魔剣異聞録~The Legendary Dark Slayer/Zero   作:月に吠えるもの

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Another Mission <ティータイム-Separate ways> 10章

夕暮れの商業区は行き交う人々で賑わっていた。

フォルトゥナで唯一の行事である魔剣祭はこれまでにないアクシデントが起こりはしたが、信徒達は教皇の説法と更なる祈りによってすっかり平穏を取り戻していた。

信徒達は自分達が〝神〟と崇める悪魔が人知れずこの街を守ってくれたことなど、知る由もないが。

彼が結界を作っていなければ、今頃は蹂躙する悪魔達によって市街地は悪夢の様相に陥っていただろう。

 

「この〝ハンバーガー〟って、意外といけるのね」

観光客向けの宿〝FORTUNA INN〟の食堂でスパーダ達は一息を入れていた。

ルイズは両手で掴んだ丸く平たいパンに肉や野菜を挟んだ料理を口にしてみて思わず舌鼓を打つ。

適当に手軽に食べられる物を注文したら出てきたのがこのハンバーガーだった。

サンドイッチに似ているがスパーダが元居た世界でも存在しなかったので、どうやら未来の料理らしい。

味はルイズが唸るほど美味いのは確かだった。

「お嬢ちゃん、そんな小っちゃな体で本当に食べる気かい?」

店主は黙々とハンバーガーに齧り付くタバサを見て呆れたように唸った。

ルイズとスパーダは一つだけだったが、タバサの目の前の皿には追加で注文したハンバーガーがさらに三つ乗っていた。

タバサも異世界の料理であるこのハンバーガーが気に入ったのである。

 

ルイズは店内を見回して隅に置いてある物に目が行った。

先程から静かなバイオリンの音色の音楽が奏でられているのだが、どうやら棚の上に置かれた箱が出しているようだった。

「ねえ、あれは何?」

「何って、レコードプレーヤーさ。お嬢ちゃん、知らないのかい?」

「蓄音機みたいなもの?」

「そんなものさ。今かけてるのはバッハの〝G線上のアリア〟っていうんだよ」

ハルケギニアでは水のマジックアイテムを用いた蓄音機が存在するが、非常に高級な品で余程の大貴族でなければ手が出せない代物だった。

そんな高級品もこの異世界では平民でも手軽に手が出せていることに驚きを隠せない。

それでも流れる音楽はルイズも惹かれるくらいに良い曲だった。

「あんた、クラシック音楽はお好きかい?」

「一応な」

席を立ったスパーダはプレーヤーの横にある棚を覗いていた。そこには今もプレーヤーで緩やかに回るレコードとは別の物が大量に並べられている。

ベートーヴェンの〝月光〟――シューベルトの〝アヴェ・マリア〟――ドヴォルザークの〝新世界〟――モーリス・ラヴェルの〝ボレロ〟――ストラヴィンスキーの〝火の鳥〟。

未来故か、どれも知らない作曲家ばかりだ。ベートーヴェンについては声楽家として見知ってはいるし息子がいることも知っているが、作曲家になった話は聞いたことがない。

スパーダが元居た時代で有名だったのはヨハン・ゼバスティアン・バッハという作曲家で、数年前に亡くなったばかりだ。

今かかっている曲は、どうやら生前のバッハが作曲したものらしい。

 

試しにショパンの〝夜想曲第9番 〟というレコードをかけてスパーダは席に戻った。

物静かなピアノの音色が心地よく、ティータイムにはピッタリだった。

「ねえ、スパ……〝(ディー)〟。この世界って、あなたが元居た世界とも全く別の世界なのよね。平行世界っていう……」

「そうだ。それがどうした」

ルイズが話を切り出すと、タバサはハンバーガーを口にしながら立てかけていた杖を軽くかざしてサイレントの魔法をかけていた。

プレーヤーからのせっかくの音楽は聞こえなくなってしまうが、この際は仕方がない。

「あの赤い奴……まさかこの世界の、スパーダってことは無いわよね?」

言い淀みつつ、ルイズは微妙そうに眉を顰めだす。

「おいおい、冗談きついぜ。あんな不良中年がスパーダってか? 全然性格が違うじゃねーか」

沈黙していたデルフは遠慮なく声を上げだした。

冷徹で寡黙なスパーダに対して、あの赤い男は全く正反対に軽薄でお喋りだった。スパーダのことを知る者にとっては間違いなく「絶対に違う」と十中八九答えるだろう。

「じゃあ何で、あいつはスパーダの剣を持ってたの? 間違いなく、あれはあなたのリベリオンだったわ。それに銃や髪だって……」

赤い男も髪型こそ違うがスパーダと同じ銀髪だった。手にしていた二丁拳銃もルーチェとオンブラとよく似ていたのである。細部や大きさに僅かな違いはあったが。

そして何より、スパーダの愛剣であるリベリオンを持っており、自分の手足のように自在に振り回していた。

あの剣技は紛れもなく、魔剣士スパーダそのものだった。あの卓越した技は、スパーダ本人でなければあり得ない。

 

