魔剣異聞録~The Legendary Dark Slayer/Zero 作:月に吠えるもの
「……」
タバサは自分の身に置かれた状況が信じられないでいた。
たった今ルイズと共に出て行ったスパーダが座していた場所に自分は腰を下ろしている。
そして、目の前には伯父のジョゼフ本人が座っている。
憎き父の仇が、手を伸ばすだけで届く場所にいる。
あらゆる敵と戦い、経験を積み、力と知識を身に着け、いつかこの手で討ち取ろうとした男が間違いなくそこにいた。
この三年間、ずっと目指していた現実が今、タバサの眼前に間違いなく広がっていたのだ。
「……っ」
膝の上で拳を強く握り締め、唇を噛み締める。
今、この場に自分の杖がないのが実にもどかしかった。
預かっていたスパイラルの包みもスパーダが持って行ってしまったし、第一タバサには使うことができない。
だからここは、自分が抱く叛意をこの男に悟られる訳にはいかなかった。
(タバサ……)
キュルケは怒りを燻ぶらせている親友の姿に眉をひそめる。
タバサを一人残してはおけず、自分だけここに留まることにしたのだ。
無二の親友が仇敵と相対しているのだ。どんなトラブルが起こっても不思議ではないのだから。
(何なのこの男……)
ちらりとキュルケはジョゼフの方へ視線を向けた。
彼はシェフィールドが持ってきたばかりのグラスにワインを注いでいる。
じっと見つめているタバサの視線などまるで意に介さないその平然とした態度は、キュルケにも異様に見えた。
自分が虐げ遠ざけている相手との面会をあっさり認めることさえおかしいというのに、その意図がまるで読めない。
ボトルを後ろに控えているシェフィールドに手渡したジョゼフはグラスには手を付けず、背凭れに両肘を乗せて寛ぎだす。
「しばらく見ない間に少し大きくなったようだな。シャルロット」
数年ぶりに姪に向けてかけられた言葉は、至極普通のものだった。
「ああ、本当に久しぶりだな。直接顔を合わせるのは三年ぶりだ」
あまりにもあっけらかんとした会話にキュルケは目を丸くする。
久しぶりに再会した姪子に向けて伯父がかけるであろう、まとも過ぎる言葉だった。
親しい親類同士であれば、そこから会話が弾むのだろうが……。
「クラリスは元気にしているか? 屋敷でずっと寝たきりと聞いているが」
「……っ!!」
タバサは目を見開き、ジョゼフを激しく睨みつける。
この男が発した言葉は自分の母に対する侮辱だ。
今にも立ち上がって飛び掛かりそうな殺気を発するが、僅かに残る理性が辛うじて爆発しそうな衝動を抑え込んでいた。
キュルケですら激しい嫌悪と怒りに満ちた表情を浮かべるが、ジョゼフは知らん顔とばかりに一人で喋り続けている。
「シャルルは本当に良き妻を迎えたものだよ。気紛れで女を抱いただけの俺などとは大違いだ」
自嘲気味にジョゼフは苦笑すると溜め息を漏らす。
「クラリスはとても心優しい母親だった。自ら娘の代わりに毒を飲んで、心を病むとはな。自己犠牲、というやつか」
タバサに対する悪意が満ちているとしか思えなかった。
一体、誰がタバサの母親を狂わせて廃人にしたというのか。
「どうした? 何をそんなに怒っている?」
しかもその悪意を発する本人は図々しくもタバサに向けてそんなことまで言い出したのだ。
まるで自分が何をしたのか自覚もないみたいに。
「あなたは……!」
激しく声を震わせるタバサだが、ジョゼフは逆に涼しい顔のままだった。
「あの晩餐会は、俺もよく憶えているよ。だが、別にお前達に一言も飲めと言った憶えはない」
膝を組んでジョゼフは怒りに燃える姪を冷淡に見据えていた。
タバサの脳裏には忌まわしい記憶が……母が心を狂わせた三年前の出来事が浮かんでくる。
ジョゼフの命でこの王宮に呼び出され、晩餐会に出席した。
そこで大勢の家臣達と共に待っていたジョゼフは……何の感情も覗えない冷たい瞳でタバサ達を見据えていた……。
挨拶も何も、一言も言葉を発することなく成り行きを見届けていたのだ。
「あの毒は家臣の奴が勝手に用意したものだ。あの頃、ちょうどエルフの国との国境沿いの街に行った奴がいてな。そいつが持ち帰ってきたものだ。名は……何と言ったか……忘れたな。媚びを売ってくるだけのどうでも良い奴だったからな」
顎の美髯を擦りながら考え込むように視線だけを上に向けるジョゼフ。
ふざけているとしか思えないその態度がタバサの神経を逆撫でる。
「俺は別にお前やクラリスがどうなろうと構わなかったな。あのままオルレアンの屋敷に引き籠るなり、トリステインなりゲルマニアに出奔するなり、好きにしてもらって構わなかった。……だが、家臣共はうるさくてな」
そこで初めてジョゼフは表情の中に不快の色を浮かべ始めた。心底鬱陶しそうに吐息を漏らす。
