魔剣異聞録~The Legendary Dark Slayer/Zero   作:月に吠えるもの

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Mission 67 <魔法学院の危機> 後編

「何やってんだよ、マリコルヌ」

「だって、お腹空いたんだよ~」

無人となったアルヴィーズの食堂の一角で、マリコルヌはテーブルに並ぶ昼餐に手をつけていた。

「呑気に食べてる場合じゃないだろう? 上は大変みたいなんだから」

「まあまあ。少しくらい腹ごしらえはしないとね」

ギムリとレイナールに咎められても、本人はどこ吹く風とばかりにひょいとパンを手にしてもぐもぐと頬張り、スープを啜る。

二人は呆れ果てて溜め息をついてしまう。

 

二階のダンスホールへ続く階段は二つあり、その片側には給仕達が詰めかけている。

ギーシュとモデウスは反対側のもう一つの階段の入口からそっと顔を出して様子を窺っていた。

「モ、モデウス君。今こそ僕らでみんなをお助けするべきじゃ……?」

「人質の数が多すぎるな。君もみんなを怪我はさせたくないだろう?」

激しく狼狽えるギーシュに対し、モデウスは冷静なままだった。

確かにあれだけの数がいる中でブラッディパレスの時のように乱闘を繰り広げたら、大惨事になりかねない。

(モンモランシーは大丈夫かな……)

ここからでは怯えている群衆の中にギーシュの想い人の姿が見えない。

幸い、今の所誰も傷つけられている様子はないようだがこれからあのメイジ達が何をするのかと思うと、不安で仕方がない。

「ひとまず戻ろう」

やむを得ずモデウスに従い、敵に気付かれないようにそっと引き返していく。

「ギーシュ、ギーシュ」

「どうしたんだね?」

食堂まで降りてきたギーシュ達の元にレイナールがやってくる。

「あっち。ほら」

「あ……」

レイナールが指差した先。食堂の入口に向かうマリコルヌとギムリの姿があった。

ギーシュが注目したのはもちろん二人ではなく、入口の陰から顔だけを出して覗き込んでいる二人の男女である。

 

「コルベール先生。エレオノール先生も……」

学院の教師達の姿にギーシュらは安堵しながら歩み寄る。

「一体何事なんだね?」

「これはどういうことなの? モデウス」

教師は二人とも眼鏡を整えながら問いただす。エレオノールはいつにも増して厳しい視線で一行の顔を見据えていた。

事情を説明しようとモデウスは前に進み出るが……。

 

「諸君。我らは神聖アルビオン共和国の盟主、オリバー・クロムウェルより遣わされた特使だ」

上の階から微かに響いてくる男の声にマリコルヌ、ギムリ、レイナールの三人は唖然と立ち尽くしていた。

コルベールも上を見上げたまま苦い顔を浮かべだす。

だがエレオノールだけはモデウスを睨みつけて詰め寄った。

「モデウス……! あなたがいながら何てザマなの……!? 何のためにあなたをここに残しておいたというの……!?」

声を押し殺しながらも腰に両手を当てるエレオノールはモデウスの眼前まで顔を寄せたまま叱責する。

「申し訳ありません」

それでも顔色一つ変えないモデウスだが、言い訳は一切せずに目を伏せていた。

 

「僕達も悪かったんですよ、エレオノール先生。ずっとあのブラッディパレスに夢中になってて、彼には付き合ってもらっちゃって……」

レイナールが執り成そうとするが、エレオノールは今度は四人の方へ激情の矛先を向けてくる。

「いいこと? モデウスは私の従者なのよ。彼には本来果たすべき仕事があるのです。それをあなた達の都合で邪魔をするんじゃありません……!」

(やっぱりルイズのお姉さんは怖いな~……)

真ん中の姉であるカトレアが容姿でルイズに似ていて、こちらは気の強い性格が似ているどころかそれ以上に苛烈だ。

さすがのギーシュもここまで厳しい女性と相手をするのは苦手だった。

他の三人も同様のようで縮こまってしまっている。

「叱るのは後回しだよ、エレオノール君。ともかく、君達だけでも無事で良かった」

コルベールに諫められたことでようやくエレオノールは気を静めだし、一息をついた。

 

正直な所、レコン・キスタの刺客がこんな真昼間に堂々とこの魔法学院を襲撃してくるなどエレオノールも予想外だったのだ。

トリステイン国内は昼夜を問わず警戒が厳重になっているのもあり、もし仕掛けてくるなら人目につかない夜を狙ってくると思って、この学院も特に夜の監視を強くしていた。

当直の教師達は宝物庫から取り出した眠りの鐘を持つようにしており、万が一の時にはそれで侵入者を眠らせてしまうこともできるはずだった。

しかし、予想は大いに外れてしまった。敵は夜より目立つはずの昼間を選んで襲撃してきたのだ。

 

