魔剣異聞録~The Legendary Dark Slayer/Zero   作:月に吠えるもの

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Mission 11 <不浄なる悪夢>

 

その日、ルイズは自分のベッドの上で夢を見ていた。夢の中の幼いルイズは生まれ故郷であるラ・ヴァリエールの屋敷の中庭を逃げ回っていた。

「ルイズ、ルイズ、どこに行ったの? ルイズ! まだお説教は終わっていませんよ!」

騒いでいるのは母、そして追ってくるのは屋敷の召使い達だ。

出来の良い姉達と魔法の成績を比べられ、物覚えが悪いと叱られた最中に逃げ出したからである。

「ルイズお嬢様は難儀だねえ」

「まったくだ、上の2人のお嬢様は魔法があんなにお出来になるというのに」

召使い達の陰口に、ルイズは悲しくて、悔しくて、歯噛みをした。

そして、彼女自身がこの屋敷で唯一安心できる〝秘密の場所〟へと向かった。

そこはあまり人が寄り付かずうらぶれた中庭の池……。池の真ん中には小さな島があり、白い東屋が建てられている。

その小さな島のほとりに小船が一艘浮いていた。

しかし、もうこの池で船遊びを楽しむ者は誰もおらず、すっかり忘れ去られていた。

そんなわけで、この忘れられた中庭の島のほとりにある小船を気に留めるのはルイズ以外には誰もいない。

ルイズは叱られると、決まってこの中に逃げ込むのであった。

予め用意してあった毛布に潜り込み、時間を過ごしていると……。

 

一人のマントを羽織った立派な青年の貴族が、ルイズの目の前に現れた。

歳の頃は十代半ばを過ぎたばかり、夢の中のルイズは六歳ほどであるから、十ばかり年上に見えた。

「泣いているのかい? ルイズ」

つばの広い帽子に顔が隠されていても、ルイズには声で彼が誰だかすぐに分かっていた。

子爵様だ。最近、近所の領地を相続した年上の貴族だ。

そして、自分にとっては憧れの人……。

「子爵様、いらしてたの?」

幼いルイズは慌てて恥ずかしそうに、顔を隠した。

「今日は君のお父上に呼ばれたのさ。あの話のことでね」

「まあ!」

それを聞いてルイズは頬を赤く染めて俯く。

「いけない人ですわ。子爵様は……」

「ルイズ。僕の小さなルイズ。君は僕のことが嫌いかい?」

おどけた調子で言う子爵の言葉にルイズは首を振る。

「いえ、そんなことはありませんわ。でも……わたし、まだ小さいし、よくわかりませんわ」

はにかんで答えるルイズに、子爵はにこりと笑みを浮かべて手を差し伸べる。

「子爵様……」

「ミ・レィディ。手を貸してあげよう。ほら、つかまって。もうじき晩餐会が始まるよ」

「でも……」

「また怒られたんだね? 安心しなさい。僕からお父上にとりなしてあげよう」

島の岸辺から小船に向かって手が差し伸べられる。ルイズは頷いて、その子爵の手をとろうとした。

(あれ……?)

突然、視界に映る全ての風景がぼやけだす。

中庭も、憧れの子爵の姿も、全てが泡沫の中へと溶けていき、辺りの様子が一変していった。

 

「な、何……ここ……」

夢の中のことなのだが、ルイズは当惑の声を上げた。いつの間にか、幼いルイズは十六の今の姿へと戻っている。

体を起こし、立ち上がったルイズは不安と恐怖に満ちた表情で辺りを見回した。

……そこは、ラ・ヴァリエールの屋敷の中庭などではなく、暗雲が立ち込める空と、どこまでも続く真っ赤に染まった血の池が広がる場所だった。

その血の池の地面の所々には瓦礫の山が乱立しており、中には崩れた石柱や大きな石像が横たわっていたりもしていた。

……まるで、この世のものとは思えぬ恐ろしい風景だ。

もしも本当に地獄があるのであれば、このような場所なのだろうか……。

「何……?」

不安と恐怖で支配されるルイズは、突然足元の血の池からゴボゴボと水泡が次々と浮かびだしてきたことに困惑する。

「ひっ……!」

次の瞬間、血の池の中から真っ赤に燃える炎で作られている巨大な鎌を手にする虚ろな白地の体に、体中の血管が浮き出たか血を被ったような不気味な赤の模様をした、見るだけでもおぞましい化け物が次々と飛び出してきていた。

尻餅をついてしまったルイズはその化け物に怖気づいてしまい、動くことができない。

化け物達はさらに虚空に浮かんだ波紋の中からも姿を現していく。

だが、化け物達はルイズが眼中にないようで、その傍を通り過ぎるだけだった。

 

 

『逆賊、スパーダ……!』

 

『裏切り者には、〝死〟あるのみ……!』

 

『貴様の命、ここで貰い受けん……!』

 

 

口々に、呪詛に満ちた怨嗟の言葉を吐く化け物達。

化け物達が口にした言葉に、ルイズは目を見開く。

(スパーダ? 裏切り者?)

