魔剣異聞録~The Legendary Dark Slayer/Zero   作:月に吠えるもの

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Mission 73 <無能王の招き-Fatal Reunion> 前編

 

夕刻間近――ルイズ、キュルケ、そしてスパーダの三人は放課後タバサに連れられてガリア王国の首都リュティスに足を運んでいた。

スパーダがここを訪れるのは実に二度目だったが、以前来た時とは明らかに街の雰囲気が変わっている。

至る所に数多くの武装した兵士達が闊歩し、殺気立っているのだ。

「あの時の悪魔騒ぎが相当衝撃だったみたいね」

街を訪れた当初、キュルケはそう呟いていた。

ベオウルフにオラングエラ、それに魔帝ムンドゥスと覇王アルゴサクスと悪魔達の抗争に巻き込まれた側としては堪ったものではないだろう。

世間ではあれもレコン・キスタの陰謀によるものということにされているので、厳戒態勢になるのは当然だ。

 

街の修繕は済んでおり、レコン・キスタ自体は既に存在しないものの、それでもまだ解除されていないのは王が勅命を出していないことを意味している。

そのガリアの王に、これからスパーダ達は会いに行くのだ。

 

「きゅい……」

主人達を乗せて来る役を務めたシルフィードは人の姿に変わって一行に付いてきていた。

だが竜の本能が悪魔であるスパーダを恐れてしまうために、やや距離を取りながら恐る恐る後ろから続いてきている。

竜の姿のまま街の入口で待っていたかったのだが、スパーダが同行するように命じてきたのだ。

もちろんシルフィードはそれを拒み、タバサに命じられても断固拒否したのだが、結局は付いて行く破目になってしまった。

何しろ首都の上空は飛行禁止、かと言って入口で竜の姿で居座っていると衛兵達に邪魔扱いされてしまう。

 

「寄り道なんて聞いてないのね……」

だが、一行は一直線に王宮へ向かおうとはしなかった。

以前、悪魔達と激闘を繰り広げたあの広場の一角に設けられた天幕に足を運んでいるのだ。

シルフィードは中には入らず入口からそっと覗くのみ。

薄暗い天幕の中ではスパーダが一丁の長大な銃を手に眺めていた。

 

「如何ですかな? 初期型のスパイラルから可能な限りダウンサイジングしました」

低いダミ声を響かせる店主はフードを目深に被り、口元も布で覆い隠しているために表情は覗い知れない。

「……確かに、それなりに軽くはなっているな」

マスケット銃より大柄な漆黒の長銃を構えながらスパーダは感嘆と唸る。

「79口径の装甲貫通弾は据え置きです。あなた様なら、さらに魔力を加えてその気になればファントム級の悪魔の外殻も貫徹可能でしょう」

称賛も込められた店主の説明にスパーダは軽く鼻を鳴らした。

 

天幕の中には大きな展示台と、その上に様々な銃器が置かれている。

スパーダが店主と話し合う中、ルイズ達はそれらを見て回っていた。

「300エキュー? ちょっと、あの冊子とずいぶん値段が違うじゃない」

台の上に置かれていたのは昨晩、ルイズがマキャヴェリのレゾネで目にしたハイドラという三連式のショットガンだった。

あまりの値段の落差にルイズは納得できず店主に噛みついた。

「我が主は気分で値段をつけますからな。正直、あれでは売れる物も売れませんのでね」

店主は溜め息交じりにそう答えた。

確かに法外な値段だったのだから、こちらの方が適正な相場と言えるかもしれない。だが、それにしては極端な印象も拭えない。

「勝手に値下げなんかしてて良いの?」

「主は芸術と美学を追求することのみが目的ですからな。お客様が満足して頂ければ、それが何よりの報酬でございます……」

金など大して興味はない。そういうことだろう。

キュルケは呆気に取られたように肩を竦める。

「主にしてみれば敵も味方も、人間も悪魔も関係ありませぬ」

 

この店は、ゲルマニアの名工ペリ卿――魔界の武器職人・マキャヴェリの出張店だった。

不気味なローブを身に纏う痩身の店主は当然、人間ではなくマキャヴェリに属する下級悪魔の一人。スパーダも顔見知りの相手であった。

店先に飾られている2メイルにも達する巨大な銃は紛れもなくマキャヴェリの作った代物――スパイラルと呼ばれるものだった。

それを目にしたスパーダは少し覗いてみることにしたのである。

店内にはマキャヴェリの作った様々な銃器が飾られており、ルイズ達は思わず溜め息を漏らした。

拳銃のように小さなものから反対に大きなものまで、多種多様に溢れている。

 

