巡り廻った先の世界で   作:稗田之蛙

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スケルトン兄弟(後編)

「ワン!!! 子犬に撫でられたッス!!!」

 物思いに耽けながら犬型のモンスター『イヌッス』のお腹をワシャワシャと撫でまくっているChara。

「……なんで私がこんな事しなきゃいけないんだ」

 Charaはなんだかバカバカしく感じて目の前のモンスターを殺害してみようかと思ったが、そうするとSANSやUndyneの心象がよろしくないと考え直した。そもそもここまで赴いた理由がFriskを介さず一部のモンスター達と友好的に接してみたらどうかという話から端を発する。

 それを踏まえると、殺す事が本末転倒に思えてここに至るまでついに実行しなかった。

 

 それと、いくらかの発見があった。

 まずFriskとCharaでモンスター達の態度が違う。Torielがその最たる例であったが、それ以外のモンスター達もCharaの風貌に怯えたり、あるいは挑発してきたりもした。

 目の前のイヌッスみたいにFriskの真似をするだけで懐柔出来たヤツもいるにはいるが、1から10まで同じ台詞・反応を示してくれるわけではない。

(気をつけて! そのコイヌちゃんなんだか性格の悪いヤツに感じるサ!!)

 という眼差しで警戒を促しているイヌッサ。とりあえず見せつけるようにイヌッスを撫で続ける事で仕返ししておいた。

 

「ヘンなイヌ! サンキュッス!」

(うちの亭主の方がいっぱい撫でてもらってたのサ……)

 ぶんぶんと手を振るイヌッスと、棒切れを投げ遊んでもらう事で少し機嫌を直したイヌッサ。二体の見送りを背に、Charaは森の奥へ進んでいく。

 もう一つはFriskとCharaはやはり違う存在だという事だ。Friskは愛嬌のあるニンゲンとして振る舞う事が多くあったが、Charaはそれを真似て取り繕うのが精一杯だ。

 しかし、それで「自分がFriskより劣っている」とも思わない。Friskの振る舞いはAsrielの事もふまえて評価するが、それだけの話だ。リセットされ続ける世界で友情を築く事など何になる。

 そんな事を考えながら○✕の床が描かれたパズルのエリアへと到達する。

「ニンゲン!」

 その場にいたパズルの作成者……もといPapyrusが目をキラキラとさせて話しかけてくる。Charaは少し苦笑いしつつ、彼の衣服に視線を落とした。

 ……なんだろう。『ジュウニヒトエ』というヤツか? 

 他の住民から借りたコートだかガーディガンだかの上着を何重にも着込み、手袋、マフラー、イヤーマフ、ブーツ着用。おまけにニット帽までかぶった完全防備の格好。

「ニェッヘッヘ、オレさまのファッションに見とれたか!?」

「ダサいヤツめ」

「ニンゲン! オレさまに負けたからといって、そんなに自分を貶す事はないぞ!」

 相手のファッションに困惑しながらも正直な感想を放ってやると、Papyrusは満足げに頷いている。

「お前のカッコウは、ダサくなんかない。しょうじきイケてる。……だがしかし!! オシャレならオレさまだって負けてはいないぞ!!」

 Papyrusはそう叫ぶと、勢いよくバッと両腕を広げた。風にあおられて、何重にも着込んだ上着が虹色になってなびいている。それはさしづめ、雪景色に浮かぶオーロラのように……

 

*だからどうした。

 

「いや、まぁ、そうだね」

 困ったぞ。もしかしたらSANS相手以上に調子が合わせ辛いかもしれない。

 Charaは心の中でそんな事を思い悩む。Papyrusの振る舞いに不快感といったものは感じないが、ノリについていけるかといえばついていけない。Charaの性格からしてついていけたら大事なものを失う気がする。

(……Friskへの考え方を撤回すべきか)

 思い返せばAsrielの事を抜きにしても、FriskはCharaよりも他人と仲良くなるのが上手だった。そこにパートナーの意思がいくらあったのかは知るよしもないが、Charaが「誰彼と親密になる」というのはこのままでは難しいのではないか。

(…………)

 汚泥のような感情がハートの中に溜まっていくのを感じる。

 

『やっぱりCharaはCharaだよ。他人を騙して利用する事もいとわないその精神。幾度と繰り返してもう飽いたって素振りをしているけど、その本質はボクの知っているキミと何ら変わってない』

『君はね、自分すら騙してるんだよ。パートナーとやらに主導権を握られていたから不愉快そうに振る舞っていたけど、その実は他者を虐げる事を楽しんでいる』

 

 Asrielから言われた事を想起する。Friskと違って、自分は友達を作る事すらままならない。そう思うと途端に胸が苦しくなって、羨望とも嫉妬ともつかぬムカつきが溢れそうになった。

