魔剣異聞録~The Legendary Dark Slayer/Zero   作:月に吠えるもの

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Another Mission <作戦会議-Health food> 26章

もうじき夜が明ける。

前夜のこともあって消耗していたルイズ達はおよそ10時間近くもの熟睡の果てに目を覚ましていた。

メイジにとっては精神力を回復させるにはちょうど良い休息だった。

とはいえ、空腹のままでは力も出ない。

「栄養食品ばっかかよ……学者馬鹿な奴らしいぜ」

書斎の隅に置かれた扉付きの大きな箱を開けたネロは中を覗いて呻いた。

後ろから覗き込むルイズとタバサは見たこともない代物が色々詰まっている箱の中を見て目を丸くする。

どうやら保冷庫らしく、中からはひんやりと冷気が薄っすら漏れてきていた。

「ま、この際文句言ってる暇もねえな。ほら、好きに頂いちまおうぜ」

中を物色してオレンジ色の小箱や拳サイズの銀袋を取り出したネロは、箱を破くと中から細長いブロック状の塊を口にし始める。

 

ソファーに腰を下ろすルイズとタバサはネロの真似をして、箱や銀袋の蓋を開けていた。

「あ、いけるかも……」

一口してみると、サクサクとしたそれはクッキーに近い味と触感だった。

タバサも小さな口でモソモソと食べながら銀袋の飲み口を咥える。

「……っ」

革袋の水筒に似た形から多分、これは飲み物なのだろうと察してはいたのだが、傾けてみても中身が全然出てこない。

ルイズも同じような感じで渋い顔を浮かべていた。

「そいつはそんなんじゃ飲めないぜ。袋をギュッて握ってみな」

と、ネロはこれみよがしに自分の銀袋を咥えると悪魔の右手で潰すかのように握り締めていた。

(未来の食いモンってのはずいぶん面倒なもんだね)

(飲み辛いわ……)

ドロドロとしたゼリーみたいなその飲み物は、はっきり言ってルイズの口には合わなかった。

果実のジュースみたいな味をしているのだが、喉ごしや後味は最悪だ。何より気持ち悪い。

「タバサ。あなた、それが気に入ったの?」

目を細めてルイズはタバサをじっと見つめていた。

保冷庫から新しく保存食を取り出すなり、黙々と口にしているのである。

「それなりに」

タバサとしては、手軽に食べられる割には空腹感が満たされるのでちょうど良い朝食だった。

「……ホテルの食堂の料理の方が全然いけるね。こんなもん、味気ねえや」

ネロは細く萎んだ銀袋を無造作に放り捨て、悪態をつく。

所詮、急ごしらえの非常食に過ぎない。一日でも早く全ての仕事を終わらせ、愛する人の手料理を食べたいと望むのだった。

 

