魔剣異聞録~The Legendary Dark Slayer/Zero   作:月に吠えるもの

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Another Mission <フォルトゥナ城-Confluence> 15章

フォルトゥナ城のエントランス、光の間は吹き抜けの構造となった広大なホールとなっている。

今では博物館として利用されているのもあって、一階には観光客のためのラウンジが設けられており、整然と椅子が並んでいた。

「ちっ……あの野郎はもういねえのかな……」

ホール二階のバルコニーの回廊を、一人の青年がぼやきながらうろついていた。

剣を背負う青年――ネロは手すりに寄りかかり、気だるそうに大きな溜め息を吐いている。

「もう他に調べられそうな所なんてねえぞ……」

今日はネロにとっては最悪な一日だったと思わざるを得ない。

魔剣祭はキリエの歌を何とか聞けたし、いつも世話になっている礼としてささやかな贈り物もできたことで本懐は果たせた。

だが、魔剣祭は直前に突然入った任務のせいで遅刻することになった上に訳の分からない乱入者のせいで魔剣祭は大騒動になるし、その乱入者を追討する任務まで言いつけられてしまった。

おかげでネロは昼間の乱闘騒ぎから休む間もなく、このフォルトゥナ城までわざわざ足を運んでいるのだ。

 

(ったく、野郎以外には用はねえんだけどな……)

愛用の大型リボルバー拳銃――〝ブルーローズ〟を軽く手の中でいじりながら心底うんざりした顔を浮かべる。

道中はおろか、城にやってきてからもネロは散々な目に遭っていた。

城内には雑魚の悪魔がうろついているし、時には予期せぬ襲撃を受けることだってあった。

つい先程など、中庭で巨大なカエルのような悪魔と戦う破目になったのである。しかもそれなりに手こずる相手だった。

そいつが一匹ではなく何匹もの仲間がいる悪魔で、大量の敵を相手にする最悪の事態になりかかったが、間一髪で窮地から逃れることはできたのだけが幸いだ。

しかし、いくら有象無象の悪魔を大勢倒した所で、目的の赤い剣士を捕まえなければ何の意味もなかった。

 

(あいつも人間じゃねえなら、一体何だ……? あんな悪魔がいるのか?)

露わになっている己の右腕を摩りながらネロは考え込む。

歌劇場で戦ったあの赤い男は、確かに心臓を貫いたはずだった。人間だったら無事でいられるはずがない。

だがあの男は平然と生きていた。あのままどこかでのたれ死んでしまいそうな様子など、これっぽっちもなかった。

あの異常な生命力は、それこそ悪魔でなければあり得ないものだった。

事実、ネロはあの男が現れる寸前に人ではない気配をはっきり感じたのである。

(そういやあ、あの女もあいつも……)

……いや、考えてみれば今日は幾度も悪魔達の気配を感じてばかりだった。

 

「ん……?」

ぼちぼち探索を再開しようと思った矢先だった。

城の入り口の大扉が重々しい音を立てて開きだしたのだ。

「応援……な訳ないか……」

そもそも他の教団騎士達は街の巡回や、命辛々本部に戻った教皇を守るために厳重な護衛が就いている。

とてもではないが、赤い剣士を捕まえるために応援が出せるような状況ではない。

「あいつら……」

ホールに入ってきた三人の人影を見てネロは眉を顰めた。

桃髪と青髪の少女、そして自分と――赤い男とも――同じ銀の髪の男。

昼間に出会った不思議な観光客達だった。

その姿を目にしたネロは捲くっていた右の袖を、慌てて伸ばし始める。

この右腕を、他の誰にも見られる訳にはいかなかった。

 

 

「ふぅん。中々良さそうな所じゃない」

城内のホールを見回しながらルイズは感嘆としていた。

トリスタニアの王宮が壮麗で言い表せるなら、フォルトゥナ城は荘厳という言葉がよく似合う雰囲気だった。

広大なホールは天井までゆうに20メイルはあろうかという高さであり、眺めていると思わず目が眩んでしまいそうだ。

「どうだ? 久々の帰郷はどんな気分だい? 領主様」

「ただ借りていただけだ」

からかい気味に笑うデルフを突き放しながらスパーダはホール内を見渡していた。

何しろスパーダが領主としてこの城を使っていたのは2000年も前の話だ。当時と同じままであるはずがない。

既に居城としては機能しておらず博物館として利用されているそうで、手入れは行き届いているのか中はずいぶんと綺麗だった。

 

