魔剣異聞録~The Legendary Dark Slayer/Zero 作:月に吠えるもの
崖の上の高台に上がると、そこから広大なミティスの森を俯瞰することができる。
だがスパーダ達の目に付いたのは森よりも、その先にそびえ立つ白い建物だった。
遠くからでもはっきりと見えるその摩天楼こそが、魔剣教団の本部である。
スパーダが感じた第一印象は市街地にある地獄門が白くなったようなもので、遠目には巨大な白い板のようにしか見えない無機質な光景だった。
「ショットガンの二丁拳銃なんて、ずいぶん洒落た真似をするんだな」
ルイズとタバサと一緒に岩に腰掛けるネロは佇むスパーダを見て小さく笑いだす。
「たまたまやってみただけだ」
スパーダは右手に愛銃のショットガン・レヴェナントを握っているが、反対の手にも別のショットガンが携えられていた。
フォルトゥナ城のアグナスの書斎には、実験素材を保管していた大広間のチャンバーに何が収まっているのかを記す目録があった。
素材として刀剣から銃火器まで様々な武器や兵器も保管されており、適当に物色していたのだが、その中にあったこのショットガンを失敬したのである。
水平二連式だが拡張されたレシーバーに箱型の弾倉が下部に取り付けられたそれは、魔界の武器職人、マキャヴェリが作った〝スパルタン〟に酷似していた。
どうやらこれはコピー品らしく、別の誰かがあつらえた代物のようである。銃身の側面には〝BY .45 ART WARKS〟なる刻印が小さく彫られていた。
(良い仕事をしている)
本物のスパルタンがどれ程の使い勝手なのかは知らないが、このショットガンを試しにキメラシード達相手に使ってみると中々に使い心地が良かった。
レヴェナントよりも速射性や持続性は遥かに高く、キメラシードの大群を蹴散らすのに充分な性能を発揮したのだ。
無論、デビルハーツが組み込まれているレヴェナントよりも一撃ごとの威力は劣るしスラッグ弾を撃つのにも向かないが、本物のスパルタンと性能は遜色ないだろう。
「なあ、あんたが言ってたのって、こいつのことだろ?」
ネロはタバサが抱えて眺める銀の籠手――ギルガメスを指して尋ねる。
「そうだ。使い心地はどうだ?」
「あの板をぶっ壊すにはちょうど良かったぜ」
苦笑しながらネロは肩を竦める。
合流する少し前にネロは森の奥地にある遺跡の広場で地獄門を発見していた。
スパーダの言う通り、門を動かしている装置の中からこのギルガメスの魔具を発見し、成り行きのままに悪魔の右腕の上に装着したのだ。
試しに思いきり地獄門にストレートを叩きつけてやると、一発だけでバラバラに砕いてしまったのである。
悪魔の右腕だけでも相当な破壊力を有しているのだが、さらに幾倍にも強化されたことが実感できたのだ。
さすがのネロも呆然としてしまった程である。
「それでエキドナもやっつけたの?」
「こいつを最初から使えたら、あのババアもミンチにできてたかもな」
興味津々なルイズの問いにネロは小さく鼻で笑った。
「何だ。取り逃がしちまったのか」
「仕方ねえだろ。傍迷惑な子作りはするし、結構手こずったんだぜ」
突っ込むデルフに言葉を濁すネロはタバサからギルガメスの籠手を取り上げ、自らの腕に装着しだす。
指先から上腕部までを覆い尽くし、異形の悪魔の腕は完全に隠されていた。
「奴を魔界に追い返したのならそれでいい。地獄門も破壊できたのなら上出来だ」
そう答えるスパーダはスパルタンを正面に構え、軽く上下にスイングさせて銃身を折っては戻すのを繰り返している。
魔剣教団が建造した地獄門はこれで全てが破壊された以上、魔界化が進むことはなくなるだろう。
上級悪魔達も魔界からこちら側に現界することもできなくなり、少なくともこのフォルトゥナには向こうから上級悪魔達による侵攻は不可能となる。
これで第三者による邪魔は入らないはずだ。
「そういえば、あのダンテって奴に会ったぜ」
「本当? どこで?」
「森に着いた最初の最初さ。俺のすぐ後から来やがった……」
ネロが言うには、フォリスの滝の洞窟の出口に出てきた直後、ダンテも同じタイミングで現れたのだそうだ。
ダンテ自身はネロに敵意は見せてこなかったが、自分の目的も話そうともせずに森の中に逃げ去ってしまったという。
しかも、崖の上から遥か下に身を投げて。
ネロは溜め息を漏らして呆れだす。
「……馬鹿げてやがるよ。普通、あんな高い所から平然と飛び降りるもんか」
「落ちて、そのままおっ死んじまったんじゃねえのかね?」
「そんな感じはしなかったな……」
と、デルフの冗談に複雑そうにネロは顔を歪めていた。
「じゃあ、ダンテはこの森のどこかにいるのね?」
「ああ。……今頃、迷ってたりしてな」
この分ではネロもダンテを見つけてはいないようだ。
ルイズ達もずいぶんと森の中を歩いていたが、全く他に人の気配などなかった。
悪魔達と戦っているのなら何か音が聞こえたりするはずなのだが、そんな様子すら全くなかったのである。
ネロでさえ、三人の元に駆けつけたのは騒ぎを聞きつけたからだろうに。
「なあ、〝
二丁のショットガンをコートの中にしまうスパーダにネロは問いかける。
