魔剣異聞録~The Legendary Dark Slayer/Zero   作:月に吠えるもの

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Another Mission <一方、その頃-Preparation> 12章

夕刻。放課後の魔法学院は間もなく夕食の時間が近づきつつある。

本塔最上階の学院長室には今、数名の教師が集まっていた。

学院長オスマン、重鎮のコルベール、そして新任のエレオノールとその助手であるカトレアの視線は一人の男に集中している。

「どうなのよ、モデウス。三人は戻ってこられるの?」

エレオノールは虎の彫像を手にして眺めるモデウスに食ってかかる。

全員、深刻な眼差しを送っており、カトレアに至っては不安な感情を隠さない。

 

数時間前、スパーダとルイズ、そしてタバサの三人が女子寮で消滅したという報せはキュルケ以下、現場を目撃した数名の男子達によってもたらされていた。

その原因となった虎の彫像を渡されたエレオノールは見たことも聞いたこともないマジックアイテムをコルベールと一緒に調べようとしたが、書物を読み漁っても全く記録が見つからなかった。

モデウスがブラッディパレスから出てきたのがつい先程であり、鑑定をしてもらうとあっさりと像の正体が判明したのである。

 

〝獣の首〟――その名を耳にしてエレオノールは愕然と息を飲んだ。

 

ハルケギニアとは異なる世界に飛んでしまう未知の力は、かつてラ・ヴァリエールにて見知っていた。

エレオノールとカトレアはルイズ達の身に何が起きたのかを悟ったが、他の者達に分かるように話すのは難しい。

『悪魔の品である獣の首に喰われて、ブラッディパレスのように現実とは別の場所に飛ばされてしまった』――そうとでも説明するしかなかった。

 

「ええ。師が片割れを持ったままなら、何とかなりますよ」

メイジですら未知の品を唯一知り得る悪魔は、静かに語り続けていく。

モデウスとしては獣の首の存在自体は知り及んではいたものの、本物でないとはいえ実物に触れるのはこれが初めてのことだった。

「ただ、三人分をこちらに転移させるだけの魔力をこの像に注ぎ込まなければなりません」

「それは、どれくらいかかるのかのう?」

じっと目を細めるオスマン。

モデウスは顔色一つ変えずに淡々と返答していった。

「幸い、師は〝電刃(ネヴァン)〟の魔具も残しています。あれも使えば、三日以内には儀式は済ませられるでしょう」

本来は人間を喰らって魔力に変換する獣の首だが、スパーダが像の片目を抜き取ったためか、まるで機能していないことがモデウスには分かる。

この状態では人為的に魔力を与えてやらなければ、その能力を発揮させることもできない。

そして、その魔力は高位の悪魔のものでなければならない。

 

「そう……ひとまずは安心ってことね」

小さく溜め息を零してエレオノールは安堵した。

獣の首の能力自体は把握しているので、向こう側……どこかの平行世界に行ってしまったルイズ達が戻って来られないなどという最悪の展開はあり得ない。

それでも長期間、戻ってこられないかもしれないという不安も湧いていたが、杞憂だったのは幸いだった。

カトレアも同じように嘆息し、微笑を浮かべていた。

「モデウスさん。向こうの様子はこちらからは見られないのかしら?」

以前はルイズの持つデルフリンガーのアミュレットの力を通して、平行世界のスパーダの様子を見ることができた。

ルイズも向こう側に行ってしまった以上、今回ばかりはその方法を採ることは不可能だ。

「少しの間、見るだけの魔力なら残っているみたいですね。ただ、本当にほんの僅かな時間ですよ」

「それでも……ルイズやスパーダさん達が無事かどうかだけでも確かめたいんです」

カトレアはモデウスから像を受け取ると、彼の言う通りにして胸に抱え意識を集中する。

赤い眼――未来を見通す(まなこ)の視界を見せて欲しいと強く念じて。

 

目を瞑ると、瞼の裏にぼんやりと何かが映り込んで来るのが分かった。

青と桃色の髪の少女が、ベッドの中に入って静かに眠り込んでいる。

その傍らでは銀髪の男が腕を組んだまま、黄昏時な窓の外を眺めていた。

(スパーダさん……)

思わず心からの安堵の溜め息がカトレアの口から大きく漏れ出ていた。

僅か10秒足らずで何も見えなくなってしまったが、確かにカトレアの視界には自分の妹と大切な人達の姿が映ったのだ。

「ミス・フォンティーヌ?」

「どうなの、カトレア」

コルベールとカトレアが怪訝そうにするが、カトレアは笑顔のままはっきりと答えた。

「大丈夫ですわ。ルイズもスパーダさんも……向こうで元気にしているみたい」

 

スパーダは時折ルイズやキュルケ、タバサと親しい生徒を連れて学院を何日か留守にすることが多い。

それが悪魔絡みの騒動であることをオスマンは承知している。

表向きは魔法の実践を行う特別な課外授業ということにして出席については免除しているが、戻ってきた後はエレオノールが補習と補講を行っている。

今回もいつものように、用意して待つことになりそうだった。

 

 

