魔剣異聞録~The Legendary Dark Slayer/Zero 作:月に吠えるもの
フォースエッジを抜き放ったスパーダは無造作に垂らしたまま、目の前に浮かぶアンジェロ・クレド達を見据えていた。
『何にせよ、デビルハンターごときが、閻魔刀を手にするとは生意気な……!』
『気を抜くな。あの男……ただのデビルハンターではない……』
いきり立つアルト・アンジェロをクレドは諫め、左腕の盾を構えだす。
フォースエッジの刀身には薄っすらと赤紫のオーラが纏わりだしていた。
剣だけでなく、それを手にする本人からも凍てつくような殺気を感じられるのだ。
ルイズ達と一緒に階段の縁まで下がっていたネロは目を丸くする。
「あの剣も、魔法の剣なのか?」
「そうよ。閻魔刀よりずっとすごい剣なんだから……」
得意げにルイズが語る中、ギルガメスの籠手を装着し直したネロは右腕を押さえていた。
「確かに、すげえ力みたいだ……」
籠手越しに仄かに光を放つ悪魔の右腕は、今までにない疼きを見せている。
まだ何もしていないのに、ビリビリと痺れてしまいそうな魔力の奔流をはっきり感じ取っているのだ。
「下手に手を出すと巻き添えになる」
落とした杖を拾って戻ってきたタバサはぽつりと呟き、ネロは微かに顔を顰めた。
思えばあのデビルハンターは今まで銃ばかり使って戦っており、手にする剣で戦うのを見るのはこれが初めてになる。
(何だ? 何で、あいつとダブる……?)
目をパチパチとさせながらネロはスパーダを凝視していた。
何故か剣を構えている姿が一瞬、赤い服の男――ダンテと重なって見えたのだ。
スパーダは徐にフォースエッジを正面に突き出し、横にかざしだす。
『ぬっ……!』
クレドと共にアルト・アンジェロも身構えかけた時――重々しい轟音が轟いた。
フォースエッジが纏っていたオーラが収束した直後、一気に膨れ上がる。
『ぐうっ……!?』
巻き起こった突風のような衝撃が二人の騎士達をいとも容易く吹き飛ばす。
翼で自在に飛べるはずなのに、クレドもアルトも持ち堪えることもできず、思うように飛ぶことすらできなかった。
『……おのれ!!』
吹き飛ばされつつもクレドは手にしていた剣を消し、代わりに身の丈を超える巨大な槍を発現させて投げつける。
衝撃波の中を空を切り裂きながら槍はスパーダ目掛けて突き進む。
だがスパーダは微動だにしないまま軽く剣を振り上げ、槍を弾いてしまう。
空高く弾かれた槍は回転しながら広場の一角へと落ちてきて、深く突き刺さっていた。
『覚悟!』
何とか体勢を立て直したアルトは大きく迂回し、自らの剣を構えてスパーダの横から突進する。
『ぎゃあっ!?』
イクシードの唸りを上げた剣が振るわれる瞬間、アルトは悲鳴を上げていた。
肩や腕、そして脚を周囲から飛んできた無数の赤い剣――幻影剣が貫いたのだ。
勢い余って墜落し転倒するアルト・アンジェロをスパーダはその場から足も動かさずにかわしてしまう。空間転移で一瞬だけその場に残像を残して消え、元の位置に立ち尽くしていた。
『あ……あぐ……』
倒れ伏すアルトは背中の翼だけでなく、兜まで外れて転がっている。
ルイズ達は露わになったアルトの素顔に目を見張っていた。
「あの時と同じだわ……」
「やっぱり、あいつも同じってことかよ……」
ネロもルイズも顔を顰めていた。
歌劇場でダンテに殺された教団騎士の一人は文字通りに悪魔のような恐ろしい顔をしていた。それと同じように、アルト・アンジェロの素顔も人間ではない悪魔そのものだったのだ。
あの騎士も〝帰天〟という儀式で悪魔の力をその身に宿し、その結果がこのおぞましい姿。クレドのような神々しさなど微塵もありはしない。
