魔剣異聞録~The Legendary Dark Slayer/Zero   作:月に吠えるもの

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Another Mission <ある騎士団長の手記-File Ⅰ> 17章

フォルトゥナ城二階の東側には城主のコレクションが置かれたギャラリーがある。

2000年経った今も絵画や彫刻などの美術品が飾られているのに変わりはないが、どうやら一般に開放されて城の歴史の展覧室として使われているらしい。

そこを抜けた先のテラスの回廊の一番奥にあるのが蔵書庫だ。

ネロはここで悪魔達に遭遇したのか、床や壁には争った形跡が見られていた。

 

――すごい深い穴ね……。ここを降りるの?

 

――ダクトか……あそこから奴が入ってきたって線もあるか。

 

脳裏では別れたルイズ達の様子が強い風の音に混じって微かにざわめいている。

そちらにも少しだけ意識を向けながら、スパーダは書架から書物を手に取っては目を通していた。

2000年間におけるフォルトゥナの歴史や魔剣教団の成り立ち、歴代教皇の記録……。

どうやらこの世界線では魔帝ムンドゥスによる人間界侵攻から2000年間、フォルトゥナで大した事件や騒動は起こっていないようだ。

ちなみに現在の教皇の名前はサンクトゥスというらしく、即位してから17年が経っている。原則として教皇の地位は先代の死によって継承されるとのことである。

 

――おらあっ!!

 

――馬っ鹿じゃないの、あんた。そんなのでこんな大きな扉が開く訳ないじゃないの。

 

――駄目元さ。……しかし、これじゃあ進めねえな。

 

(一応、宗教としてはまともなのか)

土着信仰の魔剣教だが、その成り立ちや歴史は断じてカルト的なものではないことがスパーダを感嘆とさせた。

魔剣士スパーダの偉業と伝説を純粋に信じ、感銘を受けた者達の熱意と義憤が全ての発端であり、その想いは何百年以上もの間、維持し続けられていたのである。

(堕落したのはサンクトゥス、ということか)

だが今の魔剣教団の名誉を貶めようとしているのが誰でもない、現在の教皇であることは歴代の教皇達にとっては恥以外の何者でもないだろう。

スパーダが一目見ただけで、ネロと同じく隠しきれていない……だが逆に邪な魔力と気配を宿していたのだから。

 

――と、扉が……!?

 

――ん?

 

それを裏付ける一冊の書物を、スパーダは今読み耽っていた。

丁寧に装丁されたその本は先々代の教団騎士の長が記した手記である。

スパーダが最も興味を惹いたのは、20年前から始まる記録の数々だった。

 

『今年の魔剣祭も大過なく執り行われた。お年を召されたとはいえ、やはりソレムニス様の演説は温かみがあって、実に聞き心地が良い。

 信徒達が道中、悪魔どもの犠牲にならないか心配ではあったが、サンクトゥス司教の教え通りに騎士達を配置させたおかげで何も問題なかった。さすがは先代の騎士団長だっただけのことはある』

 

確かに教団騎士の記録には歴代騎士団長の名簿もあり、そこにサンクトゥスの若い頃の姿も載っていた。

若い頃はあの男も剣を手にして騎士達を統率し、悪魔達と戦っていたのだろう。

もっとも、老いさらばえた今となってはまともに剣を振るうことも苦なのだろうが。

 

――さ、魚!? 何よこいつら!

 

――さあね。扉をぶっ壊してくれたのはありがたいがな!

 

――ライトニング・クラウド!

 

脳裏で激しい銃声がガンガンと鳴り響いている。

読書を邪魔する雑音だが、スパーダは意識を本に集中させ、騒々しい音を片隅に追いやっていた。

 

『この度、新しく歌劇場が市内に建設されることが決まった。魔剣祭はこれまでフォルトゥナ城で行われていたが、往来が不便過ぎるというのは私も同意だ。

 民衆もこれからはより安全に、魔剣祭に足を運ぶことができる。ソレムニス様はやはりお優しき方だ。

 魔剣士スパーダがこのフォルトゥナの地をお守りして間もなく2000年が経つ。完成した暁には、記念すべき日になるだろう』

 

『サンクトゥス司教の発案で、劇場のモニュメントには偉大なる神、魔剣士スパーダを模した聖像が建てられることになった。

 図面を見てみたが、正直あまりしっくり来ないデザインだ。もっとも、魔剣士スパーダが実際にどんなお姿なのかを我々が知る術はないのだが』

 

『ここの所、サンクトゥス司教は似つかわしくないほど顔を顰めてばかりだ。

 今の世界は堕落しているとか、神への感謝を忘れた愚か者が増えたとか、そんなことを呟いている。少々、神経質ではないだろうか?

