魔剣異聞録~The Legendary Dark Slayer/Zero   作:月に吠えるもの

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Another Mission <大乱闘-Three to One> 7章

 

ネロの放った銃弾は赤い男を捉えることはできなかった。

あっさりと頭を横へずらすだけでかわされ、後ろの柱の一部を削るのみだった。

「よ、避けた!?」

その光景を見てルイズは仰天した。

(できねえこともねえが、まさか本当にやりやがるとは……!!)

弾道を見切ってしまえば直線的に飛ぶ弾丸をかわすのは理屈で考えれば不可能ではない。

だが弾丸のスピードはマスケット銃レベルでも目で捉えられない程に速い。あの距離ではとてもじゃないが発砲と同時に避ける動体視力と瞬発力は如何にスクウェアメイジと言えども人間には発揮できない。

スパーダのような人外でもなければ不可能なことを、あの男はあっさりとやってのけたのである。

「いつまでここにいやがるんだ! 早く逃げろよ!」

と、ルイズ達に向けて叫ぶネロは顔を顰めていた。

自分の銃撃がかわされたことが不快であると同時に、二人の存在が邪魔だと言わんばかりだ。

「馬鹿言うんじゃないわ! 誰が逃げるもんですか!」

「これはショーじゃねえんだ。観光気分も大概にしろ!」

相当イライラした様子でネロは怒鳴り返す。

彼にしてみればルイズ達は他の観客達と同じく、戦いの邪魔となる足手まといでしかない。

無論、ルイズは引き下がる気はなかった。

「あんたこそ怪我してるじゃないの! 無理するんじゃないわ!」

「……っ」

その指摘にネロは苦々しい顔を浮かべだす。

彼は今までもずっと右腕がギプスと包帯に覆われている。

それだけでも圧倒的に不利だというのに片手一本だけで戦おうとする方が、ルイズにしてみれば無鉄砲にしか見えないのである。

 

「俺は別に構わないぜ? 一人でも観客がいてくれるのは悪くない」

赤い男は担いでいた剣を背中に戻し、壇の上に平然と腰をかけていた。

「来なよ、坊主。応援とやらが来るまで遊んでやるぜ。手加減はしてやるよ」

堂々と膝を組んで余裕に満ちた態度はまるで崩さないばかりか、どこか茶化すようにネロを手招きまでしてくる。

その挑発的な態度が気に食わなかったのか、ネロはさらに鋭い目つきで男を睨む。

「Fuck you!(ふざけやがって!)」

さらに銃を二発、三発と連射しながら横へ走り出すネロ。

だが男はそのままの体勢で両手に銃を構え、ネロに向けて発砲していた。

避けようともしない男とネロの間の中空で小さな火花が散った。二人が同時に発砲する都度、甲高い金属音と共に同じ現象が起きる。

「まさか、撃ち落としてんの!?」

(ああ、間違いねえぜ。何て野郎だ)

唖然とルイズは二人の銃撃の応酬に目を見張った。

スパーダの愛銃であるルーチェとオンブラに色も形もよく似た二丁の拳銃を操る赤い男の射撃もまた、スパーダと撃ち方もそっくりだった。

ハルケギニアの銃では不可能な連続射撃をスパーダの銃は難なくできるというのに、ネロにしろあの男にしろこの未来の世界の銃も同じことができるというのは驚きだ。

しかも、あの男は相手の銃弾を撃ち落とすなどという離れ業までやってのけるなんて、化け物染みている。

 

「くそっ!」

舌を打ったネロは手を引いて発砲を止めた。

ネロの射撃をことごとく相殺した赤い男は壇から降りて銃をしまいだし、両手を横に広げだす。

ちらりとルイズ達に視線をやり、満面の笑みを向けてきた。

まるでちょっとした余興を子供達にアピールでもしたかのような得意げな顔だった。

「余裕ぶっこきやがって……ムカつく野郎だ」

苛立ちを隠さないネロは足元に転がっている物を蹴り上げ、宙を舞ったそれを掴み取った。

男に倒された騎士団の一人が使っていた剣だ。クレドの持っていた剣より少し小さく刀身も細い。

「おい……」

前に進もうとしたネロは足を止めて目を丸くした。

それまで二人の戦いをじっと傍観していたタバサが隣に立っているのである。

 