「ここにあいつがいるのかしら?」

「まだいればな」

赤い男がこの城のどこにいるのかはスパーダにも見当がつかない。

城内の構造や見取り図、間取り自体は頭に入っているのでどこに何があるのかだけは把握できる。

城主の私室は二階の西側にあり、ホールを挟んだ反対側には蔵書庫があったはずである。

何しろ本来は小領主としての城であるため、大した部屋は存在しない。

少なくともこの地上部分には。

 

「――ネロとか言ったな。お前の方は奴を見つけたのか?」

突然スパーダは誰ともなく声を上げ始め、ホール中に響き渡る。

ルイズとタバサは呆然と見つめていたが、直後にはそれに答える別の声が返ってきた。

「――さあね。俺も捜してる所だよ」

と、うんざりした声と共に二階のバルコニーから人影が手すりを飛び越え降りてくる。

「あんたは……」

「ネロ」

目を丸くするルイズに続いてタバサが呟く。

三人の前に現れた銀髪の少年は、昼間に出会ったネロという教団騎士の一人だった。

 

ネロは拳銃をしまいながら三人の元に歩み寄ってくる。

「わざわざこんな所まで観光かい? どんな神経してんだよ」

ルイズ達を見てネロは呆れたように肩を竦めだす。

「何言ってんのよ。あたし達も、あの赤い男を追って来たのよ!」

「……何でまた?」

怪訝そうに顔を顰めるネロにルイズはさらに食ってかかった。

「あんた達が全然頼りないからに決まってるでしょ! 何人がかりであいつに挑んで返り討ちにされたのか忘れたの?」

「他の連中には耳が痛くなりそうだな……」

と、ネロは乾いた苦笑を浮かべだした。

 

「そこまでだ。私達も奴には用がある。それだけのことだ」

尚も食いつこうとするルイズを押し留めるスパーダ。

ネロもちらりと視線を彼に変えていた。

「ええと……確か、〝(ディー)〟だったっけ。あんた?」

コートの袖で覆われた右腕を押さえながらネロは顔を顰めだす。

劇場でルイズが名前を呼んでいたのを憶えていたが、とても本名とは思えない呼び名には違和感しか覚えなかった。

「そう呼ばれている。こちらはルイズにタバサだ。デビルハンターをやっている」

改めて紹介するスパーダをネロはちらちらと見つめていた。

その視線はスパーダの腰にある閻魔刀と肩から覗くフォースエッジの柄に注がれている。

「あんたも剣を使うのか?」

「何よ。文句あんの? 言っとくけど、あんたなんかより彼はずっと強いんだからね!」

ルイズは自慢でもするように得意げに胸を反らしていた。

「いや……この島の外で今時まだ剣を使って戦ってる奴なんているのかなって思ってさ」

今は21世紀。どうやらこの未来の時代では世界的には剣は時代遅れの代物らしい。

だが魔剣教団の騎士達は、そんな時代遅れの武器を得物としているのは実に矛盾でもあった。

 

「右手は大丈夫?」

ふとタバサはネロに声をかけた。その視線は彼の右腕に注がれている。

「ああ……平気だよ」

袖を捲くった左手と違い、完全に覆われている右手を押さえてネロは答えた。

スパーダもまたネロが隠そうとしている右手に注視する。

(魔力の出元はやはりこれか)

このホールに入った時からネロの存在を認識できたのも、悪魔の気配と魔力を感じ取ることができたからだ。

それらは最初に顔を合わせた時から感じていたもので、ネロという個人を識別することもできた。

だがネロ自身から発せられるものではないことも分かっている。

隠しきれていない膨大な魔力の根源は、彼が隠そうとする右腕そのものだった。

 




※時系列はゲーム本編で言うと、ミッション5の終わり辺りになります。

作品の良かったところはどこですか?

  • 登場人物
  • 世界観
  • 読みやすさ
  • 話の展開
  • 戦闘シーン
  • 主人公の描写・設定
  • 悪魔の描写
  • 脚色したオリジナル描写・設定
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