「『国外追放など甘い』『誰に利用されるか知れたものではない』『未来の禍根はすぐにでも絶つべきだ』などとつまらんことばかり騒ぎ立てていた。親の罪が家族にまで及ぶなど、馬鹿らしいとは思わんか? 俺は別に気にせんというのにな」
背凭れに預ける片肘で頬杖を突き、うんざりしたように言い捨てる。
「奴らはシャルルの飼い犬がお前達を担ぎ上げて反乱を起こすのを恐れていた。……小心者だな。反逆でも何でも好きにさせてやれば良いのにな」
怪訝そうにタバサは顔を顰める。
謀反を起こされても構わない。大胆不敵な言葉に思わず息を飲む。
目の前にいるタバサが抱く叛意にも気付いているのではないか……そんな不安さえも感じてしまった。
「面倒だから俺は言ってやったのだ。――お前達の好きにすればいい、とな」
タバサもキュルケも呆然とジョゼフを見つめていた。
本心なのか、ただ適当にいい加減なことを口にしているのか、まるで分からない。
ただ、この男は自分の派閥に属しているであろう彼を擁する家臣達を忌み嫌っている。
「家臣共が好き勝手に動き、勝手に毒を飲んだのはクラリスだ。娘は勘当にしたから王家とはもう何の関係もないと、そう言ったのも同じくな。俺はまだ何も言ってないのに、話し合おうともせず独り合点をしたのはお前の母親だろう。自業自得じゃないか」
ジョゼフは溜め息を零しながら冷たく言い捨てた。
「……!!」
「いい加減にしなさいよ!」
タバサの怒りが限界を超えかけた寸前、キュルケが立ち上がり怒鳴りだした。
成り行きを見守っていたシェフィールドが睨みつけるが、ジョゼフはすっと手を上げて制する。
「どの口が言うのよ! 最初からタバサを手にかけようとしていたくせに!!」
「キュルケ。駄目……!」
自分の怒りが全てそのまま乗り移ったかのように食って掛かる親友をタバサは逆に引き留めようとする。
ジョゼフは無表情のままキュルケの怒りを悠然と受け止めていた。
「あなた、どうかしているわ!! 自分の弟を手にかけて、その家族にまであんな酷い仕打ちを……!」
今にも得意の火炎魔法を叩き込みかねないほど、烈火のごとく怒りを露わにする親友にタバサは目を丸くしていた。
「そんなの、まともな人間がすることじゃないわ!」
けたたましい怒声が部屋中に轟き渡る。
肩を上下させるほどに興奮し激昂するキュルケだが、ジョゼフは全く動じないばかりか平然と細い溜息を吐いて苦笑しだす。
「そうだろうな。それは正しいだろうな。何しろ、自己というものは鏡でも使わねば直接見ることもできんからな。客観的に自分を見つめ直すなど、不可能なことだ。君から見ておかしいと思うなら、俺は本当におかしいのだろう」
「なにを……!」
開き直った態度のジョゼフにキュルケはさらに食って掛かろうとするが……。
「だがツェルプストー君。あえて聞きたいのだが……」
ジョゼフは自分に怒鳴る少女を薄い目付きで見つめてくる。
その視線に危険な何かを感じ、キュルケの言葉は詰まった。
「君の言う、その〝まとも〟とは一体何だね?」
「……なんですって?」
「〝まとも〟な人間、〝まとも〟な人格、〝まとも〟な振る舞い、〝まとも〟な王侯貴族……その基準は一体誰が定めたものなのだ? 君はその〝まとも〟な内に入っているのかね」
「……」
唐突な問いかけに、キュルケは冷や水でも浴びせられたかのように呆気に取られていた。
「〝まとも〟な君は、これまで誰にも疎まれることも憎まれずにもいたというのかな? 風の噂ではゲルマニアの魔法学校で生徒十人を半殺しにして退学になったとか。それで誰にも疎まれなかったとすれば、大したものだよ」
「……っ」
愕然とキュルケは面食らった。
何故、この男は自分のことをそこまで知っているのだろう。
確かにかつて、キュルケは留学する前に在籍していた魔法学校で問題を起こして退学させられている。
原因は当然、色恋沙汰。自身の強すぎる情熱が男達を惹きつけ、それに女達が嫉妬した。
だが良くも悪くも慎み深いトリステインと違い、炎のように気性の激しいゲルマニアの女達は違う。
力尽くで自分の恋人を取り返そうと決闘を持ちかけてきて、キュルケはその全てを受けて立った。
いや、あれはもはや決闘ではなかった。本気の殺し合いだった。女達はプライドもかなぐり捨てて徒党を組み、キュルケを殺しにかかってきたのだ。
当時のキュルケでもさすがに冷や汗をかいたものである。
親から多少は軍人の教育を受けていたとはいえ、生まれて初めて、命がけの戦いというものを味わったのだ。
死闘の
結果、キュルケは何人もの女子達を、メイジとしても女としても立ち直れなくなるほどに打ちのめし……即日学校を追い出された。
――君のような熱すぎる女の子は、〝まとも〟ではないよ……。
学校長はそうキュルケに言い残していたのを薄らと憶えている。
「俺から見てもそんなのは〝まとも〟な奴とは思えんなぁ」
――〝まとも〟じゃないお前が俺を罵る資格があるのか?