 確かにスパーダの伝説は世間ではおとぎ話扱いされている。だが世界が平和であるからこそ、そんなおとぎ話が作られるようになり、人々はささやかな安楽を享受できるということではないか。それを守るのが、我々教団騎士の使命のはずである。

 享楽も度が過ぎるのは良くないが、神に祈りを捧げるだけな羊になるだけでは、我々は人間ではなくなってしまう』

 

『最近、ソレムニス様の調子がお悪い。よく咳をなさるし、顔色も優れない。老いたとはいえ、まだ極端なほど健康に気を遣う程でもないはずである。

 サンクトゥス司教に相談してみたが、「教皇様のお身体は私が診るから心配せずとも良い」と言われた。だが、やはり心配だ。

 遥かアメリカ大陸のアークレイ山地にのみ自生するという薬草は健康や滋養に富むとされるらしい。今度、取り寄せてみようか……』

 

『ああ、何ということだろう。せっかく薬草が手に入ったというのに、一足遅かった。ソレムニス様は天に召されようとしている……。

 病の床に臥せながらもソレムニス様は私を枕元にお呼びし、言ってくれた。「これからはサンクトゥスの良き力になるように」と。

 次の教皇がサンクトゥス司教になることに私も異論はない。あのお方はソレムニス様が最も信頼なさっていた右腕で、私にとっても剣の師匠だ。

 これからはあの方の忠実な右腕となって、この腕を振るうとしよう』

 

『今日、市内の警邏をしていた時に変わった男を見かけた。路地に現れた悪魔達をたった一人で蹴散らしていたのだ。

 何と卓越した剣技だろう。日本刀というこの地ではさぞ珍しい剣を自在に操り、悪魔達を容易く屠っていた。とても人間の技とは思えない。

 あの異様な殺気は思い起こすだけでも背筋が凍りそうだった。彼は明らかにこのフォルトゥナの住人ではない……』

 

『深夜、私は部下に叩き起こされてフォルトゥナ城へ急行した。

 サンクトゥス様が教皇に襲名なされたこの日は、魔剣士スパーダの私室で一夜を過ごす儀礼が行われていた。そこで異変が起きたらしい。

 サンクトゥス様は怪我をなされなかったが、警備の騎士達は何人かが倒されていた。だが気絶していただけだ。悪魔の仕業にしては生易しすぎる。

 サンクトゥス様にお尋ねしたら、「賊が入っただけだ」と返ってきた。不届き者め。我らの神聖な儀礼を邪魔するとは。

 賊の特徴を聞いて驚いた。日本刀を持った銀髪の男。……あの男だ。昨日の昼間に見た、あの青ずくめの男に違いない。

 何の目的かは知らぬが、教団の威信に賭けて、この地を離れられる前に捕えねば』

 

この辺りの記述がスパーダは少し気になった。

17年も前に、この世界線の自分はフォルトゥナの地を訪れていたのだろうか? その青い男が持っていたという日本刀は、閻魔刀である可能性はある。

記述からは青い男が、今この地を騒がせる赤い男と同一人物かまでは読み取れない。

 

『今日は実に珍しい人物がサンクトゥス様の元に見えられた。アグナスではないか。確か、ウロボロスという大企業に出向していたはずである。

 何年もこのフォルトゥナに戻っていなかった彼が、何をしに来たのだろう? サンクトゥス様に尋ねたら、「教団の改革のために呼び戻した」とのことらしい。

 どうやら、手始めとして我らの使う剣をより強くしてくださるそうだ。それにはウロボロスの研究者として務めていたアグナスの力が必要だという。

 それにしてもアグナスは相変わらず几帳面な男だ。体格は良いのだから、剣技を学べば良き使い手になれるだろうに……』

 

『サンクトゥス様はフォルトゥナ城地下部の解放を命じてきた。あそこは1000年以上も前に封鎖された魔道や悪魔に関する危険な研究施設だぞ? 何故、今になってあそこを?

 サンクトゥス様もアグナスも、「改革のために必要なこと」とおっしゃっていた。あそこに新設の技術局を設営する気らしい。

 どうにも腑に落ちない。だったら何故、秘密裏にあんな場所に作ろうというのか。今度、新たに建設する教団本部内では駄目なのか?

