魔剣異聞録~The Legendary Dark Slayer/Zero   作:月に吠えるもの

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Another Mission <緊急連絡-Ruins Church> 27章

「やれやれ……ジャングルとは参ったもんだね」

陽の光が差し込む鬱蒼とした森の中を進みながら、ダンテは溜め息を漏らした。

フォルトゥナ城を出てこの森にやってきたのは、夜が明けてからのことだった。城内を散策するついでに、城主の間のベッドで一眠りをしていたのである。

立派な天蓋付きのベッドで呑気に眠っていたダンテは、何度も悪魔達に寝込みを襲われていた。だが、その都度エボニーとアイボリーの銃弾を叩き込んでは追い払ったのだった。

熟睡はできなかったが、一応小休止にはなったはずである。

 

目的地である教団の本部へは、このミティスの森を通るしかない。

しかし、地図を持っている訳でも無いダンテは適当に森の中をぶらついていた。

この森は今、半分魔界化しているようで不気味な植物が普通の木や草葉に混じってそこかしこに見える。まるで亜熱帯のジャングルを思わせるような光景で、今の季節には似合わないほど蒸し暑かった。

 

やがてダンテは朽ち果てた廃墟へと辿り着いていた。

そこはどうやら元は教会だったようで、屋根も崩れ、苔だらけとはいえ立派な造りの礼拝堂が広がっていた。

相当大昔に打ち捨てられた場所なのだろうと容易に想像がつく。

「どうした? 待ち合わせの予定とはずいぶん違うな」

散策していたダンテはふと足を止めると、誰ともなく呟き始めた。

微かな気配は礼拝堂の上、天井付近の崩れた窓辺から感じられる。

フォルトゥナ城でも密会した相棒――トリッシュがそこにいるのだ。

「何か急用でも出来たのか?」

「ええ。二つばかり、あなたに是非伝えておきたいことがあるのよ」

相変わらず姿を現わさないトリッシュの言葉にダンテは腕を組みながら肩を竦めだす。

「その分じゃあ、緊急事態みたいだな」

半日も前に交わした予定を変更してまで、こうして合流してきたのだ。何かダンテにも無視できない異変が起こったに違いない。

 

「まず一つだけど、閻魔刀が復活したそうよ」

それは確かに無視できない話だった。

当初のトリッシュの話では閻魔刀は折れていて、教団の技術でも再生できないと言っていたのに、それが覆されてしまったのだから。

「……やっぱりな」

「あら、驚かないの?」

だが、ダンテは平然とした態度を崩さなかった。

「思い当たるフシは城で感じたもんでね。……当ててやろうか。復活させたのは、あの騎士のボウヤ……ええと」

劇場で自分をぶん殴り、胸を貫き、投げ飛ばしてきた若い銀髪の青年が脳裏に浮かぶ。

騎士団長が名前を呼んでいたのだが、ダンテはまるで憶えていなかった。思い出そうとしても、全く思い出せない。

こめかみをつついて考え込んでいたダンテだったが、トリッシュはクスリと溜め息を漏らし、

「そう。ネロよ」

と、名を口にしたことでようやく記憶の底から引き上げることができた。

 

「どうやって復活させたかまでは分からないけど、教団の幹部はかなり困惑しているわ。そのボウヤから閻魔刀を取り戻すために、騎士団長が差し向けられることになったの」

「へぇ。あいつがねえ……」

劇場で剣を交えた騎士団長は、人間ながらに卓越した剣技の持ち主だった。

他の騎士達など足元にも及ばず、ダンテとも張り合えたあの実力は、正直ネロの剣よりも印象に残っている程だ。

惜しむらくは、彼は他の教団騎士達のように悪魔の力をその身に宿しているという事実である。

「ボウヤが負ければ、閻魔刀は奴らの手に渡っちまうか……」

「彼が負けると思う?」

「さあな。その時は俺が取り返すまでさ」

どちらにしろ、閻魔刀を早い内に回収しなければならなくなったことはこれで確定した。

壊れていて教団に利用されるはずはないと踏んでいたが、これはさすがにダンテでも予想外の展開だった。

 

(さっき会った時に返してもらったら良かったな)

内心、舌を打ってまたもダンテは後悔する。

実はほんの少し前、この森に足を踏み入れた際にネロと顔を合わせていたのだ。

向こうは追っているはずのダンテに対してさほど敵意は見せてこなかったが、ダンテは相手にするのが面倒くさかったのでからかいながら軽くあしらって、とんずらしてきたのである。

(やれやれ、俺の勘も衰えたかね)

今でこそネロが閻魔刀を復活させたことが確信できるが、あの時は半信半疑だった。だから、閻魔刀を持っているなど想像の外だった。

結果論だが、致命的なミスだったのかもしれないと猛省する。

 

「それで、もう一つのことなんだけど……」

「どうした?」

切り出し始めて押し黙るトリッシュにダンテは目を丸くした。

何やら彼女も困惑している様子なのが分かり、こちらの方が深刻な話題であることを示唆している。

「……スパーダがここに来ているみたいだわ」

トリッシュの発したその言葉に、ダンテは硬直した。

全く予想もできず、意識さえしなかった話題に表情から足先に至るまで張りつめさせてしまう。

 

「……それ、マジか?」

自分自身でも自覚ができてしまう程に、動揺していた。

というより、半ば信じられなかった。教団が〝神〟として崇める悪魔が……自分の父親が、今この地にいるなどと。

幼い頃、家族を残して何処かへと姿を消してしまった父・スパーダがかつて領主を務めた場所に戻ってきたなど、まるで予想できない展開だった。

「ええ。フォルトゥナ城から本部に戻る途中に会ったの。例の観光客のお嬢ちゃん達も一緒よ」

劇場で戦ったあの少女達には保護者がいるのだろうと思っていた。

だが、その人物がダンテが全く想像しない相手だなどと、冗談としか思えない。

「ただ、あなたのお父様本人ではないみたいだけど……」

「どういう意味だ? そりゃあ」

トリッシュの言葉の意味が分からず、ダンテは眉を顰めた。

この世に自分の父親はたった一人しかいない。そのはずなのに、彼女は矛盾したことを口にするのだ。

 