そうジョゼフが言っていることを即座に理解してキュルケは唇を噛み締める。
「俺も一人遊びを辞め、民に善政を尽くし、家族や親類を愛し、臣下達に慕われ、君達と同じように魔法を使いこなせている……そうでなければ〝まとも〟ではないということか?」
キュルケは何も言い返せずに黙り込んでしまった。
ジョゼフが述べた言葉の後半には自嘲が込められている。
この男の二つ名は〝無能王〟――王族に生まれながら魔法の才能に恵まれなかったというのは国内外によく知れ渡っている。
まともに魔法を使えないはずなのに、今こうして王の座についている……それは一般のメイジや貴族達の常識から考えればあり得ないことだ。
今のキュルケの糾弾を抜きにしても、たとえ王の座に就いても、この男は誰にも〝まとも〟な存在として受け入れられていない。
「……」
このジョゼフという人間の踏み入ってはいけない何かに足を踏み入れてしまったことに気付き、キュルケは不意に背筋が凍りだした。
◆
「昔、同じようなことを口にした女がいたよ」
ふと微かな自嘲がジョゼフの顔の中に浮かび上がった。
「その女は35年の生涯で二人の兄弟を産んだ。先に生まれた兄よりも、弟の方をより強く愛した。何故だか分かるかね?」
唐突な語りと問いかけにキュルケもタバサも意味が分からず怪訝そうにジョゼフを見返していた。
ジョゼフはそんな二人を意に介さないまま話を続ける。
「弟はたった5歳で空を飛んだ。7歳で炎を完全に操った。10歳で銀を錬金し、12の時には水の根本をも理解した。王国始まって以来の天才的なメイジだった。母親が誇らしくするのは当然のことだった」
そこまで語った所で二人は気付いたようにハッとする。
彼が語るものが何者なのかを察したのだ。
「そしてよく兄の方に言ったものさ。――『シャルルが次男なのが口惜しい』『こんな子など、産まなければ良かった』とな」
気が付けばジョゼフの表情からは一切の感情が消え去っていた。
ずっとジョゼフの後ろに控えて沈黙を続けているシェフィールドは切なげな顔を浮かべていた。
先代ガリア国王・ブルーム――タバサにとっては祖父であり、生前に会ったこともある。
タバサが物心ついた時には既に杖をついて歩くほどに老齢だった。
厳格な人物として知られていたが、それでも孫の自分達には優しかったのをよく憶えている。
(お
その祖父の妻、すなわちガリア前王妃・ヒルダとは顔を合わせたことがない。
無理もない。タバサが生まれるよりもずっと前、もう30年も前に病で亡くなっているのだから。
幼い頃、父に祖母がどんな人物だったのか聞いたことがある。我が子に教育熱心で父の魔法の才能をよく褒めてくれた、と言っていた。
(この男……お
伯父がたった今述べたことも同じだった。父・シャルルは母親から愛情を受けていたのだろうというのがはっきり伝わってくる。
反対に兄・ジョゼフは母に愛されなかったのだということも。
その理由が、タバサにはすぐに察せられた。
祖母は魔法の出来が悪い我が子に対して、タバサ自身も眉をひそめるほど酷薄な言葉をぶつけるくらいに疎んでいたのだ。
「父上も俺にがっかりすることはあっても、そんなことは一切口にしなかった。いや、もしかしたら内心では思っていたのかもしれないが……口に出しさえしなければ、ただの憶測に過ぎんからな。だが、あの女は堂々と我が子を前に口にした」
その態度には産みの親に対する感情といったものが著しく欠落しているように感じられた。
あの女――父親の側と違い、あまりにも無情すぎる口振り。まるで赤の他人としか思っていない。
「実に身勝手な女だった。俺を産みたくなければ、最初から父上に嫁ぎなどしなければ良かったものを。ああ、そもそも結婚をしたこと自体が間違いだったかもしれんな。男に抱かれさえしなければ、俺のような〝まとも〟じゃない王族を産んで後悔することもなかったのだから」
母親に疎まれながらも、ジョゼフの口振り自体に憎しみといったものは感じられない。
ただ淡々と、他人事のように血の繋がった産みの親に対する想いを語り続けている。
その姿がタバサやキュルケには異様に見えていた。
「あの女にとっての〝まとも〟とは、つまりそういうことだ。あの女にしてみれば、メイジと魔法の才能が全てだったのさ。あの女は端から俺達ではなく、俺達の魔法の才能にしか興味と愛情は無かったのだろうよ」
「……」
タバサですらゾッとするほど、ジョゼフの瞳には触れるものを凍てつかせかねない冷酷さが宿っていた。
「恐らく、シャルルと反対の立場であれば……いや、もしシャルルも成果を出せなければ、俺と同じように疎んでいたに違いない」
亡き祖母がどのような人物であったか、タバサはその真実が垣間見えた。
先鋭的なメイジ至上主義……ハルケギニアに蔓延するであろう負の思想の信仰者にして体現者。
魔法の出来の悪い者は、我が子でさえ容赦なく忌み嫌う、メイジとしてのプライドの高い人物だったのだ。
父・シャルルが愛されたのも幸運なことにメイジの才能に溢れ、祖母を満足させていたから。
