魔剣異聞録~The Legendary Dark Slayer/Zero   作:月に吠えるもの

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Another Mission <異世界見物-The future> 3章

 

三人はまず人通りのない路地裏に降り立ち、大通りへ出ることにした。

武器は目立つので収納したスパーダは手ぶらとなって雑踏の中に踏み込んでいく。

小走りに飛び出てきたルイズは弾むような足取りのまま落ち着きもなく周囲を見回している。

「すごい……トリスタニアとは全然違う……」

トリスタニアのブルドンネ街の大通りよりずっと広く、疎らにしか設置されていない街灯も数多く立っている。

中には三色の光を放つ不思議な柱を初め、見たことがない物でいっぱいだ。

建物の印象は幼い頃、姉のエレオノールや母と共に一度だけ訪れたことのあるブリミル教の総本山・ロマリアに似ていると言えなくもない。

 

(異世界と平行世界……)

タバサもルイズほどではないが興味深そうに街並みを見渡している。

平行世界については先程スパーダから簡単に説明を受けたが、自分が元いた世界とは全く異なる世界を訪れたなど実に新鮮な体験だ。

ルイズは以前、スパーダが別の獣の首で平行世界のハルケギニアを訪れたことがあるのを、デルフを通して見ていたそうだ。

しかも自分とは別の世界のタバサも垣間見れたという。姿形や性格などは全く変わらなかったそうだが。

(違う世界のわたしも同じ……)

それを聞いて微妙な気分だった。

シャルロット・エレーヌ・オルレアンは元々明るい少女だったが、今となってはかつての快活な姿は微塵もない。

今のタバサとほぼ同一らしい平行世界の自分も、同じく過酷な運命を辿ったのだと察せられた。

世界は違っても、自分も家族も幸せにはなれない……。

 

「ずいぶんと様変わりしたな……」

一千年以上ぶりに帰郷してきたフォルトゥナの変わり様にスパーダまでも嘆息した。

当時はトリスタニアに近い街並みだったのは薄っすら憶えているが、今はかなり文明が発展しているであろうことは明らかだ。

18世紀の半ば以降で馬車が主流だったのに、それらしい物はどこにも見えない。

代わりにあるのは機械仕掛けらしい箱型の車だ。

最初はスパーダがハルケギニアに来る寸前の時代に前後した平行世界に飛んできたのかと思ったのだが、そうではないらしい。

間違いなく、ここは自分が元居た時代より遥か未来の世界なのだろう。

 

街路を歩く三人は、道端に設けられている一体の銅像に注目しだす。

「スパーダに似てるわ……この像」

その像は馬に跨り、剣を掲げ、大きな二対の角を持つ兜を被った騎士の姿をしていた。

だが顔は明らかに人間のものではなく口元に牙を生やし、恐ろしい形相である。

「これは世界中でよく見かけたな。大昔の戦いで活躍した英雄をモチーフにしているらしい」

銅像を見上げながらスパーダは唸った。

旅先の公園や広場などで目にすることが多かったこの像は、さる高名な彫刻家が作り上げた物のレプリカだ。

「おいおい、そりゃあお前さんのことじゃないのかい?」

「どうだろうな。私も所詮は伝承の存在に過ぎんからな」

魔剣士スパーダの伝説は世間一般ではおとぎ話として風化しつつある。

この像にしろ、スパーダをモチーフにしたであろう芸術作品は、作った人間の偶像や誇張が入っているであろうことは想像に難くない。

別に自分をモチーフにした代物が世界中に散らばっていようが、当の本人にとっては知ったことではなかった。

 

「でも、スパーダはちゃんとこうして英雄として人々に奉られてるんだわ。始祖ブリミルと同じように……」

「そういえば、このフォルトゥナでは魔剣教団とかいう連中が結成していると聞いているな」

「魔剣教団?」

風の噂でスパーダはこの地にある宗教団体が出来上がっているのを耳にしていた。

いつの頃からか魔剣士スパーダの伝説と偉業を今なお強く信じる者達は、英雄たる悪魔を神として崇め、それ以外の悪魔達を排し人間界の平和を守ることを教義とするようになったという。