「それで、どうするんですか。コルベール先生」

「早くみんなを助けないと」

一行は食堂から厨房へと移動すると、そこで改めて作戦を練ることにした。

「う~む……しかし、アルビオンからの刺客となると一筋縄ではいかないだろうからな……」

「人質の数も多すぎるんですよ。迂闊に仕掛けたら、生徒の子達を怪我させかねません」

モデウスの言葉にコルベールは余計に困ったように顔を顰めだす。

「まったく……面倒なことになったわね」

エレオノールもどうしたものかと頭を抱えて考え込んでいた。

 

『おお、ようやく戻ってきおったか。コルベール君にエレオノール君。待っておったぞい』

突然、どこからともなく聞こえだした声に一行はきょろきょろと辺りを見回す。

今のは間違いなく学院長オスマンの声だったが、本人の姿はどこにもない。

というより、上のホールで同じく人質になっているのをギーシュは目にしている。

『ここじゃ、ここじゃ』

声はすぐ近く、足元から聞こえている。

モデウスだけがそこに視線を落としており、エレオノール達も一斉に同じ場所に注目した。

床の上には一匹の小さなハツカネズミが立っており、一行を見上げていた。

『やれやれ……君達が無事で何よりじゃ。こっちは今、えらいことになっておってのう』

「その声……学院長先生?」

「な、何で学院長先生の使い魔が言葉を……」

オスマンの使い魔、モートソグニルであるのは明らかだが、人語ばかりかオスマン自身の声を発していることにギーシュ達は驚き目を丸くする。

『ホッホ、使い魔と付き合いが長くなると、こんなこともできるようになるんじゃぞい? 使い魔は主人の目となり耳となる……当然、口にものう』

「は、はあ……」

『そういえば、エレオノール君の使い魔は確かフクロウじゃったな。どうかね? あの真面目なフクロウ君は元気にしとるのかね?』

エレオノールもかつてこの学院に在学していた時に使い魔召喚の儀式を行っており、その時に召喚されたのが今もラ・ヴァリエールの城に残しているトゥルーカスだった。

メイジの使い魔となった動物は契約の影響で時に様々な能力を与えられて時には人語を話すことができるようになるものもおり、トゥルーカスは召喚した際に言葉を話せるようになったのだ。

オスマンの使い魔はあくまでオスマンの意思を中継しているに過ぎないが、連絡役としてはこの上なく便利な能力だった。

 

「それより学院長。カトレアは?」

『ああ、大丈夫じゃよ。フォンティーヌ先生も女王陛下も無事じゃて』

オスマンは一行に現在の状況を伝えていった。

それによると、たった今お忍びで生徒達に紛れていたアンリエッタ女王が正体を明かしてレコン・キスタのメイジと交渉しようとしているらしい。

「じょ、女王陛下がいらっしゃったなんて……」

「こ、これは本当にえらいことになったぞ……」

ギーシュ達は自分達の主君がお忍びで訪問していたことに愕然としていた。

しかも学友達と同じく窮地に陥っていることも知ってしまい、より困惑してしまう。

「が、学院長先生。その……モンモランシーは?」

『心配せんでええよ。生徒達は誰も傷つけられてはおらん。ワシらと違って、連中には大切な人質じゃからな』

オスマンの言葉にギーシュはホッと安堵の溜め息を零すが、すぐに堰を切ったように息巻いていた。

「だったら、早くみんなを助けなければ! 先生達やモデウス君だっているし、みんなで立ち向かえば……!」

『焦ってはいかんよ。ミスタ・グラモン。連中はアンドバリの指輪の力で蘇った生ける屍じゃ。力押しじゃ勝てやせん』

「う……」

アンドバリの指輪の話もスパーダから聞いていたので、本物の生ける屍が相手と知ると尻込みしてしまう。

一応、炎が弱点だということも教えられていたのだが、火ならともかく土のメイジであるギーシュでは簡単に人を燃やすほど強力な炎は作り出せない。

錬金で油を作って、それを着火させるというなら話は別だが。

 

「アンドバリの指輪か……」

「確か水魔法の力を消すには、火の魔法が一番でしたわね」

ちらりとエレオノールは顎に手を添えるコルベールを見やった。

学院でも随一の火の使い手である彼なら、生ける屍達を動かす水の力を容易く掻き消すことができるだろう。

話を聞いてギーシュも顔を輝かせるが……。

『待て待てい。コルベール君の魔法は確かに強力じゃが、敵はそれなりに数がいるんじゃ。一撃で奴らを片付けんと、生徒達も怪我するぞい。かと言って、このホールで連中をいっぺんに燃やしてみい? どうなるかは分かるじゃろう』

その件はコルベール達でも難儀な問題だった。人質がいる以上、強力な魔法を使うと巻き添えにしてしまう。

「では、どうするんです? 学院長」

『そこでじゃ。君達にぜひやってもらいたいことがある』

モートソグニルは椅子を伝ってテーブルの上に飛び乗りだした。

『こやつら、スパーダ君の言う通りアンドバリの指輪で蘇ったとすれば、眠りの鐘も効かんじゃろうな。やれやれ、準備をしとったのに無駄になってしもうたわい』

オスマンとしては宝物庫から事前に取り出していた秘宝を当直室に置いて万が一、刺客が襲撃しても対処できるように備えていたのである。

だが今回は相手が悪すぎたようだ。全員残念そうに渋い顔をする。

 

