魔剣異聞録~The Legendary Dark Slayer/Zero 作:月に吠えるもの
一行はひとまずラウンジの椅子に腰を下ろしていた。
お互いにとってはちょっとした足休めで一息を入れられる良い機会だった。
「じゃあ、ここに来てる教団の騎士ってあんただけなの?」
「ああ。クレドも他の連中も、教皇の警護に忙しくてね」
ルイズとタバサが姿勢を正しているのに対し、ネロは反対にした椅子の背もたれに顔と腕を伏せた行儀の悪い姿勢だった。
ネロからの話によれば、赤い男を追跡するために派遣されたのは彼一人だけだという。
いや、正確には二人だ。ネロはこの城に入る際にあのグロリアと出会ったらしい。
「あんた一人であいつを捕まえられんの? 全然歯が立たなかったじゃない」
赤い男の急所を突けたのも、タバサやルイズの援護があってこそのものだ。他の騎士達が束になっても敵わなかった上に、ネロ一人だけで挑んでもまるで足元にも及ばなかったであろうことは明らかである。
「今度はこいつを持ってきてるんだ。これなら奴に後れは取らない」
自信ありげに言いつつネロは背負っている剣を抜いて床に突き立てた。
「……前のとどう違うのよ」
じっと目を細めてルイズはその剣を凝視する。
彼が劇場で使っていた装飾が施された剣と似ているが、よく見ると細部はかなり違う。特に片刃の刀身はやや細かった前のよりかなり分厚く一回り大きい。
「俺の愛用品でね。あんなカリバーンなんかよりずっと頼りにできる」
「あの時はどうして使わなかったの」
タバサに問われてネロは渋い顔を浮かべだす。
「修理中だったもんでね。あの後にやっと終わったんだ」
〝レッドクイーン〟は一般の教団騎士達が使う〝カリバーン〟やクレドの〝デュランダル〟ともまた違う、ネロが愛用する彼だけの剣だった。
一ヵ月前に現れた悪魔達を蹴散らす際に故障してしまい、今日まで修理していたのである。
「ところでお前ら、本当に魔法使いなのか?」
「あたし達が魔法を使って何か文句あんの?」
不思議そうにするネロにルイズはムッとした。
ハルケギニアでは魔法やメイジの存在は当たり前だというのに、彼の反応を見るに、どうもこの世界では魔法を使えることが相当に珍しいことらしい。
「クレドも気にしてたんだよ。何でこんな小さいのに、あの野郎と渡り合えたのかってな。デビルハンターに今時魔法使いがいるなんて珍しいぜ」
ネロは劇場においてクレドにルイズ達のことを少しだけ話していた。さすがに魔法使いであることは――信用してくれるか分からなかったのもあったが――伏せていたが。
部外者が加勢してくれたのは予想外だったが教皇の命が守られたことは事実のため、そのことにクレドは感謝していたのである。
冗談半分で加勢を頼もうかとも言ってみたが、さすがに教団の沽券に関わるので却下されたのだが。
「じゃあ……〝
一度呼吸を整えて、ルイズはスパーダの今の名を口にする。
ネロはちらりとスパーダの方を振り向いた。
三人と違い席には座っておらず腕を組んだまま立っており、ホール内を見渡し続けている。
(何か奴に似てるな……)
着ている服や背負っている剣は違うが、赤い男とスパーダの印象がネロにはとてもよく似ているように感じられた。
性格は全然違い、こちらの方はあの男よりは若いながら物静かなのもあってずっと貫禄や威厳があるのだが。
「正直、手伝ってくれるんなら有難いね。クレドに何て言われるかは分かんないけど……」
ネロとしては別に教団の権威がどうのこうのと気にはしなかった。目的と利害が一致しているなら、協力した方が手っ取り早い。
さっさと任務を終わらせて、今も心配しているであろうキリエに顔を見せて安心させてやりたいのが本音だった。
「お前はまだ奴を見つけてないそうだな。城の中は全部廻ったのか?」
スパーダに問われてネロは溜め息交じりに返した。
「ああ。粗方調べ尽くしちまったよ。どこにも奴はいないぜ」
「じゃあどうすんのよ? 街に戻る気?」