この土地特有の土着宗教に過ぎないらしいが、独自の騎士団をもって実際に悪魔達と戦っているらしい。

スパーダがフォルトゥナを訪れようと決心したきっかけの一つもその魔剣教団の存在からだった。

 

「始祖ブリミルみたいにスパーダを崇拝してるっていうの?」

「そうらしいな」

目を丸くして感嘆とするルイズに対してスパーダはさほど興味もなさそうに顎をさする。

「ずいぶん他人事だな。お前さんを神サマみたいに扱ってくれてるんだぜ?」

「私は英雄にも神にもなったつもりはない。連中が崇めているのは、所詮は偶像に過ぎん。この像と同じだ」

始祖ブリミルにしろスパーダにしろ、崇拝する者達は結局の所、信仰の対象である本人を直接崇めているのではない。

彼らは自分達の心が生み出した理想や願望に対して強い畏敬の念を抱いているのであって、崇拝されている本人の気持ちなど考えてはいないだろう。

だからスパーダは自身を崇めるような集団が現れても、何の感慨も抱くことはなかった。

崇拝されて喜ぶのは余程のナルシストか自意識過剰な奴、もしくは崇拝者を利用してやろうと目論む支配者くらいのものである。

むしろスパーダにとっては自分の名を悪用しているのではないかというのが僅かな気掛かりだった。

 

「何をじろじろ見てんのかしら……」

道行く街の人々はみんなフードを被っている特徴的な身なりをしている。

だが彼らはすれ違う三人を奇妙な物でも見るような怪訝な視線を浴びせてきていた。

「ここの連中は余所者をあまり好まないからな」

フォルトゥナは元来、閉鎖的かつ排他的な気質を持っている。

さすがに極端に露骨ではないにせよ、外界の人間が騒いだり干渉されたりするのを嫌う。

今のスパーダ達も彼らにしてみれば部外者の一員に過ぎないのだ。

もっとも、そんな気風故に独立性を保っており、大陸での争いごとにも巻き込まれることなく自治が行えている訳だが。

 

「みんな、そういえばどこに行くのかしら?」

「あのでっかい建物に向かってるみてえだな」

見れば大通りの遥か向こう側には大きな門が見え、住民はみんなそこを通っているのが分かる。

門の先には、一際大きな聖堂のような建物がそびえていた。

あそこでこれから何か執り行われるのだろうか。ルイズはもちろんタバサも気になっていた。

 

「今のうちに言っておこう。私のことは、ここでは名前で呼ぶな」

人通りが疎らになってきた中、唐突にスパーダはそう告げていた。

ルイズは怪訝そうに首を傾げだす。

「どうして?」

「何かと面倒だからな」

ここの住民がスパーダという伝説の存在を崇めていたとしても、それは決して今ここにいるスパーダ本人ではない。

スパーダが名乗った所で誰も信じはしないだろうし、むしろ自分達の崇める神への不敬や侮辱として憎悪するに違いない。

本来ここに自分がいてはならない以上、彼らが信じる神の名を騙ることは許されない。

「まあ、神サマが二人もいちゃあ、ややこしいもんな。じゃあ、何て呼んでやろうか?」

腕を組んでしばしスパーダは考え込んだ。

異国の貴族の肩書きでフォルトゥナの家名を名乗るのよりも意外にやや難しいことだ。

ルイズ達が呼びやすいような仮の名を色々と思い浮かべてみるが、中々適当なものが思いつかない。

 

