魔剣異聞録~The Legendary Dark Slayer/Zero 作:月に吠えるもの
フォルトゥナ城への道のりはいくつかに分かれている。
一つは街の郊外のフェルムの丘から行ける洞窟で、ラーミナ山の山腹まで一気に突き抜けている滝の坑道を通るのが正しい順路となっている。
他はフェルムの丘から少し東に外れた所から山道が伸びており、往来には厳しすぎる洞窟側から行くよりは多少マシな道のりのはずだった。
日が落ちて宿を出てきたスパーダ達はこの峠道を登ることにした。
宿の前には相変わらず教団騎士達が几帳面にうろついていたが、密閉にした宿部屋の中から閻魔刀を使い亜空間の道を通ってきたので、密かに外出することに成功していた。
当然、宿のチェックアウトはしていない。だがスパーダはドッペルゲンガーを残して宿にまだ留まっているように偽装もしていた。
「レビテーション」
「わっ、わっ……」
ルイズはタバサに手を引かれて、慣れない風の魔法を一緒に使い浮き上がっていく。
普通に登ればきつい険道ではあったものの、崖や岩場も一足で跳び越えていくスパーダに続くルイズとタバサは全く苦も無くどんどん山を登っていった。
(何か、変な感じ……)
長年の夢であった系統魔法を使えるというのは妙な充実感があったものの、同時にわだかりも生じてしまう。
どうしてこの世界で虚無の魔法が使えないのか。
何故、自分は風の系統に目覚めているのか。
考えれば考える程、混乱するばかりだった。
「寒い……」
タバサもルイズと同じく吐く息が白かった。
山腹辺りまで登ってくると霧が出てきたが、ルイズはその身を抱いて竦ませる程にはっきりと寒気を感じ始めていた。
見れば霧の中には雪が混じっているのが分かり、いつの間にか真冬のような寒さに移り変わっていることを認識する。
「山の天気は変わりやすいっていうが……元々こんな感じだったのかい?」
「ここまで極端ではないはずだがな」
デルフに問われたスパーダは僅かに目を細めながら自分達の前に広がる谷間を見渡していた。
元々山頂辺りには万年雪が積もっているのだが、この山腹までには至らないはずだった。
そもそも時空神像で確認した日付からして、次の冬が訪れるのは半年も先である。
今の季節的に吹雪くなどということはあり得ない。
「やはり魔界化しかけているか……」
このラーミナは霊峰であり、フォルトゥナの地でも特に魔力が満ちやすい場所の一つである。
だが自然にここまで極端に環境が変異する程に不安定な状態になることは決してない。
市街地でも感じていたように、このフォルトゥナの地に充満する魔力は異常なもので、放っておけばかつてのアルビオンの時のように魔界化してもおかしくはない。
この雪もその影響によるものであることは間違いないだろう。
「あれがフォルトゥナ城?」
崖沿いの山道を進んでいると、ルイズがハッと目を見張る。
霧の彼方には薄っすらと大きな建物らしき影がぼんやりと浮かんでいるのが見えていた。
フォルトゥナ城は窪地に立っている城で、フェルムの丘からのルートでは一度高台に登ってからまた山道を下っていったりと回りくどく、行き来に不便な道のりとなっている。
別にスパーダがそうしたのでは無く、前任の領主が敵に攻め込まれ難くするために、そういう設計にしたらしい。
あまりに不便過ぎるのでスパーダが領主をしていた時には今通っている山道に浮遊台や昇降機の装置を設けて城の正門前まで往来を楽にできるようにしていた。
それらの装置は2000年の間に壊れたらしく――この世界線においての話だが――使い物にはならなかったのだが。
「止まれ」
ふとスパーダは二人を呼び止めてきた。
「なに?」
「お出ましのようだぜ、娘っ子」
見ればスパーダは腰の閻魔刀だけでなく、背中にはフォースエッジまでも発現させていた。
タバサも杖を構えて周囲に目を配っている。
「お前さん、そいつを出すとは珍しいじゃねえか」
「奴と間違えられてはたまらんからな」
デルフに突っ込まれてスパーダは薄く笑みを零した。
赤い男はどういう訳かリベリオンを得物として持っている。それと同じ物を堂々と持ち歩いていたら、万一にも関係者と疑われかねない。
たまには一番使い慣れている自分の半身を使うのも一興なので、この際ここではこれを使わせてもらうことに決めたのだ。
「……デルフ!」
「あいよ!」
スパーダの呼びかけに応じてルイズを中心に半球状の光の膜が張り巡らされる。
霧の中から突如として無数の影が飛び出し、一直線に突進してきたがデルフの結界によって阻まれていた。
甲高い衝撃音が谷間に轟き渡る。
「こいつ……フ、フロスト……!?」
宙返りをして受け身を取ったのはトカゲのような姿をした悪魔。
その姿はルイズには見覚えがあった。
雪のように白い全身を所々覆う氷の兜や鎧に、鋭い氷柱の爪……そして片腕を包む一際大きな氷塊。
母・烈風カリンが幾度となく相まみえた魔帝ムンドゥスの尖兵に間違いなかった。
「へへっ、やっと出番みてえだな!」
慄くルイズをよそに、背後で光が溢れ出ると共に魔人の姿が浮かび上がった。
ガンダールヴの魔人は両手に剣と長槍を手にし、立ちはだかる敵を見据えている。
フロスト達はヒューヒューと高く喉を鳴らしながら氷の爪をかざして威嚇していた。
