巡り廻った先の世界で   作:稗田之蛙

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Chapter2:スノーフルエリア
スケルトン兄弟(前編)


「おい、ニンゲン」

 遺跡を脱出したCharaが村へ向かう道中、ゲートっぽい代物をくぐる直前に背後からそんな声が聞こえてきた。

(あぁ、SANSが出て来るのはこの辺りだったな……)

「はじめて会うのに挨拶もなしか? こっちを向いて、あくしゅしろ」

 Charaは大きめのため息をつきながら、SANSと対面する為に後ろを振り返る。

 SANSは振り返った人物に対してブーブークッションを握らせようとするが、寸前でそれを止めて訝しげに声をかけた。

「……おい、ひでぇツラしてんなアンタ」

 SANSが目の前にしたCharaの姿は異様ともいえるものだった。Chara目元には目立つ黒い隈があり、その瞳はどんよりと濁っているように見える。その上フード付きのパーカーを人相を隠すように着込み、口元をマフラーで隠しているから、他人から見たら不審者そのものだったからだ。

 

「……Asgore以外には自分の正体を隠していくつもりですって?」

 Charaが遺跡から発つ寸前、Torielと和解しスノーフルエリアを渡るための防寒着を受け取った直後、そのような考えをCharaは打ち明けていた。

「あぁ、そうさ。生前の知り合いばかりとは限らないし、そもそも死人が生き返ったなんて噂が広まると皆が混乱するだろう?」

 スノーフルに薄着で赴くのも気が向かなかったし、正体を隠す意味でも防寒着があった方がCharaにとって都合が良かった。

「それにしても……後生大事に死人の服を保管していたのか」

 Torielが用意した防寒着は、Charaが生前付けた事のある代物だった。この数日間過ごした間に与えられた着替えは新品のものだったから、特に気にしていなかったが。

「そりゃあ、貴方との大事な思い出だもの」

 自分の遺品がいくらか保管されているのは、周回を経たCharaとって既知の事実。……しかしいざ面と向かって直接言われると面映ゆいものがある。

 Charaは所在なさげに頬を指で掻いていると、Torielは防寒着の他にもやたらフリフリとしたファンシーな衣服を見せつけるように広げていた。

「ところで貴方が住み始めてから夜なべで作ってたんだけど、出発する前に一回着てみない……?」

*そんなのおことわりだ

 

 SANSの反応を見て、衣服も時間をかけて見繕ってきた方がよかったかと少し後悔するChara。

「ここいらは寒いと聞いてな。来る途中で親切なモンスターに防寒着を与えてもらったんだ」

「ははは、そりゃあ運がよかったな。身ぐるみを剥がされても文句が言えない場所だ。オイラはSANS。見ての通りのスケルトンさ。ニンゲンが此処に来ないか見張ってろって言われてんだ」 

 そう言ってから、Sansは再び何気ない視線でCharaを見つめ続ける。

「どうしたんだ。そんなに私は魅力的か?」

「あぁ、とんと骨抜きだぜ。スケルトンだけにな」

 

 ツクテーン

 

(……絶対それが言いたかっただけだろう………)

 お約束の冗談にCharaは愛想笑いとばかりに乾いた笑いを浮かべた。

「そんな風に、不倶戴天の敵にでも相まみえたような目つきで睨みつけられちゃあな」

 その言葉を聞いた瞬間、Charaの顔が引きつりかける。Charaの表情の変化を見たSansはすぐに冗談だと言いのけた。

「なんてな。オイラのジョークだよ。あんまり怖がんなって」

(最高に笑えないジョークだ……)

 Charaにとって、今回の出会いにおいては彼と敵対的になる予定はない。地獄の業火に焼かれるのはもう懲り懲りだ。

 とりあえずトラウマを払拭する糸口を見つける為に、SANSと直に友好的に接するというのが今回の考えなのだが……。

「あー……いや、遺跡にいたモンスターと他のヤツと争わないって約束してて。その第一歩としてアンタとお近づきになりたいんだけど」

「おいおい、『あったばかりで いきなり ともだちには なれないぜ』とでも言って欲しいのか?」

 苦手だ。こっちの状況を見透かしてるのか見透かしていないのかよく分からないこの立ち振る舞い。何百回殺されたのもあいまって、話をしようとすると体が強ばる。

「仕方ないな」

 Charaが怖がっていると受け取ったSANSは苦笑しつつもゆっくりとした仕草で両腕を広げた。

 

『オレをにがしてくれるのか? そうか……やっと、か。ありがとな……けっしん してくれてさ。ツライだろ……?』

 

 Charaは、虐殺の末にSANSとの決戦に至った時に一度だけ和平を結ぼうとした事があった。

 SANSのあまりの強さに和平の提案に逃げたのか、それともSANSの置かれた状況に同情したのかは今となってはよく思い出せない。

 

『これまで つみかさねて きたものを ぜんぶ ムダに するなんてさ』

 