『なぁに。まだ手はあるわい。奴らはワシら人間にはない弱点がちゃーんとあるからのう』

「弱点?」

『うむ。……というわけで、こっちは時間稼ぎをしとくから君達は宝物庫に行って来て欲しいんじゃ。あそこにはまだ奴らを倒せるマジックアイテムがある。エレオノール君、鍵の方はよろしく頼むぞ』

説明をしている暇はないとばかりに迅速にオスマンは指示を下していく。

ギーシュ達には何が何やらさっぱりだが、ここは素直に従った方が良いとすぐに理解して詮索はしなかった。

『ああ、そうじゃ。もう一つ……』

「まだ何か?」

『生徒達の使い魔も気付いとるんじゃが……どうやら、外に伏兵が潜んでおるらしい』

「ふ、伏兵?」

『うむ。学院の屋根の上で風の魔法を使って姿を消しておるようじゃ。しかも人間の気配を感じないらしい。恐らくそやつも……』

コルベールとエレオノールはハッとしながら顔を見合わせた。

自分達は竜籠でこの学院に戻ってくる寸前に突如襲撃された。

その攻撃は学院から飛んできたのだが、敵の姿は見えなかったのである。

オスマンの言う伏兵とやらが潜んでいるのは明らかだった。

無論、ホールの刺客達と同じようにアンドバリの指輪で偽りの命を与えられた死人であろうことも想像できる。

 

『コルベール君にはその伏兵をお願いしたいんじゃが……』

「私がですか?」

『うむ。モデウス君と一緒の方が良かろう。エレオノール君、少しの間彼を借りるが構わんかね?』

ずっと黙ったまま一行の後ろに立つモデウスに全員の視線が集中する。

エレオノールはつかつかと彼の前へ歩み寄り、真っ直ぐにその顔を見据えた。

「聞いたわね、モデウス。最初の失態はこれで必ず挽回しなさい」

「分かりました」

即座にモデウスも頷き返した。

一度の失敗は次により大きな成果で取り戻せば良い。

これまではエレオノールの護衛・補佐役として傍についていたが、今度は違う。

彼女だけでなく、留守を任された師のスパーダからの期待に応えるためにも決して失敗は許されない使命だった。

 

『それでは、頼むぞい。みんなお腹を空かせてるじゃろうしな。さっさと片付けんと、ワシもお腹が空いてたまらんわい』

床に降り立ったモートソグニルは食堂の方へ駆けていった。

「では我らも……」

「うむ……」

モデウスとコルベールは裏庭へ出るために厨房の勝手口へと進みだす。

「さあ、あなた達。しっかり働いてもらうわ。失敗は許しませんからね」

「は、はい……」

エレオノールの指揮の下、四人の生徒達もまた動き出し始めた。

食堂を通り、上階の宝物庫へと向かう。だがその前に、鍵を取って来なければならなかった。

「ふざけるんじゃないわ! 恥知らずも大概になさい!!」

階下にも響き渡る女王アンリエッタの怒声はギーシュ達の足を止め、慄かせてしまうほどの気迫に満ちていた。

 

 

ホールの大窓が開け放たれ、ワルドは腕に止まる一羽の大鷲に魔法学院の封蝋を綴じられた一通の便箋を咥えさせる。

それは本物にそっくりなほど精巧なガーゴイルだった。

最初懐から取り出された時は小さな人形だったのが、瞬く間に巨大化したのである。

「さて……王宮からの使いが来るまでは時間があるな」

鷲を飛ばしたワルドは振り返り演壇まで戻ってくる。

アンリエッタとオスマンは渋面を浮かべたまま彼を睨んでいた。

このホールに人質が集められてもう一時間が経つ。彼らはみんな不安と恐怖と困惑の入り混じった顔で沈黙していた。

下手に何かをしようものなら、壁に寄りかかったままへたり込んでいるギトーのように痛い目に遭わされてしまう。

 

(最悪だわ……)

アンリエッタは不愉快極まりないとばかりに苦い顔を浮かべていた。

王宮宛に書かされた手紙はワルドが何度もディテクト・マジックを使いながらチェックしており、五回も書き直しを命じられたのである。

オスマンが伝えてくれた時間稼ぎにはなってくれたはずだろうから、別にそれはどうでも良い。

気にかけているのは、この件が片付いた後のことだ。

たとえ無事にこの刺客達を片付けたとしても、レコン・キスタの新たな陰謀によってトリステインが脅かされた事実は変わらない。しかも、百人以上もの貴族の子女の身に危険が及んだのである。

王宮の主戦派の貴族達やゲルマニアの発言力はより強くなるのは明らかだった。今でさえ彼らを抑え込むのはギリギリの状態なのに、下手をすればゲルマニアに同調してアルビオンへの侵攻を強行しかねない。