「あり得ん話でもない。無限に可能性がある以上はな」

特段スパーダは否定はしなかった。

異なる平行世界が無数にある以上、それぞれの世界で生き方が変わることもある。今ここにいるスパーダと違う生き方をした結果、性格が変わってしまう可能性も無くはない。

これまで何度か元の人間界で獣の首の失敗作に触れたことがある。それらは平行世界まで飛ぶ程の力こそ持ち得なかったが、異なる世界のスパーダの生き様の一部を見せてくれた。

中でも印象に残っているのは〝ルーメンの賢者〟に〝アンブラの魔女〟と呼ばれる一族達が世界の秩序を互いに保ち合うという異質なものだった。

その世界では屈強の魔女達が積極的に悪魔と契約を結び絶大な力を得ることで、異形の敵をも一騎当千に討ち倒していたのだ。

そこにおける魔剣士スパーダは魔女達に呼び出されることはあっても、契約までは交わさず共闘するだけに留めていた。

スパーダ自身から見ても呼び出した魔女達はあまり印象が良い物ではなかったので、契約を拒否したのも頷ける。

最後に憶えているのは、魔女や賢者の一族からも距離を置く〝孤高の魔女〟なる者がスパーダを呼び出そうとしている場面だった。

どんな魔女だったのかは、残念ながら顔を見る所までは叶わなかった。

 

「ねえ、スパーダって歳いくつなの?」

「はあ? いきなり何を言い出すんだ? 娘っ子」

スパーダまでも目を丸くしてルイズを見据えていた。

「ここはスパーダが元居た世界よりずっと未来なんでしょう? あいつは、その……今のスパーダより老けてたし……」

人としてのスパーダの印象はルイズ達からしてみれば30歳前後のハンサムな紳士といったものだ。

髭や皺といった老いを感じさせるような要素は全くなく、まだ20代で通用しそうな若々しさと、円熟した男性の凄みや貫禄を併せ持っていた。

対する赤い男はスパーダよりややがっしりとしていて、傍から見ても男らしい力に満ち溢れていたが、無精髭も相まって今のスパーダより5年以上は歳を食ったような印象があった。

 

「忘れたな。悪魔はそんな物は普通、意識しないからな」

素っ気なくスパーダは答えると、少し考え込みだす。

「……少なくとも、5000年は生きているか」

魔帝ムンドゥスが人間界に侵攻してきた時代までを逆算し、ムンドゥスの勢力が覇王アルゴサクスや羅王アビゲイルの勢力と抗争を繰り広げていた数千年の月日も加えてみると、確かにそれだけの時をスパーダは生きていることになる。

「悪魔の生涯は死ぬまで生き続けるか、途中で力尽きるか――それだけだ。寿命で朽ち果てたなどという話は、今まで聞いたこともない」

だが、スパーダ自身は自分が実際にどれだけ生きているかなど知り様もなかった。

気が付けば魔界で生を受け、過酷な弱肉強食の世界で生き抜く内に時が経つことすら忘れるほど戦いに明け暮れていたので、自分がいつ生まれたことすら既に分からなくなっていた。

これから先、自分がどれだけ自然と生き続けていられるのか、老いが訪れるのかすら見当もつかない。

「お前さんは、何でその姿で化けてんだ?」

「自然とこうなっただけだ。姿形に大して意味はない」

その気になればスパーダも今の姿とは全く別な風貌で擬態することは可能なのだ。普段は意識することも無いのでこの姿を保っているに過ぎない。

「だが、悪魔が自然と人に化ける姿はそいつの精神性が表れはするようだな」

例えばネヴァンは元々人間に近い姿をしているが、意外にも優雅な本人の性格や器が反映されているのか、貴婦人らしい絶世の美女となる。

魔帝ムンドゥスの腹心の一人であるファントムだったら、粗暴で野卑な性格からか人間態は髭を蓄えた厳めしい風貌の偉丈夫になったはずだ。

 

