トレセン学園に配属になったカウンセラーです。 作:七宮 梅雨
日本ウマ娘トレーニングセンター学園、通称トレセン学園。
ウマ娘が通う学園の中では日本最高峰のレベルであり、エリート中のエリートのウマ娘しか門を潜ることが許された中高一貫校である。
レベルが高い上に、生徒数が2000人あまりいるが、その中で活躍できるウマ娘はほんのひと握り。地方では敵無しだったウマ娘がトレセン学園に入学し、自分が井の中の蛙だと思い知り、数々の未体験の敗北による挫折ゆえに学園を去るウマ娘も少なくはない
レースで勝てば勝つほど、知名度は上がり誰もが知りうるウマ娘が誕生する。例を挙げるとするならば、『皇帝』として名を広めるシンボリルドルフ辺りだろうか。
しかし、そんな『皇帝』も一般からしたら、高校生。思春期真っ只中の女の子なのだ。秘めてる悩みは1つや2つはある。それは彼女だけでなく、全生徒にいえる。
そんな中、数年前からトレセン学園はある制度を取り入れた。
それは、専属のカウンセラーを所属させることであった。
この役割は一般からしたら、トレーナーが担うものだろう。しかし、いくらウマ娘のことを熟知してるトレーナーだとしても限度がある。だからこそ、人の悩みを聞くプロであるカウンセラーの存在が大いに役立つ。実際に、カウンセラーによるカウンセリングを取り入れたことによって、ウマ娘達の活発度は以前に比べて高まりつつあった。
そして、これから先、始まるのはトレセン学園に配属された例のカウンセラーによる物語だ。
「帰りてぇ……」
♦♦♦♦♦
人の話を聞くだけで金が貰える?え、楽じゃね?と思ってカウンセラーになった俺だが、後悔してる。あの日、これを夢に決めた高校時代の自分を殴ってやりたい気持ちだ。
悩みや精神的疾患などは、一般的な病気と違って根本的な治療法というものは無い。だからこそ、話を傾聴して、それに見合った声掛けや気分を紛らす薬を出すしかない。ぶっちゃけた話、先が見えないんだよね。だって、これは気持ちの問題やもん。
数年前から所属になったトレセン学園では、多くのウマ娘たちの話を傾聴してきた。もちろん、話の内容としてはレースに勝てないなどの悩みだ。当然、俺はトレーナーの資格はないから、彼女たちが勝てる方法などは教えてやれない。せめてやれるとしたら、話を聞くか、俺の持ち前のトークで彼女たちを笑わせるぐらいだ。でも、これのおかげで立ち直れたっていう話も聞くから悪い気はしない。
しかし、中にはアホみたいな悩みをふっかけるやつもいる。てか、最近はそっちの方が多い気がする。追い出したいところではあるが、傾聴することが仕事である俺はそんなことしたら本末転倒。我慢して聞いてる。たまーに、限界突破して窓から追い出すこともあるけれども。
さてさて、そろそろ生徒が来る時間だ。基本的に平日の放課後(〜19:00)に俺がいる『相談室』が入室可能となり、悩みを持つウマ娘たちがやって来る。
今日は一体、誰が来るのやら……。
ーーーガラガラ
「やっほー!!カウンセラー!遊びに来たよー」
時間になった瞬間に扉が開き、1人のウマ娘が元気いっぱいに入ってくる。彼女はトウカイテイオー。名前通り『帝王』と周りから呼ばれるほどの実力を持つウマ娘だ。天真爛漫なところがあり、舐め腐った態度をとることが多い。しかも、今、遊びに来たって普通に言いやがった。
「遊びに来ただけなら帰ってくれない?普通に営業妨害なんだけど。」
「なんだとー!このトウカイテイオー様がわざわざ来てやったっていうのにー!」
うっざ。シンプルにその言葉しか出てこない。その白い前髪ちぎってやろうかな?