下手をすれば内乱になることもあり得る……。

(今はとにかく、彼らを何とかしないと……)

差し当たり、未来の波乱よりも今は目の前の脅威を何とかしなければならない。

オスマンには何か考えがあるようなので、今は彼を信じるしかないのだ。

だが彼は夕刻に迎えに来るはずのアニエスの到着を待っているという訳でもなさそうだった。

ただ静かに佇む中、その眼光の鋭さは変わらない。

 

「生徒諸君。君達も我らレコン・キスタと共に来る気はないかね?」

ワルドの一声に生徒達はより困惑していた。

「見た所君達はほとんどがドットばかり……トライアングルは皆無のようだ。こんな無能な教師どもの元でいつ次のランクに成長できるのか、待つのはもどかしいとは思わんか?」

一体、ワルドは何を話そうというのか。

国境を越えた貴族の連合……ということになっているレコン・キスタにこの学院の生徒達を取り込もうなど、断じて許されるものではない。

アンリエッタもオスマンも息を飲んで彼の演説を静観する。

「我らレコン・キスタに加わり、盟主クロムウェルに忠誠を誓えば、いとも容易くメイジをも超える力を得ることができるのだ。彼のようにな」

そう言いながらワルドが指し示したのは、控えている配下のメイジの一人だった。

「何……?」

生徒達は次々に困惑の声を漏らしだす。

メイジの全身が眩い光で包み込まれていき、見る間に人の形が別の何かに変わっていった。

アンリエッタもその光景に目を見開き唖然とする。

「見たまえ。あれが、我らに与えられし天使の力だ」

光が晴れると、そこには見たこともない異形の騎士が佇んでいた。

背中から巨大な翼を生やし、大鷲の頭をあしらったような兜を被り顔の上半分を隠している。

まるでヒポグリフやグリフォンがそのまま擬人化したような異様な姿に生徒達は目を奪われていた。

 

(どこが天使よ……それこそ悪魔の力じゃない……)

唇を噛み締め、アンリエッタは苦々しく異形の騎士を睨んでいた。

タルブ戦役の捕虜……特に今は客員として協力してくれているヘンリー・ボーウッドからレコン・キスタが身の毛もよだつ恐ろしい所業に手を染めていたことも聞き及んでいた。

何でもクロムウェルは神から与えられた〝天使〟の力と称し、ワルドのような賛同者や力を欲する志願者に悪魔の力を分け与えていたという。

〝悪魔〟の力と呼んでは聞こえが悪く賛同者達が拒否するかもしれないことを見越して、聞き心地の良いポジティブな名目で偽っていたそうだ。

聞けば幼い子供までも実験台にし、犠牲にしていたというのである。

まさしく悪魔の所業の産物により生まれた……悪魔そのものだった。

おぼろげながら目にしたスパーダの勇ましい姿とは全く違い、ただ嫌悪しか感じられない。

 

「答えはすぐに出さなくても構わんよ。じっくり考えるといい。何をするのが一番正しいか……すぐに分かるはずだ」

生徒達はまるで亜人のような、だがしかし不思議と醜さは感じられないどころか鮮烈さを醸し出すような洗練された姿に圧倒されてしまう。

恐怖もなければ当然、魅せられるものでもない。ただひたすらに困惑し、驚くばかりだった。

ワルドはそんな彼らを見回して満足げに薄い笑みを浮かべている。

「ああ。そうだ……」

ふと、アンリエッタの方へワルドは向き直りだす。

「アンリエッタ女王陛下。あなたは、我らレコン・キスタが捕えていた捕虜を匿っていると聞いております」

「何のことですか?」

「とぼけるのは結構。だが、その者を庇うとなればあなたの体面を著しく汚しますよ? 何しろ捕虜は、我ら人間の敵であるエルフなのですからな」

ワルドの発した言葉にアンリエッタは息を飲んだ。オスマンまでもが僅かに片眉を顰めていた。

それどころか生徒達までもが激しく困惑し、ざわめきだす。

中でもカトレアの胸の中で怯えるティファニアは余計に彼女にしがみつき、その身を震わせていた。

 