「ダンテ。あなた、〝獣の首〟って知ってる?」

「あれがどうかしたのか? もうこの世には存在しないはずだがな」

〝獣の首〟――それはほんの数年前に、ダンテもお目にかかったことのある魔具だった。

あるデビルハンターと共闘し、その魔具を巡った戦いの果てに裏社会で暗躍する組織を壊滅させたのである。

その時、共に戦った赤毛の女ハンター、ベリルとはあれ以来会ってはいないものの、風の噂で活躍は耳に入っていた。

報酬代わりに受け取った対戦車ライフルも、大事に事務所に置いてある。まだ使ったことはないが。

「ムンドゥスは獣の首の試作品を作っていてね。私もそのいくつかを実際に見たことがあるのよ。本物に比べれば力自体は劣るけれど、能力そのものは変わらないわ」

獣の首の異能は、ダンテもその身をもって味わっていた。

悪魔の魔力供給装置であるため、同じ悪魔の力を持つダンテも役立てることができたが、一番驚かせたのは、別の能力の方である。

こことは違う別の世界……異なる可能性の世界へと渡る驚異の力。

その力で、ダンテは自分や他の者達の別の可能性を実際に体験したのだ。

……もっとも、思い出したくもない最悪な可能性だったのだが。

 

「その試作品の魔力の気配を、微かに感じたのよ。あのスパーダは別の世界から迷い込んで来たんだと思うわ」

「どうしてそう言い切れる?」

試作品とやらがいくつもあるのなら、この世界に元々あるものである可能性もあるが、どうやらトリッシュは確信を抱いているようだった。

「彼、フォースエッジと閻魔刀を持ってるのよ。それにアミュレットも……」

その言葉にダンテは溜め息を漏らした。

納得せざるを得ないことだった。父の遺した三つの魔剣――その一つは今自分が持っている身だし、残る二つは教団の元にある。

いや、正確には閻魔刀の方はネロが持っている。

「つまり、スパーダはスパーダでも、俺の親父とは違う別人ってことか」

そして、亡き母の形見までも持っているという。

本来、他に存在するはずのない物が別で存在する以上、トリッシュの見たものが全ての答えだった。

「ええ。あの様子じゃあ、恐らくかなり過去の時代からやってきたみたいね。バージルのことも知らないみたいだし……多分、私がこの変装を解いても向こうは何とも思わないでしょうね」

 

「そうか……」

複雑な気分だった。

父は確かに、このフォルトゥナの地にいるという。だが、それは限りなく本人に近い別人に過ぎない。

しかも向こうは、家族のことなどまるで知らないという。

父が最も愛した女性も、双子の息子達のことも――

「親父に会ってみてどうだった?」

「あなたのお父様ご本人を見たことなんてないから、なんとも言えないけど……初めて会った頃のあなたに似てたかしらね。髪はバージルにそっくりだったわ。見間違えちゃったくらいよ」

微かに苦笑を浮かべてダンテはそっと目を伏せる。

トリッシュとの付き合いはもう十年にもなるだろうか。

今でこそ別行動をしているが、コンビを組んで仕事をしていた時は、周りから「似合いの夫婦だ」などと茶化されることもあった。

あの頃は今みたいに髭なんて生やしていなかった。だが、トリッシュの言葉からしてどうも、出会ったスパーダは今のダンテよりずっと若い姿らしい。

 

(親父は歳を取らない、か……)

トリッシュもそうだが、純粋な悪魔には老いという概念が存在しない。

父にとって人の姿は仮初めに過ぎないだろうが、それは不変の姿なのだ。

若い父よりも歳を食った息子……考えると実に複雑な気分である。

そもそも幼い頃にいなくなった父がどんな顔をしていたのかさえ、ダンテには記憶が曖昧なのだ。

母の写真は残っているのに、父のものは何一つ残っていない。

 

「で、今はどこにいるんだ?」

「さあ……。〝(ディー)〟って名乗って、あのお嬢ちゃん達の御守りをしてるんだけど、どうやら教団と敵対することになりそうよ」

「〝(ディー)〟……ね」

思わず微笑を零してダンテは崩れた屋根から覗く空を見上げた。

ダンテ(Dante)自身が使ってもおかしくないが、何とも洒落た偽名である。

向こうも自分がこの地でどんな立場であるのか理解していることが、察することができた。

「ネロのボウヤも、スパーダも、きっと教団本部に向かうはずだわ。会いたいなら、先にそっちで待つ方が探す手間が省けるでしょうね」

そう言い残したトリッシュの気配は、忽然と消え失せていた。

立ち去って行った彼女のいた方を見上げたダンテは、肩を竦めて苦笑した。

「寄り道してないで早く本部に来なさい」と暗に言われたのである。

 

「神様のご帰還ってか……教団の連中がどんな反応するのか見ものだな」

教団が崇めているはずの本物の〝神〟が敵対することになるというのは、実に皮肉と言うべきか。

それは向こうがまだ自分達の〝神〟であると察していないからかもしれない。

だが、正体を知ってもダンテが思うような歓迎などあり得ないことは、容易に想像ができた。

作品の良かったところはどこですか?

  • 登場人物
  • 世界観
  • 読みやすさ
  • 話の展開
  • 戦闘シーン
  • 主人公の描写・設定
  • 悪魔の描写
  • 脚色したオリジナル描写・設定
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