彼らは血の池の一角へとにじり寄っていくようだが、この視点からでは化け物達に阻まれてその向こう側を見ることができない。

次の瞬間、化け物の一体が大鎌を振り上げて飛び掛っていた。

禍々しい赤黒いオーラを纏った火球の礫が中心から飛んできて飛び掛ろうとした化け物に命中する。

爆発と共に化け物が空中で粉々に消し飛ばされ、他の化け物達も一斉に大鎌を振り上げて飛び掛るか、突進しだした。

「きゃっ!」

だが、化け物達は突如その中心から吹き付けた強烈な突風によって薙ぎ倒されていった。

その突風は化け物だけでなく、周囲の瓦礫さえも吹き飛ばし、崩落させていた。

ルイズも思わず顔を腕で隠してしまうが突風が止み、視界に映りこむ光景に目を疑った。

「……スパーダ?」

化け物達が薙ぎ倒されて呻く中、そこに立っていたのは……貴族らしい濃い紫のコートを纏った銀髪のオールバックの男。

そう、それは自分のパートナーであるスパーダだった。

「どうして、あなたがここにいるのよ! ここはどこな――」

すっかり安堵の心が湧き上がって立ち上がり、駆け寄ったが、その目前で足が止まる。

唖然とした顔でルイズは、その場に立っているスパーダを凝視していた。

スパーダはルイズが視界に入っておらず、声も聞こえていないようだった。

「スパー……ダ?」

再び恐怖に満ちた表情を浮かべて震え上がるルイズ。

目の前にいるのはスパーダには間違いなかった。

だが、その表情は今まで見てきた、貴族らしく毅然としたものとはあまりにもかけ離れていた。

無表情ではあるが……それは氷のように冷たく、研ぎ澄まされた刃のように鋭い、恐ろしい雰囲気を纏った表情だった。

……まるで悪魔のような、冷酷さに満ちているスパーダの顔、そして瞳……。

これが本当にあのスパーダなのかと、ルイズは目を疑っていた。

 

『シャァッ!』

 

起き上がった化け物の一体が大鎌を振り上げ、スパーダへと襲い掛かる。

しかし、スパーダは手にする剣を袈裟に振り上げ、化け物を両断していた。

彼が手にするのは、いつも持っている二つの剣ではなく、柄頭に骸骨の意匠が施されている刃広の長剣だ。

彼が持っていたあのリベリオンとかいう大剣よりも小さくて迫力に欠ける。

スパーダはその剣を用いて、次々と襲ってくる化け物達を斬り伏せていた。

化け物達を斬る度に、スパーダはその身に大量の血を浴びていく。

本人はそんなことに構わず優雅で無駄のない、そして力に満ち溢れた動作で剣を振るい、化け物達を斬り殺していった。

さらに空いている手を腰だめに構えると、掌に赤黒いオーラの塊が生成されていき、その手を突き出すと巨大な火球の礫が放たれた。

禍々しいオーラを纏った火球は大鎌を振り下ろそうとした化け物に至近距離で命中し、粉々に吹き飛ばしていた。

化け物達はスパーダの剣術で斬り伏せられ、火球によって跡形もなく粉砕され、あっという間に全滅する。

 

あまりの凄惨さに、ルイズは再び腰を抜かしてその場にへたりこんでしまった。

本当に、これがスパーダなのか?

あんなに冷酷な表情など見たことがなく、化け物達を斬り伏せてもまるで気にした風でもないし、あまりにも無慈悲だ。

おまけに、あの火球はなんだ? 彼は魔法が使えない異国の貴族ではなかったのか?

杖は持っていないのだから、先住魔法だとでも?

