魔剣異聞録~The Legendary Dark Slayer/Zero   作:月に吠えるもの

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Another Mission <絶対防壁-The Irregularity Attacks> 20章

ルイズとタバサが一緒に放った氷の矢は、ガラスの壁に衝突してあっさりと砕け散っていた。

ネロの銃弾も甲高い音を立てて弾かれてしまう。

それに対し、ガラスには傷一つ付いていない。

「硬いガラスね……!」

(いや、ありゃあただのガラスじゃねえみてえだぞ)

そもそもあのガラス窓は普通の窓よりも遥かに分厚い。ルイズの持つ始祖の祈祷書の倍近くはありそうだ。

「ちっ……! 防弾ガラスかよ!」

ネロは何発も発砲を続けるが、まるで効いていないことに顔を顰めだす。

「ジャベリン!」

タバサはさらにジャベリンの魔法を唱え、巨大な氷の槍を放っていた。

だがウィンディ・アイシクルの時と同じく強固なガラスに打ち負け、逆に砕けてしまう。

 

『ほう……お前達は魔導士なのか。今時、め、め、珍しい……』

スピーカーを介したアグナスの声は妙に浮ついている。

ルイズとタバサが使う魔法に好奇の目を輝かせているようだ。

ブルーローズを収めたネロは背中のレッドクイーンに手をかけ、柄を数度捻る。

「これなら……どうだっ!!」

イクシード機構が唸りを響かせるレッドクイーンを手に、ネロはガラス窓へ躍りかかった。

一気に抜き放たれたレッドクイーンは激しい炎を噴き出しながら、鋭い剣速でガラス窓に叩きつけられる。

重々しい衝撃音と共に窓は僅かに震動した。

「ちきしょう。ビクともしねえ……!」

ネロは窓から弾かれるようにルイズ達の元に戻ってきた。

やはりまるで効いている様子はない。本当にガラスなのかと疑ってしまいそうな程の頑丈さは、ルイズ達も唖然としてしまう。

『ば、ば、ば、馬鹿が……! このガラスはサイクロプス級の悪魔どもの外殻とパワーを基準に設計してある! お前達ごときの力で壊せると、お、お、お、思うな』

「抜かしやがって……!」

だが、耐久性自体はまさしく本物だ。ルイズ達の力だけで壊せるか大いに不安である。

(もう……! 肝心な時にいないなんて!)

ルイズはやきもきとしながら軽く地団駄を踏む。

スパーダが来てくれれば、一撃でぶち破ってくれるのだろうが、彼は今、地上で悪魔達と取り込み中なのだ。しかも、相手は若い頃の母・烈風カリンが何度も相まみえたブリッツの大群である。

すぐに蹴散らすとはいえ、彼が来てくれるまで何とか持ちこたえなければならない。

 