故に、出来の悪いこの伯父を……祖母にとっては〝まとも〟な才能を持たない我が子を嫌っていたのだろう。
「あの頃は俺なりに努力はしてみたよ。あの女に魔法以外のことで見返してやるために珍しく勉学に励んだりしてな。そう……ちょうど今のシャルロットくらいの頃だったか」
今のタバサは15歳……。ジョゼフも少年時代の頃は、彼なりの熱意を抱いて努力をしていたのだ。
たとえメイジとして認められなくても、王族として出来ることはやってみせる。何も人間の価値は魔法を使うだけが全てではないのだ。
今でこそ無能王と呼ばれる男の意外な過去に二人は面食らう。
「だが結局……俺の望みは叶わなかった。あの女は自分で墓穴を掘って破滅したのだからな。……当然だ。我が子を殺そうとしたのだからな」
涼しい顔で呟くジョゼフにタバサ達は顔を顰め、愕然とした。
ジョゼフは自らの思い出を独り言のように語っていった。
時は今から30年前、ガリアの王族がシャレーの森で催した狩猟会でその事件は起きた。
メイジの狩猟は本来魔法を用いて行われるが、ジョゼフはマジックアローさえも使えない。故に平民の武器である弓を持って獲物を狩ることにした。
シャルルは両親に付き添われ、ジョゼフは花壇騎士を伴ってそれぞれ別行動を取った。
だが騎士達もジョゼフも真昼間から突如睡魔に襲われ始めた。
まどろみの中でジョゼフはローブを身に纏った人影が杖を手にして今にも自分を手にかけようとしている光景がぼんやりと目に映り込んでいた。
悲鳴も出せず抵抗もできなかった。そのまま永遠の眠りに就いてしまいかけたのだ。
「だが、そんな俺を救ってくれたのがシャルルだった……」
穏やかにジョゼフは微かな笑みを浮かべていた。
純粋な嬉しさと感謝の思いが込められているのがはっきりとタバサ達には感じられた。
別れたはずのシャルルはいつの間にかジョゼフの後をついてきていた。
スクウェアになったばかりの天才メイジは、風の偏在による分身を使って両親の元を抜け出していたのだ。
その彼が目にしたのは、兄が賊のメイジによって今にも殺されようとしている場面だった。
すかさずシャルルは自らの魔法を叩き込み、賊の凶行を妨げ、兄の命を救ったのである。
ジョゼフを殺そうとした賊は逃がしたが、シャルルの魔法で手傷を負ったことで魔法人形スキルニルを利用した調査が行われた。
賊の血を吸って同じ姿と記憶を宿した人形はあっさりと真実を答えた。
自分は元北花壇騎士で、王妃にジョゼフを排除するよう命じられたのだと。
「あの女にとってシャルルを未来の王にするためには、俺は邪魔者だった訳だ」
だが、その陰謀は皮肉にも自らが愛するシャルル自身の手によって食い止められた。
王妃の誤算は、誇りにしていたはずのシャルルの魔法の腕前が自分の思惑を超えるほどに成長していたことだ。
「何もできないはずの俺が勤勉になり始めたのが王位を狙う危険な簒奪者に見えたらしい。いや、そもそも単に目障りだっただけかもしれん」
タバサはジョゼフの話が半ば信じられなかった。
いくら我が子の出来が悪いからといって、そこまでの凶行に走るなど狂気の沙汰だ。
だがふと思い返す。祖母のことを話していた父は、妙に悲しげで言葉を濁していたことを。
その気まずそうな態度が、今の話が真実であることを示唆しているように感じられた。
「信じられんか? 無理もないな。王妃が血を分けた王子を手にかけようとしたなど、この上ない醜聞だからな。表沙汰にはなっていない。だが、父上はあの女と大喧嘩にまで発展したよ」
ジョゼフはその時の出来事を何故か面白おかしそうに語った。
シャルルと一緒に陰に隠れてジョゼフは母の言葉を耳にした。陰謀が暴かれた王妃は夫にこう反論したという。
――いずれジョゼフはこの国の災いになる。この国の未来を担うシャルルの王位を奪おうとするに決まっている。未来の禍根を絶とうとしたことの何が悪いの。
タバサは複雑そうに伯父を見据える。
今となっては現実と化した皮肉だが……当時であればほとんど被害妄想とも言うべき偏狂だった。
まだ成人すらしていない少年にそこまでの歪んだ野心があったとは到底思えない。
メイジの能力は正直な所、政治には何の役にも立たない。ただ個人や家柄の威光や名誉を周りに示すだけだ。
幼いジョゼフはただ自分が真の無能者ではないということを周りに証明したい、その一心だったのかもしれない。
だが、そのささやかな努力や夢さえも祖母は拒絶したばかりか、踏み躙ろうとまでした。
「俺もシャルルも驚いたな。父上があんなに愛していたあの女に手を上げるなど、初めて見たよ」
結局、王妃は乱心したとみなされ、容赦なく王宮の一室に幽閉された。
そして、正式な処遇が決まる前に自ら命を絶ったのだという。
眠りの秘薬を丸々一瓶、一気に飲み干して。
「シャルルは本当に優しかった……俺と違って、あんな女でもあいつにとってはれっきとした母親だ。心から悲しんで涙を流していたな」
だがジョゼフの方は母の死に悲しむことはなかった……タバサ達にはそれをはっきりと理解できた。
