魔剣異聞録~The Legendary Dark Slayer/Zero   作:月に吠えるもの

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Another Mission <アルブム大橋-Persuasion> 30章

魔剣教団の本部はミティスの森の南の外れに築かれていた。

何百年も前に放棄された旧修練場を抜け、アルブム大橋という長大な橋のさらに先、海上の沖合いに白亜の摩天楼はそびえ立っているのだ。

フォルトゥナの市街地とは橋の入り口の脇から海岸線に沿って続く道で繋がっており、往来自体は自由である。

 

(大きい……)

橋の入り口に差し掛かり、本部の建物を眺めるルイズは呆然としていた。

まだ間近ではないのに、その高さは軽く100メイルを超えるだろうと容易に想像できる。

それもあくまで自分達がいる橋の上からの話である。摩天楼は海面から突き出るように建っているので、その基礎は海底にあることを意味する。

実際は見た目以上の大きさということになるのだ。

海の底から海の上に建物を築くなどという発想はハルケギニアには無いので、ルイズもタバサも圧巻するしかなかった。

 

「――よし、出来たぞ」

橋を歩きながらスパーダは閻魔刀の刃を黒塗りの鞘に納めていた。

「持ちやすいように持っておけ」

「あ、ああ」

突き出された閻魔刀を受け取ったネロはそれを右腕のギルガメスの籠手に沿うように押し当てる。

前腕の一部が小さく変形し無数の爪が現れると、鞘の数か所を挟むように固定した。

「お前さんは左利きみてえだから、それならすぐに抜けそうだな」

デルフの言葉通りにネロは試しに右腕に固定された閻魔刀を抜き放ってみた。

抜くと同時に右腕も引くことで、さらにスムーズに抜きやすくなるので確かに使い易い。

「あんたの剣も、やっぱりこれと同じものなのか?」

刃を鞘に納めてネロはスパーダの腰に下げられる同じ剣を見つめだす。

「そんなものだ。名剣は唯一絶対の存在とは限らん」

ネロが手に入れた閻魔刀はスパーダの物と違って鞘がない。

鞘自体も閻魔刀の魔力の一部によって作られているので、新しく作り直すこと自体はできる。

だがネロは当然、そのやり方は知らないのでスパーダが代わりに作ってやったのである。

 

「けど、あんたみたいに空間に穴を開けたりできねえな……」

「お前はそのレッドクイーンにしろ、力任せに振るっているからな。それではその剣の真価は発揮できん」

「……俺が未熟だっていうのかよ」

ムッとしてネロはスパーダを横目で睨む。

「剣には色々種類があり、それぞれ扱い方が違う。レッドクイーンだったらお前のやり方でも構わんが、日本刀も同じように扱っても大成はせんぞ」

冷徹に告げるスパーダにネロは憮然としてしまう。

日本刀なんて手にするのはこれが初めてだ。当然、どんな剣技で扱うかなどネロは知らない。だから、身に沁みついているレッドクイーンと同じ剣技でミティスの森の悪魔達を斬り伏せていたのだ。

ネロとしては悪魔達と渡り合うにはこれでも充分だとは思っていたが、あっさり否定されたのが気に入らなかった。

 

「騎士団長を説得するの?」

「判らねえ。だけど、キリエを悲しませたくないからな……」

隣にやってきたタバサが問いかけてきて、ネロは顔を顰めだす。

「あの騎士団長は、教皇に騙されてるってことなんでしょ?」

「でもなきゃあ、律儀に従ったりするもんかね」

「肉親を殺されて平気な奴など、異常者に過ぎん」

ルイズにデルフ、さらにスパーダの辛辣な言葉にネロの顔はさらに険しくなっていった。

道中、一行はスパーダやネロがアグナスの資料から知った教団の悪事などについて話し合っていた。

魔剣教団は人知れず築いた地獄門で悪魔を人間界に呼び出し、悪魔の力を手に入れたりと様々な悪行に手を染め、フォルトゥナの民にも犠牲者を出していた。

一ヵ月前、ネロが遭遇したアサルトも事実上、教団が故意に呼び出したものである。

教団の計画の主導者だった教皇やアグナスはもちろん、騎士団長のクレドやその他幹部勢も周知のことだった。

 

(何でだよ、クレド……どうしてあんたまで……)