「何これ?」

キュルケの目に付いたのは、銃口から分厚い銛のようなものが突き出ている変わった長銃だった。

「射槍砲『パルチザン』でございます。火薬の力で装填した槍を高速射出します。オーク鬼やトロール鬼ごときの肉体など、容易く貫けますぞ」

「ふーん」

一方、タバサもまた別の台に飾られる無数の銃に見入っていた。

銃の形をした弓、ゲルマニアで近年出回り始めたクロスボウと呼ばれるのに似たものまである。

「そちらは炸裂針射出銃『ケブーリー』のシリーズでございます。いずれも最大で6発まで斉射ができます。射出するニードルダート弾は時限式、生体感知式、さらには手動と多岐に渡る起爆が可能です。水中でも問題なく射出できますぞ。お客様の腕前に合うように、様々な種別をご用意させてもらっております」

解説をされてもタバサ自身は興味もなく聞き流し、小さな拳銃サイズのケブーリーを手に取り眺めている。

彫刻がなされた銃口部分はフレームより大きな太い筒状になっている変わった形をしていた。

「如何ですかな? あちらもお安くしておきますが」

「考えておく」

スパーダは『スパイラル-γ』の名札が付けられた台に銃を戻し、隣に置かれた小さな銃を手にする。

小さいと言ってもそれはタバサほどの身長はあるスパイラル-γと比べたらの話で、『レヴェナント』という肉厚の銃身を持つ銃はスパーダが持つルーチェ・オンブラより二回りもの大きさだった。

両手でなければまともに持てなかったスパイラルと違い、レヴェナントは片手でも持つことができる。

ルーチェ、オンブラに比べて角度の浅い象牙のグリップをスパーダはしっかりと握り込んだ。

 

73口径(12ゲージ)多目的(マルチプル)ショットガン・レヴェナント……主の自信作でございます。内部にデビルハーツを組み込み、発射弾のエネルギーと速度を増強させた上で、中距離での威力と精度の減衰を極限まで抑えております」

「ほう」

「各種エレメントのデビルハーツも組み込まれております故、火炎、雷撃、水撃、氷結、様々な属性の弾を自由に発射可能です」

店主の語りにスパーダは興味深そうに頷く。

スパイラルの時と同じように強い関心を惹いた様子がルイズ達には覗えていた。

「二重バレルにより反動も大幅に軽減。他のショットガンと異なり、最初からソードオフを前提にした設計となっておりますので、片手だけでも取り回しは容易でございますぞ。無論、あなた様や我が主ならではの話でございますが」

慇懃な態度で説明を受ける中、レヴェナントを色々な角度からスパーダはじっくりと眺めている。

見れば他の銃と違い、銃口が上下に二つあることにルイズ達が気付いた。

「ずいぶん気に入ったみてえだな」

「よく分かんないけど……」

ルイズ達も横からじっと見惚れるようにレヴェナントを見つめていた。

シンプルな造りではあるものの、彫刻が刻まれた無骨なバレルは不思議と見ているだけで頼もしさが感じられた。

 

 

