巡り廻った先の世界で   作:稗田之蛙

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Chapter3:ウォーターフェルエリア
どんな衣装?


「や、やぁ。アンダイン。今日の報告をしにきたぞ! えっと、例の人間についてだが……」

 人間目撃の報せを受け、ウォーターフェルで待ち構えるアンダイン。その鋭い眼光は、この水辺の冷たい空気よりも冷たく研ぎ澄まされていた。

「お前、ちゃんと戦ったか?」

 そんなアンダインの声に、事態の報告にきたパピルスは困ったような表情を見せる。

「あ、あぁ!! もちろんだとも!! それはもう果敢に!! ……でも、結局は……」

 そう釈明するパピルスを前に、アンダインは一瞬だけ眉を寄せた。

「ではアタシが直接ヤツのソウルを奪いにいく」

 アンダインはそう言うと、パピルスの胸の奥が跳ね上がった。

 彼女の気持ちを察したパピルスはすぐに言葉を続ける。

「でもアンダイン! そこまでしなくても! だって、あの人間は――」

 だがアンダインはそれを遮るように睨み付ける。

 その瞳は、静かな怒りの色に染まっていた。それに気圧されて一歩、二歩とパピルスは引き下がる。

「……わかった。オレさまも、出来る限り協力はする」

 そういって、パピルスはその場から一目散に退散した。

 アンダインは押し黙ったままその背を見送る。そして、やがて諦観とした吐息と共に俯いた。

 彼女はこうなる事を薄々理解はしていた。パピルスは優しすぎる。直接トドメは刺せまい。

 ならば自分が代わりに、人間のソウルを奪い取る他ない。

 決意を固め、顔を上げたアンダインの耳元に、水草が不自然にガサガサと揺れ動く音を聞いた。

 音の方に振り向いた。水草の間から……赤い目が光った。人間だ。

「…………」

 アンダインは槍を手に取る。柄を握り締め、今すぐにでも投げつけようかとも思った。

 ……いや、しかし。人間が潜んでいるあの水草は学術的に……保護されている種だ。

 槍をぶん投げれば、その射線上の水草が薙ぎ払われようか。そう考えたアンダインは思い留まり、静かに槍を下ろす。そしてその場から、一旦退散した。

 

 それからしばらくして、二体の子供がその水草から這い出てくる。キャラと、モンスターの子供だ。

「み、みたか? アンダインのあの目! サイッコーだよな!!」

 感激した様子で、モンスターの子供は目を輝かせている。

「おまえ、すっっっっっっっごく羨ましいぜ!! どうやったらそんなに気に入ってもらえるんだ!?」

 キャラはモンスターの子供の大声に軽く耳を塞ぎながら、テキトーな表情で答えた。

「精一杯オシャレしたから」

 相変わらず、キャラはパピルスに着せ替えられたゴシックなドレスを着飾っている。正直、スカートは穿き慣れてないから歩き難い。

 キャラの返答を聞いたモンスターの子供は興奮した面持ちで叫んだ。

「じゃあ、オレも同じ格好すればアンダインにあぁいう目で見つめられるかな!?」

「はぁ?」

 キャラは面倒臭そうな目でモンスターの子供の方を見た。キャラは品定めするようにジロジロと見つめる。

「……まぁ、私より似合うんじゃないか? アンダインの気も惹けるだろうさ」

 キャラの適当な評価を聞いて、モンスターの子供はパァッと表情を明るくさせた。

「なぁ! その衣装くれよ! 衣装代は払うからさぁ!」

 そういって、モンスターの子供はスカートを軽く引っ張った。キャラの白くて細い太股が露わになる。

「っ!!」

 想定外の事態に、キャラは顔を真っ赤にしてモンスターの子供の方に振り返る。

 その直後、ウォーターフェルに「バシーン!」と小気味の良い音が鳴り響いた。

 

「もしもし! こちらパピルス!」

 キャラがウォーターフェルを進んでいる内に携帯電話が鳴った。相手はパピルスだ。

 これは、まぁ、今着ている服装を聞かれる流れだろう。

 キャラは、頬を押さえてぐすぐすと泣いているモンスターの子供をちらりと見てから、ため息をついてパピルスとの会話を続ける。

「お友達に私の服装でも聞かれたか」

「お、おぉ! そうだ!! えっと……その……まだ、オレさまとのペアルック、なのか?」

 やたら女々しい声で訊ねてくる。キャラは少しばかり言葉が詰まった。

「いや、着てない」

 呆れからか、とっさにそう答えてしまった。

 電話の向こうから「がびーん」という音が聞こえてきそうなくらい、パピルスはショックを受けた。しかし。

「……いや、待てよ。そうか! オレさまと友達だとバレると、厄介だ! ニンゲンは機転が利くな!」

 どう足掻いてもコイツはポジティブに受け取るのか。キャラはまたもため息をつく。

「じゃあまたな!」

 パピルスはそういってガチャ切り。

 キャラは携帯電話を閉じる。それからしばらく歩いて、まだ泣いているモンスターの子供へと向き直った。

「殴ったのは悪かった。だけど、スカート捲るお前も悪いんだぞ」

 そう言って、キャラはモンスターの子供の頭を撫でる。

 涙目のまま、モンスターの子供はキャラを見上げた。

「だって、母ちゃんのげんこつよりずっとずっと痛いんだぜオマエのビンタ……」

 モンスターの子供はそう呟いて、またグスグスと泣き始めた。

 モンスターの子供の頬は赤々と腫れている。一応、キャラとしては死なないように手加減はしたつもりだったが。

「……私は、スカートを捲られて脚や下着を見られるのが嫌なんだ。分かるか?」

 ウォーターフェルを進める脚を止め、何がいけなかったのか噛み砕いて相手に諭す。

 素っ裸のモンスター相手に理解を求めても詮無き事かもしれないが……一応モンスターにも被服の文化があるので、それくらいはモンスターの子供も理解したようだ。

「ごめん……」

 モンスターの子供は俯いたまま謝罪する。キャラはそれを見て、また小さく吐息をついた。

 フリスクを通してこういう態度を見てこなかっただけに、対処に困る。

「まぁ、私の痩せ細った脚や色気の無い下着を見て喜ぶヤツなどそうそう居ないだろうがな」

 スカートの両端を軽く摘まんで、ギリギリのところを見せながらおどけてみせた。ところが、ぶんぶんとモンスターの子供は首を横に振る。

 その様子に、キャラはきょとんとした。

 キャラの予想に反して、モンスターの子供はキャラの太股を見ながら顔を赤くしている。

「はしたないぜ。そういうの」

 ……見くびってた相手に、ド正論を吐かれた。キャラは固まり、未だモンスターの子供の視線が自分の脚に注がれている事に気がついて、顔がみるみると紅潮していく。

「ヘンタイ!!!」

「え、理不じっ」

 パシーン、と。もう一度ウォーターフェルに小気味の良い音が鳴り響いた。




【後書き】
 だいぶ間が空きました。こういう短い形でも、投稿は続けていこうかと思います。
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