくら先輩を寝取られて(ゲームの中でですよ! 現実じゃありません)おかしくなっていたと言え、何て迂闊な事をしてしまったのか……

 普通だと魔王なんて言われて怒りそうなものなのですが、陽乃さんはどういうわけか爛々と顔を輝かせまして、めっちゃ気に入られてしまった次第です。

 

 ……解せぬ。

 

 そんな経緯もあって私と先輩の楽しいゲーム時間に、陽乃さんが加わるようになったわけです。まあ一緒にやるのは楽しいし、別にいいんですけどね。

「今日は何のソフトやるんです?」

「今日はねぇ……」

 陽乃さんとはこれまでも色んなゲームをやったが、ゲームの世界においてもその才能は遺憾なく発揮された。モンハンで弱い装備のまま強個体へ突っ込んで完全勝利したり、スプラでは嫌がらせの天才だ。意識が抜けるところに潜伏し、無防備に後ろを晒したところを刈り取る。いわゆるヘイト管理が抜群にうまい。

 しかし私がヘイト管理なんて言葉を使うとは……いよいよもってゲーオタの領域に片足踏み入れてますね。

「うっす」

「あ、先輩だ」

「待ってたよ比企谷君。今ちょうど何のゲームやるか決めようとしていたところ。今日はさ、ホラー……」

「嫌です!!」

「一色ちゃん大丈夫。協力型のやつだしそんなに怖くないって」

「嫌です!!!」

「もしクリア出来たらお姉さんからお小遣い上げようかなぁ。金額はそうねぇ。一万円とかかなぁ?」

「やります!!!」

 あ、しまった。思わず欲望が……

「陽乃さん健全な高校生を買収しないでくださいよ」

 ディスコード通話で相手の姿見えてないけど、言葉の調子から先輩がやれやれとやっている姿が浮かんだ。陽乃さん話が上手いから、ついつい乗せられちゃうんだよね。

「陽乃さん、クリアぎりぎりであえてゲームオーバームーブするつもりっすね」

「流石は比企谷君。条件がプレイするじゃなくて、クリアってのがみそよね」

「しかも協力型だから、一人一人しっかりやんなきゃクリアできないって事だろうし、その中で裏切り者が出たら……まあ無理だわな」

 先輩によって暴かれた陽乃さんの策略に私は抗議する。

「陽乃さんの鬼! 悪魔! 魔王!!」

「はいはい、魔王頂きました。将来騙されない様、若いうちに耐性をつけてあげないとという姉心よ」

「それは実の妹にやってあげてください!」

「でも勉強になったでしょ? 授業料としてホラーゲームは強制って事で」

「くぅーー、先輩、もしも私が怪異に襲われたら守ってくださいね?」

「……おうともよ」

「その間はなんですかその間は!! 先輩の可愛い彼女の危機に立ち向かわないなんて彼氏失格ですよ!」

「だったら私が貰っちゃおうかなぁ」

「それは許しません!!」

 まったくこの姉妹は! 隙あらば先輩を奪おうとしてきおる。

「じゃあギフトで送ったから、観念してインストールする事!」

「いつもすんません」

「感謝したくないけど、それはそれ、これはこれなのでありがとうございます」

「良いって事! 今夜も楽しんでいくよぉー!!」

 陽乃さんチョイスのゲームをやるとき、結構トンデモゲームを持ってくるわけですが、私達はそれに付き合う代わりに陽乃さんはゲームソフトを提供してくれる。

 ただで貰うのは申し訳なくなるのですが、陽乃さんは匙加減が絶妙なんですよね。

 特大セール中とかで100円~500円くらいのソフトをどこからか探してくるものだから、この金額位なら良いかってなってしまうし、さっきのように抜群のトーク力で陽乃さんの我儘に従う私達って言う形にさせられてしまう。何か良い様に餌付けされてしまっている気分にさせられます。

 そういう細かい気遣いが多々あって、流石だなぁと思う事もしばしば、全部お姉さんに任せなさい! ってやってくれるのは正直カッコいいと思う。

 

 そしてとうとうインストールが終わって、プレイする時間が来てしまった。陽乃さんの怖くないは全く信じていなかったけど、いざやってみたら想定の何倍も怖くて、この日は私の絶叫が響き渡ったのであった。ついでに陽乃さんも。

 陽乃さん、何か雰囲気を出すために電気を消して暗い中でやっていたらしい。怖さ倍増だったらしく完全な自滅だ。こうしたお茶目さも憎めないところだと思う。

 

 あざとい魔王め!!