 ――その時。ぎゅっと手が握られる感触。

「ど、どうした。 そんな感動するほどオレさまのファッションがイカしてたか?」

 我にかえると、Papyrusが心配そうにこちらを見つめていた。Charaが表情を曇らせていた事から、泣き出しそうなのだと勘違いされたようだ。

 Torielの時と同じように、思いっきり泣いてみて相手の同情を誘ってみようかという思いがCharaの頭によぎった。

 お優しいPapyrusの事だ。それを導線に和解する事などは容易いだろう。だから、ここはショートカットのチャンスなのではないか。

(…………)

 だが、やめた。

 Charaは涙の代わりに微笑みを浮かべ、そしてPapyrusの手を握り返す。

「大丈夫。なんでもないから。心配してくれてアリガト」

 

 Papyrusと軽く交流を経てから○✕のパズルを解いているさなか、SANSが怪訝そうに話しかけてきた。

「こういっちゃなんだが、第一印象とはちょっと違うなお前さん」

「何が」

「もっと狡猾なヤツだと思った。仲良くするフリして、騙し討ちするとか」

 どうやら、CharaがPapyrusに対して、それ以外のモンスターにも敵対的な事をする気配がないのが不思議らしい。

 Charaは肩をすくめると、小さくため息をつく。

「そうした方が殺すのにためらいない?」

 その言葉にSANSは少し考えるように黙り込んで、しばらくして口を開く。

「いいや、どっちにしろPapyrusはお前さんを殺すような事はしないだろうな」

「まぁ、そういう子だろうね。彼は」

 パズルを解きながら会話を続ける。しばらく無言でパズルを解く時間が続いた。

 それから、またSANSは問いかけてくる。今度は少しだけ声のトーンを落として。

「お前、何か企んでるんじゃあるまいな?」

 その問いにCharaは一瞬動きを止める。トラウマからか、肩が少し震えた。

「私は――」

 言葉に詰まる。何を企んでいるかといえば、パートナーの呪縛からきた副産物(トラウマ)を拭いたい以外は特にない。

 しかし漠然と「その答えでは大した意味はない」という意思が、この世界を巡り廻ってなんとなく芽生え始めている。

「私は……」

 答えに思い悩んでいる様子をみて、SANSの顔色が険しくなった。

 

 SANSはCharaがどういう事を経てきたのか、うっすらと勘づいていた。

 何処か諦観としたような、投げやりとも思える態度。

『ある日、突然何の前触れもなく、何もかもがリセットされる』

 それを知りながら生きている者の表情。SANSとCharaはその点において似通っている。

 ただ違うのは、その道筋で「非道な事を愉しんでいた」かどうか。

 やろうと思えばモンスターを殺し尽くして、なお余りある力を持っているかもしれない。その素養が窺えるCharaを警戒するには十二分であろう。

 

「……私は、皆と仲良くなりたい」

 しかし、返ってきたのは意外な回答だった。SANSは思わず聞き返してしまう。

「仲良く? はは、それはモンスターの皆って事かい?」

「うん。それにアンタとも」

 その返答は予想外すぎて、さすがのSANSも呆気に取られた。Charaの意図が読めない。一体何故、自分なんかと。

「あー、そりゃ光栄だね。でもなんでなんだい?」

「……わからない」

 Charaは自分の胸元に手を当てて、そう答える。漠然とした考え。自分の心が分からないからこその困惑。それが表情にあらわれている。

 その瞳には悪意も敵意も浮かんでない。ただ純粋な疑問だけが映っている。まるで迷子の子供のように途方に暮れていて……。

 

「なんかやけに難しくないこのパズル?」

「そりゃ、お前さんの為にオイラが改造しておいたからな」

 ……疑問に映っていたり途方にくれていたのは地面の○✕パズルに対してだったかもしれない。

 

 ともかくとして、Charaは一旦パズルを中断してSANSの方に向き直ると、再びその胸の内を言葉にした。

「わからない。けれど皆と仲良くなれれば、私の中で何かが変わる気がする」

 その時のCharaがどんな心情なのかは、不明瞭だ。本人もよく理解していないのかもしれない。

(こいつは……本当によくわからんニンゲンだ)

 だが、Charaの言葉に嘘偽りは感じられない。その言葉は不思議と真実味を帯びていた。

「……そうかい。まぁせいぜい頑張りな」

 だから、SANSはそれ以上深く聞くことはしなかった。

 

「ニンゲン。解けないのか!? よぉし、この偉大なるパピルスさまが、このナゾをといてやる!」

「あー……うん……」

 