「一人じゃ無理。わたしが隙を作る」

「隙を作るって……」

ネロは先程、衆人環視の中で奇襲してきた男に誰よりも先に飛びかかったタバサの姿を思い起こす。

情けない話だが、騎士団や自分さえも動けなかったのに、部外者であるはずのこの少女が教皇を守ることになったのは不覚の極みとも言うべき醜態だっただろう。

困惑するネロを尻目に、タバサはすっと杖をかざしだす。

「あん?」

静かに口ずさむルーンの呪文にネロも赤い男も目を丸くしていた。

「――アイス・ストーム!」

「……おおっ!?」

赤い男は初めて動揺の声を漏らした。

一瞬で巻き起こった氷の嵐が男目掛けて殺到する。

無数の氷塊が舞う竜巻に飲み込まれた男の姿は瞬く間に見えなくなった。

「マジかよ……」

唖然とネロは目の前で起きている光景に目を疑っていた。

その間にもタバサは駆け出し、竜巻の横へ回り込もうとしている。

「おらあっ!」

分厚い突風が巻き起こり、氷の嵐は内側から吹き飛ばされるように掻き消された。

多少のかすり傷を追うだけで姿を見せた男の手には薙ぎ払われた大剣が握られていた。

「きゃあっ!?」

(おっと、危ねえ!)

辺り一面に飛び散る氷の一塊は物凄い速さでルイズにまで飛来してきた。

ネロがハッとして振り返るが、ルイズは咄嗟に頭を押さえて屈んでいた。

飛んできた氷はルイズに当たる寸前で砕け散り、既に跡形もなかったが。

「ちょっと! 何すんのよ! 危ないじゃないのよ!」

立ち上がったルイズは男に向かって怒鳴りつけた。

「こりゃ失礼! 怪我はなかったかい、ピンクのお嬢ちゃん」

「――ウィンディ・アイシクル!」

「……おっと!!」

男の横からタバサの放った鋭い氷の矢の雨が降り注ぐが、跳躍し辛うじてかわしていく。

「うおおおおおっ!!」

ネロが床に突き立てた剣の柄を捻ると、クレドの時のように耳障りな騒音を響かせた。

そのまま着地した男へ突き進み、火を噴きだす剣を一気に袈裟へ斬り上げようとした。

 

「――エア・ハンマー!」

「うおっ……!」

男も自らの剣を振ろうとするが、横から放たれたタバサの突風の槌が刀身に直撃して剣筋を崩されてしまう。

「ぐっ……!?」

だが男は不安定な体勢から器用に足を突き出し、剣を振り切ろうとしたネロの手をピタリと押さえつけていた。

ネロはそれ以上動かせなくなり足を止めたと同時に男は体勢を整え、頭上を跳び越えていく。

「ああっ……」

(ありゃ、惜しかったな)

剣も銃もまるで通用しなかったが、タバサの魔法は初めて赤い男に僅かながら手傷を負わせられることができた。

とはいえ、それでも男は全然余力を残しており、参る様子が見えない。

 

「クールな顔して中々イカすな。お嬢ちゃん」

舞台の端に着地した男はタバサを見つめて愉快そうに笑っていた。

「そいつは魔法の杖って訳かい? 小さいのにご苦労なこった。……しかし今時、ステレオタイプな魔法使いなんだな」

剣を担いだままタバサを覗き込んでくるが、当の本人は杖を構えたまま顔色一つ変えずに見返している。

「お前ら、一体何者なんだ……?」

ネロは困惑しながらタバサを見やるが本人は答えずに沈黙を保っていた。

「だが、子供がおイタをしちゃあ、パパやママに怒られちまうぜ? 悪いことは言わねえ。早く家に帰ってパパとママにただいまのキスをしてやんなよ。きっとお嬢ちゃんの帰りを待ってるぜ?」

「……」

茶化すように出た男のその言葉にタバサの目の色がはっきりと変わった。

言った本人には悪気はないのだろう。だが、タバサにとっては言ってはならない類の言葉だった。

自分の家族を茶化されるのは、たとえ冗談であっても許せることではない。

普段から冷たい瞳の奥が、二つ名の〝雪風〟を象徴するようにさらに冷たさと鋭さを増していった。

 