 

 先輩はって? 実は一番ホラーゲーが駄目だったらしくて早々に魂が抜け落ちてました。あの『……おうともよ』は私を見捨てるという意味じゃなく、俺が真っ先にくたばるという意味だったらしい。プレイ後の就寝時間、突然の先輩からの通話、そこからの『いろは、すまん。一人でトイレいけない』は思わず爆笑してしまった。

 その後私は先輩が無事トイレに辿り着けるよう、通話で励まし続けました。いつもなら見られない不安げな先輩に、何かちょっと目覚めそうになったのは秘密です。

 

 

 そんなこんなで陽乃さんが加わってからも、楽しくやっていた私達ですが、最近妙な事に気がづきまして。陽乃さんって基本センスの塊でめっちゃうまいんですが、変なところでミスるんですよね。

 例えばアクションゲームとかって、敵の大技の時、危険地帯を赤色表示してくれたりするじゃないですか? 普通はその指示に従って安全地帯に逃げ込むわけですが、陽乃さんは何故か赤地帯に突っ込んだりします。

 対戦系FPSでは潜伏スナイパーとか炙り出せるくらい状況見えてるのに、くそエイム脳死特攻野郎にあっさりやられたり。FPSへたっぴな私でも倒せる相手になんで? って思う事が多々。

 

 

 そこで先輩がとある奇妙な仮説に至ったのです。それはずばり!

 

 

 陽乃さんは難しいゲームはさらっとクリアするけど、簡単なゲームはクリアできない説、です!!

 

「そんな事ってありえるんですか?」

 私が疑ってしまうのも無理はないと思う。簡単なゲームをクリアしないって、わざとそうしなければ起こりえないわけで。簡単なんだから。

 もちろんそのゲームが自分に合わないとか、好きではあるけどセンスがないとか、なかなか上達しないという事はあるとは思う。でも初めから難しいゲームでもクリアできる人が簡単なゲームのどこで躓くというのか。

「俺も半信半疑だったんだけどな? 今思い返してみるとモンハンとかも変だったなと。最初は俺といろはが初心者の陽乃さんをサポートしていたわけだけど」

 先輩に言われて当時の記憶をたどってみる。確かやり始めの時の陽乃さんって……

「ずっと固まっていたイメージ?」

「そう、普通初心者って奴はさ。攻撃しまくるか逃げ回るかなんだよ」

「言われればそうですね」

 何せ私がそうだったし。パターンを掴むっていう事とか分からなかったから、とりあえず攻撃ばっかしていたなぁ。

「陽乃さんはひたすら迷っていたように思う。でも上位になったら」

「……一気に動き変わりましたね。もう私についてこーいみたいな勢い」

 それからの陽乃さんはもう思わず姉御!!って言ってしまいたくなる頼もしさだった。私は単純に上手くなったと思っていたのですが、先輩はそう思っていないようで。

「いろはは格闘ゲーム知ってるか?」

「突然なんです? まあ、動画では見た事あります。今ストリートファイターとか流行ってますよね?」

「あれってさ。上級者と初心者が対戦するとだな? 極稀にかみ合わなくて上級者が負けそうになる事とかあるんだわ」

「と言いますと?」

「上級者って強い行動や、効率が良い行動を知り尽くしているんだが、初心者ってお構いなしに自分が使いたい技ばっかり使うだろ? だから非効率すぎて、その状況で何故それ使うんだって事があったりして、面食らっちゃうんだよな」

「ああ、セオリーを無視された的な?」

「そんな感じだ。まあそれも徐々に対策されて行って最終的には全く通じなくなるんだけどな。地力の差ってやつ」

「なるほどなるほど」

「そこでだ。一つ実験してみたいんだけど……」

 

 

 

 そんなこんなでやってきました土曜日、場所は久々の先輩の家です! 私としては想いが成就した思い出の地だ。あの時、ふって湧いたチャンスに臆せず、先輩の家に駆けこんだ自分は今でも褒めたい。私、良くやった! 偉い!!