「どうやら、少しばかり我らが本気であることを示さねばならんようだ……」

僅かに頭を振ったワルドは杖を手にすると、戸惑い続ける群衆のすぐ前まで進み出て行く。

「ワルド子爵! 何をする気?」

「何、生徒を一人ばかり血祭りにあげようかと思いましてね」

事も無げに返されたその言葉に今度こそ生徒達から悲鳴混じりに動揺と恐怖の声が上がる。

「どうも女王陛下も、ここの連中も自分の立場というものが理解しきれていない……だったら、実力で分からせてやるまでだ」

最前列の生徒達は尻餅を突いたまま次々に後退りだす。中には後ろの生徒を押し退けてまで床を這い蹲りだす。

ワルドはただ冷酷な目付きのまま生徒達を見下ろし、ゆっくりとにじり寄って来ていた。

「おやめなさい!」

「ご安心を。たかが100人以上の中から一人を殺した所で、どうにもなりませんよ。むしろ名誉の死を与えられて満足でしょう」

数の問題ではない。誰も犠牲者を出したくないから、あんな馬鹿げた協定書にサインをしようとしているというのにこれでは話が違う。

いや、そもそも国同士で正式に交わした約束すら、卑劣な策略で破ってきたレコン・キスタを信頼することそのものが間違いだったのだ。

アンリエッタもオスマンも見ていられず杖を構えようとするが、他のメイジ達に押さえ込まれてしまう。

「男どもは安心するがいい。神への生贄に捧げられる供物は、うら若い乙女だと昔から相場は決まっているのだ」

その言葉に男子達は思わず喉の奥から安堵の溜め息を漏らしかける。

だが、女子の方はそうもいかなかった。

男子が選ばれない分、それは必然的に女子の中から必ず一人が殺されるというのだから。

 

「さあ! 誰かいないかな? 自らの命を捧げ、名誉の死と共に180人の友を救う勇気と誇りある貴族の娘は! 名乗り出たまえ!」

大きく声を張り上げるが、当然誰もそんなことができるはずもない。

怯える女子達は隣や近くの別の女子生徒にちらちらと不安と期待の入り混じった眼差しを向け始めていた。

「やれやれ……それでもお前達は貴族か? 祖国と主君のためにならその忠誠と命をいつでも捧げると誓っているのではないのか? やっぱりトリステインの貴族は口ばかりだ。まだルイズの方が物が分かっていたな……」

肩を竦めるワルドに女子達は次々に深く俯きだす。

中には「余計なことを」と言わんばかりに、ここにはいない学友へ恨みの念を抱き歯を食い縛る者さえいた。

(こいつ……!)

ワルドの戯言にアンリエッタはブルブルと拳を震わせていた。

祖国のためなら命と忠誠を捧げる――それは本来なら貴族としてこの上なく模範的な有り様だろう。

だが実の所、本当に命を犠牲にしてでも忠義を全うしてもらいたいなどと考えたことはないし、考えたくもない。

アンリエッタが望むのは上辺だけの忠誠でもなければ、盲目的な忠誠ですらないのだ。

 

「ではお前達に推薦してもらおうか? 誰が一番、誇りと勇気を持つ娘なのか」

だが誰も反応せず、しんと静まり返る。

「どうした? たった一人の犠牲で自分達の命が救われるのだぞ? 友人なり、憎い奴なり、遠慮せずに選ぶがいい。なんだったら、男どもからでも構わんぞ? 付き合っている恋人が誇りある貴族だと思うなら、ぜひ紹介してもらいたいな」

さらにワルドは嘲笑うかのように煽り立てる。

それでも女子達はもちろん、男子達の反応も同じで沈黙を守っていた。

たとえ仲が悪く嫌いな相手がいたとしても、さすがに学友の命を敵に売るなんてことは貴族にあるまじき所業だ。

如何に我が身が可愛かったとしても、それくらいの羞恥心や道義は弁えている。

(この痴れ者……!)

(たわけものが……!)

アンリエッタもオスマンも(はらわた)が煮えくり返らんばかりに激情に満ちた顔でワルドを睨みつけていた。

あまりにも人間味が欠落した残酷なことばかり喋り続けるその姿は、腐ってもかつてはトリステインの誇り高き近衛の騎士らしい高潔さなど微塵も残ってはいない。

「仕方がない……ならばこちらで選んでやるとしよう」

つまらなそうに舌を打つワルドは群衆の中をぐるりと見回しだす。

震える女子達は全員顔を背け、俯いていた。中には祈りを捧げる者までいるくらいだ。

一体誰が選ばれるのか。そんなことは考えたくもない。自分が選ばれたらと思うと気が狂いそうである……。

 

「一年生か。ミス・カトレアにずいぶんと懐いているようだな?」

「……!」

ふと、ワルドが目に留めたのはカトレアの腕の中でずっと蹲っている金髪の少女――ティファニアだった。

「やめなさい! ワルド!!」

「さっきからずっと縮こまっているようだが、何故我らに顔を見せようとしない? 何をそこまで恐れている?」

アンリエッタの絶叫を無視してワルドは群衆を押し退けながらカトレアの元に近づいてくる。

(駄目……駄目……! 駄目……!!)

