魔剣異聞録~The Legendary Dark Slayer/Zero   作:月に吠えるもの

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Another Mission <我刀院-Call> 24章

教団騎士の詰め所である我刀院の最上階に騎士団長の私室がある。

夜も更けている中、クレドは開け放たれた窓から外を眺めている。

夜風が静かにそよぐ中、闇夜の中に浮かぶフォルトゥナの街並みを見ながら眉間に小さな皺を寄せていた。

(静かだ……悪魔達の気配がまるでない……)

ここ一ヶ月の間、悪魔達がいつ市街地に現れてもおかしくないほどの殺気に満ちていた。

それがどうしたことか、昼間の騒動が起きてからというもの、忽然と消え失せているのである。

事実、市内の警邏にあたらせていた騎士達からは「異常なし」との報告しか届かなかった。

それ自体はフォルトゥナの民からしてみれば好ましいことではあるのだが……。

 

と、そこへ小さくノックの音が鳴り、扉が開く。

「キリエか……」

振り向くと、妹のキリエが皿に乗せたティーカップを手に静かに入ってきた。

胸元には羽をあしらったネックレスが下がっている。

それはネロからプレゼントされたささやかな感謝の気持ちだった。

「兄さん。ネロは無事かしら……怪我はもう大丈夫だって言ってたけど……」

執務机の上にカップを置くキリエは物憂げな表情を兄に向けてくる。

クレドは気難しい顔つきのままカップを手にして黙り込んだ。

妹の言わんとしていることは分かっている。ネロにばかり無理をさせないで欲しいと、そう願っているのだ。

その気持ちはクレドにも痛いほど判る。ネロが負っていた右腕の傷も元々は、悪魔に襲われたキリエを守るために受けたものなのだ。

キリエにしてみれば、自分を守ってくれて怪我までしたネロがずっと過酷な仕事に駆り出され続けているのは後ろめたく感じているに違いない。

 

「兄さんを責めている訳じゃないわ。ネロはみんなが知らない所で、充分すぎるほどがんばってくれている……それに報いてあげたいわ……」

「私もネロを、いつまでもこんな仕事ばかり任せるつもりはない……」

クレドはそう返すしかなかった。

だが本心としては今口にしたように、ネロをこのまま飼い殺しに等しい状態のままにしておく訳にはいかなかった。

そのためにこそ、今回の任務――襲撃者・ダンテの追討を命じたのである。

ネロの実力自体は幹部の上級騎士達など比べ物にならない。態度や協調性にこそ問題はあるが、何も幹部が全員品行方正という訳ではないことはクレドには判り切っている。

ネロを幹部の一員として加え、昇進させるには今回の任務はちょうど良い材料だった。

そして、その暁にはネロに教団の内情を全て明かすことになるだろう。

それは、今目の前にいる妹ですら知らないことだ。

 

「あ……」

机の上の電話が鳴りだしたのはその時だった。

この電話はフォルトゥナ島内の内線で、近年設けられたものだ。

今の所、この私室以外に歌劇場に教団本部としか繋がっていない。

「今日はもう休め。お前も疲れただろう」

電話の呼び鈴が鳴り響く中、キリエはクレドに軽く会釈をすると踵を返しだす。

「お休みなさい。兄さん」

そう言い残してキリエは退室していった。

キリエが去っていったのを確認したクレドは、扉に鍵を閉めるとしつこい程に鳴り続ける電話の元へ向かい、受話器を手に取る。

 

『クレドオオォォッッッ!!』

持ち上げた途端、電話口からけたたましい絶叫がはっきりと部屋中に届く程に溢れ出ていた。

「何事だ。騒々しいぞ、アグナス」

鬱陶しいと言いたげな顔で応じるクレドに、電話口の向こうでアグナスは怒鳴り続けている。

『こ、こ、こ、この無能者め!! 余所者の監視は、貴様の務めのはずだ! 連中、フォルトゥナ城に来ていたぞ!』

罵り交じりの言葉にクレドは顔を顰めた。

クレドも顔を合わせた三人の来訪者……〝(ディー)〟というデビルハンターの一味は街のホテルに滞在しているはずである。

街を警邏する騎士達には、特にこの三人が好からぬことをしでかさないか監視を厳にするように命じていた。

日が落ちてからは部屋から一歩も出ずにいるとの報告を受けており、ほんの少し前にも同じ報告が届いていたのだが……。

 

『あのネロとかいう小僧も一緒だ! 地下の研究棟に、は、は、入り込んで来た……! 私の予想した通りだった!!』

さらなるアグナスの激昂にクレドは眉間の皺を深める。

歌劇場の騒動が治まった後、教団本部に教皇を送り届けた時に鉢合わせしたアグナスと多少の口論を起こしていた。

ダンテの追討をネロに任せたことに対してアグナスはかなり不服だった。理由は城の地下施設をネロに見られでもしたら、という懸念からだ。

確かに技術局が管轄しているあの研究施設は人前に触れさせることのできないものであり、だからこそ入口も封鎖して隠されている。

どうやってネロがそれを見つけて入り込んだのかはともかく、問題はアグナスの対応だ。

 

「……それで? お前はネロ達をどう扱ったのだ? ただ見られただけなら、追い返すこともできたはずだ」

部外者までもが入り込んだというのは俄かには信じがたいことだが、アグナスの態度からして嘘ではないだろう。

だが責任者であるアグナスのネロへの対応が、相手を反抗させるほど荒かったであろうことも十中八九疑いようがない。

「まさか、お前の方から口封じをしようとしたのではあるまいな」

『と、と、当然だ! 貴様こそ、今まで黙っていたな!?』

「何の話だ」

『あの小僧は、あ、あ、悪魔だぞ!!』

まくし立ててくるアグナスの言葉にクレドは初めて動揺の顔色を浮かべだす。

「……馬鹿な! あり得んことだ」

『シラを切る気か!? あの小僧は、悪魔の力を隠し持っている! おまけに、閻魔刀まで再生させやがった!』

「閻魔刀を再生だと?」

『そうだ! わ、わ、我らの計画が台無しにされたらどうなる!? 何としてでも奴から取り戻さねばならんのだぞ! この不始末、ど、ど、どうしてくれる!!』

何とも信じられないことばかり口にするが、深刻な一大事だということはクレドも認めざるを得ない。

閻魔刀は教団が進める計画の要の品だ。それをネロが持ち去ったという事実だけは望ましいことではない。

「分かった……そう騒ぐな。私もすぐ本部に向かう」

『待て! まだ話は――』

ガチャリと強引に電話を切ったクレドは壁のフックに立て掛けている愛剣・デュランダルを手にすると執務室を後にする。

階段を降り、外に出ると教団本部に続く道を足早に進んでいった。

(ネロが悪魔だと……? そんなことがあってたまるか……!)

アグナスの告げたあの言葉の中、それだけはクレドにとって信じたくはないことだった。

 

作品の良かったところはどこですか?

  • 登場人物
  • 世界観
  • 読みやすさ
  • 話の展開
  • 戦闘シーン
  • 主人公の描写・設定
  • 悪魔の描写
  • 脚色したオリジナル描写・設定
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