「お前さんはさしずめ紳士ってところか」

「知らんな」

からかうように笑うデルフにスパーダは冷然と返していた。

だがスパーダの今の姿は、彼の高潔な精神が表れているのだろうとルイズ達には感じることができた。

実を言うと、本人は歯牙にもかけていないが魔法学院の女子生徒の間では陰ながら人気はある様子だった。

魔法学院に在籍する大人達は大半が年配者で、20代の男性教員はギトーしかいない。人気については言わずもがな。

スパーダは若干不愛想ではあるものの容姿自体はハンサムではあるし、人格的にも問題はないので、結構慕われているのである。

「じゃあ、あの赤い奴は……」

「直接会ってみない限りはどうとも言えん。別の私ではないかもしれん」

「お前さんじゃなかったら、何だって言うんだ?」

「さあな」

あの男の気配は魔剣祭を途中退席した時に感じ取ってはいたが、スパーダ自身の気配と似てはいても根本的に異なるものだった。

ここが遥か未来であることを考慮すれば、あり得るものと言えば――

 

「でも何で、あいつは教皇を殺そうとしたのかしら……」

「それがマジで謎だよなあ。あんなに容赦なくぶっ殺しまくるんだからよ」

スパーダなら決してしないであろう無差別な殺戮は、思い出すだけでも震え上がるような凄みに満ちていた。

その残虐な行為は、まさしく悪魔そのものとしか言えなかった。

「そいつも教団はきな臭いと思っているのかもしれんな」

「どういうこと?」

ハンバーガーを食べ尽くしたタバサは口を拭きながらスパーダに問う。

「魔剣教団はまともな組織ではない。教皇も騎士団長もな。お前達も劇場で他の連中を見ただろう」

スパーダの言葉にルイズはハッとした。

赤い男に斬り殺された騎士の中に、明らかに悪魔の顔をした者がいたのだ。

会場に駆け込んできた応援の騎士達はまるで人目から隠すようにその死に顔に布を被せていたのである。

言われてみれば、自分達を会場から人払いさせる時も妙に焦ったような雰囲気だった。

 

「そういやあ、あのネロって坊主も右手が怪しかったぜ。知ってるか娘っ子。あいつ、お前さんを自分の手で引っ張ってなかったんだぜ」

「わたしも彼の右手が光るのを見た」

デルフとタバサの話にルイズは目を丸くしていた。

ルイズが自分の風の魔法で吹き飛んだ時、足を掴まれたのでネロが手を伸ばして掴んでくれたと思っていた。

だがデルフ曰く、伸ばした右手の先に別の光の手が伸びてルイズを引き戻したというのである。

タバサもネロがやたら右手を隠すような不自然な動きをしていたのをはっきり感じ取っていた。

「それじゃあ……悪魔が裏で糸を引いてるってこと!?」

「それを調べてみる必要がある。奴はラーミナ山へ行ったそうだな」

「そう」

赤い男は魔法も使わず驚異的な身体能力で屋根を軽々と跳び越えてタバサを撒いてしまったのである。

「フォルトゥナ城か……」

街の北側にはラーミナと呼ばれる山がそびえており、その山中にかつてスパーダが領主をしていた時に使っていた城がある。

とはいえ、一千年以上も経っている今もまだあるかどうかは分からないが。

 

(やはり見張られているな……)

ちらりとスパーダは視線を横に流し、窓の外を見やった。

通行人に混じって街を警護している教団騎士達の姿が道中でも目にしていた。

だが、やたらとこの店の外を何人もの騎士達が行ったり来たりしていることに気が付く。

(クレドの差し金か……)

魔剣教団にしてみればスパーダ達も赤い男同様に部外者に過ぎない。

変な真似をしないように警戒するのはある意味、当然と言うべきだった。

あるいは、見てはならぬ物を見たが故か。

「夜になったら出発する。それまではしっかり休んでおけ」

教団の監視の目を掻い潜るには、閻魔刀を使って裏道を通るのが最適だった。

 





〝アンブラの魔女〟と〝ルーメンの賢者〟はデビルメイクライ1と同じディレクターのベヨネッタより来ています。

獣の首の存在から、マルチバースの世界観を採用しています。

作品の良かったところはどこですか?

  • 登場人物
  • 世界観
  • 読みやすさ
  • 話の展開
  • 戦闘シーン
  • 主人公の描写・設定
  • 悪魔の描写
  • 脚色したオリジナル描写・設定
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