自身のスパーダ(SPARDA)の名は〝剣〟を意味しており、イタリア語でも同じ意味と言葉になる。

それを別の国の言葉で言い換えてみても、今一パッとしないし、ルイズ達にも覚えにくそうなものばかりだ。

考えに考え……結局、考え付いたのは実にシンプルなものだった。

「〝(ディー)〟――それで良い」

ルイズは呆気に取られて顔を顰めてしまう。

「〝(ディー)〟ぃ? 何だぁ、そりゃあ」

「何で〝(ディー)〟なの?」

「ただの悪魔(Devil)ならそれで充分だ」

何とも素っ気なく無味乾燥の極みとしか思えない呼び名である。

全く持ってセンスがないな、とスパーダも自嘲するしかなかった。

 

と、一行が銅像から離れようとしたその時である。

「きゃっ!?」

「……おっと!」

突然、前から走ってきた相手とすれ違いざまにルイズはぶつかってしまい、路上に倒れかけた。

スパーダの手が素早く伸びて体を支えてくれたため、辛うじて倒れずには済んだ。

「ごめんな。急いでたもんだから」

ぶつかった相手はギーシュ達と同年代くらいの若い青年だった。

スパーダと同じ銀の髪がとても目を引き、暗い外套を身に纏う彼は少し申し訳なさそうにルイズに軽く詫びてくる。

だがルイズはキッとその青年を睨みつけて怒鳴りつけた。

「自分からぶつかっておいて、何よその態度は!」

「……悪かった。謝るよ」

激しく食って掛かってきたルイズに彼は再度謝ってくる。

だが溜め息交じりだった上に、どこか面相臭そうな礼を失する態度が余計にルイズを刺激した。

 

「あんた、人にぶつかっておいてそんな不真面目な謝り方をするの!?」

「……どうすりゃ良いって言うんだ? 土下座でもしろってか?」

彼も怒りが収まらないルイズの態度がうんざりしているのか、あからさまに顔を顰めだす。

「あんた……!」

「そこまで」

杖を抜こうとしたルイズの手をタバサが掴んで制した。

「何よ!」

「彼の右手。怪我をしてる」

ハッとしてルイズは青年の右腕を見た。

よく見れば彼の右腕はギプスで覆われ、しかも首から吊るしているではないか。

大怪我をしているのは誰が見ても明らかである。

さすがに言い過ぎたことを理解したルイズは気まずそうに彼から目を逸らす。

 

「ああ……気を遣わなくて良いさ」

右腕が痛むのか、左手で摩りながら青年は小さく溜め息を漏らす。

「急いでるのだろう? 早く行ったらどうだ? 連れが面倒をかけたな」

スパーダが促すと彼は思い出したように振り返り、足を踏み出そうとする。

「あんた達、観光客だろ? ここらは物騒だから、他のみんなと一緒にあの歌劇場にでも行った方が良いぜ。もうすぐ魔剣祭が始まる所だしな」

そう言いながら顎で門の向こうに立つ聖堂を指した青年は全速で走り去っていった。

 

「魔剣祭って何かしら?」

「さあな。行ってみれば分かることだ」

どうやら今日は何かしらの催しが行われる日のようだ。

住民達はそれに参加するためにあの歌劇場とやらに向かっているに違いない。

「あの坊主、この街を物騒って言ってやがったが、どういうこった?」

「ここは今も昔と変わらんようだな」

あの青年の言葉の意味がスパーダにはよく理解できる。

元々、このフォルトゥナはかつて魔界の侵攻を受けた曰く付きの土地。

それを食い止めた後も……いや、それ以前にここは土地の関係で悪魔達が出没しやすい環境になっている。

故に、スパーダが領主を務めていた頃も下級悪魔はよく姿を現していた。

一千年以上の時が経とうと、それは変わらないようだ。

事実、このフォルトゥナに足を踏み入れた時にも悪魔達の気配を感じていたのだから。

あの青年が――コートが翻った拍子に僅かに見えた銃を携えて――向かっていった方角には、特に――

 

作品の良かったところはどこですか?

  • 登場人物
  • 世界観
  • 読みやすさ
  • 話の展開
  • 戦闘シーン
  • 主人公の描写・設定
  • 悪魔の描写
  • 脚色したオリジナル描写・設定
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