「ねえ、食べるか読むか、どっちかにしたら?」

「そうだな」

椅子に腰かけるスパーダもルイズ達と同じようにアグナスの保存食を食していたが、同時に大きな紙を膝元に広げて目を通していた。

「さっきからあんた、何見てんだ?」

「この島の地図だ」

と、スパーダは歩み寄ってきたネロに広げていた紙を差し出す。

受け取ったネロがそれを見ると、確かにフォルトゥナ全土の地図に間違いなかった。市街地の図書館でも取り扱っている類のものだ。

「ネロ。お前は、城の中庭で地獄門を見たな?」

一瞬、ネロは何のことかと眉を顰めかけたが、すぐに合点がいったようで頷きだす。

「……ああ、あれのことか。あそこだけじゃないぜ。城に来る途中、フェルムの丘でも一つ見かけたんだ」

そう語るネロの言葉をスパーダは保存食のゼリー飲料を飲みながら聞き入っていた。

「どっちもでかい悪魔が出てきてな。ちょっと苦労したよ」

「それって、どんな悪魔だったの?」

ハルケギニアでもルイズ達が見た地獄門は、上級悪魔が通って来れそうな規模だった。

魔界と人間界を繋ぐ出入口というのを実際に見たことがある以上、ネロが遭遇したという悪魔がどんな物なのかが気になってしまう。

その悪魔達と遭遇しつつもこうして生き残っているのは、彼がきっと右腕の力も駆使して退けたであろうことは間違いないだろう。

「簡単に言えば、長生きなじいさんに、カエルの集団さ。女の子には気持ち悪いだろうぜ」

ルイズの問いにネロは苦笑を浮かべながら肩を竦めだす。

「カエル……」

カエルはルイズが嫌いな動物だ。モンモランシーの使い魔もカエルだったが、地獄門から現れる悪魔ともなれば余程巨大なのだろうというのは容易に想像できてしまう。

思わず鳥肌が立ってきたルイズは、もうそれ以上考えるのは辞めにした。

 

「アグナスの資料によると、奴は小型の地獄門をフォルトゥナの各地に作っている。それがこの三つのポイントだ」

スパーダは地図を広げるネロの横に立つと、三点を指差す。

住民が暮らす市街地は南方の海沿いに面し、その北方にフォルトゥナ城がそびえるラーミナ山脈があり、麓にはフェルムの丘がある。

さらに島の東側にはミティスの森が広がっており、魔剣教団の本部はその森の南方に存在するのだ。

スパーダが指した三点はフェルムの丘にラーミナ山、そしてミティスの森である。

「これは……遺跡の辺りか?」

ネロはスパーダが指した森のポイントを怪訝な顔で見つめだす。

ミティスの森自体は街の住民も出入りをしている場所だが、その奥地にははるか昔に打ち捨てられた教会といった廃墟や遺跡があるため、あまり奥まで立ち入ることは禁じられている。

 

「この城にある奴は私が壊した。あと二つを壊せば、少なくともこれ以上フォルトゥナの地に魔力が満ちることは無くなる」

「やっぱりあの石板が、悪魔どもが増えてる原因なのか……?」

「そうだ。お前の腕がそうなったのもな」

スパーダの指摘にネロは自らの悪魔の右腕に視線を落としだす。

アグナスの造った地獄門は、一ヵ月前にグロリアが来訪したことがきっかけで本格的に稼働を始めている。ムンドゥスの尖兵が現れ始めたのも同時期だ。

恐らくフォルトゥナの魔力が増幅されていくのに影響されて、ネロの体に宿る悪魔の力が覚醒を始めたに違いない。

だがネロはその制御方法を知らないから、元に戻すこともできないでいるのだ。

 

「何で奴があんなモンを……」

渋面を浮かべてネロは低く呻いた。

アグナスが悪魔の力を研究するマッドサイエンティストであることは疑いようがないが、何故そんな物を造り出したのかその意図や目的がさっぱり理解できない。

「お前のような下っ端には知られたくないこともあるということだ」

「何だって?」

「これを読んでみろ」

スパーダは机の上からクリップで纏められた何枚もの紙束を手に取り、ネロに差し出す。

アグナスの資料をいくつか拝借して纏めたもので、主に教団の目的や研究内容など表沙汰にはできない事柄を記したものである。

とはいえ、ダンテやスパーダなど、ややこしくなりそうな資料だけは纏めてはいない。差し当たり、現在の教団やネロに関連がありそうなことについてだけだ。

 

受け取ったネロは顔を顰めたまま資料に目を通していくが、その目は徐々に驚愕と疑念の色が深まっていく。

「馬鹿な……クレドが……!?」

ついには声を上げてしまうほどに驚きを隠すことができなかった。

ルイズとタバサは横から覗き込んでみるが、異世界の言語はさっぱり分からず内容を把握できない。

「ねえ、何が書いてあるの?」

「教団はずっと昔からあくどいことばかりしてるのさ。悪魔の力を手に入れて、世界を支配する……ってな。レコン・キスタの連中と同じさ」

「何ですって!?」

代わりに答えたデルフの言葉にルイズはネロ以上に愕然とした。

ネロが今読んでいる部分も、デルフの発言と相違はない。

「馬鹿げてやがる……」

元より教団が清廉潔白な組織でないことは理解していたが、ここまで大それた野望を抱いているなど、ネロからしてみれば「狂ってる」としか言い様がなかった。

何より信じられないのは、その教団が進めている計画に最も信頼する男が加担しているという事実だ。

それに、彼とその妹の肉親は――

 