カトレアの腕の中でティファニアは耐え難い恐怖に打ち震えていた。

村を滅ぼし、自分の正体まで知っている恐ろしいメイジについに見つかってしまった。

しかも、頭の中では聞きたくもない恐ろしい魔法のルーンまでもが響いている。

そのどちらも恐ろしくて、ティファニアの心は張り裂けてしまいそうだった。

「ワルド子爵――あっ……!」

「あなたは下がっていてもらおうか。ミス・カトレア」

庇おうとするカトレアの体が、他のメイジ達の魔法で自由を奪われてしまう。

カトレアから引き離されたティファニアは力なくその場でへたり込んでいた。

もう全てを諦め、観念したように項垂れる。

つい、とワルドの杖が顎下に添えられ顔を上げさせられる。

しばしの沈黙が続き、ティファニアの顔をじっと眺めるワルド。

「ほう……。そうか、お前は――」

にやりと勝ち誇ったように冷酷な笑みが顔全体に浮かび上がったまさにその時だった。

 

「……何だ?」

パラパラと無数の水滴が頬を打ち出したのである。

いや、それに留まらず突如天井から小雨のような水の粒が降り注ぎだしたのだ。

屋内であるはずなのに雨が降りだすというありえない現象に誰もが戸惑いだしていた。

心なしか、この水は微かに光を帯びているようにも見える。

 

『ギャアアアアアアアアッッ!!!』

 

激しい絶叫が無数に轟いたのはその直後だった。

 

 

ダンスホール内に降り注ぐシャワー。

それを浴びるメイジ達は次々と力無く倒れていく。

特に悪魔の姿と化していた者はその身を元に戻しながら激しくのたうち回り、悶えていた。

「やりましたね! エレオノール先生!」

「大成功だ!」

「すっごいや!」

食堂に続く階段の入口から顔を覗かせるのはギーシュら四人の男子だった。

後ろに控えるエレオノールの手には先端が環状に装飾された長大な杖が握られている。

 

一行が宝物庫から取り出してきたのは〝恵みの宝杖〟

環の中には水魔法の力が込められた水晶が嵌めこまれており、その力で強力な水系統の魔法を操ることができる。あくまで出来るのは水を操るということだけなので、他の系統と組み合わせた魔法や癒しの魔法を使うことはできないが。

それでも本来は水系統が専門ではないエレオノールでも強力な水魔法を行使できる。屋内だろうと雨を降らすのは朝飯前だ。

とはいえ元々、祭事の時や火事が起きた時などに使ったりする品だった上に、長く使われていなかったこのマジックアイテムは宝物庫の奥深くにしまわれていたので、探すのに苦労してしまったが。

ギーシュ達はエレオノールに厳しく扱き使われて、このマジックアイテムを何とか見つけ出したのである。

 

「こ、こんなにあっさりと……」

「水の力による負の生命力は、正の生命力で中和できるのよ。覚えておいても損はないわ」

呆然と目を丸くするギーシュにエレオノールは冷静に語る。

アンドバリの指輪で蘇った死者達を倒す方法は大きく分けて三つ。

一番手っ取り早いのは、再生できないほどに肉体を粉々に粉砕してしまうこと。

だが、そこまでのことをするには生徒達を巻き添えにしてしまうほどの威力の魔法を使わなければならないし、第一そこまで破壊力のある手段を行使する方法もない。

ならば残されたのは二つの手段――炎で焼いてしまうか、癒しの魔法をかけてやることだ。

死者達の体に宿る偽りの命の力の根源である水そのものを蒸発させるか、屍を動かす負の生命力を本来生物が宿す正の生命力によって打ち消してしまえばいい。

 

オスマンの使い魔を通して敵の弱点を聞かされたエレオノール達は、マジックアイテムで起こした雨に癒しの魔法をかけてそれを死者達に浴びせる作戦を実行することにした。

魔法アカデミー出身のエレオノールも、同僚の水系統の専門家であるヴァレリーより理論については以前聞かされたこともあるし、アンドバリの指輪についても書物で事前に調べていたのですんなりと理解できた。

癒しの魔法は水の触媒があればより強い効果を発揮できる。そのための恵みの宝杖だった。

これを使いこなせるのはエレオノールだけなので、ギーシュ達は彼女が発動する杖の先で水に癒しの呪文をかけていたのである。

四人とも本来は水の使い手ではないので、単独では効果を発揮できそうにないので四人がかりでやる必要があったが。

 

「モンモランシー! モンモランシーはどこに!?」

敵が全滅したのでギーシュはもう我慢できずに飛び出ていく。

後の四人も続いていったが……。

「うわああっ!?」

「ぶっ!?」

当然、ギーシュの体が飛んできて四人にぶつかってしまう。

その拍子にエレオノールの手から恵みの宝杖が弾き飛ばされてしまった。

 