呆然とするルイズであったが、化け物達を全滅させたスパーダは剣を手にしたまま、しばらくその場に佇んでいるのを見つめていた。

ふと、彼の顔がゆっくりと遠くの空を眺めるように上げられていく。

今まで無表情だったのが、少しだけ眉間に皺が入れられていた。

ルイズもその視線を追って、空を見上げてみた。

 

「……何?」

スパーダが見上げる暗雲に満ちた空。

そこには三角状に並んでいる禍々しい三つの赤い光が、バチバチと稲光を散らせながら不気味に浮かび上がっていた。

「っ……」

これまでにない恐怖の表情で、声にならない悲鳴を漏らすルイズ。

まるで〝目〟のようにこちらを睨んでいるあの光からは、人知を超越した恐怖と威圧感が発せられており、見る者を絶望のどん底へと突き落としてしまいそうだった。

どんな武功を立ててきた歴戦のメイジだろうが、〝烈風〟の名を持ち、生ける伝説と称されている自分の母親でさえも恐怖してしまうかもしれない。

 

だが、スパーダは臆した風もなくその光を睨んでいると、おもむろに手にする剣を水平にして顔の前で構えた。

「……駄目。行っちゃ、駄目……」

震えるルイズは首を横に振り、スパーダを呼び止める。

あれに挑んではいけない。ルイズの精神が、警鐘を鳴らしている。

何万人もの兵とメイジで構成された軍隊を送り込もうが、メイジの系統魔法を超える先住魔法を操るエルフの軍勢であろうが勝てるはずがない。

何故か自然とルイズはそう悟っていた。

だが、スパーダは今度は手にする剣を斜にして身構え、駆け出そうとしている。

「やめなさい! 行っちゃ駄目よ!」

必死にそう叫ぶルイズ。体は竦んで動かせないが、叫ぶことはできた。

スパーダは聞く耳を持たずに、剣を手にしたまま猛然と駆け出していく。

あの三つ目の、赤い光へと向かって。

「だめえぇぇぇっ!」

ルイズは絶叫を上げるが、この光景も徐々に泡沫の中へと溶けていく。

もはや声すらも発せずに、泡沫の中に溶けていくスパーダの後ろ姿を見つめることしかできなかった。

(え……?)

そのぼやけた光景の中で、ルイズは見た。

スパーダの姿が、徐々に人間から異形の姿へと変わっていき、彼が手にしていた剣もまた禍々しい異形へと変貌していくのを。

それはまさしく……悪魔と呼ぶべき恐ろしい姿だった。

 

 

夢から解放され、がばりとベッドから体を起こすルイズ。

体中に冷や汗を掻き、息も荒くなっていた。心臓もいまだ高鳴っている。

ルイズは全てが夢であったことに安心し、深く溜め息を吐く。

そうだ。あんなもの、夢に違いないのだ。何で、あんな夢を見てしまったのだろう。

 

「まだ起きるには早い気がするな」

まだ半分意識に霞がかかったままなルイズの耳に届いた涼しげな声。

薄闇の中、部屋に備えられたテーブルで一人の男が席につく姿にルイズは一瞬呆気に取られたが……。

「……なっ!? 何!? 何でスパーダがここにいるのよ!!」

「やはり寝ぼけているな。自分が寝る前に何を言ったかもう忘れたか」

ルイズの方を振り向きもせず、彼は手にする本から視線を外さないままだった。

「えーと……」

「朝に起こせと言ったのを忘れたか」

「あ……そう、だったっけ……」

そう指摘されてルイズはぼんやりした頭で何とか自分の記憶を探ろうとする。

昨晩は寝る直前に図書館から本を拝借していたスパーダをここに呼んで話し合っていたのだ。

確かスパーダが読んでいたのはハルケギニアに存在するマジックアイテムに関してのものだったような気がする。

ルイズも自分が知る範囲でマジックアイテムが世間でどのように使われてるのか話してみたりと意外に話が弾んだのだが、やがて睡魔が襲い始めてきたので眠りに入ったのである。

その寸前にスパーダには「明日の朝は起こして欲しい」と頼んでいたのだ。

 

「まだ三時間も経っていない。寝直すなら今のうちだぞ」

確かにまだ夜は明けておらず、月明かりが薄っすらと窓から部屋の中に入り込んでいる。

どうやらスパーダはずっとここにいて本を読み続けていたらしい。

「……だが私がいると、どうやら落ち着けんようだな」

「どこ行くの?」

「朝まで学院の外でも散歩してくる。ではな」

本を手にしたままスパーダはさっさと出て行ってしまう。

残されたルイズはボーっとしたまま扉をじっと見つめていた。

 