〝あの女〟と赤の他人のように呼び、冷酷なほどに平然と話すその態度から明らかだった。
長男と母はついぞ、お互いを家族として認め合うことがなかったのだ。
「あの女は自ら命を絶つ寸前、俺を呼び寄せてドア越しでうわ言のように呟いた」
一字一句憶えているという母だった女の恨み言を、ジョゼフは淡々と口にする。
――何故お前は生まれてきた。
――私達に必要なのは、シャルルただ一人だけ。
――お前は生まれてくるべきではなかった。
――お前のような〝まとも〟じゃない無能など、誰も望みはしなかった。
――お前さえ、生まれてこなければ。
――シャルルが先に、生まれてきていれば。
「つくづく、勝手な女だったな……」
何の感慨もなさそうに、ジョゼフは吐き捨てた。
そこには怒りも悲しみすら、産みの親に対する感情は何一つ込められてはいなかった。
◆
「……」
「……」
凄絶な過去の暴露に二人は絶句するしかなかった。
それはまさしく、ガリア王国の闇とも言うべきものだった。歴史の表に明かされないのも無理はない。真実を知るのは当事者のみなのだ。
だが、この男にどんな過去があろうとタバサは決して許す気などなかった。
タバサにとっては今ある現実が全て。自分の全てを奪った永遠の罪人なのだ。
「つまらない長話が過ぎたようだな。いやあ、すまんすまん。シャルロットは俺に用事があるのだったな」
それまでの無情な態度は極端なまでに一変した。
重い空気を吹き飛ばすかのように打って変わって、ジョゼフは陽気に満ちた笑顔まで浮かべて笑い出す。
いい加減なほどな気分屋に二人は困惑するばかりだ。
「して、用件を聞こうではないか。シャルロット」
ようやく謁見の本題に入った。
正直な所、タバサは内心戸惑うばかりだった。元々、ジョゼフと相対するなど全く予定になかったのだから。
スパーダは一体、どんな思惑で自分とこの男を引き合わせたのか分からない。
無論……自分の復讐に手を貸しているのではないはずだ。
もしかしたら、試しているのかもしれない。仇を前にした時、理性を保ったままでいられるのか。
だから、武器を何一つ持たせなかったのだ。
せっかくのチャンスをくれた以上、自分はこの男と話し合わなければならないのだ。
何を話せば良いのか? 考えを巡らせる時間はない。
ほんの十秒足らずでタバサが選んだのは……。
「……何故、父を殺したの?」
それはかつて、あの忌まわしい晩餐会の席で母が切り出したことだった。
王弟妃としての威厳と気丈さを発揮して堂々とジョゼフの罪を弾劾したのだ。
結局、ジョゼフの家臣達が彼女を黙らせようとして有耶無耶になってしまったが……。
「タバサ……」
「あなたがそんなに父を愛していたのなら、何故殺したの?」
認めたくはないが、この男は父を間違いなく肉親として愛していたのだ。
実の母に愛されなかったとしても、兄弟は絆で結ばれていた。
たとえ魔法が使えない無能でも、父はそんなことに関係なく兄を自分の母親の悪意からも救おうとした。
にもかかわらず、父はこの男に殺された。
思い出の中での伯父は、本当に父と仲が良かった姿しか憶えていない。
自分の娘を連れてオルレアンの屋敷によく遊びにやってきては父とチェスを指したり、酒を飲んで談笑していた。
時には自分が父に代わってチェスの遊び相手になったこともあった。
彼の娘が伯父の代わりを務め、父と一緒に横から見守っていたこともあった。
伯父は感心したように、父と一緒に楽し気に笑っていた……。
だが現実には、そんな微笑ましかったはずの姿は微塵もありはしない。
タバサの問いかけに一瞬、ジョゼフは目を丸くしつつもすぐ自嘲気味に薄く笑いだす。
「魔が差したのかもしれんな」
今度はタバサ達の方が唖然としてしまった。全くもって予想の範疇から外れた返答だった。
「俺はシャルルが憎い訳じゃなかった。本当さ。ただ羨ましかっただけだ」
ジョゼフは言う。幼い頃からずっと弟に対して抱いていたという想いを。
魔法の才能に溢れ、家族や家臣達にも愛され、誰に対しても優しかった非の打ち所の無い聖人のような男……。
そんな優秀な弟といつも比べられたジョゼフの心には様々な感情が渦巻いていた。
感心、憧れ、哀しみ、劣等、対抗、悔しさ、嫉妬――
「俺はシャルルの悔しがる姿を一度で良いから見てみたかった。……だが、あいつはあの時にそれを見せてはくれなかった」
どこか寂しげに、ジョゼフは懐かしむように語りだした。
三年前、病に倒れもはや余命幾ばくもなくなった父王が崩御した時だった。
息を引き取る間際、枕元に二人の息子のみを呼び寄せて最後の言葉を呟いた。
自分の後継者、すなわち次のガリア王が誰であるかを。
――次王はジョゼフと為す。シャルルよ、兄をよく支えるのだぞ。
(嘘よ……)
タバサは内心で否定した。作り話だと思った。
この男が本当に王に選ばれたなど、嘘としか思えなかった。
本当は誰が王に相応しいか、知っているはずなのに。
「俺も信じられなかったな。父上は病できっと頭がボケたのかもしれんよ」
まるでタバサの心を読み取ったようにジョゼフは苦笑していた。