 今回は陽乃さんも来るので甘ったるい空気は別にないわけですけど。まあ陽乃さんいなくてもお米ちゃんブロックがあるわけですけどね。あのお米、私が仕掛けようとしたタイミングで悉く邪魔してきよる。あのブラコンめ!

 今日と言う日は不在のようだけど、いつの間にかいたりするから侮れない。私がお米ちゃんの潜伏を警戒していると今回の主役(実験対象)がやってきた。

「やっほー、お邪魔するわよ」

「こんにちは八幡」

「ちょっと待ておい」

 思わず出ちゃいけない私が出ちゃったけどそれもしょうがない。何せ陽乃さんの後ろにいたのは雪乃先輩だ。お米ちゃん以上の強敵が現れましたよ!!

 何で雪乃先輩がここに? それにちゃっかり名前呼びしているし。先輩は私のなんだから今になって本気出さないでくださいよ。そんなにおめかししちゃって!!

「お、雪ノ下も来たのか。じゃあ飲み物追加してくるな」

「急にごめんなさいね」

「いいや、来てくれて嬉しいよ」

 てっきりひねくれた回答が来るかと思った矢先の剛腕ストレートパンチ、効果は抜群だ!

「そ、そう」

 くそう、雪乃先輩にも自宅滞在時の先輩の良さがバレてしまった。家モードの先輩はひねくれモードが薄いので普通に良い人なんですよね。何よりゲームプレイ用ブルーレイカットメガネ姿がカッコいい!

 雪乃先輩はそのままの流れで先輩の隣座ろうとするのは目に見えていたので、先手を打つ事で阻止する。その場所は私の場所ですよ?

「……くっ!!」

「……譲りません!!」

 私が雪乃先輩と女の戦いをしていると、先輩はさっそくゲーム機の電源を入れ、粛々と準備を進めていた。その光景を見て陽乃さんは『あれ?』と意外そうな顔をする。何気に結構レアな顔だ。

「今回は最新じゃなくてレトロゲームの良さを知ろうって話だったよね? でもこれってスイッチじゃないの? 2が出たとはいえレトロと言うのはまだ早い気がするけど」

「実はオンライン会員に加入しておけば、ファミコン、スーパーファミコンとかのずっと古い世代のゲームが無料で出来ちゃうんですよ」

「そうなんだ。太っ腹だね」

 陽乃さんを見ていると何だか先輩に初めてゲームの事を教えてもらった時の私を思い出す。知らない事は素直に聞く。ほとんどはそうなるとは思うんだけど、陽乃さんの場合なんだか新鮮に見えるなぁ。

「もちろん昔のゲーム全てってわけじゃないですけど、それでも結構良いラインナップはしているとは思いますよ。んで今回はですね? 是非これを陽乃さんにプレイしてもらいたいと思っているのですが……」

「スーパーマリオブラザーズ? おお、噂に聞く初代マリオね。良いわね! 古き良きは嫌いじゃないわ」

「分かるわ。パンさん人気も昔からずっと続いているもの」

 ここでパンさんが出るのが雪乃先輩らしい。これに限っては可愛い物好きなんです! っていう先輩へのアピールではなくただの素だ。雪乃先輩のパンさん好きは筋金入りなのだから。

「パンさんか……せっかく来たんだから陽乃さんの後で雪ノ下にも良いの見せてやるよ」

「あら? 期待しちゃっていいのかしら」

「多分、な。期待してくれていい」

「あなたがそこまで言うなんて……ふふ、楽しみにしてるわ」

 だからちょっと待てい!! こうなってくると話は違うぞ?

「さあさあ、早くやりますよ! 先輩!」

 私が急かすと先輩は私の頭を撫でる。私が不満なのを分かってくれたらしい。

 

 どうだ! これが彼女の特権です! 

 

 ってこら! 先輩の手を取って自分の頭に乗せようとするな!!