ルイズ達にしろ何の収穫も無いままでは骨折り損も良い所である。
「この城の裏手に、ミティスの森に続いてる道があるんだけどな……もしかしたら、そっちの方に抜けたのかもしれない」
確かにネロの言う通り、フォルトゥナ城の裏にある谷にはフォリスの滝があり、そこからミティスの森へと続く坑道に入ることができる。
谷に架ける橋を動かす装置もちゃんとそこにある。
「具体的にこの城のどこを見て廻った?」
「どこって……一階も二階も全部さ。ついでに中庭の方もな。ああ、庭には変な板があってな。そいつには近づかない方がいいぜ」
さらにスパーダに問われてネロは戸惑い気味にそう告げた。
そこまで聞いたスパーダはちらりと正面奥の二階バルコニーを見上げだす。
バルコニーのさらに先にはこの階下からでもはっきり見える程に大きな肖像画が飾られているのが分かった。
ルイズとタバサはじっとスパーダを見守る。
この城のことを知り尽くしている彼には、何か気掛かりなことがあるのが察せられた。
「その分では、地下は調べていないな」
「地下だって?」
目を丸くしながらネロは立ち上がった。
「この城の地下には錬金術や魔術の研究棟があったはずだがな」
「何だって? そんなの知らねえよ」
ちらりとスパーダは驚いた様子のネロを見つめる。
(シロ……か)
その反応からしてネロは本当にこの城の内部を全て知り尽くしている訳ではないことが見て取れた。
「第一、何であんたがそんなこと知ってんだ?」
「何言ってんの。〝
「フォルトゥナのマニア。島の外にもこの城の古い文献が少しある」
口を滑らせそうになったルイズを遮るようにタバサはそう告げた。
多少意味合いは違うが、このフォルトゥナの地についての知識は誰よりも詳しいことに変わりない。真実と虚構を織り交ぜて、この世界におけるスパーダの印象を作り上げたのだ。
「そういうことだ。地下への入り口はちょうどここの二階にあったはずだ」
「お、おい」
ホールの奥に向かって歩き出したスパーダの後を三人は椅子から立ち上がって続いていった。
一足にバルコニーに飛び上がるスパーダに続き、ネロもルイズ達も次々に上がってくる。
「あんた、魔法を使えないのにそんなに動けるの……」
「これでも鍛えてるんでね」
ルイズとタバサは一緒にレビテーションで浮かんできたが、ネロは壁を蹴って足場にすることで垂直に飛び上がったのである。
その身体能力は普通の人間ではあり得ない。まるでスパーダに匹敵するものだった。
二階バルコニーの中央にはさらに奥へ続く高く広い通路があり、少し先には一階からも見えていた巨大な肖像画が飾られていた。
それは魔剣教団の教皇のものだった。
「何か趣味の悪い絵ね……」
高さ10メイル以上はあろうかというその絵を眺めながらルイズは顔を顰めだす。
「奇遇だな。俺もそう思うぜ」
ネロも鼻を鳴らしながら冷笑を浮かべていた。
誰が描いたのかは知らないが、自分の存在を必要以上に誇示しているようにも感じられて、ルイズにとって印象は良くない。
そんな悪趣味な絵を眺めるスパーダの横にタバサは立ち止まった。
「微かに風を感じる」
「お前にも分かるか」
地下の研究棟は城主しか立ち入れない秘密の場所だ。
入口には分厚い門があったのをスパーダは憶えていたが、今あるのはこの肖像画である。
どうやら入口自体は今も存在しているようだが、観光客を立ち入らせないためか、偽装して隠されているようだ。
「で? こんな所に地下への入口があるのか?」
「ああ。そのはずだ」
近寄ってきたネロに答えつつスパーダはそろそろと後退っていく。
「こんな馬鹿でかい絵を取り外す訳にもいかねえしな……」
絵を見上げながらネロは溜め息を零した。
「いっそ壊しちゃっても良いんじゃない? どう? 〝
ルイズは冗談半分ながら面白そうにクスっと笑い出す。
スパーダは僅かに目を細めて薄く冷笑を浮かべていた。内心では賛成しているようだ。
こんな絵が飾られているのが気に入らないのかもしれない。
「その必要はない。下がってろ」
