魔剣異聞録~The Legendary Dark Slayer/Zero   作:月に吠えるもの

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Another Mission <はぐれ騎士ネロ-Alone> 18章

フォルトゥナ城の地下深くに築かれたその空間は、教団騎士のネロさえも知らない場所だ。

観光地として解放されている地上の城は、以前から何度も出入りをしたことがある身だったが、この隠された地下部の存在は今回初めて知ったのである。

だが、石造りで古風な風景だった地上に対して、この地下は全く違う。

降りてきた時に通った深い坑道では配管やファン、金網といった近代的な様式の代物がいくつも存在していた。

明らかに、最近になって人の手が入ったであろうことは間違いない。

 

そして、今ルイズ達と足を踏み入れているこの大広間もまた、ネロを驚かせる場所だった。

床の至る所には白・青・赤・黄・紫と様々な色をした丸い文様が煌めいている。

「こいつは俺がやる……!」

ネロは激しい轟音を鳴らすレッドクイーンを手にしてルイズ達を下がらせていた。

ルイズがいじった赤い文様からは巨大な試験管のような物が飛び出てきていた。さらにその中から一匹の悪魔が現れたのである。

ボロ切れを纏う痩せこけた人の姿で、顔も性別が分からないほど醜く崩れ落ちている。誰が見ても気持ち悪いとしか感じられないであろう程におぞましかった。

 

「うおおおおおおっ!!」

レッドクイーンは劇場で使っていた剣や、クレドの物とは比べ物にならない程に激しい炎を噴き出していた。

(こいつぁ、すげえ剣みてぇだな)

その剣撃の鋭さもまた、段違いだった。ネロは雄叫びと共に片手でレッドクイーンを振り回し、悪魔の肉体を斬り払う。

相手の動き自体は鈍いのだが、体の至る所からはまるでミミズのように不気味な触手を生やして蠢かせている。

だが、先のルイズとタバサが一緒にどれだけ氷の矢を撃ち込もうと、今のネロが叩き斬ろうと、僅かな時間で傷が塞がってしまうのだ。

当初からヨロヨロとしてはいるものの、力尽きそうな気配はまるでない。

 

「フンッ! ハアッ!! でやあっ!!」

それでもネロは床に倒した悪魔にレッドクイーンを渾身の力で叩きつける。

何度も何度も執拗に、床もろとも砕くような勢いで叩き斬られていく悪魔は徐々に無残な肉塊へと変わっていった。

(すごい勢い……)

(いや、まったくだね。とても人間技とは思えねーわ)

斬撃が回数を増すごとにレッドクイーンはさらに激しい炎を噴き上げ、その剣速もいや増していくのである。

ネロの腕力のみであれだけの力が引き出されているのではないことは明らかだった。

 

「はあ……はあ……」

やがてネロは剣を振り下ろしたまま肩で大きく息をする。

「やっと死んだわね……」

ルイズは悪魔の肉塊を見下ろしながらホッと安堵した。

触手も含めてピクリとも動かない。完全に息絶えているのが分かる。

体が少し引き裂けてもくっついて再生していたが、さすがに泣き別れになる程バラバラに刻まれてしまっては無理のようだ。

「ちきしょう……何でこんな所まで来て……」

だがネロはそんなことをぼやきながらレッドクイーンを背負うと、疲れたように肩を落として歩き出す。

広間の隅に移動し、踊り場前の階段へと腰を下ろしていた。

 

「あんた、顔色悪いわよ。今の悪魔がどうかしたの?」

ルイズはネロの元に歩み寄り、怪訝そうに声をかける。

今の悪魔を相手にしている時のネロはやけに苦い顔を浮かべたままだった。

その嫌悪感は、決してルイズが抱くような生理的なものではない。

「……悪魔憑きだよ」

力なく顔を上げながらネロは言った。

「悪魔憑き……それじゃあ、今のは元は人間ってこと?」

「そうさ。悪魔に乗っ取られて、自分が悪魔になっちまった人間の成れの果てさ。……参ったぜ、こんな所まで来て汚れ仕事かよ……」

うんざりしたように溜め息を漏らすネロに、ルイズとタバサは眉を顰める。

「どういうこと? 汚れ仕事って……あんたも魔剣教団の騎士なんでしょ? 悪魔と戦うのが仕事なんじゃないの?」

「……俺は騎士団の中じゃ厄介者扱いでね。他の騎士達みたいな仕事はしないんだ。今みたいな、街の連中には見せられないような悪魔を始末するのが専門さ」

乾いた笑みを浮かべて、ネロは自嘲気味に呟く。

 

自虐的なその態度にルイズは顔を顰める。

「ひょっとして、あんたが全然祈りを捧げないからとか? それはあんたの不信心が原因でしょ」

歌劇場でも見たが、ネロは他の信徒達が祈りを捧げている時であっても堂々と無視していた。

傍から見ても協調性は無いし、スパーダへの信仰心はおろか教団への忠誠心すら欠片ほども抱いているようには見えなかった。

第一、他の騎士が着るような制服ですらなくラフな服装をしているだけでも、素行不良としか感じられない。

そうした態度で冷遇されているのだとしたら、自業自得である。

「俺は神様なんて信じないもんでね。それだけさ」

「だからあの時も祈らなかったの?」

「祈りなんて、何の役にも立たねえのさ……教皇はあんな説法してたがな……神様に祈ったって、結局守っても助けてもくれないんだよ」

まるで恨み言のように呟くネロの姿にルイズは唖然とする。

何か理由があるのだろうが、一体何がここまで信仰に対して不信なのか、まるで想像できない。

 

