魔剣異聞録~The Legendary Dark Slayer/Zero 作:月に吠えるもの
Another Mission <プロローグ-Red visitor> 序章
中天の空には満月がぽつんと浮かんでいる。
不気味な光を照らす赤い月は、この地方の人々にとっては不吉と凶事の象徴だった。
夜に出歩く者は稀であるが、街の住民は余計に不安となって家に閉じこもってしまう。
そして、彼らは自分達が信じる神へ祈りを捧げるのである。
街の一角にある小さな酒場の店主は暇を持て余していた。
普段から客は閑古鳥とばかりに少ないのに、こんな日ともなれば客は一人も訪れない。
早めに店仕舞いをしてしまおうかと思った矢先……ようやく一人目の客が姿を現した。
「いらっしゃい」
店主は物珍しそうにその客を見つめた。
何とも風変わりな客だった。この土地には不似合いな赤いレザーコートを身に纏う大柄な男である。
筋肉隆々としたその立派な体格に相応しいギターケースを肩に担いでいたが、店主が特に目を引いたのは男の髪だった。
この街では特に珍しい色をした銀髪。
それと同じ髪を持つ者はここでは他にたった一人しかいない。
「ビールかワインをくれ。それからピザのLサイズを頼む。ああ、オリーブは抜きで。それさえしてくれればトッピングは何だって良いぜ」
男はケースを横に置いて席に着くなり気さくかつ、いい加減にそう告げた。
「ついでにストロベリーサンデーもあると有難いんだがな。何しろ長旅で疲れててね。甘い物を食いたいんだ」
しかも図々しくこの地方では場違いな物まで求めてくる始末。
口ではそう言いながらも、銀髪の男は疲れなどまるで感じてないといった様子だった。
「お客さん。観光客か何かですか?」
ビールをジョッキに注ぎながら店主は尋ねた。
もっとも聞かずとも分かり切ったことだ。この街の住人とは身なりから何もかもが違い過ぎる。
第一、この店自体が本来は観光客向けのものである。もっとも観光客自体、この地を訪れることが稀であるのだが。
「ああ、そんなものさ。ここで年に一度のお祭りをするって話を聞いてね。明日、あのでっかい建物でやるんだろ?」
この街の中心には聖堂のような歌劇場がそびえ立つ。確かに明日はこの地では唯一と言って良い行事がそこで執り行われる。
店主はジョッキを差し出すと小さく苦笑した。
「お祭りと言ってもねえ。魔剣祭は大騒ぎをするような賑やかなもんじゃないですよ? 信徒の人達が祈りを捧げるための神聖な儀式みたいなものなんです」
「お祈りねぇ……」
男はつまらなそうに肩を竦めていた。
店主もこの土地独自の宗教の信徒ではあるが、確かに年に一度の祭りごとにしては面白みがないと内心は思っている。
そのため、この男がつまらないと感じるのは理解できた。
店主はピザを作るためにせっせと調理の準備を始めだす。
トッピングは何でも良いと言っていたが、それはそれでどんなピザを作ってやれば良いか困る。
「ここだけの話ですけど、この街のみんなは余所者が来るのを好んでないんですよ。特に今の時期は……。私は仕事柄、そんなことは気にしませんがね」
「ふぅん……」
「まあ、揉め事を起こして教団騎士達のご厄介にならないようにしてください」
ピザを作っている間、男はビールを口にしつつひっそりとした店内を見回しだす。
退屈しているようだったが、一角に置かれたレコードプレーヤーを目にするとそちらの方へ歩み寄っていった。
机の横に置かれた大量のレコードが納められた棚から何枚かレコードを手に取っては戻していく。
「ロクな曲がねえな……」
溜め息を漏らしながらそう独りごちていた。
「ウチの店はクラシック音楽がメインでしてね。何しろ、この街の者は騒がしいのを嫌いますから」
店主は純粋にクラシックの曲が好みなのでコレクションをしている訳だが、この男には興味が薄いらしい。
「今日みたいな日でしたら、モーリス・ラヴェルの〝ボレロ〟なんかがお勧めですがね。二段目の一番端のレコードがそれです」
「結構だ。――お?」
と、男は一枚のレコードを手にすると初めて興味が惹かれたように目を丸くした。
「ああ、そいつはウチの店でたった一つのクラシック以外のレコードですよ。〝伝説のロック
じっとレコードを眺めていた男は口元を僅かに綻ばせ、初めて笑みを見せていた。
「……ああ。俺も大ファンでね」
「私もそれで初めてクラシック以外で興味を持ちましてね。その歌手のエレナは、今はもう引退したそうですがね」
「こいつをかけても良いかい?」
「ええ、どうぞ。ただ、あんまり音は大きくしないでくださいね。夜遅いですから」
男はレコードをセットし、プレーヤーのスイッチを押した。
〝FUTURE IN MY HANDS〟
激しいエレキギターをイントロに、力強い女のボーカルが店内に響く。
席に戻った男はその喧騒なBGMをじっくりと味わうように聞き入っていた。
相当、この曲が気に入っている様子だった。
「それじゃあ、ごゆっくり。ええと、ストロベリーサンデーでしたっけ。そっちの方も用意しますね」
大きなピザを乗せた皿を置き、店主は厨房の奥へと消えた。
ピザのトッピングはトマトソースにクリームチーズ、ベーコンとありきたりなものである。
だが男はご満悦とばかりにピザを口にしていった。
「揉め事は勘弁、ね……そいつは無理な話だな……」
男はぼそりと零しながら苦笑し、一人だけのディナーを楽しんでいた。
これまでのエピソードは文量の関係で、約1か月おきの投稿でしたが、今回の外伝のエピソードは試しとして1~2シーンを小分けにする方式にして、投稿間隔を半分ほどに早めることにしました。
エピソードは土・日のどちらかで投稿させてもらうので、よろしくお願いします。
作品の良かったところはどこですか?
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登場人物
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世界観
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読みやすさ
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話の展開
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戦闘シーン
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主人公の描写・設定
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悪魔の描写
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脚色したオリジナル描写・設定