「うおっ……!?」

フライの魔法で一気に距離を詰めてタバサは頭上から飛びかかっていた。

男は咄嗟に剣を両手で盾にしてブレイドの魔法がかけられた杖を防ぐ。

(口は災いの元だなぁ。お喋りもほどほどにしねえと)

「あんたが言えた口じゃないでしょうが」

と、デルフに突っ込んでルイズは溜め息を零す。

だがタバサの怒りを買ってしまったのは事実だ。

あの男はそこそこ歳を重ねた感じに見えるのに、妙に口は軽くて飄々としており、精神的には実年齢よりもずっと若い印象を感じてしまう。

まるで少年がそのまま大人になったかのようだ。

だからか、つい何の気なしにタバサを怒らせる失言を口走ってしまったのかもしれない。

 

疾風のように宙を舞うタバサは男の四方八方から連撃を繰り出していた。

剣を盾にし、激しく体を動かして紙一重でかわす男は騎士団達には容赦なく反撃していたのに、タバサには手を出そうとせず防戦一方になっている。

「俺を忘れんじゃねえぞっ!!」

突っ込んでいったネロも剣を振るうが、男はタバサの攻撃をいなしつつネロの斬撃も器用に避けていた。

巧みだったクレドの剣技に比べると大振りで力任せに振るっている感じだ。

剣筋は鋭く速いものの男には掠りもせず、タバサの攻撃を避ける片手間であっさり剣で弾かれもしている。

「ぐっ……!」

ついには蹴りを叩き込まれて弾き飛ばされてしまった。

 

「ちょっと、あんた大丈夫!?」

受け身を取って舞台の端まで滑ってきたネロにルイズは駆け寄った。

「怪我してるのに無茶をするんじゃないわよ」

「……お前こそ、とっととみんなと一緒に逃げろよ。いい加減に邪魔なんだって……!!」

ぜえぜえと喘ぎながらネロはルイズを睨んでいた。

だが逆にルイズもきっと睨み返して怒鳴りだす。

「あんたの方が邪魔なのよ! 怪我人なのに無理をして!」

ルイズの指摘にネロは悔しそうに渋い顔を浮かべ、ギプスに覆われた自分の右腕へもどかしそうに目をやっていた。

「ちきしょう……せめてレッドクイーンさえあれば……こんなもんじゃ力不足だ」

さらに左手に握る剣を頼りなさそうに見つめて嘆くように溜め息を漏らす。

 

そうこうする間にもタバサは赤い男に容赦のない攻撃を見舞っていた。

ウィンディ・アイシクルにアイス・ストーム、さらには隙を突いて背後からジャベリンまで飛ばしていた。

 

――ドォンッ!!

 

背中に当たる寸前、大砲のような銃声と共に巨大な氷の槍は粉々に砕け散った。

男の手には拳銃よりも一回りも大きな銃――ショットガンが握られ、脇越しに構えられている。

怒涛の連撃を捌ききった男はショットガンを軽く掲げながらタバサを振り返る。

「お嬢ちゃん、パパとママがよっぽど大事だったんだな。……またやっちまったな」

男はタバサを見つめながら軽く吐息を漏らしだす。

気が付くとそれまで浮かんでいた笑みが消えていた。先程の軽口がタバサを傷つけたことをさすがに気が咎めたようだ。

「俺も調子に乗りすぎた。……悪かったよ」

「もう遅い」

言い訳無用とばかりにタバサは冷たく突き返した。

と同時に杖を振り上げ、その先端が瞬く間に分厚い氷塊に包まれていく。

「マジかよ……」

タバサの繰り出す魔法の数々に唖然としていたネロは、さらに開いた口が塞がらなかった。

「本気だわ……」

(えぐいな。あれを叩きこむ気かよ。気持ちは分かるがな)

ブラッディパレスでもタバサはあのように自分の技を高めようと工夫していた。

オーク鬼といった強靭な亜人も氷の鈍器で容赦なく叩きのめしたのを思い出してしまう。

 

太いスパイクで覆われた氷の棍棒(モール)を見つめる男は「まいったな」とばかりに頬を指で掻いていた。

「タバサ、手伝うわ! 思いっきりやっちゃって!」

舞台に登り、杖を抜いたルイズは男に突きつけた。

虚無の魔法は使えなくても、失敗魔法による爆発――〝炸裂(バースト)〟だったら問題なく呪文は唱えられる。

タバサの方も小さく頷き、そっと身構えだす。

大仰な身振りで呪文を唱えるルイズにネロも赤い男も目を丸くしていた。

「おいおい、そっちのお嬢ちゃんも魔法使いってか? 今はもう21世紀なんだぜ?」

肩を竦めて呆れたように苦笑する男だが、ルイズは無視して杖を振り下ろした。

「――バーストッ!」

ルイズが起こした爆発で男は怯む――そのはずだった。

「うおっ……」

「えっ……?」

(うおおおっ!?)