いくら神々しい鎧で纏い隠していたとしても、その中身は醜悪な悪魔でしかない。
それを〝天使〟と称して美化しようとするなど、実に滑稽である。
『――ハアアアアッ!!』
アンジェロ・クレドはまるで光のような速さで一瞬にしてスパーダの前まで距離を詰めてきた。
手にする剣と共に構えた翼が眩い光を放つと、一気に薙ぎ払う。
閃光を発しながら振るわれた鋭い斬撃は衝撃波を伴い、地面もろとも切り裂き砕いていた。
『くっ……!!』
だがスパーダ自身にクレドの渾身の一撃は届かなかった。
剣は完全に振り抜かれる前にフォースエッジの一閃で打ち払われていたのだ。
「半端者が。貴様の剣など、私の
後ろによろめくクレドに冷然とスパーダは言い放った。
かつて剣を合わせた宮本武蔵や平賀才人――どちらもその剣には強く清廉な信念が宿っていた。
このクレドという男の剣技が悪魔に身を落としたとはいえ、一際優れたものであることは剣を一度重ねただけでスパーダは認めていた。
だが、その剣に込められているはずの信念や志は、彼自身の立ち振る舞いによって全てが台無しにされてしまっている。
『ぐぬっ……!!』
残像と共に一気に踏み込んできたスパーダの振るった剣をクレドは左腕の盾で受け止めていた。
だがその一撃は盾を通して全身に響く程に強い。盾の防御など意味を成さない程の衝撃だった。
『おおおおっ!』
クレドの剣がイクシードの唸りを上げ、光を纏う。
互いに全身を使って剣を振るってはぶつけ合い、凄まじい衝撃音を轟かせていた。
『貴様……本当に人間か……!?』
鍔迫り合いの中、クレドは当惑していた。
帰天によって人間を超越する力を得ながら、目の前のデビルハンターは自分と互角以上に渡り合っている。いくら卓越した剣技とはいえ、この戦闘能力は人間の範疇ではあり得ない。
第一、その太刀筋にクレドは妙な違和感を覚えていた。
歌劇場で相まみえた赤い剣士――ダンテと酷似しているのだから。
「貴様こそ、その力は何だ」
『くっ……!』
冷たくそう返したスパーダはフォースエッジを軽く押し出し、クレドの体を大きく弾き飛ばした。
翼を広げて受け身を取ったクレドにスパーダは冷酷な視線をぶつける。
「今の貴様がネロを悪魔と呼ぶ資格があるのか? ――青二才」
『……!』
クレドはハッとして翼を広げ、滑走しながらその場より即座に逃れていた。
直後、立っていた場所に頭上から無数の幻影剣が雨のように降り注ぐ。
スパーダはさらに追撃を仕掛け、その場でフォースエッジを一気に振り払った。
剣圧が衝撃波となって地面を削りながら突き進み、クレドは一気に飛び上がってかわした。
『ハアアアアッ!!』
衝撃波を跳び越え、全身を回転させながら剣を打ち下ろす。
頭上からの攻撃をスパーダはあっさりと受け止めるばかりか、逆に押し戻していた。
『あ……悪魔……め』
幻影剣で縫い付けられたままのアルト・アンジェロは、次々と放たれる衝撃波をかわす騎士団長を見つめながら呻いている。
「あれが、あいつの剣技かよ……」
二人の剣士達の戦いぶりをネロは呆然と見つめていた。
「そうよ。彼は、ずっと今まであんた達が考えられないくらい、いっぱい悪魔達を倒してきたんだから」
「教団騎士どもが百人がかりでも、取り押さえるのはまず無理だろうさ」
デルフの言うことが決してデタラメではないことをネロは認めざるを得ない。
悪魔になってしまったとはいえクレドと互角に渡り合う剣技に加え、あんな魔法まで使いこなすのだ。
その戦いぶりはまさに人知を超えているとしか言えなかった。
『がっ!?』
ついにスパーダの衝撃波はクレドを捉えた。
クレドよりもさらに上空へ転移し、振り下ろされた一撃はそれまでより数倍にまで巨大となり、クレドに襲い掛かったのだ。
