魔剣異聞録~The Legendary Dark Slayer/Zero   作:月に吠えるもの

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Another Mission <アグナスの手記-File Ⅱ> 25章

フォルトゥナ城地下部の研究棟はスパーダが領主を務める以前より存在していた場所だ。元々は魔に魅入られて乱心したかつての領主が築いたものだが、スパーダが領主に就いてからは人間達が悪魔に対抗するための術を編み出すのに使わせてもらった。

2000年の時が経った今なお健在なこの施設は入口の螺旋階段を始め、魔剣教団の手によってかなりの増改築が施されているようだった。

時空神像が置かれている大広間――実験素材の保管場所らしい――にあるいくつもの扉は封鎖されていたが、スパーダは柵ごと破壊してすんなり進入を果たしていた。

小規模の実験室や金属などを加工・製造する工房や高炉、さらにアグナスが寝泊りでもするためか書斎には居住設備が設けられている。

 

ネロとルイズ達三人の少年少女らは、書斎に備えられていたソファーやベッドの上で眠りに就いていた。

この地下施設自体は教団の手で結界が張り巡らされているようで、悪魔達が侵入してくる恐れはない。

あるとすれば教団の連中の存在であるが、スパーダは閻魔刀を媒介に二つある出入口の片方に強固な結界を作り、一行が通ってきたもう片方にはパンドラを設置しておいた。

敵を見つけたら自動で容赦なく迎撃を行う罠と化したので、教団にしてみれば堪ったものではないだろう。

 

『EXC-001〝ファルシオン〟をベースに改良を施したEXC-002〝カリバーン〟が完成した。ブースターが一つでは力不足だったが、二つならば悪魔どもに効果的な威力を発揮できるはずだ。

 士官用に開発中のEXC-003〝デュランダル〟はさらに増設する予定だが、人間の力で扱うにはこれが限界だろう。

 しかし、私が作りたいのは、こんな機械仕掛けの玩具などではない。伝説の魔剣士スパーダが用いた物に匹敵する〝魔剣〟なのだ……』

 

ルイズ達が安眠している間、書斎に収蔵されていた資料にスパーダは目を通していた。

それは技術局長であるアグナスの記したもののようで、数々の出来事から研究内容に至るまで事細かく記録されている。

(へぁ~……こいつぁ、おったまげたな。図書館も開けそうだぜ)

ルイズから借り受けたデルフが溜め息を漏らす程にその数は膨大であり、書架は壁一面を覆い尽くす程だった。

几帳面な性格らしく、いつ頃に記録したものなのかが丁寧に書架のラベルにまで書かれている。

差し当たり、スパーダはアグナスがフォルトゥナに戻ってきたという15年近く前の記録から読み始めていた。

資料は一週間ごとに纏められており、迷うことなく探すことができる。

 

『ウロボロス社の災害対策部門が出向するというので、教皇に一時的に暇を出してもらうことにした。あの巨大な塔は間違いなく、魔界へと通じる〝テメンニグル〟だ。

 何故、現代に蘇ったのかなど、そんなことはどうでも良い。ウロボロス以外にもあの遺跡に眠る数々の魔具を狙う連中はいるはずだ。その前に、我ら魔剣教団ができるだけ手中に収めねばならない』

 

どうやらかつてスパーダが封じたテメンニグルの塔が何者かの手によって、この世界線では復活したそうだ。

だが、記録を見る限りでは塔が復活した地方の都市に被害が出ただけで、人間界全土が脅かされる程に広がってはいないらしい。

 

『チェンのクソ狸め! たかがホムンクルスのサンプル一つだけで、ぼ、ぼ、ぼ、ボッタクリやがって。これで、今回のウロボロスからの出資金は全て使い果たしてしまった。

 私がウロボロスに勤めていた時からそうだったが、や、や、奴は節度という物が完全に喪失している。教皇が堕落した人間と嘆くのも、も、も、もっともだ。

 これだから死の商人という奴らは業突く張りで、ど、ど、度し難いのだ……!』

 

アグナスは興奮すると言葉を詰まらせる癖があるが、どうもそれは筆跡にも表れるようだ。

明らかに力んでおり、文章は頻繁に乱れが見られる。

それだけこの一文を記している時のアグナスの抱いていた感情というものが実に判りやすい。

 

『第一次帰天実験――ホムンクルスを用いて悪魔の因子の移植実験を行う。

 肉体強化には成功したが、ホムンクルスは所詮、自我を持たない操り人形に過ぎない。精神面における作用のデータは収集できなかった。

 チェンの提供した技術にしろ、儀式によって悪魔の力をその身に降ろすにしろ、精神にも多大な影響が出やすいことが判明している。下手をすれば自我が崩壊してしまうだけだ。

 必要なのは悪魔の力だけだ。我々に悪魔の力を安全に移植するには、もう数年はデータ収集と改良のための実験が必要となるだろう』

 