 

 私が雪乃先輩の行動を必死にガードしている最中、マリオのタイトル画面まで辿り着いた先輩は陽乃さんに操作説明をする。

「ほー、これがかの有名な……」

「じゃあ陽乃さん。マリオの操作はシンプルで、スティックおよび十字キーで左右移動、Aボタンでジャンプします。軽く押すと小さめに、長く押すと高くって感じです。後Bボタンを押し続けながら移動するとダッシュする事が出来ますね。ちょっと慣性あるので難しいですが、操作に慣れたら使ってみてください」

「オーケーオーケー、今日は雪乃ちゃんもいるしここでもスーパープレイ見せちゃうよ!」

 そう自信満々にコントローラーを受け取ってスタートボタンを押す陽乃さん。その後私達は前代未聞の光景を目の当たりのするのであった。

 

 マリオで一番最初に出てくる雑魚敵は? 

 

 

 

 はい、そうです。クリボーですね。

 

 

 

 ひたすらゆっくり直進してきて、目の前に崖があろうが進み続ける漢気溢れるキングオブ雑魚ですね。先輩曰く、プレイヤーにジャンプを教えるために生まれた雑魚敵と言う事で、初代マリオでは開始すぐに出てくるため、開始早々追突死は稀に良くあるとなっています。

 過去に期間限定で初代マリオで競争するゲームがあったそうですが、その時はやりこんでいたはずの上手い人たちでも、焦って突っ込んで即終了とかも起こったとか。

 

 

 長々と説明しましたが、要は私は期待しているのです! 陽乃さんがクリボーと追突死する事を!!! ……私がそうだったので。

 

 

 しかし予想に反して陽乃さんのマリオは静かな立ち上がりでした。いきなり走らず左右にうろうろし、ジャンプ動作も色んな高さで確認する。これは万一も起こらない。私から見て陽乃さんは万全に見えました。

 ここまで慎重にやるのであればクリボーでジャンプミスはあり得ない。もうこの時点で陽乃さん簡単なゲームクリアできない説が頓挫しそうなわけで、思わず私は先輩の方を見る。だが先輩の顔に動揺はなく、真剣に陽乃さんのプレイを見続けていた。

 ここから何か見れるんでしょうか? しかしメガネで真剣顔はやめて欲しい。それは私に効く。雪乃先輩もゲーム画面じゃなくて、先輩の顔ガン見じゃないですか。

「よし! いくわよ!」

 満を持して陽乃さんが画面スクロールするととうとう現れましたクリボー、その瞬間、空気が変わるのを私は感じました。クリボーを見た瞬間、陽乃さんは目を見開き、ごくりと息を飲む。

「え? なんで?」

 戸惑うくらいの張り詰めた空気、どこにそんな極限の空気を纏う必要が? 相手はただのクリボーぞ? じりじりと距離を詰めてくるクリボーに陽乃さんは後ずさる。

「全く隙がない。こいつ……できる!!」

「どこが!!!?」 

 思わず大声で突っ込んでしまった私だけど許してほしい。こんなの叫ばずにはいられない。陽乃さんには一体何が見えてるの?

「陽乃さん、飛んでください。ジャンプしてかわすだけで良いんです!」

 クリボーにやられるのを期待していたはずなのに、助け舟を出してしまった私。しかし陽乃さんは頑なに飛ぼうとしない。段々と画面端が近づいてきてそして……

 

 陽乃さんマリオはクリボーに呆気なく圧死させられた。

 

「「……っ」」

 予想外の展開に私と雪乃先輩は絶句する。雪乃先輩にはゲーム経験はないはずだが、それでもこの光景がヤバい事は理解できるみたい。まあ、やらなければいけない事はジャンプして飛び越えるだけだしね。

「……………」

 一方で陽乃さんの表情は無そのもの。あ、これガチギレだ。

 

 そして始まった第2ラウンド。

 今度の陽乃さんは一味違った。クリボーの前を行ったり来たりし、ジャンプを見せたりする。それでも決して飛び越えないのが謎なんだけど。そこに見えない壁でもあるのか!? ちょっと前に飛ぶだけでいいんです。ジャンプしたらちょっとだけ十字キーを右に押すだけでいいんですよ!!

 飛び越える以外のあらゆる行動をする陽乃さんであったが、淡々と己の職務をこなすクリボーは、無慈悲にも再度陽乃さんマリオを粉砕した。

 

 とうとうラスト1機、ここまで進む事ができないマリオは見た事あるか!? 私はない!!