「だが、あの時俺はこう思ったものさ。――勝った、とな。あの世であの女を悔しがらせることができる、とな」
くっくっくっ、と笑いを嚙み殺すジョゼフ。
「あの女の誇りの結晶である自慢のシャルルが王に選ばれない……これ程までに嬉しいと感じたことはなかった。どんなにあの世で文句を言おうが、父上は俺を選んだ事実に変わりないからな」
ジョゼフの笑いの中には、言い知れないドス黒い感情が宿っている。
タバサはその異様さに思わず冷や汗が滲みだす。
「俺は別に王位など興味がなかった。そんなものシャルルにくれてやっても良かった。当然だ。あいつの方が俺よりずっと王に相応しかったのだからな。俺のような無能者から王位を譲られたとあっては、あの女もさぞ屈辱だったに違いない」
苦笑交じりに呟くジョゼフにタバサは信じられないとばかりに目を見開いていた。
優秀だった弟を、そして亡き母を見返して優越に浸りたい。
ささやかな感情を満足させるためだけが、この男の望みだったなどと。
なら、それがもうできない今のこの男は何を望んでいるというのか。
「父上が息を引き取った後、俺達は二人だけで玉座の間へ行った。俺はシャルルがほんの少しでも悔しそうにしているのを期待していた。代わりに王位を譲ってやっても良い。そう言ってやるつもりだった。……だけどな、シャルルは俺を見て、こう言ったんだよ」
一切の感情が消え去った面持ちでジョゼフは続けた。
――おめでとう。兄さんが王になってくれて本当に良かった。僕は兄さんが大好きだからね。僕も精一杯協力するよ。一緒にこの国を良くしていこう。
何の邪気も嫉妬も皮肉もない、晴れ晴れとした笑顔で兄を祝福してくれたという。
その言葉だけは、タバサも信じることができた。たとえ嘘であっても信じたかった。
誰であろうとも優しく誠実だった父らしい言葉だと受け止めることができた。
だからこそ、余計にこの男への怒りが高まっていくのが分かる。
「ははは……シャルルは昔からそうだった。本当に優しかった。誰に対しても優しかったよ。俺が家臣や父上に馬鹿にされても、励ましてくれた。俺を気遣ってわざと失敗してくれることだってあったさ。……あいつの優しさに触れる度に、俺は自分がだんだん惨めな気分になっていったんだ」
乾いた笑いを漏らしながらジョゼフは小さく溜め息を吐いた。
「だから俺はシャレーの森の狩猟会にあいつを誘ったんだ」
タバサは思わず息を飲んだ。
シャレーの森……そこは生前の父が最後に足を運んだ場所。
そして、この男が実母の陰謀で命を狙われた場所……。
「気が付いたら、あいつの胸にナイフを突き立てようとしていたよ」
事もなげに、ジョゼフの口からは耳を疑う言葉が出ていた。
「たった……それだけ?」
タバサは声を震わせた。
衝動――それが父を殺した最大の動機。
あまりにも荒唐無稽で、馬鹿げていた。
幼い頃から抱いていた、才能と人徳ある弟へのコンプレックスが爆発した……。ほとんど無意識に肉親を手にかけた……。
そんなどうしようもない理由で、自分の父は理不尽にも命を奪われたことに血の気が引いていく。
「誰かを殺める理由など、みんなちっぽけなものさ。どんな大義名分があろうとな」
冷笑を浮かべながらジョゼフは今まで一度も手をつけていなかったテーブルのグラスに手を伸ばした。
「それとも何かもっともらしい理由でも期待していたのか? お前も案外、趣味が悪いのだな。下手をすればシャルルの名誉を貶めるだけかもしれんのに」
中のワインを口にし、ゆっくりと飲み始める。
二人は呆然としたままジョゼフを見つめていた。
だがタバサの拳だけは、今まで以上に力を込めて硬く握り締められ、震えている。
「あれは本当は事故だった。殺したのは本当は俺ではない。俺の命を狙っていたから殺した。俺を怒らせたから殺した。クロムウェルのように悪魔と手を組んでいたから殺した。王位を奪おうとしていたから殺した。反乱を企んでいたから殺した。いつか反乱されては困るから殺した。――思いつく限りではこんな所か」
「ふざけないでっ!!」
耳をつんざく程の鋭い絶叫が轟いた。
キュルケの怒声など比較にならないその叫びは、いつもの無口で冷静沈着な少女からはかけ離れていた。
「タバサ……」
激情のままに立ち上がり、息を荒くしながら肩を震わせるその姿にキュルケは唖然とした。
ここにいるのはタバサではない、とさえ思わせる感情の発露。
タバサ……シャルロットは瞳を潤ませながら憎々し気に、涼しい顔のままなジョゼフを睨みつけていた。
「父様はあなたが大好きだったのに! 王位を奪おうとしたなんて! そんなのあり得ない!!」
許せない。理解できない。理解したくもない。信じられない。信じたくない。認めない。認めたくない。もう聞きたくもない。
様々な拒絶の想いがシャルロットの中で激しく渦巻いていた。
あまりにも滅茶苦茶な話ばかり聞かされて、抑え込まれていた感情が爆発するのは無理のないことだった。
「あなたが……! あなたが本当は……! 父様の王位を……奪おうとして……!!」