「お前みたいに無意味に遊びにくる奴らのせいで本当に悩みがある子達が来れねぇんだよ。分かれ。分かったなら、さっさと回れ右してトレーニング行ってこい。」
「ま、待ってよぉー。ちゃんと悩みあって来たんだから〜!!」
俺は彼女の白い前髪を掴みながら少し威圧的に言うと、トウカイテイオーは少し涙目で答える。いや、さっき遊びに来たって宣言してたやん。
「ったく。最初からそう言えばいいのに。んで、悩みっていうのは?」
「なんかね、最近レースに対する意欲が湧かないんだ。」
「ほぅ。それは珍しい。ちなみに、いつから?」
「有馬記念が終わって少し経ったぐらいかな。練習内容とかに不満はないんだけど………、何か前ほどに集中してトレーニングとかが出来なくなっちゃって。」
有馬記念。それは誰もが記憶の1ページに深く刻み込まれたレースだ。
こいつはこう見えて、過去に1年間のうちに3回もの骨折を経験してきた。1度は引退を視野に入れるほど追い込まれたが、それでも立ち上がり、復帰一発目の有馬記念のレースで、こいつは当時最強と呼ばれてたビワハヤヒデに勝利した。まさに奇跡の復活劇を果たしたのだった。
それから、トウカイテイオーの話を聞いて、俺がたどり着いた答えはーーー
「まぁ、燃え尽き症候群だろうな。」
「燃え尽き症候群?」
燃え尽き症候群、別名バーンアウトと呼ばれるもので、自分が定めていた目標が達成された途端に、蓄えていたやる気の方向性が失うことによってモチベーションが下がることをいう。
「お前はあの有馬記念はあいつのこともあって、どうしても勝たなければいけなかった。だからこそ、死に物狂いでトレーニングに励んでいたと思う。そして、お前は見事に勝った。勝ってしまったからこそ、お前はもう頑張ろうとする目的を見失ってしまった。それがモチベーションが低い原因だと俺は思う。」
「そういうことか〜……」
「1番てっとり早いのは、次出るレースをトレーナーと話し合って決めるとかして、次の目標を決めることだな。そしたら、今よりかはモチベーションは高まるだろ。」
まぁ、あの目標ほどのモチベーションの高まりは望めないと思うが、あるかないかと言われたらあった方が少しは高まることに繋がる。
「分かったよ、カウンセラー!トレーナーと話し合って目標を決めることにするよ!!」
「おう、そうしてくれや」
よし、これで一件落着だな。ようやく、こいつを追い出すことがーーー
「ねぇねぇ、喉が乾いたんだけど、はちみーとかないの?」
「ぶっ飛ばされてぇのか、てめぇは。」
♦♦♦♦♦
カウンセラーとの出会いは、3回目の骨折で挫折し、引退を決めて遊びに惚けていた時に学園のチラシを見かけて興味本位で足を運んだのがきっかけだった。ただの時間つぶしとしてはちょうど良かった。
第一印象はつまらない人生を歩んできたんだろうな、と思わせるぐらいまでに覇気のない奴だと思った。だからか、歳は20代前半のくせに、年老いて見えた。
最初はただカウンセラーの質問に私が答えていくだけだった。好きな食べ物や趣味とか、本当に何も捻りのないつまらないやり取りだった。
だけど………
"……まだ走りたい"
この言葉を出した瞬間にハッとした。いつの間にかボクは自分の秘めたる想いを口にしていた。どうやら、ボクはカウンセラーの言葉の誘導にまんまと引っかかっていたと気付いた。
そして、その言葉が出た途端に瞳からポタポタと涙が流れ、太ももへと落ちていく。
やっぱり、ボクはまだどこかでレースに走りたい、諦めたくないという気持ちがあったんだと思った。
そして、その姿を見てカウンセラーはある物を取り出して私に差し出す。涙を拭き取ったボクはそれを受け取ると、それはよく見る音楽プレイヤーだった。
「音楽プレイヤー?なんで?」
「これにはな、今のお前の運命を変える名曲が入ってる。」
「運命を………変える名曲。」
思わず固唾を飲む。運命を変えるほどの名曲なんて聞いた事がない。数々の名曲を聞いてるが、それほどのものなんてボクは知らなかった。
「それは一体、なんなの?」
「立ち上がリーヨだ。」
「いや、それイナズマイレブンのOPじゃん!?」
予想を遥かに超える曲名が出てきた瞬間にボクら思わず声を上げる。
「ばっか、お前。俺の同世代でどれほどイナイレのOPに助けられたと思ってんだよ。挫折したときはイナイレのOP聞いときゃ、なんとかなんだよ。だから、お前は今日からTPKの曲を永遠に聞くんだ。」
「台無しだよ!返せ!!ボクのさっきの涙と期待を!!」
「はは、そんだけクソガキ並に元気よくツッコめたらもう大丈夫だろ。」
あ、曲はちゃんと聞けよ。と最後に意地悪そうに笑ったあの表情は未だに忘れられない。
それからは引退ライブでの出来事とかで本格的に引退をやめてレースで走ることを決めたんだけど、やっぱりこのカウンセラーとのやり取りがきっかけになってたと思う。
ボクか有馬記念に勝った時、カウンセラーが泣いてたっていうのはボク、知ってるんだからね。普段は無愛想でも、誰よりウマ娘のことを考えてくれてるっていうのは知ってるから。
カウンセラー、ありがとう。ボクを立ち上がらせるきっかけをくれて。話を聞いてくれて。いつも、助けてくれて。
本当はね。悩みはあるんだ。話を聞くプロの君にすら言いたくても言えない悩みが。
ボク、トウカイテイオーはね………
君のせいでイナイレのOPにハマってしまったということに。それのせいで、自分の曲にラップが入りつつあるという悩みがね!!
ネタください