「コルベール殿、研究室をお借りします。少し手伝ってもらえますか?」

「うむ、承知した。……おや?」

モデウスと共に学院長室を出てきたコルベールは立ち止まって目を丸くする。

そこには今回の事件を報せてきた生徒達が集まっていた。

ギーシュはいの一番にコルベールに問いただしてくる。

「コ、コルベール先生。どうなんですか? スパーダ君達は……」

「心配はいらないよ。三人ともちゃんと戻ってこれるさ。スパーダ君を信じたまえ」

「あたし達にも何か手伝えることはあるかしら?」

友人のことを気にかけるキュルケも真剣な面持ちでモデウスに持ちかける。

「そうだね。儀式の準備をするから、必要な物を揃えてもらえると有難い。そうだ、あのナイフもできれば借りたいね」

「オッケー」

したり顔を浮かべてキュルケは階段を降りていく二人についていく。

ギーシュ達も後を追って続こうとしたが――

「あなた達はお待ちなさい」

エレオノールに呼び止められ、ギーシュ以下四人の男子達はその場に留め置かれていた。

 

「カトレア、あなたは先に降りてなさい」

妹を先に行かせたエレオノールは四人の前に立ちはだかる。

(何だか、嫌な予感……)

ギーシュは不安を感じ始めていた。いや、それは他の三人も同じだ。

エレオノールが今発している気迫は彼女を怒らせたり、不快感を刺激した時に必ず発揮されるものである。

ラ・ヴァリエール公爵家の長女としての威厳と苛烈さは、彼女が赴任して以来、何度も身をもって思い知っていた。

眼鏡を手で整え直すエレオノールは軽く吐息を漏らすと、静かに切り出し始めた。

「グラモンの四男。あなた達は、どうしてあんな穴をわざわざ掘っていたのかしら?」

「い、いや……どうしてって、先生方に報告した通りで……」

困惑する四人の目は気まずそうに泳ぎ始める。

真の目的を話す訳にもいかないので、ありのままの出来事を話しただけなのだが、また話題を蒸し返されたので四人は激しく緊張した。

もしもバレればどんな仕打ちを受けるのか、想像したくもなかった。

 

エレオノールは不意に、にっこりと口角を吊り上げて笑顔を浮かべだす。

「知ってるかしら? ちょうど私がこの学院に在籍していた頃、女子風呂を覗いた不届きな男子生徒がいたのよ」

口は笑っていても、目が全く笑っていない。

ギーシュはビクリと震えあがってしまった。話題にも、彼女の笑顔の両方にも戦慄していた。

「そいつらは宝物庫から遠見の鏡を勝手に持ち出して、男子風呂から覗いていたの。そいつらがどうなったか知りたい?」

思わずギーシュはブルブルと首を激しく振った。

四人とも顔が青ざめて大量の冷や汗が流れ出ている。

恐怖に打ち震える男達を無視してエレオノールはさらに続けていった。

「あなた達の掘った穴は深さと方角からして、あのまま進んでいけばちょうど女子風呂に辿り着く計算になるわ。……なるほど、確かに地下部の壁だから何の魔法もかかっていない。これは盲点というべきかしらね」

わざとらしく溜め息を漏らすエレオノールの言葉に四人はもはや失神してしまいかねない程に身を竦ませ、石のように固まっていた。

そんな四人を見つめるエレオノールだが、笑顔は決して崩しはしなかった。

 

「何をそんなに緊張しているの? まさかあなた達は不埒な輩とは違うでしょう? 誇りある貴族なら、そんな破廉恥な真似をしようとは思わないわよね? あなた達は使い魔を使って、〝穴を掘っていた〟だけですものね」

本人の性格からは考えられないくらい優し気に声をかけてくるので、四人は余計に緊張してしまう。

まず間違いなく、バレている。エレオノールは気付いている。

かつての出来事と経験、そしてギーシュも尊敬する土メイジとしての直感から男達の企みを看破したのだ。

「ですが、今回の騒ぎの罰として、ルイズ達が戻ってきたら一緒に補習を受けてもらいます。良いわね?」

「は、はい……!」

極端な程に姿勢を正して四人は声を上ずらせた。

元を糺せばギーシュ達があの像を見つけさえしなければ今回の騒動は起きなかったのだから、ある意味一番大きな責任がある。

自分の妹が被害に遭ったのだから、本当だったらもっと怒っていてもおかしくないのに、ここまで冷静さを保てるのはさすがにラ・ヴァリエール公爵家に相応しい貫禄だった。

「よろしい」

終始笑顔は絶やさないままエレオノールは頷いた。

硬直したまま直立する四人から踵を返し、階段を降りようとする。

「次は無いと思いなさい。青二才――」

氷のように冷たい声を残し、四人の前から消えていった。

コツコツと響く足音が遠退いていき、完全に途絶えたと共に四人はへなへなとその場に崩れ落ちる。

 

「やっぱり、ばれてる……」

ギーシュは放心したまま引き攣った笑みを浮かべた。

「だから、やめようって……」

レイナールは後悔に満ちた顔で憔悴しきっていた。

「運が良いのか悪いのか……」

ギムリは床の上に倒れ込み、両手を広げて脱力していた。

「泣けるぜ……」

マリコルヌは未練がましそうに無念の顔で落ち込んでいた。

計画がバレた以上、男達の夢が叶う希望は永遠に潰えてしまったのである。

「甘いのう……若いの」

学院長室の扉の隙間から、オスマンは憔悴しきった少年達を見つめてほくそ笑んでいた。

肩には己の使い魔である小さなハツカネズミがちょこんと乗って、主の耳元に顔を寄せる。

「ほー、ミス・フォンティーヌは派手な下着をしとったのか。人は見かけによらんのう」

 

作品の良かったところはどこですか?

  • 登場人物
  • 世界観
  • 読みやすさ
  • 話の展開
  • 戦闘シーン
  • 主人公の描写・設定
  • 悪魔の描写
  • 脚色したオリジナル描写・設定
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