嗚咽混じりにシャルロットの口から出てきたのは、自分が抱いていた確信のはずだった。
多くの人々に愛された父、暗愚と呼ばれた伯父、どちらが本当は王に選ばれたのかなど決まっている。
伯父はそれを不満に思って、父を手にかけ、ついには自分達までも狙った……。
それが、三年前のあの日にタバサが導き出した答えのはずだった。
認めたくなどなかった。信じたくなかった。
自分の仇敵が、〝まとも〟ではない異常者だったなど――
母の献身は空振りで、無意味だったなどと――
三年前から、この男の心には何も無かった。
父への恨みもなければ悪意もない。その妻や娘など端から意識してすらいない。
こんな馬鹿馬鹿しいことなど、信じられるはずもない。
野心もなければ、理想も欲求すらない。
そんないい加減で酔狂な心に、自分達家族は振り回されたのかと思うと、憎まずにはいられない。
「それで……父さま、を……!」
自分の杖がここに無いのが、本当に悔しい。
今の自分はこの男を殺せるはずなのに。
その胸に氷の刃を放ってやれるのに。
大粒の涙が溢れだし、零れていく。
何故涙が出るのか、シャルロット自身にすら分からなかった。
「ふふふふ……はははははは……」
姪の怒りなど、どこ吹く風とばかりにジョゼフは笑い出した。
「シャルルよ。お前は本当に大したものだなぁ。死んでからもこうして愛され続けるのだからな。ここまで愛される者は他にいまい。本当に羨ましい」
天井を見上げながらジョゼフはまるで見えない誰かと話しているかのように呟いた。
「みんなお前が王になることを望んでいた。このように娘もな。だから、みんな思っているのさ。この俺の方が真の簒奪者だ、とな。当然だよなぁ。何せ、父上の遺言は俺とお前しか知らないのだからな。誰も信じはしない。みんな、自分の見たいものだけを見ようとする」
ジョゼフはシャルロットを真っ直ぐに見やった。冷たい嘲笑を向けながら。
「何も知らないのは、実に幸福なことだ。真実を知り、受け入れさえしなければ、夢と理想と願望に浸っていられるのだからな」
「……っ」
「それとも知りたいのか? シャルルがどのようにして死んだのか。あの日、俺とシャルルが何を話したのか。シャルルが本当は、俺よりも遥かに〝まとも〟ではない奴だったのか……」
「……っ!」
歯を食い縛りながらシャルロットはジョゼフを睨み続けていた。
この期に及んで父を堂々と侮辱するなど、許すべからざることだった。
「良いじゃないか。『本当はシャルルの方が王に選ばれ、俺はそれを妬んで簒奪した』お前達がそれを信じて納得しているなら、それで何も不都合はなかろう」
泣きじゃくる子供をあやすように言うジョゼフ。
誠に不愉快なことに、シャルロットが感じたのは〝優しさ〟だった。
何故、この男はそんな感情を自分に向けてくるのか。その神経が、まるで理解できなかった。
「ん……?」
沈黙を保ったままだった黒衣の女、シェフィールドが耳元に手を当てだす。
小さなイヤリングに手を触れ、深刻そうな顔で頷いていた。
「ジョゼフ様……サン・マロンの実験農場より連絡が……」
「そうか」
その報告に満足げに頷いたジョゼフはゆっくりと重い腰を上げだす。
シェフィールドを従えるジョゼフは血走った目でずっと睨み続けている姪のすぐ隣をあっさり横切っていった。
話はこれで終わりだ。そう告げているかのように。
「俺に会いたくなったら、いつでも好きな時に来るがいい。ああ、城の連中には俺から勅命を出しておいてやろう。何、たかが姪が顔を合わせるくらい何でも無いからな。今度はマントでも杖でも好きな物を持っていても構わん」
そう平然と言い置いて、ジョゼフは二人の前から姿を消した。
タバサと共に取り残されたキュルケは呆然と部屋の主が出て行った扉を見つめていた。
「あいつ、本当にどうかしてるわ……」
背筋が凍りそうなほどの異常者にしか思えなかった。
一体、どうすればあそこまで異常な人間になれるというのだろうか。
それは彼自身が身をもって味わった、肉親より向けられた悪意が関係しているのかもしれない。
そう思うと、キュルケは複雑ながら哀れみさえ感じてしまった。
「絶対に、許さない……」
力なく座り込んでいたタバサは深く俯いたまま唇を噛み締めていた。
自分の怒りと叛意を知りながら、あっさりとあんなことを言われるなど、侮辱以外の何物でもない。
まるでタバサの復讐など、取るに足らないと言わんばかりである。
心で燻ぶる、氷のように冷たい憎しみの心はさらに強まるばかりだった。
◆
タバサ達の背後でルイズとスパーダは一連の流れを見届けた。
もっとも、二人の姿は誰にも見えてはいない。
執務室を出た直後、周りに誰もいなかったためにスパーダの閻魔刀で亜空間へと入り込み、引き返していたのだ。
「おでれーた。闇が深えな……いや、深すぎるぜ。ありゃあ……」
ジョゼフ達が退室すると同時にデルフは唖然とするように呻いていた。
ルイズもまたタバサ達と同じように絶句している。
スパーダは腕を組んだまま、部屋を出て行ったジョゼフを肩越しに見つめていた。
(わたしと同じだわ……彼も……)