「これを」

タバサは肩に吊るしていたロケットランチャーを下ろし、ネロへと差し出した。

それを見てネロはニヤリと小さくほくそ笑む。

「……グッドタイミングだったな」

正直、どこまで威力があるのかタバサにもルイズにも分からない。だが、自分達の魔法が通じない以上、異世界の武器の威力に賭けるしかない。

『き、き、き、貴様……勝手に技術局の備品を持ち出すんじゃない!』

「ちょっと離れてな。後ろには立つなよ」

窓の向こうでアグナスが咎めてくるが、堂々と無視するネロは二人の少女に告げながらロケットランチャーを肩に担ぎ出す。

先端に取り付けられたロケット弾は真っ直ぐに窓へ……スコープの照準はアグナス目掛けて向けられた。

「Take this!(こいつを喰らいやがれ!)」

耳をつんざく轟音と共に砲身の後部から爆風が噴き出した。

目視できない程の豪速で放たれたロケット弾はガラス壁に衝突し、激しい爆発を巻き起こす。

「~~~~っ……! すごい音ね……」

思わず耳を塞いで蹲っていたルイズは静かに面を上げて、煙が立ち込める窓を見上げだす。

徐々に煙が晴れていく中、ルイズとネロは一緒に眉を顰めていた。

「何よ、全然効いてないじゃない!」

ガラスの一点には確かに、ロケット弾が命中した痕が刻まれている。

だがその部分の表面が僅かに抉れているだけだった。ガラスの厚さの半分はおろか、1/3すら削れていない。

全体を一気に砕くのは無理であっても、せめて穴を開けるとかヒビを入れるくらいまでは期待したのだが、結果は見ての通りである。

「マジかよ……戦車もぶっ飛ばす威力だぞ……!?」

ネロも驚きを隠せず呆然としてしまう。

元々は対戦車用の兵器なので、あのような壁などそれこそ格好の標的なのに、かすり傷しか付けられないなんて、それこそ驚嘆の極みだった。

「もっと撃てないの?」

「無茶言うなよ。こいつは一発こっきりの使い捨てだ」

ルイズに言い返しながらネロはランチャーを放り捨てた。

 

ガラスの向こう側でアグナスは勝ち誇ったような陰気な笑みを浮かべだす。

『も、も、も、もういい。お遊びは終わりだ』

その言葉を合図に、部屋の周りで異変が起き始めた。

(気をつけろ、娘っ子! 来るぞ!)

「何っ……!?」

ネロと一緒にルイズは部屋中をキョロキョロと見回す。

壁にかかっていた巨大な剣が次々と宙に浮き上がり、剣先が三人目掛けて向けられてくる。

「避けて!」

タバサの叫びと共に無数の巨剣は次々とルイズ達目掛けて一直線に飛来してきた。

「きゃっ……!?」

ルイズはフライの魔法で飛び退くタバサに腕を掴まれていた。

ネロも別の方向へと散開し、飛んできた剣を難なくかわす。

剣は床に突き刺さる、かと思いきや寸前で軌道を曲げてそのまま宙へと飛び上がっていった。

 

「あの剣、飛んでる……? 生きてるの……!?」

見れば飛んできた剣は刀身が左右に開き、まるで羽ばたいているかのような動きをしている。

柄頭には竜の彫刻があしらわれていたのだが、目の部分も光を灯しはっきり顎を動かしていた。

『それはグラディウスと言ってね。魔界の爬虫類と、剣を配合して作ったものだ。我ながら、な、な、中々に良い出来だと思っている』

驚くルイズを見ながらアグナスはそんなことを述べだす。

刀身の中から出てきた細長い尻尾も相まって、確かに傍から見れば空飛ぶトカゲに見えなくもない。

そんなグラディウス達は大きな刃の翼を広げながら飛翔し、三人目掛けて突進を繰り出してくる。

「……っ!」

(気をつけな、こいつぁ相当な切れ味だ。まともに食らったら真っ二つだぞ)

タバサはルイズをかばいながら、ブレイドの魔法をかけた杖でグラディウスの翼を弾いていた。

「まさか、さっき見た魚もてめえが作ったものじゃねえだろうな」

ネロもレッドクイーンを振るってグラディウス達をいなしながらアグナスに向けて叫んだ。

三人はこの地下施設に降りてきた際に悪魔の一群と遭遇していた。

それは一言で言うなら、ヒレが巨大な刃と化していた魚といった所だ。

だが、その刃の切れ味は凄まじく、分厚い壁をも難なく切り刻み、そのまま地中を泳いでいた程なのである。

このグラディウスと、その時の悪魔は雰囲気がとてもよく似ていた。

『ああ……カットラスのことか。あれは、魔界の魚類をベースにしたものだ』

一瞬、目を丸くしていたアグナスは合点がいったように頷きだす。

生物と武器、全く異なる存在の合成生物(キメラ)など、ルイズ達にしてみれば異常な悪趣味としか思えない。

 

「……ああ、そうかよ!」

ネロもうんざりしたように顔を顰め、錐もみをして突進してきたグラディウスの剣を避け――すれ違いざまに右手で柄を掴み取る。

「おらあっ!」

そのままガラス窓目掛けて思いきり投げつけた。

グラディウスの剣はロケットランチャーが命中した傷跡にピンポイントで激突し、ガラス窓が震動する。

(お。さっきの奴が効いてたみたいだな。ほんのちょっとだが、傷が広がってるぜ)

とはいえ、ネロやルイズ達の目でははっきり言って判別できないのだが。

(娘っ子。ケブーリーをあそこにぶちかましてやれ。一発じゃ無理だろうが、いっぺんに爆発させりゃ相当効くはずだぜ)

(わ、分かったわ……!)