やはり、サンクトゥスが教皇になってからの魔剣教団は完全に過激な組織に変貌を遂げている。

悪魔の力を我が物にしようと企むなど、魔に魅入られて堕ちた人間そのものだ。その結果が、今の在り様なのである。

表向きは穏健を装っているが、その裏は何とも醜悪な存在であることは疑いようがない。

 

『教皇より、我ら幹部勢にのみ重大なことが知らされた。

 観測班の集めたデータを総合するとやはり、マレット島で2000年前に封印された魔界の王が復活しかけているのは間違いないようだ。

 あそこを拠点に人間界を侵攻するとなれば、このフォルトゥナにまで及ぶのは時間がかかるが、その間に世界は大いなる混沌によって破壊されていくだろう。

 堕落した世界に救済をもたらし、教団の威光を世界に知らしめる意味でも実に好都合だ。教皇はそう仰っていた。満場一致で、〝救済〟のための〝大遠征〟が計画されることになった。

 私にとってもこれまでの研究成果を実践するのに、これは願ってもない僥倖だ――』

 

およそ10年近く前の記録にスパーダは眉を顰めていた。

魔帝ムンドゥスはこの世界線では、封印されてから2000年の時を経て力を蓄え、封印から目覚めているようだ。

元の世界線では、300年ほど早く活動を再開しているが、その差異について思案するのは後回しだ。

 

『魔界の王に対抗するためにも、かねてより計画していた〝神〟の建造に着手するようにと、教皇から命令が来た。

 教団が信仰する〝神〟たる魔剣士スパーダの新たな神体。それは並の悪魔など比べ物にならない究極の兵器になることだろう。

 だが、完成させるには少なくとも数百万もの悪魔どもの血肉が必要となる計算になる。動力源として、テメンニグルの遺跡から回収できた永劫機関やオリハルコンを用いてみることにしよう。

 禁断の果実ならば、充分以上に動力として使えるはずだろうが、こんなレプリカの紛い物など役にも立たん。オリジナルを手にするのはまず不可能だが……。

 マレット島からの侵攻が開始するのが早いか、〝神〟を完成させるのが早いか……厳しい所である』

 

どうやら魔剣教団はムンドゥスとも結果的に敵対をしている様子であり、どこか別の悪魔の勢力が裏で糸を引いている訳ではないらしい。

意外に思ったものだが、それは即ち魔剣教団の悪行はあくまで、教団独自のものということになる。

悪魔を倒し、世界に平和をもたらすというのが今の教団にとっては自分達の権威や勢力拡大のための手段に過ぎなくなっているのだ。

 

「……」

(どうしたよ? 溜め息なんかついちまって)

スパーダは複雑そうな渋い顔を浮かべていた。

今、目を通している記録もまたムンドゥス関連の代物だが、俄かには信じがたい……だが認めざるを得ないことが記されていたのだ。

 

『〝大遠征〟の計画が中止することが決定された。無理もない。マレット島は消滅し、魔界の王が再び封印されたからだ。

 封印したのはあの男……魔剣士スパーダの息子・ダンテだ。

 よ、よ、よ、余計なことをしやがって……! 幹部達も手柄を横取りされたと憤り、教皇も珍しく不機嫌そうにしておったわ。

 〝救済〟の計画は軌道修正が図られた。このフォルトゥナの地には、2000年前に魔界からの侵攻に使われた地獄門がある。あれを起動させれば、世界を混沌によって覆い尽くすことは容易い』

 

『幹部の一人が、会議でくだらぬ提案を出してきた。あのダンテを、このフォルトゥナに招くべきだと?

 神にして伝説の魔剣士の息子を〝生ける神〟として祀り上げ、教団の威光を世界に知らしめようという魂胆らしい。

 実にくだらぬ。奴は確かに魔界の王を封印し、デビルハンターとして数多の悪魔達を屠っているが、素行自体は完全に不良だ。伝説には程遠いわ。

 教団は、私とは別で密かにダンテの監視を続けているようだが、奴の本当の有り様を知ったら、幹部連中がどれだけ失望と落胆をするか見ものというものだ』

 

『またしてもダンテの奴が余計なことをした。今度はチェンのファミリーはおろか、覇王アルゴサクスもろともウロボロスまで潰しやがった。

 こ、こ、これでは研究素材の悪魔はおろか兵器の横流しや資金も完全に途絶えてしまうではないか。これ以上、奴を放っておいたら教団の計画に大きな支障が出るのは明白だ。

 それにしても、かつての魔界の三大勢力の筆頭全てを討ち倒すとは、何と恐るべき力だ。早い内に手を打たねばならん……』

 