王族に生まれながら、幼い頃からろくに魔法が使えず家族にも家臣達にも馬鹿にされ期待されない日々……。
どんなに努力をしても報われず、メイジとしての成果を見せなければ決して認めてはもらえず差別される。
それはルイズ自身が味わった屈辱と絶望そのものだった。
しかし、ジョゼフの境遇はルイズよりも遥かに残酷過ぎた。
ルイズは魔法こそ使えずとも、家族達から本人も知らなかったほどの愛情を受けていた。
だがジョゼフは実の母親に愛されないばかりか、理不尽な逆恨みと憎悪の感情を向けられその命を脅かされそうになった。
それはどれほど辛いものだったことだろうか。
(わたしも、あんな風になっちゃってたのかな)
ルイズの場合は逆だった。
自覚しなかった家族への憎しみを心の底に溜め込んでいた。
もしかしたら、それがいずれ最悪な未来を実現していたこともあり得る。
愛する家族を手にかける――
恐ろしい所業を考えた途端、背筋が凍ってしまいそうだった。
「ねえ、スパーダ。彼が言ったこと、全部本当なのかしら……」
「少なくとも嘘はつかん男のようだ」
スパーダはジョゼフという人間の人となりがどういったものかを大体理解できた。
いい加減な気分屋であることには違いないが、良くも悪くもありのままの自分を曝け出せる素直な男なのだ。
今までの会話で見せた感情は偽りではなく、全て本心そのもの。
純粋な子供がそのまま大人に成長でもしたかのような人間性が、あのジョゼフという男の本質なのだろう。
異常者には違いないだろうが、決して狂人という訳でもない。至って正気なのである。
(言うほど無能でもないな)
国内外から『無能王』などと呼ばれているが、そんなものは偏見に過ぎない。
それはシェフィールドという従者を使いこなしたことからも明らかだ。
恐らくこのガリアという大国の中でアルビオンで暗躍していた悪魔達の存在を勘づいていたのは、あの男のみ。
だが、それでも無能と呼ばれるのは、彼が国政には何ら興味を示さないのを隠そうともしないからだ。
「奴自身は本当にタバサに悪意はないのだろうな」
「そうなの?」
「どうやら奴の周りの連中が勝手に動いているだけらしい」
ルイズも話に聞いていたほどジョゼフは不思議と悪人には見えなかった。
飄々としていたあれが本性なのかはさっぱり分からない。
だがタバサに対して何ら敵対心も無ければ、忌避感も抱いていないことだけははっきりと分かる。
というより、今までずっとタバサのことをまともに認識などしていなかったのだろう。
むしろスパーダの言うように、タバサに危害を加えようとしていたのは彼にすり寄っている家臣達なのだ。
そのことを思うと、タバサが抱いていた怒りの念が空回りしてしまいそうにも感じてしまう。
あれだけ怒りをぶつけられても本人は、〝たかが姪の起こした癇癪〟程度でしかないのだから。
「なあスパーダよ……ひょっとしたらあいつは……」
「さてな。結論を出すのはまだ早い」
デルフの含みのある呟きをスパーダは制した。
「何よ? まだ何かあるの?」
「奴のまともに使えんという魔法とやらがどんな物かを見ない限り、何とも言えん」
一体、スパーダ達がジョゼフの何を見出したのか、ルイズには気になって仕方がない。
この悪魔が洞察することはとても重要なことに違いないのだ。
「だが、どうやら〝
「どういうこと?」
「奴は弟を手にかけていない。それは間違いない」
確信したようにスパーダははっきりと頷く。
ジョゼフが弟を衝動的に手にかけようとしたのは間違いない。だが同時に直接手をかけたのも彼ではない。
意図的なのか否か――真実の一端は、ジョゼフ自身がさりげなく口にしていた。
オルレアン公夫人については、公式で名前が設定されていないので名前を設定しました。
ジョゼフ周りの設定はかなり脚色をしてあるので、基本的に原作通りにはならない予定です。
作品の良かったところはどこですか?
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登場人物
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世界観
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読みやすさ
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話の展開
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戦闘シーン
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主人公の描写・設定
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悪魔の描写
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脚色したオリジナル描写・設定