「だったら、自分の力でやるしかないんだ。だから、俺はこいつも武器にしてる。……もっとも、教団騎士じゃ銃なんて異端扱いだがな。俺の知ったことじゃない」

ネロはブルーローズの銃を手にしながら軽く鼻を鳴らす。

「何で銃を使うのが異端なのよ?」

「それが教団の伝統なのさ。魔剣士スパーダは、一振りの剣で世界を救ったって伝説にあやかって、武器は剣だけって決まってるのさ。銃なんて野蛮で邪道で、外道だって言ってな」

 

――くだらん迷信だ。

 

ルイズの脳裏で、冷たい声がざわめいた。

(メイジのプライドと似てやがるな)

考えてみると確かにくだらないとしか言えない。

何しろ魔剣士スパーダは、普通に銃を使って戦うのだから。

魔法を絶対視するメイジが平民の武器を侮るのと同じように、教団の伝統も単なる迷信によって作り上げられた貧相なプライドでしかないのだ。

(スパーダが銃を使う所を見たら、絶対ビックリするわね……)

 

そんな伝統や格式を蔑ろにしているこのネロという青年は、騎士でありながら疎まれるというのは納得できる気がした。

「そんな邪道なことばかりしてる俺は、教団の厄介者でしかないのさ。だから、今回みたいな他の騎士がやらないような厄介事しかお鉢が回らない」

ブルーローズをしまったネロはふと思い起こしたように切り出す。

「お前らと最初に会った時もそうさ。あの時も、街外れに現れた悪魔を誰にも気付かれないように始末するように命じられたのさ。急な仕事だったから、キリエの歌も全然聞けなかったぜ」

ルイズは最初にネロと会った時のことを思い出す。

彼は相当急いでいたからルイズとぶつかってしまった。それだけ急務だったのだろう。

「そんな感じで、俺は他の騎士がやりたくない仕事を押し付けられるのさ」

「悪魔に取り憑かれた人を始末することもそう?」

「……そうさ。誰にも知られず、ひっそりとな」

タバサの問いに答えたネロは広間を大きく見渡すと、小さく吐息を漏らす。

「大方、ここは教団の秘密の施設なのかもな。入口を隠す理由もなんとなく分かるよ。さっきのも、きっと密かに教団が捕まえてた、廃棄処分待ちの信徒のなれの果てさ」

ルイズも改めて広間をぐるりと見渡した。

スパーダが領主を務めていた大昔には魔術の研究施設であったという場所は、どこか薄気味悪さが感じられた。

仮にも元は住民だった人間をまるで実験材料のように保管している所から見ても、教団が決して清廉潔白な組織ではないという一面が垣間見える。

そして、このネロはそういった組織の暗黒面にも僅かながら触れているようだった。

 

「それであんたは、悪魔に取り憑かれた人達を始末する仕事を押し付けられるって訳?」

「悪魔になった人間を元に戻す方法があるんなら、とっくにそうしてるさ……」

ネロはどこか気落ちした様子で俯きだす。

 

――無くはないが……身も心も喰われてしまっては難しいな。

 

ルイズの姉のカトレアは悪魔に取り憑かれていたが、スパーダの手によって追いだすことができた。

だがあれは体内に巣食っていたようなもので、かつてのクロムウェルのように心身ともに魔に侵されてしまっては、もうどうにもならないのだろう。

 

(何か、そんなのって卑怯だわ……)

ムッとルイズは憮然とした顔をする。

悪魔とはいえ元は人間だった者を手にかけることに、ネロは抵抗を感じている。きっとその度に辛い思いをしていたのかもしれない。

スパーダはかつて言った。『人を傷つけてショックを受けなかったり、罪悪感を抱かない者はただの殺戮者に過ぎない』と。

他の騎士達はどうかは知らないが、ネロのような苦悩を抱いて剣を振るっているようには到底思えない。

苦悩を共有せず、組織の厄介者一人に押し付けるのは卑怯者以外の何者でもなかった。

 

(彼も、わたしと同じ……)

タバサにはこのネロという青年の境遇が、どこか自分と似ていることに気が付いていた。

ガリアの北花壇騎士として様々な汚れ仕事を請け負い、冷遇されていたのと同じように彼もまた――半ば自己責任だが――組織から厄介者扱いされながらも飼い殺しにされかけているのだ。

教団への忠誠心もなく、それでも律儀に教団の汚れ仕事を引き受けているその意図が知れない。

少なくともこの青年は、傭兵まがいで問題行動も多い北花壇騎士のような実利で動いているのではないことだけは間違いなかった。

 

ルイズもタバサにもただ一つ、はっきりと感じられたことがある。

ネロは態度こそ悪いが、根はとても誠実な剣士だということだ。

遠く見守るスパーダにも、きっと伝わっていることだろう。

 




今回の話で出てきた部屋は、ゲーム本編で言うと双六部屋になりますが、構成の都合で双六の再現は不可能なので、「実験素材保管室」として再構成させてもらいました。

作品の良かったところはどこですか?

  • 登場人物
  • 世界観
  • 読みやすさ
  • 話の展開
  • 戦闘シーン
  • 主人公の描写・設定
  • 悪魔の描写
  • 脚色したオリジナル描写・設定
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