(……そうよ。あれはスパーダじゃないんだわ)

あれは所詮、悪夢に過ぎない。

夢の中のスパーダは化け物達に裏切り者と呼ばれていた。だが、スパーダが化け物の仲間……ましてや悪魔だなんてあり得ない。

第一、もしも本当に悪魔であるなら自分はおろかこの学院の人間も、スパーダが召喚された日に皆殺しにされていたはずだ。

そう自分に言い聞かせ、ルイズは再び毛布を被って二度寝した。

 

 

その日の朝、ロングビルはいつもより早く起床していた。

まだ夜が明ける直前であったが目が覚めてしまったロングビルはベッドから体を起こし、ネグリジェから服に着替えると顔を洗うために中庭の水場へと向かう。

眼鏡は所詮、ロングビルとして扮するために付けている伊達眼鏡であるため、今はまだ付けていない。

もう盗賊家業はできない以上、これからロングビルとして、この学院で生きなければならない。

だが、そうしなければ故郷で待っている子供達を養うための資金は稼げない。

盗賊として宝を盗んでいれば、子供達を飢えさせない充分な資金は稼げるが、それはあまりにもリスクが大きすぎる。

自分が捕まり、処刑されればもはやあの子達を養うことはできない。

稼ぎは悪くなってしまうが、この学院の秘書として地道に稼がなければならない。それが一番無難な道だ。

貴族達への復讐も兼ねて行っていた盗賊家業から、本格的に学院の秘書として転職……。

そういえば、あの子達は自分がどうやって稼いでいるのかいつも不思議がっていたが、これなら言い訳にもなるだろう。

「礼を言うべきなのか……微妙な所ね」

その道へと進ませたあの銀髪の男。

魔法は使えないが、彼は自分と同じ没落貴族だったと自分で口にしている。

彼は自分と同類の存在なのかと思っていた。自分と同じように、彼も故郷で貴族の名を捨てざるを得ない何かがあったのではないかと、ずっと考えていた。

本人は表面上、全く気にした様子も見せていなかったが、その心の内側はどうなのかは分からない。

あの舞踏会の夜、自分は酔った勢いで心の内を彼に曝け出してしまった。

……では、彼はどう思っているのだろう。

自分と同じ没落貴族というのであれば、その心情は一体どうなのか。

第一、彼の故郷は一体どんな場所だったのだろう。

あんな得体の知れない化け物を使い魔のように従えるわ、不思議な武器があるわ……。

 

思いを巡らしながらロングビルはつかつかと自室へと戻っていく。

「あら……?」

自室の扉を開けた途端、部屋に違和感を感じてロングビルは怪訝そうにする。

いつの間にか窓が半開きとなっており、外からは一筋の風が流れ込んできている。

開けた覚えがないのだが……。

ロングビルは不思議そうにしつつも窓を閉め、今日の秘書としての仕事を始めるための準備に取り掛かろうとする。

 

突然、背後に気配を感じた。

瞬間、ロングビルは後ろを振り向く。

部屋の隅、ちょうど扉の裏側に隠れることができる位置に人影の姿が窺えた。

長身の黒マント姿のその人影はフードを被り白い仮面で顔を覆っているために、素顔が分からない。

その体型からして男のようだが。

「どちら様になりますか? ここは学院長秘書の私の部屋でございますが、女性の寝所に忍び込むなんてずいぶんと野暮でございますのね?」

あくまでも秘書として事務的に話しかけるロングビルだが、油断無くその手は胸元に隠している杖へと伸ばされている。

その仮面の男は、ロングビルを値踏みするかのようにじっと見つめて沈黙している。

『……土くれだな』

仮面の奥にあるであろう、口から出てきた男の声は年若く、力強いものであったが妙に響きがかかっており、人間とは思えないように感じられた。

妙に響きがかかっており、人間とは思えないように感じられた。

男の口から発せられた言葉に、ロングビルの顔が微かに強張る。

「〝土くれ〟? ひょっとして、〝土くれ〟のフーケのことでしょうか? あの盗賊の」

〝土くれ〟のフーケはスパーダの使い魔らしき異形をフーケとして仕立てて殺したため、フーケの正体は人間ではないということは既に国中に知れ渡っている。

それなのに、この男は自分のことを〝土くれ〟と呼んだ。

ロングビルは杖を引き抜き構えるが、男は両手を広げて敵意がないことを示す。

『話をしにきた、〝土くれ〟よ』

「話をするも何も。私は〝土くれ〟のフーケなどではありませんよ。人違いでございます。第一、フーケはもう討伐されているはずですが」

男は顎に手を当てるような動作で、考え込む仕草を取る。

 

