魔剣異聞録~The Legendary Dark Slayer/Zero   作:月に吠えるもの

122 / 181
Another Mission <紅の剣士-Blackened Angel> 6章

 

歌劇場の中から悲鳴と銃声が外まで漏れてきている。

劇場前の広場でスパーダはその喧騒を聞きつつも、目の前のことに集中していた。

スケアクロウの一群は、全身を無数の赤い刃――幻影剣に貫かれて倒れ伏している。

周りに人がいないので遠慮なく使うことができる幻影剣は大して音も立てず、まとめて敵を葬れるので実に効率が良い。

「やはり一時凌ぎにもならんか……」

周りの柵や門を飛び越えて現れる新手のスケアクロウ達にスパーダは目を細めた。

この街には今、大量の悪魔達の気配で満ち溢れている。それもその数は増えていくばかり。

街の至る所で出没しているのは間違いない。

あの青年――ネロも先刻はその一群を蹴散らしてきたのだろうが、結局意味が無くなってしまったようだ。

 

「やけに魔力が強まっているな……」

この世界を訪れた時から、フォルトゥナの地に強い魔力が満ちていることをスパーダはしっかり感じ取っていた。

それはフォルトゥナの土地本来のものではない。まるでかつて魔界の侵攻を受けていた時に近い程の膨大な魔力が充満しつつあるのだ。

しかもその強さは徐々に、極僅かではあるもののさらに増大しているのが分かる。

「自然にはあり得ん。ならやはり人為的か……」

考え込む間にもスケアクロウ達は立ち尽くすスパーダに次々と飛びかかってくる。

だが見向きもされず射出される幻影剣に容赦なく貫かれ、迎撃されていた。

このスケアクロウ達がここまで大量に、しかも短時間の内に何度も出没するのは、このフォルトゥナが半分魔界化しかけているも同然である証拠だ。

放っておけば被害は大きくなるばかりである。

 

「……ん」

新手を全滅させてふと振り返ると、歌劇場の入口に大勢の人だかりが集まりつつある。

だが大階段を降りた先から広場に続く回廊の間には薄赤い光の壁が出来上がっていた。

住民達は壁に阻まれて先に進むことができずに立往生し、困惑している。

「しばらくそこにいてもらおうか」

届きもしない声を投げかけ、前を向き直したスパーダは市街地に続く門に向けて歩き出す。

スパーダが張っておいた即席の結界は、人間はおろか下級悪魔達すら通さない。

今、この街には大量の悪魔達が徘徊している以上、下手に外に出るよりは劇場の中の方がまだ安全である。

「……十分で済ませるか」

結界が維持できる時間はそう長くはない。

懐からレヴェナントを取り出し、レッドオーブをもう片手の上で弾ませながら悪魔達の蔓延る大通りを進んでいった。

レッドオーブを媒介にした結界を街の大半に行き渡らせるなら、それだけの時間であれば充分に可能だ。

 

――ネロ……!

 

――ここはクレドに任せるんだ! 俺達がいちゃ足手まといなんだよ!

 

脳裏では声がざわめき、劇場の中の様子がデルフを通して伝わってくる。

ぼんやりとしたイメージもいつものように脳裏に浮かんでくるが、さすがに詳細までははっきりしない。

後でどこかの時空神像で把握しておく必要がありそうだった。

フォルトゥナの各地には時空神像が散らばっているはずだが、一千年以上の時が経ってスパーダが記憶している場所に残っているかが気掛かりである。

 

「Ridiculous…….(笑わせる……)」

悪魔達を次々と幻影剣とレヴェナントで屠りながらスパーダは小さく冷笑した。

歌劇場で見届けた魔剣祭は、はっきり言って歌姫の聖歌しか価値は無い。スパーダが途中退席した一番の理由は実の所、それだけだった。

教皇の説法はデルフを通して一応聞いてはいるが、上辺だけの戯言に過ぎない。

あのホールでスパーダは無数の悪魔の気配を感じ取っていた。

それも観客ではなく、控えていた騎士団の中にだ。

「所詮はカルトに過ぎんか」

魔剣教団が単なる土着の穏健な宗教集団でないことは明白だった。

 

 

既にホールは閑古鳥も同然と化していた。

観客席に残されたのはルイズとネロ、そして歌姫の三人だけ。

教皇も護衛の騎士達を伴って、何とか会場の外に逃げおおせていた。

舞台の上での乱闘劇は終わる気配がない。

「ぐわあっ!」

赤い男の大剣は騎士の一人の身体を腹ごと貫いたばかりか、突き刺したまま難なく持ち上げてしまう。

豪快に振るわれる肉のハンマーは周りの騎士達に叩きつけられ、次々に薙ぎ倒されていった。

床に倒れたままのタバサの頭上を吹き飛ばされた騎士が掠める。

 

(強い……)

それがタバサの正直な印象だった。

二分足らずで十人以上もいた騎士達をまるで赤子のごとく容易くねじ伏せてしまう圧倒的な実力。

彼が剣士として如何に卓越し凌駕しているかを物語っている。

(この感じ……?)