レヴェナントに加え、スパイラル-γ、ついでにケブーリーの一つまで購入して一行は店を後にした。

1500エキューの買い物だったが、スパーダの手持ち自体はいつも500エキューまでしかない。

魔法学院の宝物庫に残りの金はあるので、ツケ払いにして済ませることにした。

レヴェナントはショットガンにしてはコートの裏に隠せる程にコンパクトだが、包んだスパイラル-γは10キロ以上もあるのでスリングを使って肩から提げている。

「そんなでっかい銃、どうすんのよ?」

ケブーリーと一緒に布に包んでいるとはいえ周りの通行人はスパーダを怪訝そうに見つめている。

「魔法学院の宝物庫にでも置いておく。『破壊の槍』とでも言っておけば良いだろう」

「破壊の槍、ねえ……」

呆れ気味にルイズは溜め息を吐いた。

スパイラルには、槍のように突き出た細長い銃身の先にマズルブレーキなる箱のような部品が取り付けられていた。

遠目から見れば確かに槍に見えなくもない。

「しっかし、本当に大砲みてえな銃だなぁ。人間相手にぶっ放す物じゃねえだろ?」

デルフもまた呆気に取られた様子で呟いた。

「当然だ。本来は攻城戦などを目的にしているからな」

第一、マキャヴェリが作る武器の標的は基本的には同胞の悪魔なのだ。

買うのも基本的には悪魔で、自分よりも強い相手を倒すためには弱い人間を倒すことを目的にした武器など使い物にならない。

よって、マキャヴェリの魔銃は上級悪魔をも撃ち倒すことを前提にして設計されているので威力は人間が使うものより遥かに高いのだ。

「じゃあ、もし人間相手に使ったら?」

「一発で二つ三つに引き千切れて、消し飛ぶだろうな」

ふとキュルケがそう尋ねてきて、スパーダは平然と返していた。

「う……嫌なこと言わないでよ」

血の気が引いてしまったルイズは一瞬、想像しようとしてそれを取り止める。考えたくもないことだ。

 

「すまんな。時間を取らせた」

「別に良い」

タバサは顔色一つ変えずに淡々と返した。

スパーダにしてみれば半ば衝動買いではあったが、新しい銃をマキャヴェリから取り寄せる予定ではあった。

アルテミスとパンドラはロングビルに預けたままであり、肝心の彼女は未だ戻って来る様子はない。

故に代わりの銃器を手元にいくつか持っておきたかったのだ。

それに、レヴェナントはともかくスパイラルやケブーリーは何もスパーダだけが使うとは限らないのである。

 

ヴェルサルテイル宮殿はもう目と鼻の先。そこまでで今回のタバサに与えられた任務自体は終わりとなる。

アルビオンでガリアが関わっていた以上、何かしらのアプローチをかけてくるとは思っていたが、いよいよその時が来た時にはタバサも息を飲んだものだ。

一体、ジョゼフはこの三人に何の用があるのだろうか。

少なくとも、一番の目的はスパーダなのだろうと見ていた。

 

「ここがヴェルサルテイル宮殿……」

やがて一行はリュティスの外れに位置するガリアの王宮へと辿り着いた。

まだ城門の前だったが、ルイズもキュルケもその佇まいに圧倒されてしまいそうだった。

トリスタニアの王宮とは異なる壮麗かつ壮大な威容さは、まさにハルケギニア最大の大国としての風格が感じられる。

「タバサ……」

キュルケは王宮を見上げるタバサに視線をやった。

どこか遠くを見るような視線は城に向けられてはいるものの、それ自体は見ていないのが見て取れた。

この王宮に、彼女にとっての憎き仇である男がいる。

だが、タバサはその前に立つことはおろか中に入る資格もない。

 

(タバサがガリアの王族だったなんてね……)

昨晩、ルイズはタバサからの申し出を受けた後にスパーダと話し合った。

そこでスパーダはルイズにタバサの秘密を語ったのだ。

タバサのプライバシー上、今まで話すこともできなかったことだったものの、ここまでとなるともう隠しておく意味もない。

キュルケも知っているというタバサの身の上話を聞かされてルイズも心底驚いたものだ。

 

だが、意外だったのはデルフが既にこの事実を知っていたことだ。

まだ器がアミュレットではなく篭手だった頃、スパーダに憑依していた時にタバサの身の上話を初めて聞いていたのでデルフにも伝わっていたのだ。

何故、今まで黙っていたのかは、理由はスパーダと全く同じだった。

さすがに学友のプライバシーとなれば、無闇に話すことはできないだろうからルイズも納得せざるを得なかった。

 

「ガリア花壇騎士タバサ。ルイズ・ド・ラ・ヴァリエール、キュルケ・フォン・ツェルプストー、スパーダ・フォン・フォルトゥナの三名を招致」

門の前にはメイジの衛兵が二人立っていた。タバサが淡々と名乗りながら告げると、衛兵はスパーダ達の顔を見回して小さく頷く。

「お前はここまでだ。行け」

ぞんざいな態度で顎をしゃくり、タバサにそう命じだす。

まるで厄介な動物を追い払うかのような仕草だった。

タバサはすんなりと従い、踵を返そうとしたが、スパーダはそれを制した。

「構わん。一緒に来い」

「な……!」

「杖とマントは置いていけ」

愕然とする衛兵を無視してスパーダはタバサにそう指示する。

タバサは数瞬、沈黙したまま彼を見返していたがすぐにマントを外して包み、ずっと数メイルの距離を保ったまま付いてきていたシルフィードの方へ歩き出す。

「ここで待ってて」

「きゅい……」

杖とマントを受け取ったシルフィードは不安そうに主人の顔を見つめていた。

 

