魔剣異聞録~The Legendary Dark Slayer/Zero   作:月に吠えるもの

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Another Mission <技術局長アグナス-Prisoners> 19章

「ねえあんた。レッドオーブって持ってるの?」

「ん? ああ。一応な……」

ルイズに問われてネロはコートのポケットから小石の粒ほどの欠片となった赤い結晶を取り出していた。

「それ貸してよ。あれで何か作ってくるわ」

オーブの欠片を受け取ってルイズは広間の奥の高台へ駆けていく。

階段を登った先に時空神像が置かれているのはネロも目にしていた。

教団騎士として、悪魔を倒すことで得られる戦利品やその使い道についても教わっている。フォルトゥナの各地で見られる時空神像には以前から多少なりとも世話になっていた。

(二人ともずいぶん年季が入ってんな……)

膝の上で頬杖を突きながらネロはちらちらとルイズとタバサを一瞥していた。

自分とそう歳は変わらない上に女の子が悪魔狩りを生業にしているなど、俄かには信じ難い。

だがずいぶん悪魔と戦い慣れている上に、知識もある様子なので認めない訳にもいかなかった。

(あいつの助手って所か……)

二人の保護者である〝(ディー)〟と名乗る男もまた悪魔を狩るハンターだという。

完全に部外者なのにネロでさえ知らなかった城の秘密にも精通していたことから、フォルトゥナのマニアだという話もあながちデタラメとも思えなかった。

 

「タバサ、それを持っていくの?」

バイタルスターを手に戻ってきたルイズは驚きの声を上げる。

「保険」

タバサは自分の杖と一緒に槍のような武器を抱えていた。

ネロはこれをRPG-7――ロケットランチャーという武器だと教えてくれた。

先端についている突起部を飛ばす大砲のようなものということである。

デルフがガンダールヴの能力でこっそり調べた所によれば、「恐ろしい威力の武器」で、人間が食らえばひとたまりもないのだという。

「……何よ。銃は邪道だって言ってるくせに、ちゃんと使ってるんじゃないの。二枚舌だわ」

「俺に言うなよ。技術局の考えることなんざ、さっぱりだぜ」

ルイズの悪態に溜め息を漏らしながらネロは重い腰を上げだす。

ネロも今まで知らなかったこの城の地下は、教団の技術局が管轄している施設であると既に確信していた。

台の上にはロケットランチャー以外にも、教団騎士の剣であるカリバーンが分解されて置かれている所から見て、技術局の研究施設で間違いないと踏んでいる。

 

「えーと、あそこから行けるわね」

タバサがRPG-7をスリングで肩にかけると、小休止を終えた三人は先へ進むことにした。

広間にはいくつか扉が見えるものの、多くは柵で塞がれていて通ることができない。唯一、柵が閉まっていない扉がたった一つあるので、そこへ行くしかなかった。

床の光る文様はまたトラブルが起こったら堪ったものではないため、三人はそれを避けて扉へと向かっていく。

 

「何かしら、ここ……?」

扉を開けたさらに先にはまた別の空間が広がっていた。

円形の広間なのだが壁の一部は分厚い格子となっており、壁の所々から突き出たフックには分厚い両刃の剣がいくつも引っ掛けられている。

その剣はネロのものはおろか、スパーダのリベリオンよりもずっと剣幅が広い。ルイズの細い体ですら届かないほどだ。

(おい、下手に触んなよ娘っ子。この剣はただの剣じゃねえ)

(そ、そうなの?)