それと同時に感じる違和感と既視感。

彼の剣技は何故かタバサには見覚えのあるものだった。

周りの敵を全て薙ぎ払うような、力に満ちた剣捌き――それは自分達が散々目にしている伝説の魔剣士と全く同じなのである。

 

(どうしてスパーダの技を……?)

ルイズも同じ気持ちだった。

何故、あの男がリベリオンを持っているのか。スパーダと同じ剣技を操れるのか――

全く意味が分からずに困惑してしまう。

(……スパーダは何をやってんの!?)

(野郎も取り込み中さ。こりゃあ俺達だけでやるしかねえぜ!)

ウズウズしながらルイズは小さく地団駄を踏む。

外でも悪魔達が蔓延っているらしいが、スパーダなら早々に片づけて戻ってきてくれても良いはずである。

彼が来てくれなければとても勝ち目はない。そんな不安が生じてしまうほどに、あの赤い男は圧倒的な強さだった。

「そうだわ……! テレポートで……」

ハッとしてルイズは懐をまさぐり、肌身離さず持ち歩く始祖の祈祷書を取り出す。

新しく覚えた虚無の魔法〝転移(テレポート)

あれを使えば一瞬でスパーダをこちらに呼び寄せることも、迎えに行くこともできるはずだ。

爆発(エクスプロージョン)〟や〝解除(ディスペル)〟も、覚えた虚無の魔法のページにはしおりを挟んですぐ使えるようにしてある。

我ながら何とも良いアイデアだ。

 

「え……?」

目当てのページを即座に開いて、ルイズは愕然とした。

(んん? 一体どうしたんだ、娘っ子)

呆然と祈祷書に視線を落とすルイズは信じられないとばかりに目を見開く。

目をゴシゴシと擦ってみてもう一度じっくり、顔をページに近づけてもみるが、何も変わらない。

(……な、なんにも書いてないのよ! 始祖の祈祷書に! これって、どういうことなの!?)

ルイズは自分の左手を見る。指にはアンリエッタから授かった水のルビーがちゃんと填められている。

いつもなら祈祷書には薄っすらと光を纏った文字が浮かび上がり、始祖ブリミル直筆の但し書きと古代のルーンが記されているはずだった。

始祖のルビーと秘宝、そして虚無の担い手。これらが揃うことで初めて虚無の呪文を読むことができる。

そのはずなのに、今ルイズの前には何の変哲もない白紙のページが開かれているのみだった。

 

そうこうする内に舞台の上での戦いは更なる展開を迎えだす。

騎士達は悉く赤い剣士によって返り討ちにされ、辛うじて生きている者も昏倒し地を這わされていた。

教皇を逃がすために殿を務めていた騎士はずっと前にかざしていた剣を両手で握り、赤い男と相対する。

大剣を肩に担ぎながら男はたった一人残された騎士をじっと見据えていた。

「兄さん!」

「ネロ! キリエを連れて逃げろ! 本部から応援を呼ぶんだ!」

歌姫キリエはずっと兄が心配で逃げずにいた。

ネロが腕を引っ張って避難させようとしてもその場に留まり、ただ兄や他の騎士達を案じ続けているのである。

「了解! すぐに戻るぜ!」

「ネロ……!」

「ここはクレドに任せるんだ! 俺達がいちゃ足手まといなんだよ!」

ネロは多少強引にキリエを引っ張って一番近い出口へと駆けだす。

だが不安に駆られるままなキリエはちらりとルイズの方を見やった。

「まだあの()が……!」

白紙の祈祷書に唖然としていたルイズはハッと我に返っていた。

ネロもまたルイズの方を見て焦りの表情を浮かべつつも、キリエを連れてホールから飛び出していく。

 

「お前達も逃げろ! ここは危険だ!」

クレドの手にする剣が激しい唸りを上げる。と同時に、片刃の刀身の根本近くに施された装飾から小さな火が噴きだしていた。

呼びかけられたルイズ達は逃げなかった。いや、逃げられなかった。

スパーダが戻ってくるまで、何としてでもあの赤い男を足止めにしなければならない。

ここの騎士団だけでは力不足なのは目に見えていた。

「ハアァッ!」

もうクレドはルイズ達に気をかける暇もなかった。

耳障りな轟音を響かせる剣を手に目の前の敵へと斬りかかる。

赤い剣士は今まで通りに、振るわれた刃を自らの剣を振るって難なく弾き返す。

だがクレドは体を捻って即座に切り返し、二撃目を繰り出した。

男の方もまた切り返してはクレドの放つ一閃を次々といなしていく。

片手で大剣を棒切れのように難なく振るってあしらうが、相当に重い一撃のようで剣がぶつかり合う度にお互いの刃が跳ね返される。

だが両者ともに怯みもせずそれどころか弾かれた反動さえも利用して動きを加速させ、絶え間ない斬撃を繰り出していく。

他の騎士達がまるで歯が立たなかったのに、クレドだけは違った。

キレのある太刀筋は赤い男の剣技にも引けを取らず、互角に渡り合っている。

男の反撃で振るわれる強烈な一撃も、剣で防ぐと共に衝撃を脇に逸らし受け流すという芸当までこなしていた。

(こりゃあすごいね。二人ともすげえ使い手みてえだな)

