古の魔王と5人の現代魔王と3人のこの世界の魔王と勇者様。世界が壊れちゃうううううっ! 作:かりん2022
兄の統治する小さめの浮遊大陸へ潜入する。
統一感があり、美しくデザインされた街だった。
「ようこそニャサへいらっしゃいました! お客人!」
さすがは兄の領地である。
弟である武人とその友人である勇に平身低頭である。さあさあと城の大食堂まで流れるように案内されて豪華な食事と女の子が出てきて、武人は焦った。
『普通! 普通でお願いします!』
『しかし、魔王様を歓待しないわけには』
「歓待してくれるってことは、君達の上司は俺達に会ってくれるってこと?」
「なっなるほど! 頼みごとがあるから歓迎してくれるんだね! そうに違いない! さあ、望みを言ってご覧」
「そうですね。我が主は私共に交易の許可を下さっています。色々と交渉したい事はあります」
領長のアメリーさんが含みのある感じで言う。
「許可、か⋯⋯、交渉は魔王じゃなくて君達がするということかな。出来れば魔王にも挨拶したいんだけど」
「魔王様は細事に関わりません。同格の魔王様が訪ねてきたら連絡するぐらいでしょうか」
「困ったな⋯⋯。それじゃ報告できない」
勇が出たのに魔王に会えませんでしたでは、困るのだ。私は身を乗り出した。
私だって魔王だ。正体を隠してはいるが。
「どうしても会えないかな?」
「連絡します。ひとまずはお食事をお楽しみください」
女の子達が柔らかな胸を押し付けてくる。
「お嫁さんにしてほしい〜」
「今晩、如何ですか? 頑張ります!」
「凄いモテるじゃん武人⋯⋯」
食事を終えると、視察ということで案内をされる。今日のディナーをご一緒できるとのことだった。いろんな施設を見せてくれて、質問にも答えてくれるので楽しかった。ずっと女の子達がついてきて称賛してくれた。
夜が怖いから泊まるのは遠慮したいな⋯⋯。
お花畑を鑑賞している時、念話が来た。
本当の交渉の開始である。
『魔王エンド様、本日はようこそおいでくださいました』
『今日はありがとう。交渉の方もよろしくね。勇の顔が立つ程度にしてほしい。で、何が欲しいのかな? 私の領地にも講師を派遣してくれたし、私で出来ることなら言ってほしい』
『ありがとうございます。我らの創造主は我らに飽きてしまわれたご様子。早晩、旅立ってしまうでしょう。魔石もいずれ尽きる。我らは新たな魔王様を必要としています。難しいことは言いません。国の維持に必要なだけの魔力をくださればそれでいいのです。それ以上何も求めません。その確約、出来たら証となる実の子供をいただきたく思います。この領地の娘達に手をつけていただきたいという事です。もちろん、殿下は大事に育てます。魔王の子もまた、魔力を産むのです』
『子供か……。君の心配は最もだね。でもすぐに答えは出せないかな。兄とも話し合ってみる。悪いようにはしない。約束する』
それから、夕食の時間となった。兄は来てくれるということで、助かった。
ディナーの席に着くと、メイド達が一斉に頭を下げ、大きなドアが開いた。