戻ってきたタバサにスパーダはスパイラルの包みを押し付けるように手渡した。

「彼女はただの小間使いだ。たかが荷物持ちの一人がいて何か問題でもあるか?」

「し、しかし……」

泡を食ったように焦る衛兵をよそに、スパーダは懐から一枚の紙を取り出し見せつけた。

昨晩、タバサに見せてもらった彼女への命令書だ。

「これを見ろ。どこにも私達以外を同行させてはならない、などとは書かれていないが」

ガリア王家の紋章がしっかりと刻まれるそれは、正式な公文書でもある。

内容は『ルイズ、キュルケ、スパーダの三名を招致させること』

決して、他の者を連れてきてはいけないなどとは記されていない。ましてや召使いの同伴は許可しない、などとは一文も書かれていなかった。

 

(ああー、なるほどね。粋なことを考えやがる)

屁理屈かもしれないが、物は言いようである。

ルイズもキュルケも、そしてデルフもスパーダの意図が理解できた。

本来なら王宮に入る資格のないタバサを入城させてやるために、頭を働かせたのだ。

今のタバサは杖もマントも持たない……即ちメイジの力を発揮できない無力な少女。

その役目はせいぜい、荷物持ちのまま付き人となるくらいでしかない。

ましてや武器も持たない子供など、ガリア王家にとっては取るに足らない無害な存在のはずだった。

 

「それとも何か? たかが小間使いの少女を王宮の中に入れさせるのは都合が悪いとでも言うのか?」

衛兵達は何も言い返せないままに困惑していた。

無理もない。目の前にいる少女は謀反者にして裏切り者の一族――それが事実であるかは別として――あらゆる意味で邪魔者でしかない人間を入れる訳にはいかない。

しかし、スパーダの物言いに反論することもできず逡巡するしかなかった。

 

『――ハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!』

豪快な笑い声が突如響き渡った。

衛兵達はもちろん、スパーダを除く三人の少女も驚き、いつまでも続く哄笑に浮足立っていた。

『くくく……! これは一本取られたな! なるほど、なるほど! 確かにその男の言う通りだ!』

どこからともなく響いた渋く逞しくも、優雅すら感じられる男の美声に、タバサは目を細める。

数年ぶりに耳にしたこの声の主こそ、タバサが討つことを誓った仇敵だった。

「へ、陛下……」

『構わん。余の元へ早く通すがいい。連れも一緒にな』

楽しげな声は門の上に設けられた獣の彫像から発せられていた。

衛兵は渋い顔でタバサをちらりと見やったが、仕方なさそうにスパーダ達を門の奥へと通した。

「重い……」

タバサは自身の杖よりは小さな、それでいて遥かに重い銃を抱えたまま一行の後ろを付いて行った。

 

「お待ちしていたわ。トリステインの御一行様」

中庭の広大な庭園を進んでいると、王城の方から黒ずくめの人影が近づいてきた。

ローブを身に纏うその若い女はハルケギニアでは珍しい黒い長髪を揺らしながら静かに一行の前まで歩んでくる。

「我が主、ジョゼフ様がお待ちよ」

薄い笑みを浮かべる女からは、妙な迫力が感じられた。

ルイズもキュルケもタバサも、その冷たい雰囲気に何故か圧倒される。

とても客人を歓迎するような空気ではない。

 

「ねえ、スパーダ。この女って……」

「シェフィールドだな」

ガリア王ジョゼフの密命により、レコン・キスタに潜り込んでいたスパイ。

ルイズ達がアルビオンで聞き覚えのある冷たい声と全く同じものだった。

「ええ。お初にお目にかかるわ。魔剣士スパーダ」

女はスパーダを前にしながらも堂々と落ち着き払った態度を崩さなかった。

 

 