アビゲイル、アルゴサクス、そしてムンドゥス。

スパーダでさえ手こずったあの大悪魔達を退けるとは、ダンテという男の力は想像を絶するレベルに達しているらしい。

「息子……か」

スパーダの子――それは、あまり実感が湧かないことだった。

この世界線のスパーダが、どんな経緯で、どんな女と交わったのかなど、まるで想像もできない。

(あの赤い奴が、お前さんの息子ってか? そいつはおでれーた。どんな女を口説いたってんだい?)

「あくまでこの世界での話だ」

だが、考えてみればあり得ない話ではない。

いくつもの平行世界の自分自身を獣の首を通して見てきたが、今まで未来までは見れていなかった。それらの世界線ではどれも独り身だった。

無限の可能性がある以上、スパーダもいつかは子を成すということもあり得る。

 

「こちらの私が、涙を流せたのかは知らんがな……」

もっとも、子を成したとはいえ、それが愛情を育んだ末のものなのか、あくまで一時の気まぐれからなのかまでは分からない。

少なくともこの世界線の、この時代には、スパーダの血族が二人は存在する。

劇場で感じたダンテの気配にしろ……ネロの解放した力にしろ……それは同族でなければ感じ得ないであろう特別な感覚だった。

「……三人かもしれんな」

独りごちたスパーダが思い至ったのは、かつての騎士団長の日記に記されていた記録だった。

17年前にこのフォルトゥナを訪れたという男。

日本刀を携えていたらしいその男もまた、自分の血族であるかもしれないという想像が自然と湧き出していた。

 

『第二次帰天実験結果――志願者の教団騎士に悪魔の因子が定着せず。後日に廃棄処分が決定する。

 肉体的には至って健康で頑健。だが、精神が耐えられなかったとの結果が出る。ホムンクルスと違って個人差があるが故に、相当精神力が高くなければ帰天の儀式には到底耐えられないだろう。

 精神衛生面での健康状態や、選別したベースとなる元の悪魔の素体との相性もあるかもしれない。更なる改善に向けて研究を続けることにする』

 

『教皇から例の廃棄処分予定のサンプルの解放を命じられた。あれは今はリミッターで暴走を抑えているが、それを外せと言うのだ。

 先日、騎士団長に就任したばかりのクレドの父母がミティスの森の遺跡を調査しているらしいが、どうやらそれが邪魔だそうだ。

 あそこは小地獄門を建造予定としているポイントだ。確かに、居座られていては何かと面倒なのは間違いない。

 あの二人は考古学者だが、危険も顧みない命知らずで勘も良い。先々代の騎士団長と同じように、そんな輩は実に嫌いだ。

 クレドには悪いが、尊い犠牲として先に天に召されてもらおう』

 

サンクトゥスが率いる魔剣教団は相当にあくどいことばかりしているのが記録から読み取れる。

自分達の目的の障害となりそうなものは、たとえ同胞であっても容赦なく始末しようとするのだ。

クレド自身は、気付いているか否かは正直分かり難い。

だが、肉親を謀略で殺されたと知れば、普通は怒りに燃えるはずである。

 

『や、や、や、やったぞ! ついに、帰天が成功したぞ!! 私は今日、つ、つ、ついに悪魔の力を我が手に……天使へと、う、う、う、生まれ変わったのだ!!

 クレドの奴は肉体、精神ともに問題ないから、成功するのは、と、と、当然とも言うべきかもしれないが、正直、老齢の教皇が辛うじて帰天の儀式に耐えられたというのは奇跡と言う他ない。

 そ、そ、そ、それにしても、教皇は本当に儀式に成功したのかは甚だ疑問だ。あまりに変化が無さ過ぎる。悪魔の因子が上手く定着しなかったのではないか……?』

 

教団やかつてのアルビオンのレコン・キスタが〝帰天〟と呼んで、悪魔の力を天使と称しているのは偶然なのか。

それにしても、本質的には悪魔であることに変わりないのに、どちらも大層な呼び名で美化しようというのは何とも滑稽というべきか。

 

『以前より研究していた魔界生物フォルトを元にした亜空間結界と、それを介した物質の転送実験が成功した。

 まだフォルトゥナ内と限定的ながら、物質の保管と移送もより容易になるはずだ。任意の場所に転送先の出入口を作ることができれば、より完全だ。

 この亜空間結界は、〝疑似魔界〟と呼ぶことにしよう』

 

『実に僥倖だ! ま、ま、まさか魔剣士スパーダの遺産の一つが見つかるなんて! 間違いなく、これは、や、や、閻魔刀に間違いない! 地獄門の封印を解く、か、か、鍵だ!

