魔剣異聞録~The Legendary Dark Slayer/Zero   作:月に吠えるもの

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Another Mission <不死身の男-Near miss> 8章

 

「すごい力……」

(こいつぁ、おでれーた。あの坊主、タダモノじゃねえな)

呆然としながらルイズはそっと立ち上がっていた。

右手を怪我をしているはずなのに、大の大人の体を剣ごと持ち上げて、しかもあそこまで投げ飛ばしてしまうなど、信じられない光景だった。

ネロの驚異的な怪力には度肝を抜かれてしまう。

(もしかして、仮病……?)

が、同時にルイズは目を細めてネロの右手に注目する。

先程までつけていたギプスをあっさり取り払い、何の躊躇も苦痛も無く相手を目一杯に殴れるなど、そうとしか感じられなかった。

「はあ……はあ……はあ……はあ……」

「大丈夫?」

膝に手をつき激しく息を切らすネロにタバサは歩み寄る。

「何とかな……」

「右手」

ちらりとタバサは彼の右手を見やった。

ネロは抱えるように自分の左手で押さえるが、特に苦痛を感じている様子は微塵もなかった。

「……こんなもん、もうとっくに治ってるんだ。心配しなくて良いさ」

「そう」

怪訝そうにタバサは彼の右手をじっと見つめる。

一瞬のことだったが、はっきりと目にしたのだ。

剣を殴った時に、その手は僅かな光を帯びていたのを。

 

「やったの?」

ルイズが二人の方へ歩み寄るとネロは溜め息を漏らしながら肩を竦める。

「あれだけやりゃあ、さすがに――」

「……さすがに、三人を相手にするのはキツかったかな」

突然聞こえた声に三人はハッとした。

粉塵が舞い、破片が零れ落ちる石像の下で起き上がる人影に目を見張る。

「ひ……!?」

ルイズは思わず小さな悲鳴を漏らした。

赤い男はまだ生きていた。しかも、ネロの剣が胸に突き刺さったままで。

おまけに能天気に服についた土埃を払ったりまでしている。

「おっと、お嬢ちゃんには刺激が強すぎたか……。本当は、R指定だったんだがな。すっかり――忘れてたぜ」

少し苦しそうにしつつも平然と軽口を叩いた男はあっさりと自分の体を貫く剣を抜き去り、軽く放り捨てていた。

明らかに胸のど真ん中を、心臓を貫いていたはずなのにまるで堪えた様子が見られない。

 

「お前……人間じゃないのか……!?」

ネロまでも唖然と男を凝視し、再び銃を抜いていた。

そもそも普通の人間だったら、先程のタバサの一撃をまともに受けて無事でいられるはずがない。

ましてや急所を貫かれたのに死なないなど、とても人間とは思えなかった。

(この男……)

(もしかして、悪魔なの……!?)

タバサもルイズも男の異常性に息を飲む。

人間ではあり得ない超人的な身体能力に加えて、致命傷を負っても死なない頑強さに生命力。

それは完全に彼が人外の存在であることの証明だった。

 

「それはお互い様じゃねえのか? 坊主にしろ、そいつらにしろ――」

「そいつら?」

ちらりとルイズは男が指す舞台の外を振り返った。

先程のルイズが起こした突風で、男に蹴散らされて横たわっていた騎士達が吹き飛ばされて転がっている。

(何、あれ……!?)

その中の一人、男によって斬り殺された一人の騎士の姿にルイズは目を見開いた。

兜と面で隠れていた顔が露わになっているが、それは明らかに人間ではなかった。

禍々しく醜悪に満ちたそれは、文字通りに悪魔のようであった。

 

「だが坊主はそいつらとはちょっと違うらしいな。掃きだめの臭いもしねえし」

ハッと振り返ると男の姿はどこにもなかった。

上を見上げると、いつの間にか突き破られた天窓に登っており、その縁で三人を見下ろしている。

「ちょ、ちょっと!?」

「あばよ、坊主。お嬢ちゃん達も早く家に帰んなよ。ここはマジで危ないぜ?」

「待ちやがれ!」

ネロは銃を撃ったが、既に男の姿は消えていた。

「チキショウ……逃がしたか。……って、おい!」

タバサはフライの魔法で一気に天窓まで飛び上がり、男を追っていった。

残されたネロとルイズは呆然と立ち尽くしたまま見送るしかなかった。

 

「――遅れてすまんな。少々時間を喰った」

唐突に響いた別の声に二人はハッと振り向く。

舞台のずっと後ろ、高台の客席にいつの間にか男が階段を悠然と降りてくる姿がある。

それはルイズが待ち望んでいた自分のパートナーその人だった。

「スパ……」

名前を呼ぼうとして思わず口をつぐんだ。この世界で彼を本当の名前で呼んではいけない。

ここでの彼の名前は――

「……〝(ディー)〟!!」

魔剣士スパーダこと〝(ディー)〟は、ちょうどこのホールに到着したばかりだった。

閻魔刀で切り開いた亜空間の道を通ってきたので、誰にも気づかれず中に入り込んだのである。

「遅いわよ! あいつ、逃げちゃったじゃない!」

椅子が乱雑になってしまった下段の席まで降りてきたスパーダにルイズは駆け寄り、その胸を叩く。

「すまんな。急いだつもりだったのだが」

スパーダとしても応急処置とはいえ、急ぎつつも正確に長持ちするように結界を街全体に及ぶように張ったつもりだった。

事実、結界を張り巡らしてからは新たにスケアクロウが現れなくなり、その殲滅も迅速に行ったのである。

 

「連れが世話になったな」

舞台から降りてきたネロの方を見てスパーダは小さく頷いた。

「世話になったのはこっちだっつうの……」

銃をしまったネロは頭を掻きながら複雑そうな渋面を浮かべだす。

と、そこにタバサが天窓から飛び降りてきて舞台上にふわりとゆっくり着地する。

「奴はどうした」

「山の方へ逃げた」

「……ラーミナ山か」

タバサの簡潔な報告にネロは顔を顰めだす。

その間にも、自分の右手を袖の上から左手で摩り続けていた。





ここまでが本来想定していた第一章となります。

各章の最後には、このような戦闘シーンがあるプロットになっています。

戦闘シーンは基本的に長い(自分の悪い癖)ので、連続する場合は次の週に持ち越しになるかもしれないのでご了承ください。

作品の良かったところはどこですか?

  • 登場人物
  • 世界観
  • 読みやすさ
  • 話の展開
  • 戦闘シーン
  • 主人公の描写・設定
  • 悪魔の描写
  • 脚色したオリジナル描写・設定
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