(氷の悪魔……わたしじゃ無理……)
タバサはフロスト達を見回して顔を顰めた。
〝雪風〟のタバサが得意とするのは文字通りの風と水を組み合わせた氷魔法だ。
敵は見るからにタバサと同じ力を操る悪魔。かつて戦った、同じく氷の悪魔であるケルベロスに自分の力は全く歯が立たなかった。
同じ結果になるであろうことは火を見るより明らかだった。
「雷なら多少は効く。奴を近づけるな」
タバサの意を悟ってか、そうスパーダは呟くと抜き放ったフォースエッジを無造作に垂らしだす。
と、残像を残してその姿が掻き消えると一瞬で三体いるフロスト達の一体に距離を詰め、一気に空中へ斬り上げていた。
宙に高く跳ね上がったフロストと共に自らも飛び上がったスパーダはそのまま次々と剣撃の乱舞を見舞い、容赦なく切り刻んでいく。
本来ならば重力に従って地上に落下してくる所だが、スパーダも斬撃を受けるフロストも空中に留まり続けていた。
いや、正確に言えば定期的にスパーダは足元に現れた魔法陣を蹴りつけて跳ね、フロストも膝で蹴り上げて同じ高度を維持しているのだ。
「わたしと一緒にルーンを唱えて。同じタイミングで撃つ」
「え、ええ」
タバサに従い、ルイズも自分の杖をタバサの杖と重ねるようにかざした。
いくら系統魔法が使えるようになったとはいえ、今までの成り行きでろくに制御する術など身についている訳ではない。とてもではないが、ルイズ一人だけではまともに使うなど不可能だ。
地上にいた残りのフロスト達は二人にじりじりと迫ってくる。
突如、一体の姿が無数の氷の粒となって霧散する。
だがタバサはおろかルイズですらまるで動じなかった。
「デルフ!」
「おう! 上だな!」
ガンダールヴの魔人は二人の頭上に姿を現したフロスト目掛けて槍を突き出し、胴体を貫いた。血は流れず、砕けた氷の破片だけが飛び散る。
フロストは自らの体を目に見えない程に微細な氷の粒に分散し、大気に溶け込むことで瞬時に遠くへ移動することができる。
だがその軌道は直線的なもので、移動自体の視認は可能だ。
「あんた達の手の内なんて、お見通しなんだから!」
魔人がフロストを崖の外へ放り飛ばすとルイズはしたり顔を浮かべた。
ラ・ヴァリエールに帰省していた際に、時空神像の記憶で母の活躍を散々に観賞していた。
そこで得た知識がこんな所で役に立つとはまさに僥倖である。
残ったフロストは腕を突き出し、ルイズとタバサ目掛けて氷の刃を射出してきた。
タバサのウィンディ・アイシクルのように鋭く速い氷の矢だが、魔人は二人の前に降りて大剣を振るい、難なく叩き落す。
「娘っ子達には指一本触れさせねえぜ。トカゲ野郎!」
フロストはなおも氷の矢だけでなく地面を這い進む鋭い氷山の波を放ってきたが、立ちはだかるガンダールヴの魔人が地面に突き立てた剣の前まで達すると、そこでピタリと力を失い消え去っていた。
「今!」
「ライトニング・クラウド!」
タバサの合図と共に魔人は消え、二人の杖の先で雷光が塊となって収束する。
ルイズの電撃をタバサの電撃が吸収し、より強力となった雷の力はタバサでなければまともには操れない。
激しい雷鳴を響かせて放たれた太い稲妻の帯がフロストに直撃し、その全身を見る見るうちに覆い尽くす。
体を仰け反らせて激しく震わせるフロストの全身を雷光が蛇のように駆け巡っていき、徐々に体面には小さなヒビが入っていく。
やがてヒビは大きく広がっていき、フロストの全身はバラバラに砕け散っていた。
「やった……!」
思わず歓声を上げるルイズはスパーダの方を見やった。
気が付けば濃い霧の中で無数の影に囲まれているのが薄っすらと見えるが、それらを纏めて薙ぎ払うがごとく剣を振るっているのが分かった。
応援に向かうべくルイズは踏み出そうとした。
「Get down!(二人とも伏せなさい!)」
突如、どこからともなく女の大声が響き渡った。
「きゃっ!?」
タバサはほとんど反射的にルイズを押し倒すように雪の上に倒れ込む。
同時に頭上を鋭い何かが薙がれるように掠めていた。
直後にはガラスが割れるような音と共に甲高い金切り声が響いていた。
作品の良かったところはどこですか?
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登場人物
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世界観
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読みやすさ
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話の展開
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戦闘シーン
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主人公の描写・設定
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悪魔の描写
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脚色したオリジナル描写・設定