 ソレムニス様が亡くなって以来、何かがおかしくなりつつあるような気がしてならない……』

 

『依頼していたソレムニス様の病の調査報告書が届いた。サンクトゥス様には内密で大陸から呼んでいた、知人の名医のものだ。

 死の床に臥せていたソレムニス様はこんな私の我が儘を聞き入れてくださり、わざわざ自らの血を差し出してくれたのだ。病の正体を告げることができず、無念でならない。

 今日は孤児院の子供達に本を読み聞かせるのに疲れたし、もう遅いから明日、目を通すとしよう。

 もっとも、今さら結果が分かっても手遅れなのだが……』

 

『なんということだ……。ソレムニス様が毒殺されたなどと……しかし、あの毒は自然の物でも、悪魔の物でもない人工の毒だ。あれがソレムニス様の身体を2年もの間、蝕んでいたのだ。

 一体誰が毒を? ソレムニス様はこの島から一歩も外に出たことはないし、あれだけ複雑な混合毒は並大抵の薬学や知識では調合できない。食事をするのも決まって我刀院の中でだけだ。

 できるとしたら、サンクトゥス様しかあり得ない。きっと、二人きりで会食する時にあの毒を混ぜていたに違いない。だが、今さらサンクトゥス様が犯人であることを裏付ける証拠になりはしない……。

 それでも、あの男は教皇の地位を奪うために、ソレムニス様のお命を奪ったことに変わりはない。何か善からぬことを企てているに違いないのだ。ひょっとしたら、悪魔に魂を売り渡したのかもしれぬ。

 許されざる所業だ。教団騎士の長の名に賭けて、何としても彼の悪事を暴かねばならない。

 ――神よ。教団にあるまじき背信者に、正当なる裁きを与え給え』

 

――これって、あのパルチザンとかいうやつじゃない?

 

――(マキャヴェリの店にあったっていうあれかい? 確かに似ちゃあいるが……)

 

――ん? ああ、そいつはロケットランチャーだろ。確か、RPG-7とか言ったか……。

 

スパーダは冷たい目つきで記録を読みながら、顔を顰めていた。

手記はこの一文を最後に、残りは全て白紙となっている。

この騎士団長は教団騎士の記録に載っていた没年月日と、手記の最後の日付の時期が極めて近い。

悪魔との戦いで命を落としたか……あるいはサンクトゥスに勘付かれて始末されたか……。どちらにしろ、本懐を果たせなかったことは無念だったことだろう。

だがその正義感と責任感は、騎士団長の肩書きに恥じないものであることは疑いようがない。

こんな日記をわざわざ残している所からしても、魔に魅入られることもなかった誠実な人物であったであろうことがよく分かる。

 

――この床の丸いの、何なのかしらね?

 

――触らない方がいい。

 

(お前の無念、しかと受け止めたぞ)

本を閉じてスパーダは静かに目を伏せた。

先代教皇のソレムニスに限らず、歴代の教皇達は平凡で凡庸な者達ばかりのようだった。ただ漫然と、魔剣士スパーダの伝説や魔剣教の教えを信徒達に説いて教団を運営していただけのようである。

だがだからこそ、過激な思想や野心などを抱くこともなくフォルトゥナの地を平穏に統治し、外界にも危害を及ぼすこともなかったのだ。それは称すべきことだった。

その平和と秩序をぶち壊しにしようとしているのが、現教皇のサンクトゥスなのだ。

 

(そろそろ行くか)

書架に手記を戻したスパーダは蔵書庫を後にするべく歩き出そうとした。

 

――『ジャベリン!』

 

ルイズ達はどうやら地下深くの研究棟まで辿り着いているようだった。

遥か昔に封鎖されたはずの禁忌の場所は、今再び魔剣教団の手によって利用されている。それこそが技術局に違いない。

 

――何よ、こいつ!? 何で死なないの……!?

 

悪魔と交戦しているようだが、少し手を焼いている様子だ。ぼんやりとイメージが脳裏に浮かび上がる。

何やら手枷や足枷を嵌められた人型をしており、体の至る所から触手らしき物を生やしていた。

その悪魔のものか、地の底から響くように悲痛な呻き声を発している。

 

――お前らは、下がってろ……!

 

耳障りな爆音が唸りを上げている。

どうやらネロがあの機械仕掛けの剣を使いだしたようだ。

激しい炎を噴き出しながら鋭く振るわれた剣は悪魔の肉体を一撃で両断してしまう。

 

「中庭にあるとか言ってたな……」

ルイズ達と合流するために地下へ直行するのは後回しにすることにした。

先程、ネロが言っていた中庭の武闘場で見たという石板とやらを確かめてからである。

スパーダの直感が正しければ、それこそがこのフォルトゥナの地を魔界化させようとしている根源の元の一つだ。

武闘場は地下への入り口から目と鼻の先だ。二階からでも回廊を飛び降りればすぐだった。

 

作品の良かったところはどこですか?

  • 登場人物
  • 世界観
  • 読みやすさ
  • 話の展開
  • 戦闘シーン
  • 主人公の描写・設定
  • 悪魔の描写
  • 脚色したオリジナル描写・設定
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