「そうか……ルイズにはもう一人姉がいたのだったな……」

呆然としている群衆の中から低い声が上がりだす。

片膝を突いて蹲っていたワルドはゆっくりと顔を上げ、五人を睨みつけた。

「ど、どうして……?」

「何であいつらだけ動いてるんだよ!」

倒れ込んだレイナールとギムリは激しく混乱した。

今の癒しの雨でメイジ達は全滅したはずだった。

だがワルドだけでなく、何人かのメイジ達は健在だったのだ。その中の一人が杖を構え、風の魔法を放ったのである。

「まだ小賢しい雑魚が残っていたとはな」

「一体、どこに隠れていた?」

「学院内はくまなく探したはずだぞ」

メイジ達は次々に仮面を外しだし、ローブを脱ぎ捨てていく。

「み、みんな……お、同じ顔……!?」

露わになった彼らの顔は、全員がワルドと同じ顔だったのである。

マリコルヌはレイナール達以上に狼狽して彼らの顔を見比べだす。

「そ、そうか……分身か……!」

「風の偏在ね……!」

ギーシュとエレオノールは即座に状況を理解した。

ワルドは風のスクウェアメイジ。風の偏在、ユビキタスによる分身を作っていたのだ。

分身はあくまで分身。アンドバリの指輪で蘇ったのではないから、癒しの魔法もくそもない。

敵がアンドバリの指輪で蘇った死者達のみで構成されていると思われていたが、これはとんだ計算ミスだった。

一部始終を見守っていたオスマンも同様の思いなのか、顔を顰めている。

だがそれでもエレオノールは納得できないことがある。分身はともかく、本体らしいワルドはどうして癒しの魔法を受けても平気でいられるのか……。

(まさか……)

すぐにエレオノールはハッとした。

オスマンが言っていた、学院の外にいるという伏兵。

そいつが風の偏在の本体であるワルドであったとしたら……ここにいるのは全員、分身ということになる。

あくまで推測だが、その可能性は高い。

 

「鋼鉄の処女が……でしゃばりおって……!」

「どうやら、こいつの他にもう何人かは殺さねばならんようだな!」

「あぅ……!」

激高するワルドの本体――かどうかは実の所、分からないものの――が、ティファニアの首を掴み上げる。

「きゃあああああっ!!」

「モンモランシー!?」

ギーシュはモンモランシーが腕を掴まれ吊り上げられる姿を目の当たりにして跳ねるように起き上がった。

別のワルド達も近くの女子を手当たり次第に捕まえて杖を振り上げようとしていた。

 

「ぐむっ!?」

突如、全員のワルドの顔面を土くれが覆い尽くす。

捕まった女子達は次々に床に放り出され、ワルドは顔の土を剥がそうともがいていた。

「みんな、早く逃げて!」

いつの間にか杖を振り抜いていたカトレアが大声で叫んだ。

普段のおっとりとした優しく温和なカトレアとは思えない、力強い声に誰もが驚きだす。

それは姉のエレオノールも同様だった。

 

「この死に損ないめ……!」

いの一番に土くれを引き剥がしたワルドは憎々し気に目の前のカトレアを睨みつけると杖を一気に振り上げた。

カトレアは喉を押さえて咳き込んで蹲るティファニアを抱き締めて庇いだす。

「カトレア!!」

それを見たエレオノールが咄嗟に自らの杖を手にしたその時だった。

 

――ミャアアアアッ!!

 

「ぐおっ!?」

突然ワルドの顔面に無数の小さな影が飛びかかり、またも視界を覆い尽くしたのである。

それはカトレアが飼っているモモンガやリスといった小動物達だった。

大窓からは小鳥達が、食堂に続く階段からは猫や犬、果てはトラや熊といった猛獣達までもが駆け込んでくると、牙を剥き出しにしてワルドに飛びかかっていく。

 

「モンモランシーに触るな!!」

「ギーシュ!」

薔薇の造花から一つ摘まんだ花びらを錬金で一本の長剣へと変えると、それを手に駆け出していく。

「ちきしょう! させるか!」

「もう……どうにでもなれぇ!」

他の三人もブレイドの魔法を発動させ、杖の先に細い光刃を伸ばしていた。

「ちょっと、あなた達! お待ちなさい!」

エレオノールの制止も聞かず、三人はギーシュの後を追いだす。

ギーシュが斬りかかったワルドの一人は顔を土くれに塞がれながらも体を捻ると杖で剣を捌いていた。

 

「ギーシュに続け!」

『おおおぉぉーっ!!』

呆然としていた群衆の中から次々と男子達が立ち上がり、ブレイドによる光刃を手にしていく。

教師はおろか三年生の男子達は誰も腰を抜かしたまま動けないが、奮起した男子達は全員がブラッディパレスで腕試しをしていた者達だった。

 

華やかな舞踏会ならぬ、血と魔法が飛び交う武闘会が始まったのである。

 

 

魔法学院本塔の頂上。その屋根の一角の風景は僅かな違和感に満ちていた。

風のスクウェア・スペル、〝蜃気楼(ミラージュ)

大気を歪めることで光を曲げてしまい、特定の部分の風景のみを消えてしまったかのように見せてしまう極めて高度な魔法だ。

この魔法によって、メイジは己の姿を周囲の視界から完全に消してしまうことができるのである。

(奴は……来ないな……)

神聖アルビオン共和国、レコン・キスタより特使として派遣されたジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドの姿は魔法学院の風景の中に完全に溶け込んでいた。

魔法人形スキルニルによる影武者は同志と共に学院内に侵入したが、ワルド自身はここで学院の外からやってくるものを徹底的に監視し続けている。

見晴らしの良いこの場所からは魔法学院の近辺から遥か先の大地や空まで一望することができるのだ。

つい先刻には近づいてくる竜籠を見かけたために容赦なく自らの天使の力で撃ち落としてやった。

中からはメイジ二人が出てきて、地上に落下したが恐らくレビテーションの魔法で辛うじて生き延びているだろう。

だが、たかがメイジなど今のワルドの相手にはならない。

 