本城グラン・トロワに入城を果たした一行はシェフィールドに連れられ廊下を進んでいく。

シェフィールドは一言も話さず、ただスパーダ達に先導していた。

(三年ぶり……)

タバサにとっては久しぶりに訪れた場所だった。

だがここに良い思い出などタバサの記憶の中にはなかった。

たとえあったとしても、後の記憶によって塗り潰される。

最後に来たのは父が亡くなった後、ジョゼフの命令で母と共に出頭を命じられた時。

あの日、母は娘の代わりに毒をあおり、その心を病んでしまったのである。

「……っ」

思い出したくも無かったのに、タバサの脳裏にはあの時の光景が鮮明に浮かび上がってきてしまう。

「タバサ……」

「……平気」

心苦しそうにするタバサをキュルケが気遣う。

タバサ自身も、自分が激しく動揺し緊張しているのが分かっていた。

まさかスパーダがこんな計らいをしてくれるだなんて想像だにしなかったのだから。

 

やがて一行はシェフィールドに招かれ、ある一室へと通された。

執務室らしいその応接間に足を踏み入れた時、タバサは思わず目を見開き息を飲みこんでいた。

夕日が射し込むバルコニーに続く窓際にはタバサと同じ髪色の男が大きな背を向けている。その人物は肩越しにゆっくりとこちらを振り返りだす。

「おお! よくぞ参られた! 勇者諸君!」

体ごと振り向かせると、美髯の美丈夫が破顔となって一行を出迎えた。

 

(ジョゼフ……!)

最後尾の陰からタバサは顔を出すタバサは衝動的に飛び出しそうになった。

だが、抱えているスパイラルの包みの重さがタバサの足を止めてしまう。

「余がガリア王ジョゼフ一世だ。お初にお目にかかるぞ」

三年ぶりに目の当たりにした伯父王、ジョゼフ。

今年で確か45歳になるはずだったが、逞しい肉体共々年齢などまるで感じさせない若々しさに満ち溢れている。

何もかも、三年前のあの時から変わらない。

 

「遠路遥々、御足労をおかけした。遠慮せずにかけたまえ」

一行を歓迎するジョゼフに勧められるがままにスパーダ達は備えられていたソファーに腰を下ろす。

テーブルを挟んだ向かいのソファーにジョゼフもどかりと深く腰かけた。

荷物持ちのタバサだけはスパーダ達が座るソファーの横に立ってジョゼフを見据える。

本人はタバサのことなど眼中にないとばかりに正面の三人だけに語らい始めていた。

「君はラ・ヴァリエール公爵家の三女、ルイズ嬢だな。なるほど、母君とよく似た面影だ。君のご両親には昔、少しばかりお世話になってね。そう……最後にお会いしたのは三年前だったな! ラグドリアン湖での園遊会だった」

呆気に取られたままルイズは目を丸くする。

そのフランクな態度は、まるで少年のような純粋さすら感じられた。

仮にも一国の王であるはずなのに、ルイズはこの人物からは王としての風格や威厳といったものが一切感じ取ることができない。

「ツェルプストー君。父君はお元気でおられるかね。何しろトリステインとは国境を面している。戦となれば、まず最初にぶつかるのは先祖代々、血で血を洗う仲の仇敵同士だ」

ジョゼフのその言葉にキュルケはおろかルイズまでもがピクリと反応した。

「余は心配でならんのだ。何しろ君の家系は代々、ロマンチストな略奪者で有名だからな。……いつだったか、君のご親族が国境を越えたお隣のご夫人に粉をかけてひと悶着を起こしたと聞いている。泣く子も黙る〝烈風〟が大暴れしたと聞いた時にはさすがの余も肝を冷やしたものだぞ」

「……っ」

「……」

二人は渋い顔で互いに横目で視線を交わし合った。

キュルケの実家、ツェルプストー家は代々、自分の望むものは奪い取ってでも己が物にしてみせるというのが伝統だった。

だが、かつてルイズの母はキュルケの叔父に寝取られかけ――逆に返り討ちにして大恥をかかせたのだ。

二人の家柄同士の因縁を、ジョゼフはからかっているのがはっきりと分かった。

 

「だが今となってはそんな家同士のしがらみも過去のものだ! 君達は共に手を取り合い、ハルケギニアの仇敵に立ち向かったのだからな! 実にめでたいことだ!」

腕を組み、陽気に大笑いをしながらジョゼフは大仰に何度も頷く。

(なんなの一体……)