確かに男は怯んだ。だが巻き起こったのはあの爆発ではなかった。

杖の先からは一陣の突風が吹き荒れ、舞台どころか観客席にまで及んで並ぶ椅子を次々に薙ぎ倒していく。

「きゃあっ!?」

「危ねえ!」

反動で後ろに大きく吹き飛ばされ、宙を舞ったルイズにネロは咄嗟に右手を伸ばした。

だが僅かに届かず宙を空しく掻くだけだった。

「うっ……」

しかし、ルイズの体は舞台の上へと引き戻されていた。

足が掴まれた感触があったが、ネロの両手は相変わらず塞がったままである。

「怪我はないな?」

「え、ええ……」

へたり込むルイズは呆気に取られたまま自分の両手を見つめだす。

 

(あたし、今何をしたの?)

唱えた呪文は風系統のエア・ハンマーだったので普通のメイジなら風を起こせるのは道理である。

だがルイズの場合、いくら集中して唱えても魔法は失敗するばかりで爆発しか起こせなかった。

だからこそついた二つ名が〝ゼロ〟――魔法の成功確率〝ゼロ〟のルイズという不名誉なあだ名だった。

(今のは、あたしの魔法なの?)

だが今の突風は明らかにルイズ自身が使ったものだ。エア・ハンマーを唱えたのは本当に適当だった。

タバサは同じタイミングで魔法を使ったような素振りもなかった。

何故、いつもの爆発ではなく呪文通りに突風が起きたのか。まるで理解ができない。

訳が分からないままにルイズは放心状態に陥っていた。

 

――ガシャンッ!!

 

飛び上がったタバサの氷の棍棒は男の脳天に叩き下ろされていた。

衝撃に耐えられなかった氷は砕け散り、辺り一面に細かな破片を撒き散らしていく。

「痛てててててて……今のはさすがに効いたぜ……」

身を翻して元の位置に着地するタバサ。

男は頭を手でさすって顔を顰めつつも微かな苦笑を浮かべていた。

タバサは眉を顰めて男を見据える。

この男だったらタバサの攻撃をあっさり避けられたはずなのに、今だけはそれをしようとする素振りさえ見せなかった。

「これで気は済んだかい? お嬢ちゃん」

(効いてない……)

そして何より、この男は今の攻撃に全く堪えていないことに内心、驚きを隠せない。

オーク鬼の頭も文字通りに叩き潰せる程の威力なのに、男は額から血を垂らし、頭にたんこぶを作って軽く痛がるだけだった。

普通の人間だったらまず即死するであろうに、あり得ない光景に息を飲む。

 

「うおおおおおっ!!」

突然、ネロが雄叫びを上げながら男に突っ走っていった。

いつの間にか右手のギプスが取り払われ、捲くっていた袖を全開に伸ばしている。

男は振り向いて剣を構えようとするが、ネロの放った右手の裏拳は逆に剣の方を大きく弾き返していた。

「いつまでも調子に乗るんじゃねえ!」

怒号と共にネロは男の顎を右拳で一気に突き上げていた。

「Take this!(おまけだ!)」

男の体が激しく仰け反り、ネロはがら空きになった胸目掛けて自らの剣を突き込んだ。

剣はあっさりと屈強の肉体を貫き、血が噴き出す。

ネロが柄を捻ると剣は激しい唸りを響かせながら激しく振動し、男の全身もそれに合わせて小刻みに揺れ動いた。

「Be gone!!(くたばりやがれ!!)」

両手でありったけの力を込めて剣ごと男の体を振り回し、祭壇目掛けて放り投げる。

豪快に吹き飛んだ男は巨大な聖像が突き立てる剣を突き破り、激突していた。

 

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  • 戦闘シーン
  • 主人公の描写・設定
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