デルフからの忠告にルイズは思わず手を引っ込めた。

広間を見渡すルイズは、奥の方に巨大な窓が広がっていることに気付いてそちらへと歩み寄っていった。

どうやら窓の向こうには別の部屋が続いている様子だが、高い所にある上に登れそうな場所もない。

 

「……っ」

「大丈夫?」

広間の中を見て回っていたネロは突然右手を押さえだしていた。

「ああ。何ともない……」

言いながらネロは隠すように右手を脇に抱え込む。

タバサはじっとネロの右手を見つめていた。

「どうして右手を隠すの」

唐突な指摘にネロは思わず顔を顰めだす。

「あなたは劇場でも、今までも、ずっとその右手を誰にも見せないようにしていた。その証拠に、あなたはわたし達の前で右手だけは絶対に使おうとしない」

唯一の例外は、勢いのままに赤い男に突っ込んで殴った時や咄嗟にルイズを助けようとした時だけだ。

タバサの指摘にネロはバツが悪そうに顔を背け、自分の右手に視線を落とす。

手で隠してはいるが、隙間はおろか袖の上からでも薄っすらと淡い光が漏れ出ているのが窺えた。

「何でもないさ……本当に、何でもないんだ……」

ネロはタバサから顔ばかりか背を向けて右手を隠してしまう。

(怯えてる)

絶対に誰にも見せたくない……いや、見られたくない――

その固い意志からは微かな恐怖心が滲み出ていることにタバサは気付いていた。

 

「よいしょっと……」

広間の中央にある円台へとルイズはよじ登っていた。

下の位置からでもガラスの向こうに何やら青白い光の柱のような物が見えており、気になったルイズはよく確かめようとしていたのだ。

(おい、娘っ子。ありゃあ……)

「何か見えんのか?」

ネロの呼びかけに答える暇もなく、ルイズは顔を顰めていた。

凝視する窓の先――また別の部屋の中央にある光の柱。

その中に浮かぶ物を目の当たりにして、驚きを隠せなかった。

一見、二つに折れた細身の剣が浮かんでいるだけのように見える。問題なのはその剣である。

(あれって、閻魔刀……!?)

この地下部への隠された道を切り開くのに用いられたあの閻魔刀が、魔剣士スパーダの愛剣の一つが間違いなく目の前に存在していた。

 

ネロとタバサも台に登ると、ルイズと同じように浮かんでいる閻魔刀を見やる。

「あれは……〝(ディー)〟の奴が使ってた日本刀じゃねえか?」

右手を押さえながらネロは怪訝そうに眺める。

「そうよ。間違いないわ……! あれは閻魔刀よ! 何でこんな所に……!?」

(この世界線の閻魔刀ってことじゃねえのか。リベリオンだって、赤い野郎が持ってたんだしよ)

言われてみればそうかもしれない。リベリオンでさえ一行が追っているあの赤い男が何故か持っていたのだ。それと同じように、スパーダが持つのとは別の閻魔刀があってもおかしくない。

だが、それなら何故ああも無残に折れてしまっているのかがまるで意味不明だった。

 

『ほう。閻魔刀を知っているとはな……』

「え? ……きゃあっ!?」

唐突に声が響いたが、ルイズは足を滑らせて下に転げ落ちてしまう。

『まさか、とんだ余所者まで入り込んで来たとは思わなかった。クレドの奴め、案外、む、む、む、無能だな……』

ルイズを起こすタバサは、一緒に降りてきたネロと揃って窓の方を見上げた。

見ればいつの間にか、そこには一人の男の姿があったのだ。

魔剣教団の白い制服と白衣を身に纏った大柄な体格で、浅黒い肌をしている。

「誰だあんた? 技術局の人間か?」

ぶしつけにネロが尋ねると男は窓の前まで歩み寄ってきて、三人を見下ろしてくる。

『如何にも。私は、アグナス……このし、し、し、施設の責任者だ』

「アグナス? 技術局長の?」

「誰なの?」

「カリバーンとか、俺のレッドクイーンに組み込んでるイクシードを作った奴だって聞いてる」

とはいえ、ネロも顔を合わせるのはこれが初めてだった。

行事である魔剣祭にも顔を出さなかったし、魔剣教団の本部に足を運ぶことはあっても全く姿を見せた試しがない。

愛剣のレッドクイーンの修理を技術局に頼む時も代理を介するだけであり、そもそも技術局の人間すら一度も目にしたことがなかったのだ。

 

