巡り廻った先の世界で   作:稗田之蛙

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ルートファクター

 スノーフルの宿屋にて。その一室にニンゲンの子供とモンスターの子が一緒に寝ていた。

「……久々にマトモに寝た気がする」

 Charaは今日に限っては戦闘の復習、もとい悪夢を見る事はなかった。

 久しぶりにゆっくり眠れた事で、疲労が取れてスッキリした気分で目覚めた気がする。鏡で目元をみてみると、あれだけ酷かった目の隈もわずかに解消された。

 ベッドの方を見ると、しくしくと泣いているモンスターの子供がいる。

「……じゅんけつをけがされた……」

「お前、その言葉の意味分かってないだろ」

 

 ただ欲望に突っ走って抱きまくら代わりにした事は悪いとは思い、罪滅ぼしのつもりでホテルで朝ごはんは奢ってあげる事にした。

 高級ホテルと銘打っているだけに出てきたパエリアは、サフラン入りの黄色いごはん。本格的だ。

 近くの川で採れたであろう貝やエビを入れてたき込み、お肉、ピーマンなどでかざりつけた、なかなか豪華なごはん料理だ。

「うまそー……!」

「ぜんぶ食べていいよ。私は腹が膨れるだけで満足だし」

 といいつつCharaも甘いデザートは全部自分の手元に置いている。モンスターの子供は苦笑い。

 ともかく、Charaは気になる事があったのでモンスターの子供に尋ねる事にした。

「父さんと母さんは心配してないのかい」

 よく考えれば、このモンスターの子供には両親がいたはずだ。一晩居なくなって心配しているに違いない。……心配されたままさっきみたいに「純潔を汚された」とか嘯かれたらこの周回が詰む。

「フッ……アンタをお縄にかけようとして家を出た時に『キケンな任務に出る。探さないでくれ』って書き置きをちゃーんと残してきたぜ……」

「あぁ、うん。一旦今すぐ帰れ

 

 たんこぶを3つ頭にこさえて、再びCharaと合流したモンスターの子供。約束通り、二人はスノーフルから遺跡の方に戻る形でオワライチョウの住処へ向かう。

「なんやー、営業は無期限休止……って、げぇ!! あの時の不気味スマイル!?」

 Charaに対して妙なあだ名を付けているオワライチョウ。ツッコミたい気持ちもあるが、Charaは彼から奪った金銭を半ば強引に返却してから頭を下げる。

「すまなかった」

「…………は?」

 不気味スマイルに対して悪印象しか持ってなかったオワライチョウは素っ頓狂な顔をする。そうして、防寒具の完全防備を解いたCharaの素顔を訝しげに覗き込んだ。そして驚きの表情を浮かべる。

「……Chara?」

「そうだ」

 ……生前、オワライチョウとCharaはいくらかの巡り合せがあった。もっとも、お互いの評価は芳しくなかった。だから顔を見られたくないモンスターの一人だったのだが。

「い、一体何がどうなってるねん……お前さん、死んだはずじゃあ……」

 オワライチョウは、思い当たる事があったのか拝むような仕草でCharaに赦しを乞うた。

 

「スノーテルのお化けっちゅうんは、Charaの事だったんかいな!! じょ、成仏してくんまし!!!!」

「いやそのお化けこの子の事だから」

「えっ、オレ死んでたの!?」

 

 与太話どっとはらい。気を取り直して……

「なんで蘇ったのかは、私にだって分からない」

「む、むむむ……」

「だけど、オワライチョウ。これだけは言える。蘇ったのはキミと喧嘩したいからじゃない。……だから、昨日は戦いを避ける為に罵詈雑言を吐いて怯ませてすまなかった」

 オワライチョウはポカンとした顔でCharaを見つめる。Chara当人もその反応の意図が分からず、不思議そうに見つめ返す。

「お前、Charaやないな?」

「いやChara本人ですけど」

 Charaが当然のようにそう切り返しても、オワライチョウは鼻で笑うように受け答える。

「わてが知ってるCharaはそんな素直なヤツちゃいまんがな」

 ……確かに、とChara自身も思う。生前だったらオワライチョウの態度に皮肉で返して、それ以上は関わらなかったかもしれない。

 だがGルートを異常なほど繰り返して辟易している今のCharaには、モンスター相手に啀み合い続ける事は虚しく感じる。

「なんが目的かしらんが、故人のフリしてわてを騙そうとしてもなんの得もあらへんで!」

「な、なぁ。故人ってなんの事だよー……思ってたよりミステリーだったのか……?」

 

 …………。

 