この男、自分達を冷やかしているのか、本当に讃えてくれているのか、ルイズら二人にはさっぱり分からず困惑してしまう。

「そなたのことはシェフィールドから聞いている。遠い異国よりこんなハルケギニアへよくぞ参られたな」

スパーダに顔を向けるジョゼフはより好奇に満ち溢れた笑顔を浮かべていた。

対するスパーダは腕を組んだまま冷たい視線を返すのみ。

「そなたこそ真の英雄だ。我らが崇める始祖ブリミルなどより遥かに偉大な功績を残した英傑に相応しい」

「言いたいことはそれだけか?」

冷淡に応じるスパーダだったが、ジョゼフは全く動じないままに話を続けていた。

「はっはっはっ……そうつれないことを言わなくても良いだろう。そなたは我らが誰も成し得ない偉業を成し遂げたのだからな。人間だろうが悪魔だろうが、事実に変わりあるまい」

笑顔を絶やさず吐き出された言葉にスパーダ以外の三人は思わず息を飲んだ。

「だがしかし、悪魔達にとってはとんでもない裏切り行為であろうな。許しがたい大罪だろう」

「っ……!」

張り詰めた顔で三人はジョゼフに見入った。

この男ははっきり告げたのだ。「自分はスパーダの正体を知っている」と。

 

「そんな顔をするな。ルイズ君。別に余は悪魔の一人や二人に偏見など持っておらんよ。第一、この世界の救世主を何故敵視しなければならぬ?」

ジョゼフは困ったように苦笑する。

「何者も文句のつけようのない功績を立てた英雄を目の敵にするような奴など、偏狭で陰険な恩知らずの小人に過ぎん。取るに足らぬわ」

半ば吐き捨てつつジョゼフは不敵な笑みを零す。

どうやら口ぶりからして、スパーダの正体を知りつつも敵意を抱いているのではないらしい。

いや、本心がどうなのかなど、ここまで超然とされているとルイズ達には分かりかねるのだ。

当のスパーダ自身は全く無反応のままジョゼフを見つめ続けている。

「タルブでの戦いは余も見させてもらった。実に壮観であったな。あれ程の大悪魔を難なく追い返すとは。いやはや! この間、城下で暴れた小物など取るに足らぬ力だ。そなたにはハルケギニアの全軍……いや、エルフ共が束でかかっても敵うまい」

 

タルブ戦役――黒き日の混沌――

 

あの頃からこの男はスパーダ達のことを遠くから監視していたのだ。

どこかにガーゴイルでも潜んでいたのか、遠見の鏡でも使っていたのか、全く気付かない間にスパーダの正体を目の当たりにしていた事実に余計にルイズは緊張してしまう。

 

「そうそう。先日、アルビオンで諸国会議とやらに出席してな。そなたのことを少しばかり話題に出してみたら妙に話が盛り上がったよ」

「……っ」

「安心したまえ。魔剣士スパーダの秘密は喋ってはおらぬよ。遥か遠い異国より訪れた文武両道の武人、そういうことになっている。アンリエッタ女王は言わずもがな……アルブレヒトの奴は、半信半疑だったがな。アルビオンの敗残者どもはそなたの恐ろしさを目の当たりにしていたから、すぐに納得したよ」

確かに、レコン・キスタがいなくなったアルビオンでは各国の代表者が集まって会議を開くとルイズ達はアンリエッタから聞かされていた。

つい先日もウェールズは魔法学院を後にしてアンリエッタと共にアルビオンへ渡ったはずだ。

だが予定ではまだ会議は終わっていないはずで、この男だけがここにいる理由にルイズは訝しんでしまう。

 

「ジョゼフ王。その……アルビオンはこれからどうなるのです?」

「ああ。ひとまずは四国での共同統治ということに決まったよ。そこから先のことは知らん。余は代理を残して早々に切り上げてきたからな。つまらん会議には飽き飽きするよ」

ルイズの問いにあっさりとジョゼフは溜め息混じりに告げた。どうにも興味がないと言わんばかりだ。

「そういえば、機を見てアルビオンの王家を復権させるとか言ってたな。だがウェールズの小僧は、少なくとも今の所は自分が即位する気はないらしい」

ルイズは困惑した顔を浮かべた。

確かに本人はルイズ達にもそう告げていたのだ。

しかし、ウェールズが即位しないとなれば一体、この先アルビオンはどうなってしまうのだろう。

さすがに無責任にも放棄したという訳でもないようなのだが……。

 