*頑張りな、とかいっておきながら難易度爆上げしてやがったあの骨。

 

 元々の問題は一筆描きの要領で✕のスイッチを○に書き換えればよかったと記憶しているが、SANSの手によって固まった雪が追加されていて幾分にも複雑さが増している。解答不可能なパズルではなさそうなだけに、放棄するのはどうにも癪だ。

「どう、パピルス。解けそう?」

「まったく心配には及ばん! ここを、こうすれば」

 Papyrusはデタラメに歩き回って、やがてマークを一色に染め上げた。Papyrusは「やった! とけた!」と大喜びする。

「……パピルス、✕マークじゃなくて○のマークに書き換えるんだよ」

 ✕✕✕✕……。

「ニャ! ハハ! ハハハ! オレさまとした事が。ルールを、間違えてしまった!」

 Charaは乾いた笑いを浮かべながら、ため息をつく。この行為に対する感情が怒りや殺意でないだけ成長したかもしれない。

 ……改めて、パズルのマークを見回す。一筆描きの要領で解くのは変わらないのだろうが、いかんせん難易度が段違いに高い。端に一つだけ✕が残ったりするところまでは解けたが、こういった問題はその残った一つを潰すのが命題だ。

「ニンゲン! ムズカシー問題だが、二人で、一緒に先に進もう! オレさまも最後まで付き合うぞ!」

「…………」

 

*ズルい事を思いついた。

 

 Charaは無言で端に✕を一つ残すところまでパズルを進めると、ちょいちょいと手招きする仕草をPapyrusに向ける。

「ん? なんだ?」

 その動作に誘われるように、PapyrusがCharaの元に近寄る。――カチリッ。

 ○○○○……。最後の✕マークをPapyrusが踏みしめた事で○マークに書き換わり、先に進む道が開かれる。

 それをみたPapyrusは驚愕し、そして歓喜して走り出した。

「すばらしい! 実に見事だ! オレさまの協力のおかげだ! わーい!」

「そうだね」

 一筆描きのパズルで『二筆目』を入れるのは酷いズルだとは理解しているが……別にいいじゃないか。Papyrusが喜んでくれてるんだし。

 

 少し先の道で様子を窺っていたSANSにすれ違い際にそんな視線を送ると、向こうもこちらの表情から察してくれたらしい。

 肩をすくめて、やれやれといった態度で小言をいってくる。

「まったく、やっぱり第一印象通りだったな」

「狡猾なヤツだ、って?」

「あぁ、そうとも。オイラは一人で解ける方法も用意しておいたんだぜ?」

 確かに、もう少し真面目に考えていたら正攻法で解決出来ていたかもしれない。

 だが、SANSの言い方からしてこれも想定内だったように思える。その証左に、ズルをしたのにSANSの口元が緩んでいるのが見えたからだ。

「そっか。でもごめんね。私は他人を騙して利用する事もいとわないニンゲンなんだ」

 Charaはニコリと笑みを浮かべてそう答える。それは今までも、これからも。その事実は揺らぐ事はない。

 自分は自分さ。アズ。




幕間-オワライチョウ
*オワライチョウが パタパタとんできた!

(……芸人か)
 Charaはエンカウントした相手がオワライチョウだと気づいて、微妙な顔を浮かべた。
 このモンスターとはノリが合わない。
「“こおり”ゃ どうもまいど!」
 会って早々、凍るように寒いギャグ。それをわざわざこちらに言い聞かせてくるのだから、Charaはどうにも苦手だ。
(……とりあえず。コイツと和解する方法はなんだったかな……)
 記憶の中でFriskがどう対応していたか思い出す。Friskを上手くトレースすれば、手酷い事にはならないはずだ。

[ネタをひろうする]
 
「れ、冷凍庫にいれとーこー……」

 …………。

*かぜが ないている。

「……それ、おもろいと思うてますのん?」
「…………」
[わらう]
*オワライチョウが おもしろいことを いうまえに わらった。

「な、そのブキミな顔やめーや!!」

[ヤジる]
*オワライチョウに やじを とばした。
[ヤジる]
*オワライチョウに 「おもんない」と つげた。
[ヤジる]
*オワライチョウに 「お前はいろんなネタに手を付けるが、ひとつだって面白いネタはない」と つげた。
[ヤジる]
*オワライチョウに 「誰もお前を愛さない」と つげた。

「………!!!!」

*オワライチョウは いいかえそうとした……が ショックで たちなおれない。

*YOU WIN!
*0EXPと、12ゴールドを獲得した!


 Friskとは随分違う手筈でオワライチョウを退けた気がしたが、「とりあえず殺さずに済んだのでまぁいいか」と先に進むCharaであった。
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