「私が魔王ラベラトスだ! 勇者とな!? 降伏の準備はできているぞ!」
ババーン! 情けない事を胸を張っていうその異形の化け物から、魔力の風がどっぱん! と来る。私はすぐに立ち上がり、勇の前に出た。きつい……! 必死で魔力をコントロールして壁を作る。古の魔王が真の姿になるとこんなに段違いの魔力を放つのか。私が小川なら、兄は海だ。桁が違う。
「武人!」
「勇、無事かい!?」
「ああ、武人。大丈夫」
なんとか魔力の壁で勇を守っていると、声がした。
『我が名はジャーシン。そろそろ勇者を剪定しようと思う。汝は選ばれた。力と称号を与えよう。力を選ぶか、守護を選ぶか、平和を選ぶか、はたまた別の道を選ぶか。選ぶが良い』
ジャーシン様! 勇が選ばれた!? 勇は平然として、堂々と答えた。
「魔王が魔力をばら撒いて大変な事になるんだろ。魔王も人類もその他の動植物も困らない道を示せる力が欲しい」
『それでこそ勇者よ! 汝には調和の勇者王の称号を与えよう! では力を付与しよう。⋯⋯あっ』
「ジャーシン様、あってなに」
「勇になにした!?」
兄と私は声をあげる。勇は確かめるように手を握った。
私に力をくれた存在なので、その力は証明済みだ。洒落にならない。
『それではさらばだ⋯⋯。我が名はジャーシン⋯⋯』
「勘弁してよ、ジャーシン様⋯⋯」
兄は頭を抑える。
「魔王も勇者もジャーシン様がこうして任命するんだな。マッチポンプ?」
「そういう見方もあるな」
勇は、与えられた強大な力を綺麗に御しきって、まるで変わった様子を見せない。
勇の言葉に、兄が答える。勇は平気そうだ。よかった。
「さっきも言ったが勇者様に逆らう気はないぞ。勇者を倒すのはとても面倒だし、暴虐を働けば働くほど勇者が強力になっていくから圧政を敷くつもりもない。平和路線が富国強兵への道なのだ。勇者の庇護下に入れればバフあるし、勇者王はレイド向けだ。複数の魔王でボコらないと倒せない強さだから」
「そうなんだ」
兄は謎に含蓄がある。古の魔王なのはわかっているが、兄は普通に生まれてきたはずだ。前世が魔王だったのだろうか。魔王に寿命はあるのだろうか。殺されたり封印されたら転生とかするのだろうか。私は魔王について何も知らない。フェアリーや兄にもう少しレクチャーしてもらうべきだろう。
「まあ、今の魔王やんちゃだからそいつらはしらんがな」
それは確かに。あと一人の魔王が見つからないのも不安だった。
魔王の力は凄まじい。
「庇護下⋯⋯。この結界って奴かな? 魔力による進化や体調不良を抑制し、進化の方向性を選択できる。魔王と条約を締結する事で魔王のテリトリーをそのまま結界にできる。条約締結。同意を得た、もしくは制圧した魔王と破れない契約を結べる。条約を締結した魔王や制圧した魔王の力を借りる同盟もある」
「その進化への干渉が強いんだよな。しかも王クラスで称号が調和だからもう一個の浮遊大陸対策にいいと思う。今、かなり魔力ばら撒かれてるだろ」
「じゃあ、とりあえず二人とも同盟と条約締結しようぜ」
「えっ」
今、魔王ラベラトスとじゃなくて、二人って言った?