 しかし、問題なのは折れてしまっていることだ。これでは地獄門を解放させることはできん。だが、な、な、何としてでも再生させてみせるぞ……!

 もう一つの黒い鎧の破片は、恐らくあの魔界の武器職人・マキャヴェリの生み出した金属に違いない。こ、こ、これを使えば、強力な武器や装甲の元となる金属が作れるはずだ!』

 

アグナスはおよそ一年前にあの閻魔刀を発見したようだ。

記録を見ると、どうやらこのフォルトゥナの海岸に流れ着いていたらしい。

この世界線のマキャヴェリがどこで何をしているかなどさっぱり判らないが、マキャヴェリが閻魔刀を預かっていたという訳でもなさそうだ。

 

『オリジナルの地獄門を元にした小地獄門は完成こそしたが、教団が所有する魔具の魔力では動力が安定しない。折れた閻魔刀では全く役に立たん。

 次元の扉を開くことはできても、最下級の悪魔を短時間に少しずつしか呼び出せる程度のものでしかない。オリハルコンや永劫機関を用いても駄目なのか。

 やはり、上級悪魔を降臨させる程のものとなると、その上級悪魔の魂が形になる程に強力な魔具でなければ駄目なのだ……。

 ダンテには、エンツォとかいう幾多の魔具を保管している知人がいるらしい。そいつを捜し出して魔具を回収することも検討すべきか……』

 

教団は地獄門を開いて魔界を復活させようなどと狂気の沙汰を考えているようだが、どうにも計画が行き詰っていた様子だった。

〝神〟とかいう兵器も密かに建造していたらしいが、それも諦めかけていたらしい。

 

『素体の悪魔を回収するために、活動が活発なデビルハンターを監視することが決定する。

 〝メアリ・アン・アーカム〟――性別:女。通称〝レディ〟と呼ばれている。ダンテとも大きく関わりがあり。

 〝ベリル〟――本名不明。性別:女。各地で手広く活動をするデビルハンター。退魔の技術を有することが確認されたし。

 〝ルシア〟――本名不明。性別:女。デュマーリ島の護り手として活動中。

 以上、三名のハンターは、場合によってはサンプルとして回収も検討する』

 

「デュマーリか……」

懐かしそうにスパーダは唸った。

古の神や妖精といった伝説を信仰する者達が住まう神秘の土地・デュマーリ島。

密かに悪魔達と戦い、その島を守護する者は〝守り手〟と呼ばれている。

十数年前にスパーダも一度立ち寄ったことがあり、島を脅かす悪魔を退けようとする守り手の戦士と共闘したのだ。

その戦士は確か女で、名前は――よく憶えていないので、忘れた。

 

『気に食わん。何だ、あのグロリアとかいう女は……!?

 三つの魔具はまだしも、ど、ど、どこの馬の骨かも判らぬトレジャーハンターごときが魔剣スパーダを手に入れるなど、だ、だ、だ、断じて許せぬわ!

 教団に魔剣を献上した、た、た、たったそれだけで、長年幹部として仕えていたこの私よりも高い地位に就いて我が物顔で振る舞うなど、ム、ム、ムカつく女だ……!!

 だが教皇も決してあの女に心を許してはいないのは明らかだ。私はもちろん、クレドも足を運ぶことが許される〝神〟の元には絶対、通そうとはしない。

 必ずやあの女狐の尻尾を掴んでみせるぞ――』

 

どうやらグロリアはスパーダ達と同じ余所者らしい。

一ヶ月前にふらりとフォルトゥナに姿を現わしたようだ。

 

『グロリアの持ってきた三つの魔具のおかげで、ようやく小地獄門が安定して機能するようになった。これならば上級悪魔の現界も可能になり、フォルトゥナの地の魔力の濃度を増幅させられる。

 問題となるのはやはり〝神〟だ。これまで捕らえた幾万もの悪魔達の血肉の魔力だけでは起動させるには到底足りぬが、魔剣スパーダの絶大な魔力ならば、この巨体に魔力を行き渡らせることができるはずだ。

 だが、この剣の魔力を解放させるには、どうしてもスパーダ本人か、血族の力が必要となる。この二つが揃って、初めて〝神〟は完全な存在となる。

 監視員からの報告ではダンテがこのフォルトゥナに近づいているらしい。……ならば、ダンテを捕えて核とするしかあるまい』

 

「……」

顔を顰めてスパーダは大きな溜め息を漏らした。

あのグロリアという女は全く掴み所がない存在だ。

魔帝ムンドゥスの申し子だから、教団を利用して魔界への道を開かせようとしているのかもしれないが、それではルイズ達を助けようとしたり自分の兄弟と敵対することと矛盾する。

いずれにしろ、このフォルトゥナの混乱を助長させている原因の一つが、彼女であることは疑いようがない。

 

『一体何だ、これは!? どこをどう無茶苦茶な使い方をしたら、こ、こ、こんな壊れ方をする!?