「良い。奴は奴で教団を潰してくれるなら、こちらの手間も省ける」
あっさりそう返すスパーダを見ながらネロは目を細めだす。
「……ひょっとしてあんたも、誰かから頼まれてこの島に来たのか?」
今のネロにとっては三人が単なる観光目的でこの島を訪れたのではないのだろうと感じ始めていた。
まだ推測でしかないがダンテが教団の悪事を嗅ぎ付けたのと同じく、わざわざこんな辺境の地にやってきたのかもしれないと。
ましてや悪魔祓いや魔法使いともなれば、猶更である。
どこぞから依頼を受けたのはこの〝
「そう思いたいのならそれで良い。――ところでお前、エキドナの一部を持っているな?」
軽く聞き流して話題を変えてきたスパーダにネロは僅かに眉を顰めるとギルガメスを外して悪魔の腕を露わにした。
「これのことか?」
かざした手の平の上に淡い光と共に赤い果実のようなものが現れる。
それはエキドナを魔界に取り逃がしてしまった際、エキドナの体から落ちたものだった。
「それがあれば森を迷うことなく抜けることができるな」
ネロが持っているのは森の支配者であるエキドナの核の一部だ。手にしていれば森を包むエキドナの魔力や妖気を退けることも可能なはずである。
事実、ネロは森の至る場所で道を塞いでいた不気味な木の幹をこの果実の力で枯らすことができていたのだ。
「それはお前が持っていろ。先導してもらうぞ」
「了解、了解」
果実を右腕の中に吸収し、ギルガメスの籠手を付け直したネロは一足先に崖下へと滑り降りていった。
(人使いが荒えな……)
ちらりと降りてくる三人を振り返るネロは小さく吐息を漏らす。
クレドも任務のためとはいえ、ネロには遠慮なく汚れ仕事を命じてきたのだが、〝
何しろまだ会って間もない相手に何の躊躇もなく指示を出してくるのだから、ネロとしては決して良い気分ではない。
別にネロが嫌がるようなことや無理難題を押し付けたりするのではなく、あくまでネロ自身が実行できることを示しているだけなのは理解できる。
一行とは目的が共通しているというのもあるが、年長のデビルハンターが自然とリーダーシップを発揮しているのをネロは素直に感じ取ることができた。
魔剣教団本部の建物を目印に森を進む中、タバサがネロの隣へとやってくる。
「あなたは何故、教団に属しているの」
「ん?」
ふとそう問いかけられてネロは面食らっていた。
「あなたは元より教団に忠誠を誓っている訳でもない。それなら、教団騎士として働いていた意味がない」
そればかりか教団の暗部についても全てでは無かったものの認識すらしていた。にもかかわらず、ネロは今まで教団騎士の一員として律儀に働いていたその意味がタバサには分からないのだ。
顔を上げたネロは小さく苦笑しだす。
「別に教団がどうなろうと、俺は知ったこっちゃない。だけど……そんな教団でも、信じて頼りにしようとしている人はいるんだ。キリエや他の子供達みたいにな。……ただ、そんな彼女達を守ってやりたい。それだけさ」
「……そう」
他の教団騎士達が各々どんな想いで剣を振るっているのかは、それぞれだろう。
だがネロの抱く純粋な願いは、きっと教団が〝神〟と崇める魔剣士スパーダには受け入れられるに違いない。
「もっとも、今日でおさらばだがな……」
苦笑しつつもネロは険しい目付きで教団本部の建物を睨みだす。
今まで知り得なかった教団の暗部の全てを知ってしまった以上、もはやネロもダンテと同じ立場に置かれたも同然である。
そうでなくとも、ネロは教団の所業を許す訳にはいかなかった。
「あのジジイ……ぶっ飛ばしてやる」
ギルガメスの籠手で覆われた右拳を左手に打ち付け、低い声で呟きだす。
魔剣教団の長は、今のネロにとっては倒すべき仇敵だった。教団の誇大妄想な目的など、どうでも良い。
(クレド……あんたは、知ってるのか?)
教皇サンクトゥスは自分の恩人……クレドとキリエの両親の仇なのだから。
作品の良かったところはどこですか?
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登場人物
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世界観
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読みやすさ
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話の展開
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戦闘シーン
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主人公の描写・設定
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悪魔の描写
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脚色したオリジナル描写・設定