『我らに力を貸して欲しい。マチルダ・オブ・サウスゴータ』

僅かな沈黙の後、男の口から出てきたその名にロングビルは蒼白となる。

それは、かつて捨てた……いや、捨てることを強いられた貴族の名であった。

この名を知る者は、もはや極僅かしかいないはずである。

「あなた……何者?」

秘書としての事務的な態度を辞めて平静を装うが、無理だった。

震える声でロングビルは尋ねるが、男はその問いに答えずに笑った。

『再び、アルビオンに仕える気はないかね? マチルダ』

「……何が目的よ。言っておくけど、私の全てを奪った王家に仕えるなんて願い下げだわ」

敵意を露わにして、ロングビルは答える。こいつ、アルビオンの手先か。

『勘違いするな。何も無能な王家に仕えろと言っているわけではない。それにあの王家も直に倒れるからな』

「どういうこと?」

『革命だ。我々はハルケギニアの将来を憂い、国境を越えて繋がった貴族の連盟さ。我々有能な貴族が政を行い、ハルケギニアは我々の手で一つになるのだ。

そのために、我々は優秀なメイジを一人でも多く欲している。協力してくれないかな? マチルダ』

「馬鹿言っちゃいけないわ。私は貴族なんて嫌いだし、ハルケギニアの統一なんて興味ないわよ」

ロングビルの言葉に、仮面の男は懐へと手を忍ばせだす。

 

『マチルダ。お前は選択することができる』

「言ってごらんなさいよ」

『我々の同志となるか……』

その後を、ロングビルが引き継ぐ。

「ここで死ぬか、って所かしら?」

だが、男から返ってきた言葉は意外な答えだった。

『いや、協力をしてくれないのならば仕方が無い。私は帰らせてもらおう。お前にはもう用はない。好きにするといい』

あっけらかんにそう言うと、男はロングビルの横を通り過ぎて窓の方へと向かう。

不審に思いながら、ロングビルは油断なく男をじっと睨み続けていた。

普通、こういう時は秘密を知った者は殺す、などと言うものだが。

窓を再び開けると、男は動きを止める。

 

『お前が協力を拒んだ以上、彼女は用済みだな』

男は懐に入れていたグローブに包まれた手を出し、何かをこれ見よがしにロングビルに見せ付ける。

その手には、見覚えのある宝玉のついた指輪が握られていた。

それを見た途端、ロングビルは先ほど以上に蒼白となり、愕然と目を見開いた。

手にしていた杖が、コトンと乾いた音を立てて床に落ちる。

「……あの子をどうしたというの!」

いつもの冷たい雰囲気をかなぐり捨ててロングビルは男に詰め寄り、その手から指輪を取ろうとする。

だが、男はロングビルを振り払うように床へと突き飛ばしていた。

『さあな。もうお前には関係あるまい』

男はせせら笑ったような声で答える。

あの指輪はロングビルが大切にしている、故郷の一角にある小さな村へと匿っている少女の物。

血は繋がってはいないが、あの子は自分にとっては妹みたいなもの。

そして、あの指輪はその妹にとっては母親の形見。

それをこの男が持っているということは……。

「待って! あの子には手を出さないで!!」

もはや余裕さえも失い、必死に請うロングビル。

男はその反応を待っていたかのように、ゆっくりと振り向いた。

『我々に協力してもらえるな?』

「……何が協力よ。要は強制でしょう? 本当に貴族は卑怯な奴らばかりだわ」

『我々も手段は選んではおれんからな。で、どうするのだ?』

ロングビルは悔しさに唇を強く噛み締め、床につく拳を握り締めた。

これだから、貴族というのは嫌いなのだ。

「……協力する前に、あの子と会わせてちょうだい」

『いいだろう。……だが、共に逃げようなどとは思うなよ。無駄なことだからな』

男は仮面の奥で、不敵に笑みを浮かべているのが、ロングビルには感じられていた。

 

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  • 読みやすさ
  • 話の展開
  • 戦闘シーン
  • 主人公の描写・設定
  • 悪魔の描写
  • 脚色したオリジナル描写・設定
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