デルフが思わず感心してしまうほどに凄まじい激闘は、いつまでも続いていた。

 

舞台の前ではルイズが、その脇ではタバサが二人の剣士達の戦いを見守っていた。

割り込もうにもその隙さえまるで見当たらない。

(無理だわ……。彼じゃ勝てない)

心なしか赤い男の方が優勢であるようだった。

彼はクレドの振り上げた斬撃をスッと体を僅かに逸らすだけで紙一重にかわしてしまう程の余裕さえ見せている。

だが男の方もクレドの防御を崩すことができずにおり、膠着状態に陥っているようだった。

やがて舞台の中心で両者の剣は真正面から激突し、鍔迫り合いに持ち込まれていた。

互いに一歩も引かず、触れ合う剣同士が噛み合う音を小さく鳴らしている。

「……フンッ!!」

小さな炎の噴射と共に一際激しい騒音を立てる剣をクレドは一気に押し出し、相手を弾き出す。

赤い男は後ろに軽くよろめき、クレドはすかさず追撃を仕掛けた。

大きく薙ぎ払われた鋭い斬撃だったが、虚しく空を切るのみだった。

 

「さすがは騎士団長だな。良い腕してるぜ」

宙に跳び上がっていた男は壇上に着地していた。

剣を担いだままクレドを見下ろし、微笑を浮かべている。

「しかし、せっかくの剣舞の観客が二人だけっていうのはちょっと寂しいよな」

男はちらりとルイズとタバサの方へ視線を向けていた。

「戯れ言を!」

剣先を突きつけてクレドは叫ぶ。

クレドの方も顎に整った髭を生やして厳めしい顔つきをしており、赤い男も無精髭をしているのだが、雰囲気は全然違う。

片や見るからに厳格で生真面目そうな騎士団長のクレド、それと正反対と言わんばかりに赤い男は不真面目そうで軽薄だ。

正規の騎士に、流浪のように見える剣士同士なのに、不思議と赤い男の方が数段格上のベテランらしい貫禄さがルイズ達には感じられた。

(スパーダにそっくりだわ……)

手にするリベリオンも相まって、その姿は魔剣士スパーダと重なって見えてしまう。

恐ろしく強く、大勢の騎士達を殺めてすらいるのに不思議と恐怖や威圧感は感じられなかった。

 

「このフォルトゥナに、一体何をしに来た!」

「企業秘密さ。ま、ついでに観光でもしようと思ってるんだけどな」

剣を突きつけられながらも赤い男は肩を竦めていた。

(何なのこいつ……)

(本当にふざけた野郎だぜ)

だが性格はスパーダとは全然違って、実に馴れ馴れしい。

はっきり言って威厳の欠片もありはしなかった。

「クレド!」

そこに先程出ていったはずのネロが姿を現した。

クレドは僅かに一瞥して眉間に皺を寄せた。

「何故戻ってきた、ネロ! 応援はどうした!」

「駄目だ。劇場の外に、結界が張ってやがる。みんな出口に押しかけて大騒ぎだ。内線で応援は呼んでおいたけど、あれじゃ他の連中も中に入れねえぞ!」

焦り気味に叫ぶネロにクレドはさらに顔を顰めると男から静かに後退っていく。

「……分かった。それはこちらで何とかする。戻るまで奴を足止めできるか?」

「さあね。やれるだけやってやる」

言いながら、ネロはコートの裏に手を伸ばして拳銃を一丁取り出した。

スパーダが使う物とも、赤い男が持つ物ともまるで違う大柄な銀の銃だった。

「無理だけはするな。奴は手強いぞ!」

ネロと入れ替わるように舞台を降りたクレドはホールから立ち去って行った。

赤い男は壇から颯爽と降りると舞台に上がってきたネロを見つめて薄い笑みを浮かべだす。

「さあ、第二ラウンドといこうじゃねえか、おっさん!」

銃声と共に、縦に並ぶ二つの銃口から弾丸が吐き出された。

 

作品の良かったところはどこですか?

  • 登場人物
  • 世界観
  • 読みやすさ
  • 話の展開
  • 戦闘シーン
  • 主人公の描写・設定
  • 悪魔の描写
  • 脚色したオリジナル描写・設定
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。