 

 追い詰められた陽乃さんが最後に取った行動、それは猛ダッシュだった。

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 よりにもよってそれかよ!! しかも掛け声が熱血系!!!

 

 テレッテテレッテテ♪

 

 奇跡は起きなかった。こうして陽乃さんはまさかの最初のクリボーで全滅を喫したのだった。ゲームオーバーの画面が出て、何とも言えない沈黙が辺りを支配する。

 

 

「初代マリオ……何て恐ろしいゲームなの」

 冗談じゃなくガチの表情でそう評する陽乃さん、普段完璧オーラ出しているはずなのに、今のこの人めっちゃポンコツだ!!

「これは……夢?」

 ああ! 信じられなさ過ぎて雪乃先輩が現実逃避しちゃってる!

「先輩、これは一体?」

「ちょっと待ってろいろは。答えはきっと次で出る。陽乃さん、悔しい所悪いですけど次はこれやってもらえますか?」

 そう言って先輩が起動したゲームはマリオメーカー2、マリオはマリオでもプレイヤーがそれぞれ自作ステージを作って、お互いにプレイし合うというマリオの中でも特殊なゲームだ。

 だから良くも悪くも個性的なステージが多い。有名どころだと全自動コースで音楽流れるとか、さっき陽乃さんが敗北を喫した1-1亜種とか、1画面で色んな仕掛けがつまっているショートコースとか……

 悪い方で言うと初見殺しばっかりで理不尽みたいなのがありますね。難しいと理不尽って似て非なるものなんですよ。ここ重要です!

 しかしながらですね。憎まれっ子世に憚るとでもいいますか。理不尽ステージであっても、ありとあらゆる理不尽を集めて詰め込めば、裏返って面白く感じてニーズが出たりする不思議。特に昨今は大配信者時代、最悪なコースを発狂しながら攻略する図が動画映えするため、割と人気ジャンルだったりするんですよね。

 まあ大体は人がプレイして苦しんでいるのを見るのが面白いのであって、自分はやりたくないって感じではあるのですが……

 

 こうした人を騙す事だけに命を懸けたコース達は、トロールコースと呼ばれています。もう騙されて死ぬ事が前提で、何回目でクリアできるかってのがメインのコースです。そんな初心者じゃなくて、上級者でも発狂物のトロールコースを先輩は選択しました。

 本来ならマリオ初心者にやらせるものじゃない。でも先輩の仮説が正しいのであれば、陽乃さんはこんな悪魔みたいなステージをクリアするはずだ。

「どうぞ、陽乃さん」

「……これは!? ふふ、良いわね。滾ってきたわ!!」

 何か触発されるものがあったのか、獰猛な笑みを浮かべる陽乃さん。それを見た私の率直な感想はやっぱり「なんで?」である。

 

 先ほどとは打って変わって水を得た魚のように活き活きしている陽乃さん。全く持って理解不能である。

 

 

 実は私、トロールコースを何たるかを知るために一度プレイをしている。しかしながら私の腕前は皆さんの想像通り『並』、いくら猫かぶりが得意の私でも煮詰めた悪意を見抜く能力などなく、悉く騙された。

 あくまでこんなのを陽乃さんはプレイさせますよっていう確認だったので、先輩からギブアップも許されていたが、もう頭に来まくっていた私は諦める事無く、意地でクリアした。しかしその代償は大きく、終わった時の惨状と言ったら……

 

 ふざけんな、地獄に落ちろ、ありとあらゆる罵倒の言葉が浮かんできて……

 

 でも何よりもこの地獄から解放される喜びがあって……

 

 あの時、私は確かに禊を終えたのでした。何の罪かは分かりませんけど前世的な何かなんでしょう多分。

 

 

 私の事は良いとして、本家1-1でゲームオーバーになった陽乃さんは果たしてこの地獄のトロールコースでどのような活躍を見せるのか? 先輩の推測が正しければ、難しいゲーム程上手くなるっていう話ですが、こんな悪意の塊でもそれは通用するんですかね?