(忌まわしい悪魔め……)

彼が恐れるのはこの魔法学院に滞在する一人の男のみ。

アルビオンで一度命を落とし、盟主クロムウェルの手によって再び命を与えられたとしても、絶対に戦いたくない相手がいる。

元婚約者だったルイズが召喚した伝説の使い魔・ガンダールヴのルーンを宿す者。

だがその正体は、凶悪な悪魔だったのだ。

クロムウェルより与えられた天使の力さえも赤子のように捻ってしまう、恐るべき魔人の力。

生前の恐怖は今もなお、新たな生を受けたワルドの脳裏にいつまでも焼き付けられている。

(奴が戻るまでにケリをつけねばな……)

あの悪魔と絶対に戦ってはならない――それだけは固く決意していた。

幸いにしてルイズやトライアングルクラスの学友共々、留守にしているらしいことが密かに調べてみて分かったので、白昼堂々と学院を制圧することに決めたのである。

 

スキルニルの影武者は天使の力まではコピーしきれないが、それでも素のワルドとほぼ同じ実力を備えている。

魔法学院のメイジなど木偶の坊でしかないのは分かり切っているために任せていても問題はないはずである。

おまけに同志達も今のワルドのように天使の力を与えられた者達なのだから、後れを取ることはまずあり得ない。

(ん?)

突如、屋根の下から甲高い音を立てて何かが浮かんでくることに気付いた。

小さな光の球はワルドのいる場所の頭上あたりまで昇ってくるとピタリとその場で動きを止めだす。

『グオオオオオオッ!!』

突如、光球は弾けると共に凄まじい熱波が襲った。

魔法学院本塔の頂上の大気が激しく歪むほどの熱風はワルドを包み込む。

まるで炎そのものに晒されたような激しい熱気は、ワルドの全身を容赦なく焼いていく。

 

『グ……! グアアアッ……!!』

白煙が所々から昇りだすワルドの体は塔の壁を伝って転がり落ちていく。

背中に生やす翼を広げると、辛うじて地上に墜落することは免れた。

だが体の至る所からは煙が燻りだし、発火しかけている。

そればかりかそれまで充実していたはずだった肉体の活力が激しく失われていくようにも感じられた。

『ヌウゥ……!』

慌ててワルドは長槍のように巨大化した杖を振るい、風を巻き起こす。

激しい突風は瞬く間に己の体を焼いていた火を消し去っていた。

『お、おのれぇ……! 貴様ァ……!!』

よろけながら着地したワルドは中庭に立つ人影を睨みつける。

そこには二人の男が立っていた。

片割れは魔法学院の教師の一人――コルベールだった。

 

『無能な教師ごときが、私の体を傷つけるとは……!! 許せぬ!』

ワルドは杖を二人に突きつけ、激しくいきり立った。

「人間ではないのか……」

「恐らく、悪魔の力の一部を儀式か何かで取り込んだんでしょう」

異形の姿に困惑しながらワルドを見据えるコルベールにモデウスはマーシレスの剣を片手で構えながら答える。

「何ということを……」

苦い顔でコルベールは首を横に振った。

 

『調子に乗るなよ。私は盟主クロムウェルから命を授かった……あの悪魔が、スパーダのいない貴様らごときに何ができる?』

翼を広げるワルドの体がふわりと宙に浮かび上がりだす。

二人は静かに彼の動きを見つめていた。

『だが、私の体を傷つけたその罪は償わせてやる……!』

杖を顔前に構え、ワルドは素早く呪文を唱え始める。

『ユビキタス・デル・ウィンデ――』

ワルドの姿がぼんやりと歪みだし、左右に同じ姿が四つずつ分かれだす。

スクウェア・スペル、風の偏在によって瞬く間に八体の分身――本人も含めて九人のアンジェロ・ワルドが二人の前に現れた。

だが、それらを目の当たりにしてもコルベールとモデウスは全く動じない。

「五分で片付けよう。モデウス君。向こうが心配だ」

「ええ。できれば三分でやりますか」

二人は己の得物を静かに構え、目の前の敵達を見据えるだけだった。

 

『何をほざいている!』

『メイジでもない平民ごときが!』

『天使の力を得た我らに敵うと思ったか!』

一斉に異形のワルド達が叫びだし、翼を広げて周囲に散開しだす。

 

『Now, take death!(死をくれてやるぞ!)』

 

興奮するワルドは、学院内で既に激しい乱闘が繰り広げられていることすら気付いていなかった。

 

作品の良かったところはどこですか?

  • 登場人物
  • 世界観
  • 読みやすさ
  • 話の展開
  • 戦闘シーン
  • 主人公の描写・設定
  • 悪魔の描写
  • 脚色したオリジナル描写・設定
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