「まあ、それはともかくそなたの活躍はいずれハルケギニア中に広まるだろう。大したものだ! その内、演劇の主人公になったりしてな!」

ジョゼフ自身の興味と関心は自分達で攻め落としたアルビオンなどではなく、目の前にいるスパーダのみとばかりな極端な態度だった。

本物の悪魔と直接会えるのを楽しみにしていた、という訳でもなさそうなのだが、本当にどうして自分の元に呼び寄せたのか三人にはまるで意図が読めなかった。

「ジョゼフ王。私はお前に色々と話したいことが山とある。……だが差し当たり、今お前と話をつけたい要件はただ一つだけだ」

愛想よくほとんど一人で談笑を続けるジョゼフだが、スパーダの対応はあくまで冷然としていた。

 

「アンドバリの指輪を返してもらおう。私の依頼人はそれが手元に戻ってくるのを心待ちにしているのでな」

本来、スパーダがアルビオンで用事があったのはそれを取り返すためだった。

実の所、邪魔をしたのがジョゼフら第三勢力であるガリアなのだ。

奪った持ち主がレコン・キスタからガリアに変わっただけに過ぎない以上、仕事はしっかり果たさなければならない。

「ミューズよ」

入口で控えたままのシェフィールドの方へジョゼフが向くと、彼女は深く一礼をした。

ジョゼフの後ろ、部屋の奥の執務机の方へ向かうと引き出しの中から小箱を取り出し、その中から小さな指輪を取り出す。

それを持ってジョゼフの横まで来ると、恭しく手渡す。

 

「余も話は聞いている。ラグドリアン湖の底に潜む水の精霊とやらの秘宝……死者に命を与えるマジックアイテム……クロムウェルは悪魔の力を借りて奪っていったそうだな」

手元の指輪をうっとりとするように見つめながらジョゼフは呟く。

指輪からは強い魔力がスパーダにははっきりと感じられていた。

それは水の精霊と全く同じ性質のもの。間違いなく、アンドバリの指輪だった。

「教えてやろう。実は、余の右腕シェフィールドをアルビオンに遣わしたきっかけがラグドリアン湖だったのだよ」

背を肩肘と共に預け、膝を組んでふんぞり返るジョゼフは指輪を軽く前に掲げながら語った。

「空の上から来た小うるさいネズミが入り込んだと知ってな。少しばかり調べて見れば、悪魔の力を借りていると言うではないか。それで、シェフィールドを連中の元に潜り込ませたのだ。おかげで、このハルケギニアが悪魔共に狙われていることも分かったのだよ」

隣のシェフィールドは一礼すると、ジョゼフは満足げに自らの側近を見やり頷いている。

 

「しかし、これを取り返すために、水の精霊の奴は湖の水を増やしているそうだな。迷惑な話だ」

溜め息を漏らしながらジョゼフは指輪を手の上で軽く弾ませていた。

「余としては別に返してやっても構わぬのだがな。正当な持ち主がいるのであれば、その者の手元にあらねばならぬというの道理だ」

「それじゃあ、返してくれるのですね?」

ルイズは意外に思いながらも顔を綻ばせた。

てっきり、手放さないのかとも思ったのだがあまりにもあっさりと返す意向を示すのは逆に拍子抜けでもあった。

仮にも伝説のマジックアイテムなのに、どうも彼自身は何の執着や未練も抱いてなさそうなのははっきりと受け止められるのだ。

 

「だがしかし……もしかしたら、返しても無意味になるかもしれんぞ」

「え?」

ジョゼフは指輪を強く握り締めながら言った。口端を微かに歪めながら。

「今、ラグドリアン湖では異変が起きていると聞いている。ひょっとしたら、今頃水の精霊は滅んでいるかもしれん。持ち主がいなければ、返しようもあるまい」

「何ですって!? 一体、どういことなの?」

いともあっさりと告げられる重大事に思わずルイズは立ち上がってしまう。

スパーダは僅かに眉を動かすのみで静かに話に耳を傾けていた。

「それは余も知らぬなあ。何しろ重要な話に限って余の耳には届かぬ。困ったものだ」

冗談なのか本当のことなのか、ルイズ達にはこの気分屋な男の本意がさっぱり分からない。

もしかしたら、本当は知っているがあえて喋らずにこちらを困らせようとしているのではないか……そんな意地悪さえ感じられてしまいそうだった。

 