 

 

 そして始まったトロールコース、陽乃さんの動きはやたらきびきびとしている。早速現れたのは先ほど根絶やしにされた宿敵、クリボーだ。私達はこれはどうなると固唾を飲んで見守る。

 普通であれば飛び越すか、踏んづけてしまえばいい。だがここはトロールコース、ジャンプする事が地獄へのトリガーだったりする。具体的に言えば孔明の渾名で有名な隠しブロックが仕込んであって、ジャンプするとリングテレサが湧きだすという仕様だ。もちろん私はこれで記念すべき第1死を達成しましたよ。

 ここでの正解は何もせずに待つ事、ぎりぎりのタイミングで床が崩れ、クリボーが落ちるという仕掛けなのだ。何と嫌味な仕掛けなのか。初手で待つ事を強要するなんて。しかし……

「嘘でしょ……」

 陽乃さんは予めそれが分かっているかのように待ち続けた。クリボーが落ちるその時まで。さっきの1-1ではそれで死んでいたのに、何故ここに来てその選択肢がとれるのか。

「やはり……」

「先輩……」

 そろそろ答えを教えてもらっても良いんじゃないですかね? そう送った視線に込めると先輩はようやく語りだす。

「きっと陽乃さんは悪意に対するセンサーが天元突破しているんだ」

「天元突破って大げさな……でも」

 否定しようにも陽乃さんは次々に悪意の仕掛けをかわしていく。進行ルートっぽい土管は入ると即死するわけだけど、どういうわけか避けていくし、これ見よがしに置いてあるアイテムは取っちゃダメだったり、逆に取らなきゃダメだったりするわけですが、この人本当に外れを引かない。私は何を見せられているんだ?

 トロールコースは単純な上手い下手じゃない。『読み』だけが全ての世界。上手い人だって読み切るのは難しいし、全問正解なんてまずありえない。

 

 さっきの1-1の惨状は何だったのか。私は先輩に尋ねる。

 

「じゃあさっきのクリボーは?」

 

「……悪意が足りなかったんだ」

 

 私と雪乃先輩は再度絶句した。

「陽乃さんにとって敵とは凶悪でずる賢くて厄介な相手。真っすぐ進むだけの奴なんてそもそも想定していないんだ。そんな奴いるわけないとすら思っている」

 つまりはだ。陽乃さんはずっとあのクリボーは直進以外の何かをしてくると疑っていた。クリボーの裏の裏を暴いてやろうと足掻いた結果があの残念な結果らしい。当たり前っちゃ当たり前、皆さんご存じのとおりクリボーに裏なんてなく、直進しかしないのだから。

「きっとあのクリボーは陽乃さんにとって心の読めない、まさに天敵だったんだろう」

「一つの行動だけ愚直に……シンプルイズベストってやつなのかしら」

「シンプルイズベストってどっちかというと色んな選択肢からあえて一つを選ぶ感じじゃありません? こいつ元から直進しか出来ませんけど」

 というか雪乃先輩がシンプルイズベストっていう単語使うのなんか面白いです。

「まあ、漫画でも一つの技しか使えないけど、極めた結果強くなったとかあるし、そう思えばあのクリボーも凄い奴と言えるかもな。 ……言えるか?」

「別に極めたわけじゃないですしね。極めていれば同じ直進でも凄い速度で接近してきそう。後急ブレーキでフェイントしかけたりとか」

「それでも同じ行動を正確無比に再現し続けるっていう点は凄いと言えるかしら」

 ゲームをやらない雪乃先輩ならではの視点だった。

「現実の世界だと確かに凄いかもなそれは。長距離ランナーとか正確なラップタイムを刻む練習するらしいし」

 ゲームの敵たちはプログラムを忠実に守っているだけなのだけど、人に置き換えれば任務に忠実なプロフェッショナルに早変わりってね。

 しかしこれで納得した。陽乃さんがどうして危険地帯の赤区域に突っ込んでいくのか。敵が隙だらけのタイミングで攻撃しないのか。陽乃さんにとって安全地帯への誘導は罠であり、あからさまの攻撃タイミングは胡散臭く見えてしまうのだ。