 パートナーにとっては、それさえも『この選択肢を選んだらどうなるか』という好奇心からくるものだったのかもしれないが。

 度重なる激痛と死で疲弊していたChara/Friskにとってその提案は受け入れるに値するものだった。

 

『でも このことは… オレが ムダには しないぜ……さあ……』

 

 なんにしても、異常なほど繰り返された激戦から先へ進みたいが為に彼らはSANSの元へ歩み寄った。

 その結果どうなったか。

 

『こっちへ こいよ』

 

 

 両腕を広げたSANSに対して、Charaは反射的に彼を突き飛ばして挙げ句、足早に数歩下がる。

「……おかしいな。ハグしようとしただけなのにな」

 Charaはハッとした表情を浮かべ、どう誤魔化したものかと慌て始める。

「いや、違う……殺されそうとか思ったんじゃなくて……私はニンゲンだから、初対面のモンスターが怖い? ……そうじゃなくて……」

 必死に取り繕おうとするCharaを見ている内に、不審そうにしていたSANSは納得したのかそうでないのか、したり顔をする。

「意外にウブなんだな」

 揶揄われたCharaが赤いほっぺたを更に真っ赤にして反論しようと口を開いた瞬間、「サァァァンズ!!」と森の奥から聞き覚えのある声が響いてきた。

「その、ちょうど良い形のランプにかくれてくれ」

 Charaは何か言いたげだったが、渋々近くにあったランプの後ろに隠れた。

「よう Papyrus」

「よう! ……では ぬあぁいッ!」

 Papyrusはパズルの調整をしていないSANSをアレヤコレヤと叱りつける。

「勝手に持ち場を離れてフラフラと……! こんなところでなにをしているのッ!」

「そこのランプをみてる」

「そんな! ヒマは! ぬあぁ……」

 Papyrusの声が気の抜けたように間延びしていく。SANSも「あー」と相変わらず気の抜けた声をあげた。

 ランプの影からCharaが見えてる。正確には防寒着で着太りした分、何者かが隠れているのかが傍から丸わかりになっていた。

「兄ちゃん、誰かが隠れてるようにみえる」

「そうだな」

「……まさか」

「あぁ、そこにいるぜ。ニンゲンの子供が」

 SANSの対応に微妙な感情が沸き起こって眉間にシワを寄せるChara。

「なんだって! あんなにお洋服を着込んでいるなんて……なんて気合いの入ったオシャレさんなんだッ!!」

「どうする、Papyrus」

「まずいよ。それに比べてオレサマは、ヨソイキのカッコウどころかご近所行きのカッコウすらしていないッッ!!」

「それ一着しかもってないだろ」

「こうしちゃいられない! にいちゃん! 身だしなみを整えにいくぞ!」

「いってらっしゃい」

 SANSがついてこない事にも気づかず別の場所へ向かうPapyrus。Charaはのそのそとした動作でランプの裏から出てくると、SANSの方を見て批難代わりに目を細めた。

「そんな事しちゃ可愛い顔が台無しだぜ」

(ひでぇツラだって言ったクセに……)

 わざわざ告げ口してくるのはどうかと思ったが、CharaもPapyrusに見つかって殺されるとは思ってはいない。周回を繰り返して理解したが、Papyrusは最初から最後まであぁいうヤツなのだ。

「そういう風に、まるで殺されるなんて思ってないような態度だったからちょっとイジワルしたくなってな」

「……はぁ」

 そしてSANSはこういうヤツなのだ。人の心理を見透かしたような反応を取る。

 Charaもその点についてはある程度覚悟の上だ。Friskではなく自分自身がこのようにおちょくられるとまでは思っていなかったが。

「どうした?」

「別に……ただ、まぁ今までの印象とは違うから、上手くいったと思って」

「ん? あぁ、トントン拍子だったな。スケルトンだけに」

 

 ツクテーン

 

 *……ツッコむ必要性を感じない。

「正直な話、おいらにはお前さんがニンゲンかどうかいまいち確信がもてなくてな」

「着膨れはしてるし不眠症で目の下が黒いけど、ニンゲンだよ」

 ……たぶんね。

 ぽつりと自信なさげに付け加えてから、CharaはPapyrusの後を追いかける。

 

 

 スノーフルの森を道行く最中、防寒着の中から着信音のメロディ。色々と必要になるので出発時に受け取っておいた携帯電話。

 着信はTorielからのものでないだろう。Charaは無視しようかとも思ったが――何故か少しの胸騒ぎが起きて――その着信を受け取った。

『――ザ―――ザザ―――』

「あー、もしもし? SANS? Alphys?」

 電波状況が悪いのか、相手の声がよく聞こえない。Charaは受話口に耳をぴったりひっつけて、相手の要件を聞き取ろうとした。

 

『……に、異常な数値を観測しました。エラーコード#……』

 

 ガチャ、ツー、ツー。

 

「……レア電話? しょうもない」

 Charaが異常とは何の事かと考えながらも、胸騒ぎは単なる杞憂だったと判断してそのままPapyrusを追う事を優先した。

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