紙束をスパーダに突き返したネロは、立て掛けていたレッドクイーンを手にしだす。

「どこへ行くの?」

「本部に戻る。……行って、クレドに確かめて来る」

「ダンテの方は良いの?」

「放っておけ。奴もどうやら教団の暗部を探っているらしい。目指す所は私達と同じだ」

スパーダの上げた一声にネロは複雑そうに憮然とした顔を浮かべだす。

「そうかよ……」

ネロのイメージとしては、教団の悪行をどこか外部の者が嗅ぎ付けており、それを調査するなり壊滅させようとして、あの男が刺客として送り込まれたように感じられていた。

(邪教を滅ぼすために悪魔を送り込んできたってか? 笑えねえな……)

一体、どこの誰があのダンテの雇い主なのかは知らないが、間違いなくあの男もまともな人間でないことは明らかだ。

そう。まるで、今のネロのように。

かと言って、今さらあんな男と共闘しようだなんて気はない。向こうは向こうで勝手にしてもらえればいいのだ。

 

「〝(ディー)〟、あたし達も行きましょう! 教団を早く食い止めないといけないってことでしょう?」

ルイズが息巻く中、タバサは黙々と自分の杖を手にし身支度を整えている。

三人ともいつでも出発の準備は出来ていた。

「ああ。だが、その前にやっておくことがある」

スパーダも己の愛剣を携えながら静かに言葉を返す。

「何よ?」

「先にフェルムの丘の地獄門を壊す。ここからそう遠くもないからな」

今の魔剣教団の目的は、市街地にある地獄門を解放することだ。そのために小型の地獄門を築いてフォルトゥナの地を魔力で満たしている訳だが、その影響を少しでも抑えるには今の内に壊してしまった方が良い。

スパーダ達三人がラーミナ山を登ってきたのとは別のルートから、フェルムの丘に通じる坑道に行くことができる。

 

「ここから教団の本部へは、城の裏手からミティスの森を通るのが早いな。もし道中で地獄門を見つけたら、遠慮なく壊せ。お前のその刀なら斬れるはずだ」

「あ、ああ」

戸惑いつつネロは自らの右腕に握る閻魔刀にちらりと視線を落とした。

スパーダが持っているのと同じ刀のようであることは不思議に思ったが、これが自分の想像もできない力を秘めているであろうことは肌で感じることができた。

「門を動かしている台座の中には動力に使っている魔具が収められている。それも回収しておけ」

教団本部を目指すネロが残るもう一つの地獄門を壊す役割分担となっているのは既定路線となっていた。

ネロとしても、あの石板が小なり大なり悪魔を呼び出すために使われていると知った以上、放置しておく訳にもいかないので異論はない。

 

「――じゃあな。また後で会おうぜ」

抜き身の閻魔刀を手にしたままネロは先に書斎を後にしようとする。

閻魔刀が置いてあった研究室のさらに先は城の裏手のフォリスの滝の前に出ており、ミティスの森への道となる橋を架ける装置が設置されていた。

昨晩、寝る前にそれを動かしておいたので、後は上に上がってそこまで行けば良い。

悪魔の腕の力を使えば、強引に登ることもできるはずである。

「ネロ」

「ん?」

「奴らには絶対に捕まるなよ」

呼び止められたネロは肩越しに振り向くと、スパーダの真剣な眼差しを見て気を張りつめさせる。

連中がこの閻魔刀を取り戻そうとするのは目に見えており、この先は自分にも刺客が送り込まれてくるであろうことが想像できる。

「……誰が捕まるかよ」

少なくとも、クレドと会うまでは絶対に果てる訳にはいかなかった。

作品の良かったところはどこですか?

  • 登場人物
  • 世界観
  • 読みやすさ
  • 話の展開
  • 戦闘シーン
  • 主人公の描写・設定
  • 悪魔の描写
  • 脚色したオリジナル描写・設定
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