 裏がある事を前提に考えるから、裏のない行動に対してめっぽう弱い。

「でも姉さんは人と話す時はこんな事はなかったわよ?」

「それはきっとゲームだからってのはあると思う」

「と言いますと?」

「人間は揺らぐからな。決意の固い人だって0か100だけの人はまずいない。例えばだ。とある目標を立てたとする。もちろん成功するように努力するわけだが、一方で失敗後とかも一応考えたりするだろ? 意志の強い人は絶対成功するって思い込ませているだけだ。99%まで行けるが100%は無理」

「つまり人間の場合、裏がないってのはありえないのね。納得だわ」

 言葉の端からにじみ出る徒労感、この妹と言い、あの姉と言い、雪ノ下姉妹は色々苦労してそうである。

「ああ、一方でゲームは絶対揺らがない。100%同じ行動する。今までゲームやってきた事ない人だからこそ、単純行動のみの敵が未知そのもので信じられなかったんだろう。ただゲームの敵ってさ。プレイヤーを倒すためじゃなくて、プレイヤーを気持ち良くするためのものでもあるんだ。だから現実で言うとサービス業の人と言うか、そう言った側面もあるんだよな」

「最初の敵が鬼強かったらそれはそれで嫌ですもんね」

 最初のクリボーがハンマーブロス並の動きをしてきたらと思うと嫌だ。クリボーが前に進むだけは正解に思える。

 

 

 それからも陽乃さんはさながら既プレイ済のように、嘘しか存在しない地獄の中で、かぎりなく細い正しい道を辿っていった。

「……姉さん」

 雪乃先輩が切なげな表情を浮かべる。それもそのはず、爛々と楽しそうに攻略していっている陽乃さんであるが、トロールコースが上手ければ上手い程、陽乃さんは今までそうした悪意の中で戦ってきたという事になる。なってしまうのだ。

 

 何と、何と不憫な事か……

 

 そして

 

 

「ふっははははははは!!」

 

 

 

 陽乃さんの不敵の笑いを浮かべる姿はまさに魔王、この人まじでノーミスでトロールコースを完全制覇してくれやがりました。

「どうよ! お姉さんもやれば出来るんだから!!」

 渾身のどや顔をする陽乃さんであったが、一方で私達の心は土砂降りの雨である。

 

「あれ? 何か思ったのと違う反応……」

 

 陽乃さん自身自分何が異常かを認識していないのが尚更切ない。隠された姉の苦悩を知って色々思う事があったのだろう。たまらなくなった雪乃先輩は陽乃さんに抱き着いた。

「姉さん!!」

「ええええ!? ゆ、雪乃ちゃん!!?」

「今まで冷たくしてごめんなさい!! 私、自分の事で精一杯で姉さんの事考える事できなかった!!」

「あ? え?」

 陽乃さんの困惑を他所に私と先輩も続く。

「沢山、沢山遊びましょうね陽乃さん! そうだ! 今度カラオケ行きましょカラオケ!!」

「陽乃さん、俺ら年下ですけど、何かあったら話を聞く事は出来ますから、あまりため込まないでくださいね」

 今まで見た事ない表情で固まる陽乃さん。

 

「お、おお、おおおおおお、てったいてったーーーい!!!」

 

 突然の優しさの大洪水に困惑した陽乃さんの選択はまさかの撤退だった。雪乃先輩のハグをまるで軟体動物のように抜けて、リビングの出口へと駆けだす。しかしここで逃がすわけにはいかない。私と先輩は同時に叫ぶ。

「「お米ちゃん!!(小町!!)」」

「あいあいさーーー!!!」

 そう、ここは先輩の家。先輩の家であるならばもちろん妹のお米ちゃんがいる! 最初は不在だったけど、途中の時点でちゃっかり帰ってきていたのだ。何故か今まで気配を消して隠密ムーブしていたのは謎だけど。よく先輩の家に遊びに行く『先輩の彼女』の私でないと見逃しちゃうね。

 最近の付き合いで分かったけど、お米ちゃん一見陽キャではあるんだけど、本質的には先輩に近いっぽいんだよね。

 本物の陽キャなら何も考えずに合流して一緒になって騒いでるはず。でもお米ちゃんの場合は混じる前にちゃんと考えているというか、タイミングを伺っているというか、要は空気と言うものをよく考えている気がします。