「ライちゃん。お父ちゃんが嫌いでも家出したらダメだよ。Chill達が探し回るハメになるんだから」

 オワライチョウはCharaが自分のあだ名を呼んだの境に「ぶふぉっ」と咳込む。

「な、なんでそれしっとるんや!!」

「Chara本人だから。他の事も知ってるよ。たとえば酒場で大人達に怪談話を聞かされた後に、布団におね……」

「あーあーあーあーあーあー!!!!」

 耳を塞いで大声を上げるオワライチョウ。わけがわからず不安そうにするモンスターの子供。

「お、おい。酷い事しないって約束だろ……?」

 Charaは無言でモンスターの子の頭をぽんぽんと撫で、仕草で「心配しないで」と伝えてからオワライチョウと向き合う。

 しばらく経ってオワライチョウが落ち着いたところで、彼は観念したかのように口を開く。

「……しかたないやろ。笑いのセンスが違う……コメディアン性の違いってやつや!」

「…………」

 そして母親が居なくなって、なおさら父親との仲が悪くなった。Friskを通して知り得たオワライチョウの事情はそういうところだ。

「それで、なんや。わてが家に戻るよう説得してくれ、って誰かに頼まれたんか?」

「もう何回かヤジってやったらそうなるかもしれない」

「いやもうほんま勘弁してつかぁさい……」

 オワライチョウが本気でしょげている様子を見て、Charaはくすくすと笑う。ひとしきり笑ってから真剣な表情で告げる。

「冗談さ。でも、きちんと探してくれる人がいるのはキミが愛されている証左さ。だから昨日は『誰にも愛されてない』なんてヤジってごめんなさい」

 素直に謝られて、オワライチョウはまたポカンとした顔になる。そうして少しだけ考え込んでから、オワライチョウは言う。

「……ま、えぇわ。昨日の事は許したる。ただ、Charaにどういわれても家に帰って父ちゃんと仲直りとかせぇへんで!」

 オワライチョウの言い分にCharaは苦笑する。その点についてはこの時点でCharaから働きかけるのは野暮だろう。

(……とはいえこの芸人が父親と和解させられるかといえば……)

 

 一応、手段がないわけでもない。遥か前の周回でFriskがやり遂げていた事だ。

 亡くなったはずのオワライチョウの母親を連れて来ればそれは成し遂げられる。

 彼の母親は生きているのだ。ただ、他のモンスターと精神が結合した『アマルガム』という異常な状態で……。

 今その仔細を告げてもただの不謹慎な冗談としか受け取らないだろうし、もし信じてもらってもAlphysに対してオワライチョウが殴り込む形になりかねないが……。

 

「ライちゃん」

「ライちゃんいうのやめーや」

「オワライチョウ。もしお母さんに会えるなら、もう一度会いたかったりする?」

 Charaの唐突な質問に、オワライチョウは訝しげな顔をする。ただ挑発の類でない事だけは察したようで、その問いに短く言葉を返した。

「……せやな」

 

 結局、その場の話はCharaとオワライチョウが和解するだけに留めた。

「……ねぇ、Charaだっけ? あのさ」

 スノーフルの町に戻る際、一部始終を聞いていたモンスターの子がおそるおそるCharaに声をかけてきた。

 その様子はまるで目の前に幽霊がいるような幼い態度で凄く怯えていて、Charaはそれが新鮮に感じて微笑ましく思った。

「よかったな、強盗じゃなくて幽霊を捕まえたって町の皆やアンダインに自慢出来るぞ」

 Charaのからかいに対して、モンスターの子は慌てて首を横に振る。その仕草にCharaは思わず吹き出しそうになったが、そうすると泣かせてしまいそうなので堪えた。

「ち、違うよ! オワライチョウにちゃんと謝ったんだからお縄にかけようなんて考えてないさ! オレが聞きたいのは……Charaは死んでから蘇ったって本当なの?」

「……そうだよ」

 肯定した後、Charaは自分の胸に手を当てる。

 自分は一度死んだ。この世で肉体を失った後、Gルートの先で力に目覚めて死という概念を超越した存在になった。はずだ。

「でもなんで蘇ったかは、私自身分からないんだ」

 モンスターの子の質問に答えた後、自分が何故蘇ったのか気になった。

 だがどれだけ記憶を辿っても思い当たる節はない。自分の力や今まで得た知識の範疇外の何かが、自分とFriskを取り替えたとしか思えない。

 

『……に、異常な数値を観測しました。エラーコード#……』

 

「…………」

 少し前に聞いた電話の内容が頭の隅っこで引っかかったものの、それが関連しているのか確証は得られない。

 Charaがそんな事を考え込んでいると、モンスターの子供が不思議そうに顔を覗き込んでいた。

「で、でもさ。誰かを呪い殺す為に蘇ってきたわけじゃあないんだろ? はは……」

「それは、まぁそうだけれど」

「なら、怖がらないようにする。蘇ったヤツが知り合いにいるって自慢出来るしな!」

 モンスターの子供の笑顔を見て、Charaは自然と口元を緩めた。

「ああ、それいいね。是非とも友達に紹介してくれ」

 そう言って笑い合う二人。ひとしきり笑い合ってから、Charaはモンスターの子に打ち明けた。

「私はこのまま都へ向かおうと思う」

「へぇ、Asgore王に頼んでロイヤルガードになるの?」

「それもいいな。死んでも蘇るヤツが騎士になって平和を取り仕切るとなったら色々と便利だろう?」

 冗談か冗談じゃないのか分からない切り返しで受け答えながら、Charaはホットランドの方向を眺める。

「たとえそれが一瞬だけだとしても、自分自身の目で平和になった世の中を眺めてみるのも悪くない」

 その為には、オワライチョウの母親も連れ戻そう。

 

 ――目指すはしんじつのラボ。Pルートだ。

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