蹲ったままのルイズはマントの裏に吊るしていたケブーリーの銃を取り出す。

スパイラルの銃の方が効きそうなものだが、あれは重すぎるし何より元の世界に残しているのでどの道使えはしない。

 

デルフに教わった通りに、ストックを肩付けにしてケブーリーをぎこちない動作で構えるルイズは引き金を絞った。

射出されたニードル弾はガラス壁に命中し、そのまま先端が潰れて吸着する。

ケブーリーのニードル弾は元々装填されている液状になった金属を針の形に加工したものだという。

当たった物が柔らかければ突き刺さるし、刺さらなければ先端が変形して柔らかくなり、そのまま張り付くのだ。

「ふんっ! ふんっ!」

ルイズは一心不乱にニードル弾を次々に撃っていった。

狙いは先程のロケットランチャーが撃ち込まれた場所。狙い通りに同じ場所に当たって張り付くこともあれば、位置がずれてしまったりもしている。

それは無理もない。メイジであるルイズは銃の扱いに関しては素人に過ぎない。

なので、ケブーリーの発射機能を単発から拡散に切り替え、三発のニードル弾をスパーダのショットガンのように一斉に放射していたのだ。

 

『お前、な、な、な、何をやってる……?』

ついには大量のニードル弾がガラスの傷跡周りに密集し、アグナスは目を丸くしだす。

(やれ! 娘っ子!)

『うおおっ……!?』

ガラス窓の表面で鋭い爆発が巻き起こり、部屋中に轟音が響き渡る。

「ヒューッ……すげえ銃だな……」

グラディウスをレッドクイーンで叩き落していたネロは嘆息を漏らしていた。

魔法使いが銃器を使うなど、はっきり言って素っ頓狂極まりない。

空間を切り裂く剣に、爆発するニードルを発射する銃……全てが現代技術の産物ではない代物は、まさしく魔法の武器そのものだった。

 

「~~~~っ……!」

ルイズは悔しそうに歯軋りをしていた。

あれだけ大量のニードルが一斉に爆発したのに、ガラスは破れていなかったのだ。

傷跡は僅かながら広がり、小さなヒビが生じているだけである。

『そ、そ、そ、それは――マキャヴェリの魔銃か?』

アグナスはルイズが手にするケブーリーに目の色を変えて窓に張り付きだす。

「あんたには、関係ないわよ!」

癇癪を上げるルイズは再びケブーリーを構えて撃ち込もうとした。

(後ろだ!)

「ライトニング・クラウド!」

横でタバサが杖を頭上に掲げ、稲妻を空中に拡散させる。

二人の後ろから翼を広げて滑空しようとしていたグラディウスはその雷撃に打たれ、動きが止まっていく。

部屋中を飛び回っていた他のグラディウス達と共にボトボトと床へ墜落していった。

 

「うおおおおおおっ!!」

再び轟音を響かせるレッドクイーンを手に、ネロはガラスに向かって跳躍した。

狙いはもちろん、広がりつつある一点の傷跡だ。

「ふんっ!」

一気に叩きつけられたレッドクイーンの刃は今度は弾かれることなく、めり込んでしまいそうな程に押し付けられる。

剣に込められた全てのパワーが、ガラス窓を揺るがしていた。

『うおっ……!?』

さすがのアグナスも狼狽して後ろによろめきだす。

だがネロの猛攻は終わらない。着地するとすぐにまた飛び上がり、再びイクシードによって加速させたレッドクイーンを一気に振り払う。

ガラスに刻まれた傷跡はますます大きくなり、ヒビはさらに広がりだす。

(行け! そのままぶち破れ!)

「その調子よ!」

ルイズが思わず歓声を上げる中、ネロはさらに柄を捻って轟音を鳴り響かせていた。

「――GAME OVER!(これで、終わりだ!)」

三度(みたび)、豪速の刃が叩きつけられ、ガラスが砕け散る音が響き渡った。

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  • 登場人物
  • 世界観
  • 読みやすさ
  • 話の展開
  • 戦闘シーン
  • 主人公の描写・設定
  • 悪魔の描写
  • 脚色したオリジナル描写・設定
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