巡り廻った先の世界で   作:稗田之蛙

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ホテルスノーテル

 スノーフルの町についたCharaは、一目散にとある場所へ向かった。

「いらっしゃい。高級ホテルスノーテルへようこそ! 一晩80ゴールドです」

「はい」

 道中で色々な手段で手に入れたゴールドを受付のモンスターに手渡し、部屋の鍵を受け取る。

 部屋に入ると、Charaは荷物をベッドの上に置いて窓の外を見た。

 雪原が広がっており、そこから視線を上げると町の景色が見える。

「さて、雪景色も見納めかな」

 暖炉に火を入れながら、感慨深くCharaは呟く。

 Friskを通さずに地下世界を見回るのはいつぶりか。しばらくはこの雪も見られないだろう。

 これからはウォーターヘルやホットランドに向かう事になる。

 それを踏まえると、いつまでも防寒着で完全武装しておくのは得策ではない。

 持っていく衣服を選ぶついでに、一度ここで睡眠を取ってを休息につきたいところだが……

 

「……~~♪ ……~~♪」

 

 隣の部屋から聞こえるいびきが酷い。しかも器用にゲームオーバーの音色奏でてるからChara的に不快感が増す。

「あっつぅ……」

 不快感があるのは騒がしい音色のせいだけでなく、肌が汗ばんでいるのも原因だ。防寒着は通気性が悪いし、暖炉のおかげで部屋の温度も十分。

「一旦、シャワー浴びるか」

 衣服を乱暴に脱ぎ捨てたのち、バスルームに入って蛇口を捻る。

 冷たい水が身体に降り注ぎ、心地よい刺激となって全身を包む。

 しばらくすると水は温水に変わり、程良い温度の湯になってCharaの頭上から降り注いだ。

 

 ふと鏡に映っている自分を見つめる。パッとしない色をした赤毛の髪。血液を思わせるような気持ちの悪い真っ赤な瞳。

 そして……骨が浮き出た脇腹や足の部分には、うっすらと残る青黒いアザ。

「…………」

 自分の体を見ると、どうしてもFriskとくらべてしまう。なぜこんな見た目で生まれて来てしまったのかわからない。

 もし自分がもっと美人な人間だったなら、いやもっと普通だったら……違った人生を歩んでいたかもしれない。

 ……でも、それは考えても仕方のない事だ。自分は自分。今更容姿なんて変えられないし、変えるつもりもない。

 そんな事を考えつつ、シャンプーを手に取り頭を洗おうとした時、Charaは自分の背後にある気配に気づいた。

「アズ?」

 どうせ勝手に入ってきたんだろうと思いつつも、一応声をかけてみる。しかし返事はない。

 まぁ、アイツ以外に他人の入浴シーンに突入するデリカシーの無いモンスターなんていないだろう。

 Charaはそう考えて背後の気配を気にせず、自分の髪を洗い始める。

「昔みたいに背中洗ってやろうか? とはいっても、花のお前に背中があるか甚だ疑問だが……」

 小粋なジョークをいってみせても、相変わらず返事はない。ただ、こちらの様子を伺うように、何かが動く音がしただけだ。

「…………」

 暖かいシャワーを浴びているのに、背筋に冷たいものが走る。悪寒。

「アズ。冗談はよせ」

 再度呼びかけても、やはり返答はない。

 ゆっくりと振り返り、おそるおそる"何か"の正体を確認する。

 

 

 

 

「や、やぁ……」

 

 そこにいたのは花やお化けの類ではなく……トカゲに似たモンスターの子供であった。

 彼(彼女?)は、Charaにバレたとみるやいなや、大急ぎでその場から駆け出す。しかし、乱暴に脱ぎ捨ててあった衣服を踏んづけて前のめりに転倒。そのまま備え付けの花瓶をひっくり返す形で頭から被り、水まみれのぐっちょぐちょに成り果てた。

「あーあー、あー……」

 予想していたものとは違う惨状を目の前に、Charaは「どうしようこれ」と額を覆った。

 

「待って! 風呂なんて一人で入れるってば!!」

「うるさい。人の一張羅ずぶ濡れにしやがって」

 モンスターの子は制止を振り切り逃げようとするが、そこはCharaだ。力づくで簡単に押さえてみせて、仕返しとばかりにやたら乱暴にその子の体をスポンジで洗ってやる。

「ああああああああ! やめてぇぇぇぇえ!! 身体が削れてるゥゥゥゥゥ!!」

「バカ。削れてるのは垢だ垢。まったく、こういう子ってどーして背中に垢が溜まってるんだか」

 