「はい、陽乃さん確保でーす!」

「ちょ、離して妹ちゃん!」

「駄目ですよぉー。比企谷家に足を踏み入れた時点で陽乃さんは罠に嵌っていたんです」

 計画的な犯行のように言ってるけどたまたまなんだよなぁ。

「さあさあ、陽乃さんには比企谷家名物、比企谷地獄にご招待ー♪」

「何っ? 地獄って何?」

 私も知りません。まあこれは十中八九お米ちゃんノリだけで言ったんでしょう。空気読むの上手いせいか、相手が弱みを見せた時、畳みかけるのも上手なんだよねぇ。そしてなんだこの拘束力。雪乃先輩が体力ないのもあるだろうけど、お米ちゃんのホールド力とてつもない。陽乃さん全然抜けれてないし。

「どろっどろのどろっどろに溶かしちゃいますよぉ」

 どろっどろって2回繰り返した! まあ私もそのつもりですけどね。今この人を甘やかさないでいつ甘やかすの! 気持ち的には赤ちゃん用のガラガラを持っている気分。先輩も普段見せない慈愛の表情で陽乃さんににじり寄る。もちろんそこには雪乃先輩の姿もあって……

 3人に囲まれた陽乃さんにもはや逃げる術もない。陽乃さんの顔が恐怖に染まる。そうだ。私はその顔こそが見たかった。ここで決め台詞だ!!

「陽乃さん、観念してくださいね♪」

 

 

「あ、あ……ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 

 その後、私達はめっちゃ陽乃さんをO・MO・TE・NA・SHIしました。

 皆でお菓子食べながらマリオパーティーやったり、ゲーム以外でもトランプやったり。とにかく思いつく限りの楽しい事全部乗せって感じです。

 なお先輩が雪乃先輩に見せたいと言った良いものは、パンさんのマジカルアドベンチャー2っていうパンさんが主役のアクションゲームでした。色んなコスプレしながら冒険するパンさんに雪乃先輩は興奮しきりで、うっきうきでプレイする雪乃先輩と、ガチのゲーム初心者である雪乃先輩をフォローする陽乃さん、わだかまりが解けた姉妹プレイは眼福でした。

 後ゲームの持ち主だからか、先輩とお米ちゃんのタッグプレイは引くほど上手かったです。くそう、私ひとりっ子だから肩身狭い!! というかここは彼氏彼女プレイさせてくれても良くない? お米ちゃんめぇ!!

 

 楽しいは楽しいですけどイチャイチャ成分が足りない!! 

 

 

 ……でもまあこんな日も悪くないよね。

 

 

 先輩の彼女は変わらず私ですし、ここは焦らず余裕を見せつけてあげます。ってそこぉーーー!!! 私の先輩に引っ付くなぁぁぁぁ―――!!!!

 

 

 私の余裕はものの数秒で崩れ去ったのでした。

 

 

 

 




 いろはちゃん3話お読みいただきありがとうございました! 今回はふとクリボーに完膚なきまでやられる陽乃さんネタを思いついて、そこからアイディアを膨らませてみました。結果として完全無欠ポンコツカッコかわいいお姉さんが爆誕しました。
 そしてお米ちゃんは何か個人的にすっごく使いやすい。場面の切り替えで困ったらお米ちゃんって感じで。いろはちゃんもセルフツッコミ機能あるため、かなりテンポよく書く事が出来ましたね。
 もしもトロールコースが何か分からないなどあれば、マリオメーカー、トロールコースで多分youtubeとかで出てくるかと思いますので、あの酷さを是非見てみてください。
 パンさんのマジカルアドベンチャーの元ネタはかのスーパーファミコンの名作、ミッキーのマジカルアドベンチャーです。2なのは確か2からは二人プレイ可能だったはずなのでそうしました! ただパンさんの元ネタはミッキーではなく、くまのプーさんらしいのですが。しかしプーさんのゲームと言えば……ええ、かの悪名高いプーさんのホームランダービーが一番有名かと。
 このゲームを作中に登場させると、登場人物もれなく全員発狂してしまうのでやめておきました。
 久々の2次創作作品となりましたが、楽しんでいただけましたら幸いです。
 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。