アグナスは先程から手元で何やらペンを走らせてメモを取り続けていたが、ネロの話題に反応してしたり顔を浮かべだす。

『その通りだ。イクシード・システムは私の自慢の、ぎ、ぎ、ぎ、技術だ。……ネロ、とか言ったな。感謝してもらいたいな。お、お、お、お前のその規格外の剣を、直してやったのは、こ、こ、こ、この私だ。一体、どんな使い方をしたらあんな壊れ方をする……!? 直してやる方の、み、み、み、身にもなれ!』

段々と顔をワナワナと強張らせていきながらアグナスは手にするペンの先でネロを強く指してきた。

ネロは肩を竦めると苦笑を浮かべた。

一ヵ月前にレッドクイーンを無茶な使い方をしたために壊してしまったのだが、どうやらアグナスは修復するのにかなり手を焼いていたことが窺える。

何しろレッドクイーンはネロが既存の剣を独自にカスタマイズした特注品であり、他の騎士剣にはない部品も使っているので一度故障すると修理に時間がかかるのが難点なのだ。

 

「全く、私の技術の結晶を勝手に、か、か、か、改造しおって……! ど素人の分際で、生意気なことをするな……!」

(一人で何を勝手に怒ってやがんだ? こいつぁ?)

(ちゃんと喋んなさいよね……)

興奮しては声を詰まらせるアグナスの言葉は、ルイズには実に聞き取り難かった。

「そいつはどーも。……で? あんた、教皇を殺そうとした赤い服の男を知らないか? 俺はそいつを捕まえるようにクレドに言われてるんだ」

『さあな……この地下施設に紛れ込んだのは、お、お、お、お前達だけだ……』

左目につけたモノクル越しにアグナスは三人を睨むように見据えてくる。

 

アグナスの返答にネロは溜め息を零し、ルイズとタバサにそれぞれ顔を向けだす。

「……そうかよ。邪魔したな。――行こうぜ」

ぶっきらぼうにネロは踵を返し、通ってきた扉の方へ進みだしていた。

「ちょっと、良いの?」

「あいつが見てないって言うんなら、奴はここにはいないんだ。上に戻ってお前達の保護者と合流しようぜ」

確かに、この施設の責任者がそう言う以上、あの赤い男はここにいないのだろう。

これ以上、ここにいても時間の無駄だというのは事実だ。

ルイズとタバサもネロの後を付いて行こうとしたが……。

 

「!?」

(おおっ!?)

「……何のつもりだ?」

三人は足を止めてアグナスの方を振り返った。

扉は突然、出てきた分厚い鉄板に塞がれてしまったのである。これではここから出ることができない。

これがアグナスの仕業であることは明白だった。

『き、き、き、気の毒だが、ここから帰す訳には、い、い、い、いかんな……』

「何ですって!?」

『ここは禁忌の場所だ。お前達のような、ぼ、ぼ、ぼ、凡庸な者達が立ち入って良い場所ではない。特に……余所者はな』

アグナスはモノクルの奥の目を細めながらルイズとタバサに指を突きつけだす。

「ふざけたこと言ってんじゃないわよ! 早く出しなさいよ! それともやっぱり、あんた達はここで何か怪しい実験でもしてるっていうの!?」

(秘密を見たら返さないって訳かよ)

思わず噛みつきだすルイズだが、アグナスは片眉を吊り上げたまま黙り込むだけだった。

「無視するんじゃないわよ! このでかアゴ眼鏡!」

アグナスは見るからに重い剣でも軽々と持ち上げてしまいそうな巨漢であり、顔もその体格に似合う程に広く大きい。特に目立っているのが顎だった。

ルイズの罵声にアグナスは眉を顰めだし、それを見たネロは鼻を鳴らしていた。

「その分じゃ、図星みたいだな。あっちの部屋で見た悪魔憑きも、人体実験の材料か何かか? 一体いつから、教団はそんなヤバイことをするようになったんだ。それとも、てめえだけの秘密の、あ、あ、あ、悪趣味か?」