歯噛みしながらネロは教団本部を見上げだす。

ネロにしてみれば裏切られたような気持ちだった。

誰よりも敬虔な信徒で、悪魔達から民を守っていたはずの男が、実際は教団の悪事に加担していたなど信じたくなかった。

最近、異常なまでに悪魔達が出没してはネロに討伐の任務を課してきたのだが、その原因について尋ねてもクレドは「調査中だ」としか答えてくれなかったのである。

だが実際は、最初から教団がその元凶であることを知っていた。当然だ。自分達が当事者だったのだから。

その事実を、クレドはずっとネロ達に隠して欺いてきたのである。

 

「騎士団長にまだ良心が残っているなら、説得できる可能性はある」

「そう信じたいぜ……」

ぽつりと呟いたタバサにネロは小さな溜め息を漏らす。

アグナスの手記にはクレドが他の幹部達と違い、犠牲者が増えることに対して心を痛めているような様子が記されていた。

いくら犠牲者が出ようと、アグナスや幹部達は「多少の犠牲は仕方ない」と開き直ってまるで後ろめたさを感じていないのに対し、クレドだけは少しでも犠牲者を少なくしようと尽力していたようだった。

そんなクレドのことをアグナスは「青二才」と馬鹿にしていたのである。

二人の仲は悪いであろうことは明白だった。

 

長大な橋を進んでいると今度は長い階段に差しかかり、さらにそれを上がると円形の広場へと出ていた。

教団本部の建物までもう目と鼻の先だ。

「どうしたのよ?」

真ん中まで来ると突然、ネロが足を止めだしたのでルイズは怪訝そうにしていた。

ネロだけでなく、タバサも正面を見据えている。

「おいでなすったぜ」

デルフの呟きにルイズも広場の先の方へ注視した。

すぐ先には階段を降りると小さな堂が続いているのだが、その入り口に二人の人影の姿があった。

「クレド……」

戸惑い気味にネロは眉を顰める。

「騎士団長が自らお出迎えってか。大層なもんだね」

「好都合だな」

スパーダは懐へと手を入れ、いつでも銃撃を行える準備をしていた。

現れたのは紛れもなく、教団騎士の長であるクレドその人だった。

すぐ後ろに伴っているもう一人は全身を鎧で覆い尽くした騎士で、クレドと違って抜き身の剣を携えている。

 

「あいつ、あの鎧騎士だわ」

「アルト・アンジェロだったか」

フォルトゥナ城でスパーダが見たアグナスの資料には、アグナスの生み出した兵器の設計図なども含まれていた。

人間や悪魔などの魂を封じ込めることで自律する鎧騎士、ビアンコ・アンジェロは青みがかった鎧だったが、このアルト・アンジェロという鎧騎士は金色がかっていて一見すると神々しい印象である。

無機質で機械的だったビアンコと違い、このアルトの方は動作も人間らしいものだ。

 

「……何故、お前達がこんな所をうろついている?」

立ち止まり、対峙したクレドはスパーダの方を見やって問いかけてくる。

彼らからしてみれば自分達が監視していた部外者がこんな場所にいるのだから驚くのも当然だ。

「城を観光しただけだ。お前の部下とはそこで鉢合わせした。それだけだ」

冷徹に一蹴するスパーダとクレドは互いに睨み合う。

厳かな視線と冷徹な視線がぶつかり合うが、どちらも微動だにしない。

『団長。ネロの奴、ギルガメスまでも……』

アルト・アンジェロから金属質に響く声が発せられた。

やはり、教団騎士の誰かが鎧を身に纏っているのだろう。

事実、スパーダが見た設計図には悪魔の力を宿して肉体を強化した人間が身に着けるのを前提にして作られたらしいことが記されていた。

 

ネロはその声の主に聞き覚えがあり、何者であるかを察していたが、用があるのはクレドだけだ。

「クレド……どうしてなんだ?」

アルト・アンジェロを無視して語りかける。

クレド自身は顔色一つ変えないままに佇んでいた。

「どうして、あんたが教皇達の悪事に手を貸そうとするんだ。あの地獄門から悪魔を呼び出そうとするなんて、まともな奴が考えることじゃない」

『言葉を慎め、異端者が。お前ごときに話すことなど何もない』

責め立てるネロだが、アルトは居丈高に剣を突きつけてくる。

「てめえには聞いてねえ。俺はクレドと話してるんだ。すっこんでろ!」

だがネロは逆に睨み返して怒号を浴びせた。

『何を!』

「二人ともやめろ」

言い争うネロ達をクレドは冷静に諫めだす。

咄嗟に身構えかけていたタバサも静かに杖を下ろしていた。

クレドはネロの右腕に注目し、僅かに眉間に皺を寄せだす。

 