『この毛玉、見た目白いクセに背中は汚ないな。洗ってやるからちょっとじっとしてろ』

『やめてCharaァァァ!! 毛が抜けちゃうううう!!!!』

 

「……ふっ」

 目の前の子供がAsrielと風呂に入った時と同じような調子だったので、Charaは思わず小さく笑いを漏らす。

「これでよし。で、どうして部屋に忍び込んできたんだ? まさか、私の体に興味があったわけでもあるまい」

 泡だらけになった子供を抱きかかえながら冗談まじりで訊ねる。すると、その小さな口をモゴモゴと動かして答えが返ってきた。

 

 時を遡る事、数十分。

「わて……お笑い芸人の道……挫折してしまいそうやねん…………」

 外から町に戻ってくるなり、しくしくと泣いて住民達に慰めてもらっているオワライチョウ。

 いや、まぁ、芸人の道を挫折しそうになったのは今回に限った事じゃなかったが。その理由を聞いて皆は驚愕した。

「何重にも衣服着込んだ、今まで見た事もない不審なヤツが……えろう怖い顔で眼前まで迫ってきて、わての事『お前のネタはつまらない』だの『みんなお前の事を嫌ってる』だの『殺されないだけマシと思えこの三流芸人』だの罵倒しくさって……挙げ句に金品を奪っていったんや……」

 その真に迫ったオワライチョウの語り口に、住民にも恐怖が伝搬したのか……スノーフルの町中ではCharaの噂がひそやかに囁かれていた……。

 

「で、お尋ね者をお縄にしてやったら皆のヒーローになれるかなーって」

「芸人……ッッッッッ!!」

 因果応報。前話で犯した罪が背筋を伝う。ボスモンスター以外だろうが幕間だろうが容赦なく自身の行動が反映されるのがこの地下世界。

 あの芸人どうしてやろうか、と考えていると腕の中のモンスターの子が怯えたように震えだす。それを見てCharaはため息を吐いた。

「私が悪かった」

 モンスターの子はCharaの思いがけない態度をみて目を丸くする。うんうんうなってから、自分に都合よく考えたのか。怯えた表情からうってかわって自慢げな顔つきになった。

「オレの説得術で改心したって事だな!」

「あー、うん。そうだね」

 ともかく自分が悪い事をしたのは事実だ。スノーフルを離れる前にオワライチョウを探し出して、素直に謝罪すべきだろう。

「……オワライチョウには酷い事をしたから、後でちゃんと謝るよ」

「ひどい事しない?」

「しない」

「へへ、じゅあ後でアイツのところへ案内してやるから。ちゃんとあやまれよ!」

「はいはい……」

 モンスターの子についた泡をシャワーで洗い流し、抱きかかえた形で湯船に浸かった。

 

 こうして一緒にお風呂入ってみると、なんだかアズとの時間を思い出す。

 あれはシャワーを浴びせると痩せた犬みたいになってたから、湯船だと抱き心地はイマイチだったなぁ。乾かした後だと凄いモフモフになるんだけど。

 それに比べて、爬虫類(?)のモンスターは水場だと抱き心地が独特だ。抱きしめれば跳ね返る弾力があって……ふわふわなモンスターとはまた一味ちがうこの感触がクセになる……。

 

「なぁ」

「?」

「そういう風に無遠慮に抱きしめられるとハズいんだけど」

「………………………」

「え、なんでそんな黙り込んでブキミな笑い顔すんだよ。オイ!? オイ!!!」

 

*君に最初から主導権があるとでも思っていたのか?

 

 その夜、ホテル『スノーテル』に幼き悲鳴が大きく響いた。

 あまりの絶叫に飛び起きた隣室の客を発信源に、「あれはきっと非業の死をとげたモンスターの怨念に違いない」と噂が立つ。この影響で泊まった部屋が曰くつきの部屋とされたのはこの時のChara達に知るよしもない。

 

 それとは別に、Charaはモンスターの子を抱きまくらにしていつもとくらべて少しだけ安眠を得れたという……。

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