「そうだ。近々、我らが精鋭である花壇騎士を現地に向かわせようと考えているのだよ。こういった面倒事を喜んで引き受けてくれる者が、大勢いるのでな。本当に助かっているよ」

(こいつ……タバサを……)

キュルケは唇を噛み締め、ジョゼフを睨みつけた。

すぐ横で立ち尽くすタバサはずっと沈黙を守り続けたまま、ジョゼフに冷めた視線をぶつけている。

これ見よがしにそんなことを語るのは、明らかに目の前にいるタバサに対するあてつけなのだ。

少なくともキュルケ達にはそう受け止められていた。

「魔剣士スパーダよ。ではこうしよう。水の精霊が生きていることを余の前で示してくれれば、これはそのまま返そう。それでどうだ?」

「良いだろう」

あっさりと両者の交渉は成立した。

「では早く急いだ方が良いぞ。水の精霊が先に死んでしまっては元も子もない」

肩を竦めながらジョゼフは皮肉るが、スパーダは無視して席を立つ。

ルイズとキュルケも立ち上がり、初めて対面した奇異な男に憮然の眼差しを向けつつ軽く一礼した。一応の社交辞令である。

 

「ジョゼフ王。連れがお前に少しばかり用事があるそうだ。話だけでも聞いてみたらどうだ」

タバサの肩をポンと叩き、スパーダはいきなりそう告げだした。

「な……」

当のタバサだけでなく、キュルケやシェフィールドまでもが目を見開き愕然としていた。

だがジョゼフ自身は全く反応を示さず変わらぬ薄い笑みを浮かべるだけだ。

タバサはただの荷物持ち。だが、公的には謀反人の娘にして、王族の資格を剥奪された者でしかない。

本来なら招かれざる人間が仮にも国王と――しかも仇敵――謁見が成立するはずがない。

「結構。聞こうではないか」

だが拍子抜けするほどあっさりと即席の目通りは認められた。

この時、初めてジョゼフはタバサを意識の視界に捉え、視線を向けていた。





◆今回登場した銃器について。

〇ケブーリー
dmcデビルメイクライに登場。
原典はバイオハザードのマインスロアーのように爆発する矢を打ち込む特殊な銃。
本作ではDMC1に登場したベルト給弾の水中銃や、DMC2でルシアが使用した水中ボウガンもケブーリーの一種という設定。
タバサが手にしていたのが原典のもの。
購入したのはどれにも該当しないバージョンです。

〇スパイラル-γ
DMC3に登場した対戦車ライフルが元ネタ。
ただし、原典はラハティL-39がモチーフに対して、こちらはバレットM82シリーズをモチーフにした別種。オリジナルのスパイラル(49.5kg)より1/3.5ほど圧倒的に軽い。
違いは口径が12.7mmではなく、ラハティと同じく20mm口径だということ。
25mm弾を使うタイプのXM109のバレルが長くなり、少し軽くなったようなイメージ。
スコープは付いていません。

〇レヴェナント
dmcデビルメイクライに登場したショットガン。
この武器については、ダンテのショットガンとの差別化もあり、以下のように解釈と共にかなり脚色しています。
・設定画ではブローフォワード式のように見られ、ゲーム中でも排莢モーションが無いのでセミオートのようにも見受けられるが、同じ設定画やゲーム中でも銃口が上下二連のように二つあるなど、完全に謎な仕組みになっている。
・ケブーリーの設定画の設定なども含めて活かされていないため、本作では上下二連のショットガンとして設定する。
・デビルハーツ関連の設定は魔銃としての設定のために追加したものです。ダンテのショットガンと違い、遠距離でも威力が落ちにくいという設定。

〇パルチザン
元ネタは江戸時代に日本で使われた棒火矢。

作品の良かったところはどこですか?

  • 登場人物
  • 世界観
  • 読みやすさ
  • 話の展開
  • 戦闘シーン
  • 主人公の描写・設定
  • 悪魔の描写
  • 脚色したオリジナル描写・設定
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