 第一、この剣は私が作ったものではない。ブースターをこんなに増やして、ただの人間がま、ま、まともに振り回せる訳がないだろうが。

 ネロとかいう小僧が勝手に改造したらしいが、ど素人のクソガキめ! 私の発明と技術の結晶に、よ、よ、余計なことをしやがって! 大人しくカリバーンを使っておれば良いものを』

 

『先日、送られてきた騎士の死体を素体に帰天実験を行う。

 肉体が悪魔の因子によって補われ、蘇生・復活するという驚くべき結果が出た。しかし、自我は完全に崩壊しており、暴走してしまう。

 インプラントを埋め込んだとしても、生前の記憶や精神の影響か、制御は極めて困難だ。だが、発揮されたパワー自体はこれまでの帰天実験では得られなかっただけに、捨て置けないものがある。

 上手く制御ができれば、教団の戦力として有用となるかもしれない』

 

『本日、帰天実験を三つ執り行う。対象は教団騎士から志願者が二名にホムンクルスが一体。

 志願者のサガン、トニオは因子が定着せず失敗。まあ、この二人などどうでも良い。

 ホムンクルスの方は今回のために遺伝子操作を行ったものだが、想像以上に肉体が強化されたことには驚きだ。戦闘能力も申し分ない。

 脳髄に埋め込んだインプラントのおかげで、悪魔の破壊本能に加えて行動を完全制御が可能となった。

 〝A〟〝B〟〝C〟〝G〟シリーズと共に、教団の戦力として有用になるだろう。新しく〝T〟シリーズとして量産も検討するか……』

 

それにしてもアグナスは悪い意味で狂気的な研究者ではあるものの、技術力自体は本物のようだ。

人間ながら魔界の品々を元に数々の武器や魔導装置を開発し、グラディウスに使われている金属も魔界の悪魔達にも充分に通用する程の出来栄えだ。

鎧騎士にしろ発想や目的の方向性さえ誤っていなければ、教団騎士の装備として実に有用であっただろうに。

道を踏み外した研究者ほど愚かなものはないが、何とも惜しい話である。

 

(あんな野郎にも、家族がちゃんといるとはなぁ)

スパーダは今、一枚の小さな紙を手にしている。

非常に鮮明な肖像が描かれており――写真というものはスパーダの時代にはまだ生み出されていない――そこには男女の姿がある。

一人は若い頃のアグナスのようで、当時から今と変わらない大柄な体格でモノクルをつけている。

もう一人は若い女性で、アグナスとは対照的な明るい肌をしていた。

その女性は小さな幼子を抱き上げ、笑顔を浮かべている。アグナスもまた同様に狂気の研究者や冷酷さには程遠い温かな顔だった。

これは書斎にあったものではなく、研究室の方で拾ったものだ。恐らくアグナスが逃げる時に落としたものなのだろう。

 

『ニコレッタ、二歳の誕生日に――』

 

肖像の裏には短くそう記されている。年月日から換算して、この幼子はネロと同じくらいの年頃の少女に成長しているはずだ。

アグナスの手記には、非常に少ないながらも家族のことが記されていた。教団の計画のため、教皇に召致されてアグナスは家族を捨ててフォルトゥナに戻ってきたらしい。

意外なことに、そのことを後ろめたく思っている様子だった。

それでも家族だけは絶対に巻き込みたくない、という強い想いが記されており、別れた妻の病死が遠く親族から知らされた時には、相当落ち込んでいたことも窺える。

 

「……馬鹿な男だな」

目を伏せて溜め息を漏らした。

外法に手を染めるほどに堕ちてしまったとはいえ、アグナスにも心の拠り所や愛情は確かにあったのだ。

だが、それを自ら捨て去ってしまった。それが今の冷酷な彼を形成しているのかもしれない。

本来持ち得ていたはずの人間の心を失うのは、何とも惜しまれることだった。

 

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  • 読みやすさ
  • 話の展開
  • 戦闘シーン
  • 主人公の描写・設定
  • 悪魔の描写
  • 脚色したオリジナル描写・設定
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