該当者は私しかいない。
「なんだよ武人、俺との同盟嫌?」
少し拗ねたように言われて、慌てる。
「嫌ではないけれど⋯⋯。いつ私が魔王と?」
「隠す気あった? 魔王に選ばれたの、子供を庇った時だろ」
しっかりバレていた。最初からバレていた。私はなんて滑稽なんだ……。
「うう……屈辱」
「弟よ。若き魔王よ。勇者王がいる間は屈辱を呑んでおけ。こっそり富国強兵して寿命が来てから暴れればいいから。あっでも性格は聞いておきたい。人間以外は皆、死ねって選民主義じゃない? 大丈夫?」
「暴れないよ! それに勇はまごう事なき勇者だよ。信じていい」
「ほう」
「でも勇の上司は信じちゃダメ」
「ほう……」
「なお、勇は社畜」
「ダメじゃん」
兄は大丈夫か、と言った感じで勇を見る。
「ひどいな武人。それはお前もじゃん」
「そうだけどさ。こうなった以上、もう社畜は終わりだよ」
「あっ 指示をもらわないうちに条約結べばいいんだ! 100年変えられないやつ」
勇者に従うYES! 勇者の所属する組織に従うNO! と兄は言う。
もはや最初の威厳はない。いや、最初から言動に威厳はなかったか。
今も、たれ流される魔力は私を圧迫しており、さりげなく勇が庇ってくれたら信じられないほど楽になった。優しい魔力の結界に入れてくれたようだ。直、兄は全く気づいてない。
「そう来るかー」
神業の結界を用意したことなどおくびにも出さず、軽く勇は受け答えする。
「契約書を持ってこい。互いへの不可侵条約結ぶぞ」
勇は、私を見る。
「ラベラトスとはとりあえず不可侵でいいけど」
そして、私の手を取った。
「武人。契約を結ぼう。俺達は死が二人を分つまで、ずっと一緒だ。最上位の契約を武人と結びたい」
「勇……仕方ないな」
魔力も寿命も命も全てを分かち合う契約。
それはまるで婚姻のような。病める時も健やかなる時も。
契約を差し出されて驚き、それでも私は嬉しくて契約を結んだ。
『我が名はジャーシン。魔王エンドが勇者との友好度を一定以上に上げた為に、絆イベントが発生する』
ジャーシン様が帰ってきた。
「うおっ 絆イベント? 何それ」
兄は興味津々だ。
『勇者と魔王の友好度が一定以上に高い場合に限り、絆石を買えるようになる。魔王エンドは初めてのイベントなので、無料で絆石一つを含む子育てセットをプレゼントしよう。絆石に魔力を貯めれば、一代限りの小魔王と、子々孫々に至るまで勇者になる確率が非常に高い子供の双子が生まれる。ただし、監禁したり洗脳したり心を折れば、勇者の称号は失われる。真実、清らかな勇者の心のまま、互いへの想いが高まり、その魔力が同時に同量だけ注がれる儀式が一月一回5年程続けられた時、約束の双子は生まれるのだ。平和路線を維持するなら、大量発生した勇者が他の魔王を排除してくれるので領地を拡大しやすいというメリットがある。また、領地に小魔王を置いておけるので、領地を放置できるぞ。ただし、小魔王は人型とは限らない』
「えっ すげーお得! でも条件厳しいな。子育てセットみたい」
兄が何かして、アイテムボックスが覗かれるのがわかる。
息をするように覗き見しないでよ……。
「それは素晴らしい! 二つ絆石を育てれば、魔王ラベラトス様とエンド様、二つの領地が守られます」
領長のアメリーさんは喜んで声を上げた。
「それ、ちゃんと俺の遺伝子反映されんの? 一度に幾つ育てられる?」
『最初に血を一滴ずつ垂らす儀式があるので、遺伝情報はちゃんと反映される。一度に四つまでにしておくほうが良いだろうな。だが一度買ったらショップへの補充に10年掛かる。初期在庫は一つだ』
「二つか。最高四つなら余裕だな。じゃあ武人、絆石買って」
「ちょっと待ってくれ、勇! 子供を作るって事だぞ!」
私は顔を真っ赤にして問うた。
「嫌?」
「嫌では……ないよ。その、エッチするわけではないのだし」
「それは今夜しような」
「なっ……」
私は口をぱくぱくさせる。そして、何も言えずに椅子に座り込んで顔を覆った。
もうだめだ。キャパオーバーだ。
「金出すからわけてー」「ダメー」
兄と勇がそんな会話をして、アメリーさんがすごく立派なペンと羊皮紙、メモ帳を持ってきた。
そして、その場で話し合い、条約締結と同盟を結んだ。
後日、盛大な式典をする事となった。
絆石二つは、その場で血を垂らして、登録をした。
片方には1回目の魔力注入をした。
私は、その日、勇と共に同じ部屋に泊まった。
一旦私の領地の時間加速を止め、盛大に祝う事となったのだった。