魔剣異聞録~The Legendary Dark Slayer/Zero 作:月に吠えるもの
霊峰ラーミナの山中にひっそりとそびえる古城。
かつてフォルトゥナの地を魔界の魔手から救い、領主として治めていた英雄の居城だった。
遥か昔に打ち捨てられて久しく、2000年もの時が経った今なお、当時のありのままな佇まいが残されていた。フォルトゥナにおける観光の名所であり、今では博物館として利用されている。
「親父が治めてたにしちゃあ、ありきたりだな……」
人気のない城内を一人の男が悠々と歩き回っていた。
赤いコートを纏う男は数時間前、市街地でひと騒ぎを起こした後にこの城を訪れていたのだ。
所々に飾られている彫刻や絵画などの美術品には目も暮れず、退屈そうに散策を続けていく。
「……お」
うらぶれたテラスの回廊にぽつんと置かれた美術品とは異なる黄金の像を見つけるなり、一直線に歩を進めていた。
懐から取り出した小粒の赤い結晶の欠片を捧げた代価として癒しの力を秘めた霊石を手に入れ、懐に収める。
その先の部屋は蔵書庫のようで、壁には無数の書架と共に書物が並べられていた。
男は適当に一冊を手に取ってみるが、軽く1ページを流し見しただけで飽きてしまい、机に放ってしまう。
「やっぱり、親父がいたなんてのは迷信なのかね……」
「少なくとも、スパーダに関わる物はこの城にはほとんど無いわね」
独りごちた男に答えるように、女の声が何処からか聞こえてきた。
男は全く動じることもなく机の上に腰かけ、呑気に足を組みだす。
「ははっ、分かんないぜ? 俺しか知らないようなモンがあるかもしれねえしな」
「すっかり観光気分ね」
部屋中に響く女の声に男は親し気に語りかけて笑いだす。
女は姿を見せようとはしないが、男はその気配を吹き抜けとなっている二階の方から感じ取っていた。
「あなた……教皇の暗殺に失敗したみたいね」
女は意外そうに声を上げると男は大きく肩を竦めて苦笑する。
「ああ。ちょいとばかし、トラブルがあってな」
「可愛い観光客にじゃれつかれたんですって?」
クスっと女の声は笑いを漏らしている。
「ま、そんなところさ。さすがに同業者がいるとは思ってもみなかった。小さいのにビビったぜ」
男は懐から
銃身には〝Ebony & Ivory〟と、もう片面にも〝FOR TONY REDGRAVE BY .45 ART WARKS〟の刻印が刻まれていた。
「それで思い出したんだけど……パティお嬢ちゃん、今度学校がしばらくお休みになるから、事務所にアルバイトしに来るんですって。モリソンからの伝言よ」
「おいおい、勘弁してもらいたいぜ……」
参ったように男は眉を顰めていた。
数年前に知り合って以来、ちょくちょく事務所に顔を出す可憐な少女の姿を男は思い起こす。
会った当時はまだ10歳になるかどうかという幼い娘だったが、当時から口やかましいお節介焼きであることに変わりない。
(あのお嬢ちゃんには悪いことしちまったな)
ふと脳裏をよぎったのは数時間前に劇場で顔を合わせた青い髪の少女。
冗談を言ったつもりだったが、それが少女の心を傷つけたことだけは後ろめたさを感じていた。
事実、男はかつて孤児だった幼い少女に同じ過ちを犯していた。
――親なんか、いないもん……。
――もう遅い。
あの少女もまた、同じ境遇だったことを身をもって思い知ったのだ。
「話が逸れちゃったわね。……その教皇だけど、今は教団の本部にいるわ。ここから南東にある白い大きな建物がそれよ。この城の裏手から森に出られるから、そこを抜けていけば辿り着けるわ。ちょっと迷うかもしれないけれど」
「そうか。例の奴もそこにあんのか?」
「いいえ。〝あれ〟はこの城の地下にあるわ」
「ふうん……それは都合がいい」
〝アイボリー〟と名付けられた銃を収め、男は机から降りだす。
早速とばかりに歩き出そうとする男を呼び止めるように女は続けていた。
「でも、〝あれ〟は急いで回収しなくても平気よ」
「どういう意味だ?」
「〝あれ〟は折れちゃってるのよ。教団が見つけた時にはもうあの状態だったらしいの。……きっと、あの時の戦いが原因だと思うわ」
思い詰めたような声で呟く女に男は小さく溜め息を漏らした。
男は10年程も前、辺境のマレットという無人島で魔界の勢力の侵攻を食い止めたことがある。
その折に、彼と互角に渡り合う実力を誇る屈強の騎士と数度に渡る死闘を繰り広げ――勝利を収めた。
その騎士が持っていたはずの物が、この地に流れ着いたことを彼女からの報せで知ることになったのだ。
「教団の技術でも修復は不可能ね。だから誰かに利用される心配もないわ」
「不幸中の幸いってか。と、なりゃあ……まずは連中をぶっ潰せって訳か……」
複雑そうに苦笑して男は肩を回すと女がいる方へ顔を向けた。
「で、他の奴はどうしたんだ? 三つばかし事務所から無くなってたんだがな。スパーダと一緒にお前が持ってきたんだろ?」
「この島のあちこちに、教団の作った地獄門があるの。街にあった物よりはずっと小さいけど……それを動かすのに使われているわ。スパーダは今、本部の方にあるけれど」
「お前、人の物を勝手に持っていくなよな……」
咎めるように文句を言う男に女はあっけらかんと答える。
「ごめんなさいね。ここの連中って相当余所者を嫌うから、取り入るには手土産一つじゃ足りないと思って」
女の返答に男は渋い顔で唸る。
二人とも元々、フォルトゥナより遠方の地から仕事で訪れている身だった。
一ヶ月も前から男に先んじて現地の調査をしていた女だったが、男の事務所から無断で仕事道具をいくつか持ち出していた。
その内の一つは今では彼女に譲ったものだが、男にとっては家族の大事な形見の一つだった。
彼女の気まぐれで自由奔放な性分は男も承知しているが、相棒である自分に何も告げずに一人で勝手に行動するのは好ましいものではない。
ましてや、その形見は普通の魔具より軽い気持ちで扱うには危険すぎる代物だ。
「奴らは他にも魔具を集めてるんだろ? 放っておいて大丈夫か?」
「地獄門と言ったって、所詮は紛い物だから。そっちの回収は一番最後に回しても平気よ」
「本当かね……」
「回収したいなら好きにすれば? ただ、無傷でとはいかないかもしれないけど」
話を聞いている内に男は気が付いたように顔を顰めて舌を打った。
「……ちっ、しくじったな」
この城に来る道中、町外れの廃墟で彼女が持ち出した魔具の一つの在り処の前を通りがかっていたのだ。
その時は遠目だった上、わざわざ近づいて見に行くような場所には建っていなかったし、何の変哲もない石板としか思わなかったので無視してしまったのである。
「そろそろ討伐隊がこの城に来るわね。次は明朝に、本部で待ち合わせましょう。私はまだ教団の秘密の調べが済んでないから」
「おい!」
男が気付いた時には既に女の気配は消えていた。
一人取り残された男は腰に手を当てて大きく溜め息を吐いた。
「……Oh dear.(……泣けるぜ)」
作品の良かったところはどこですか?
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登場人物
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世界観
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読みやすさ
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話の展開
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戦闘シーン
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主人公の描写・設定
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悪魔の描写
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脚色したオリジナル描写・設定