「ぷぷぷっ……」

(ははっ、そっくりじゃねえか)

わざとアグナスの口癖を真似しだすネロにルイズは思わず吹いてしまう。

タバサはその横で無表情のまま、アグナスの顔――正確には顎――をじっと見据え続けていた。

 

自分を馬鹿にしてくる二人の少年少女に、アグナスは眉間に皺を寄せながら手にするペンを強く握り締める。折れてしまいかねない程の握力で、ギリギリと鈍い音を立てていた。

『な、な、な、生意気なガキどもめ……』

だが向こうをいくら怒らせた所でここから出してくれる様子はない。

ルイズを見てネロは不敵に笑いだした。

「いいさ。そっちが出してくれねえなら……」

言いながら、腰から抜き放ったブルーローズの銃口を素早くアグナスに向けだす。

同時にタバサも杖を突き出し、ハッと笑いを止めたルイズも続けて自分の杖を重ねた。

「こっちから行ってやるぜ!」

『ウィンディ・アイシクル!!』

銃声と共に吐き出された二発の銃弾は、無数の氷の矢と共にアグナスへと殺到していった。

 

 

フォルトゥナ城の中庭に降り立ったスパーダは無人の武闘場の中を歩き進んでいく。

ネロはここで悪魔と争った形跡が見られるが、スパーダにとってはそんな物はどうでも良かった。

広場の最奥までやってきたスパーダは、そこにそびえ立つ物を目にして顔を顰めた。

「やはり、地獄門か……」

見覚えのある巨大な石板。それはかつてスパーダがこの地を治めていた時には存在しないはずの物。

市街地にある本物よりは遥かに小さいが、明らかに地獄門がそこに建っていた。

元の世界でのハルケギニアのように、悪魔達が密かに築いた小型の地獄門と全く同じ物であるのは明らかだ。

 

「何かが出てきたみたいだな……」

間近に近づいて石板を見上げるスパーダは周囲に満ちている魔力の残滓から、上級悪魔がここを通って現世に現れたことを確信していた。

恐らく、この城周辺と山地の一帯に発生している雪もその悪魔の仕業なのだろう。

だが、悪魔自体はどうやらネロによって討伐されたようである。

とはいえ、門自体はまだ稼働しており、またここを通って別の上級悪魔が姿を現わすだろう。その前に破壊しなければならない。

それに何より、この地獄門がフォルトゥナの地に満ちている異常な魔力の根源なのだから。

 

「……ん」

顎に手をやりながらふとスパーダは後ろを振り返った。

見れば薄っすらと小さな雷光が幾筋も弾けているのが分かる。

と、いきなり激しい雷光が雷鳴と共に迸った。

「……今度はお前らか」

姿を現わしたのは五体の悪魔達だった。

全身に金色の雷光を身に纏うそれは、魔帝ムンドゥスの尖兵の精鋭の一角の中でも最強のブリッツである。

フロストが現れた以上、こいつらも出てくることは予想していたが、別段スパーダはまるで動じなかった。

反対に、ブリッツ達は金属が擦れ合うような耳障りな唸り声を発し、威嚇してくる。

 

――ガッ!?

 

突如、その内の一体が四方八方から赤い刃で全身を串刺しにされてしまう。

呻き声を上げた途端、刺さった幻影剣は次々と爆ぜていき、ブリッツの肉体を削り、砕いていった。

「耳障りだ」

冷たく呟くと、スパーダの周りには更なる幻影剣が無数に浮かび上がる。

視覚を持たないブリッツ達は、より大きな騒音の中心となった仲間の一体を取り囲み、袋叩きにしていた。

作品の良かったところはどこですか?

  • 登場人物
  • 世界観
  • 読みやすさ
  • 話の展開
  • 戦闘シーン
  • 主人公の描写・設定
  • 悪魔の描写
  • 脚色したオリジナル描写・設定
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