「……ネロ。その魔具と閻魔刀を渡せ。それはお前が持つべきものではない」

クレドが発した言葉は、ある意味ネロ達にも予想のついていたことだった。

魔剣教団は折れた閻魔刀を復活させようとしていたが、今までそれが出来ずに行き詰まっていた。だが、幸か不幸かネロがそれを成したために、教団の計画を大きく進める目途が付いてしまったのだ。

「ちょっと、質問に答えなさいよ! あんた達、悪魔の力を悪用してるんでしょう! もうネロもあたし達も全部知ってんのよ!」

憮然とするネロに代わってルイズがクレドに噛みついた。

クレドは結局、ネロの望むような答えを返そうとはしないのだ。

「部外者に話すことは何もない……」

「何ですってぇ!?」

とりつく島もなく拒絶されてルイズはさらに憤慨した。

思わず杖を抜こうとしたが、スパーダの手が素早く伸びて押さえ込まれる。

 

心苦しそうな顔を浮かべたままネロはクレドに訴えかけようとした。

「……クレド。聞いてくれ。あんたとキリエの両親は――」

「もういい……それ以上は何も言うな、ネロ」

まるで鉄仮面でも被ったかのように迷いも何もない表情のクレドは、鞘から自らの剣を静かに抜き放つ。

「私は騎士団長として、お前達を捕らえねばならない。それが、教皇の御意思なのだ」

揺るぎない程に固く強い意思がクレドから発せられるのが一行にははっきりと伝わっていた。

この男の教皇への忠誠心は紛れもなく本物なのだろう。具体的にどんな命令が下されたのかなど知らないが、それがどんな物であろうと、相手が何者であれ躊躇なく剣を振るう気概でいるのだ。

たとえ、それが自分の信頼する相手であっても。

「副長。貴官には他の三人を任せる。……だが、あまり傷つけるなよ」

『了解した。――来い!』

アルト・アンジェロが剣を振り上げると、広場の先の堂の中から無数の白い影が飛び出てきた。

背中に翼を広げて飛翔するそれは三体のビアンコ・アンジェロだった。

 

「この頭でっかち! 少しはネロの話を聞いてやったらどうなのよ!」

戸惑うネロに対してルイズはスパーダに制されつつも遠慮なく食って掛かっていた。

「じゃあ、代わりに言ってやるわ! あんたのご両親を殺したのはね、教皇とアグナスなのよ!」

「お、おい……」

ストレートに真実をぶつけだすルイズにさすがのネロも狼狽する。

だが、クレドの表情は何一つ変化を見せない。

「……言うに事欠き、教皇を侮辱するのは許さんぞ!」

そればかりかクレドの忠誠心を逆撫でしてしまったようだ。

「話を聞けよ、クレド!! 彼女の言ったことは本当なんだ!」

「問答無用だっ!!」

愛剣・デュランダルを両手で構えたクレドにネロは後退りながらも右腕を構えだしていた。

 

(気難しいを通り越してやがんなぁ……普通、ここまで頭が固くなるか?)

「この……分からず屋!!」

ルイズの怒号と共に青白の鎧騎士達の一体が飛びかかってきた。

アルト・アンジェロも左腕の盾を翼に変形させて装着すると、宙へと浮き上がる。

突進してきたビアンコ・アンジェロの槍はスパーダ目掛けて突き出されたが、当たる寸前で残像だけを残しルイズと共に消え去っていた。

「Foolish guy.(愚か者め)」

ほんの僅か後方に下がっていたスパーダは冷酷に愚鈍な騎士達を罵倒した。

 





7月から繁忙期になりますので、現在も含めてペースが落ちている状態です。
1シーンごとなので、週間投稿は辛うじてできますが、投稿タイミングなどにしばらくズレが生じるのでご了承ください。

作品の良かったところはどこですか?

  • 登場人物
  • 世界観
  • 読みやすさ
  • 話の展開
  • 戦闘シーン
  • 主人公の描写・設定
  • 悪魔の描写
  • 脚色したオリジナル描写・設定
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