だがスパーダは却下すると腰の閻魔刀へと手をかけだした。
ルイズ達はスパーダの隣までやってくるが、ネロは身構えるスパーダを怪訝そうに眺めていた。
「何する気だ?」
「いいから、黙って見てなさい」
小さくほくそ笑みながらルイズはスパーダを見守っていた。
魔剣教団が神と崇める魔剣士スパーダの剣技を、目の当たりにできるのは信徒にとっては僥倖に違いない。
「な……!?」
ネロは目を見開き愕然とした。
スパーダが抜き放った閻魔刀の刃を十字に素振りすると、正面の空間に切れ目が入り、穴が開いたのだ。
スパーダは亜空間へ続く穴の中へと進んで入っていき、ネロは目を丸くしたまま立ち呆けていた。
「何だこりゃ……? 一体、何しやがったんだ?」
「あれは魔法の剣」
狼狽するネロにタバサはポツリと呟いた。
自分達が魔法使いなら、スパーダは魔法の剣士だ。そういうことで納得させた方が分かり易い。
「魔法の剣……?」
「そ。彼の剣は、空間だって切り裂いちゃうんだから」
自慢げにルイズはニヤリと微笑んでネロを見やった。
彼の反応からして、どうやら魔剣教団ではこのような摩訶不思議な力を持つ剣など扱ってはいないようだ。
少しするとスパーダは穴からぬっと出て戻ってきた。
ネロは目をパチパチとさせながら顔色一つ変えないスパーダを困惑気味に見つめている。
「向こうの出口は開けておいた。ちゃんと道は地下に続いている」
「あんた、一体……?」
「そんなことはどうでも良い。お前達は先に行ってろ」
そう冷たく言いながらスパーダは一行の横を通り過ぎ、来た道を戻ろうとする。
「……って、どこへ行くのよ?」
「蔵書庫で少し調べ物がある。私も後で行く」
ルイズとタバサは顔を見合わせた。
(ま、こっちの様子は一応あっちにも届くからな)
恐らく、というか最初からデルフを通して地下の様子を見るつもりでいたのだろう。
大事な調べ物があるが、地下を同時に調べる訳にもいかない。
そのダブルアクションを成すには、ルイズ達を先行させるしかなかったのだ。
「これを持っていけ」
懐から取り出した物をスパーダはルイズに差し出した。
それは炸裂するニードル弾を発射する銃・ケブーリーだった。
この世界では虚無の〝
「なるべく早く済ませてよ。ここのことはあなたじゃないと分かんないんだから」
「ああ。努力はする」
ケブーリーを胸に抱えるルイズにスパーダは頷き返すと、ちらりと視線をネロに移す。
「な、何だよ」
ハッとしてネロは右腕を隠すように庇った。
スパーダの視線が自分の右腕に注がれていることに気が付いたのだ。
「隠すのはお前の勝手だが、右手を使わんままだと全力は出せんぞ」
そう言い残してスパーダは歩き去っていった。
ルイズとタバサはじっとネロの顔を見つめて僅かに目を細める。
冷や汗を滲ませる表情には焦りの色が浮かんでいた。
作品の良かったところはどこですか?
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登場人物
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世界観
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読みやすさ
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話の展開
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戦闘シーン
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主人公の描写・設定
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悪魔の描写
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脚色したオリジナル描写・設定