咄嗟に盾を構えたクレドだったが、衝撃に耐えきれずそのまま地上へと叩き落されてしまう。
「クレド!」
墜落したクレドにネロは思わず声を上げた。
『まだだ……! 私は……!』
剣を杖にして立ち上がるクレドの前にスパーダが緩やかに着地してくる。
『ハアアアアアッ!』
翼を広げ、盾を構えながらクレドは駆けだす。
だが、スパーダがフォースエッジを振り払うと突風が吹き荒れ、紙のように吹き飛ばされていた。
突き立てられていた槍に背中から衝突し、がくりと項垂れる。
「クレド……」
クレドの姿は光に包まれ、悪魔から人間のものへと戻っていた。
ネロは思わず踏み出そうとしたが、タバサにコートを掴まれて止められる。
「私は……負けるわけには……!」
よろめきながらも立ち上がるクレドは冷酷な目付きのまま立ちはだかるスパーダを睨みつける。
「奴よりはマシか」
肩で息をしながらもクレドの闘志は些かも衰えてはいない。
かつてワルドは本気になったスパーダに恐れをなして無様な姿を晒していたが、このクレドという男とは雲泥の差である。
相手が何者だろうと絶対に屈しはしないという揺るぎなく強い意志をスパーダは感じ取っていた。
「……blockhead.(……半端者が)」
吐き捨てるように呟くと、対するクレドはデュランダルを手に駆け込んでくる。
「――がぁっ!?」
スッと軽くフォースエッジの剣先が突き出されると、剣圧がより鋭くなってクレドの全身に叩きつけられる。
体の至る所を細かに切り裂かれながら吹き飛ばされたクレドはまたも槍に衝突していた。
「ぐっ……」
崩れ落ちる前に眼前に迫ったスパーダに首を掴まれ、クレドの体は宙に持ち上げられる。
デュランダルが手から抜け、カランと空しく音を立てて足元に落ちていた。
「Foolishness Scum.(愚か者め)」
「……!」
スパーダの冷酷な眼差しにクレドは思わず息を呑む。
「人間を辞めてみた気分はどうだ?」
その瞳に宿るのは静かな怒りよりも、酷薄さに満ち溢れた軽蔑だった。
今までに感じたことのない威圧感にクレドは自分でも判らない感覚を生じさせ、背筋が凍りだす。
「貴様の力は誰も守れはしない」
横から眺めるネロもまた同じだった。
直接対しているのでもないのに、クレドが感じているであろう戦慄や緊張を何故か自身も同じように感じてしまう。
それ程までに目の前の〝
フェルムの丘で出会ったベリアル、フォルトゥナ城で倒したバエル、ミティスの森で戦ったエキドナ。
あの恐ろしい悪魔達など取るに足らないとすら思えてしまう。
「貴様自身もな――」
と、スパーダは無遠慮にクレドの体を後ろへと放り捨てていた。
地面を滑っていったクレドは倒れていた副長の傍らで止まり、力なく横たわる。
副長は虫の息であり、その目からは光が失われかけていた。
「お、おい! よせよ! もう良いだろう!?」
向き直ったスパーダはフォースエッジを左右に振りつけながらクレドに歩み寄ろうとしている。
前に出てきたネロをちらりと一瞥したが、すぐに視線をクレドに向け直していた。
「ちょっと、ス……〝
思わず口をつぐみつつルイズも狼狽していた。
「彼は本気」
「マジだぜ。あの目は」
タバサ達の言葉にネロは目を見開いていた。
無慈悲と言わんばかりの冷酷な表情で倒れたクレドを見据えるその有り様は、人間らしさが微塵も感じられない程に苛烈だった。
「魔剣教団の教義にあったな。貴様らの〝神〟以外の悪魔は滅すべし――と」
それを表すかのように、スパーダは冷淡に皮肉を嘯き始める。
「なら、それに慣わねばなるまい」
言うや否や、フォースエッジをゆっくり肩まで振り上げ始める。
刀身に纏い続けていたオーラがより濃さを増す中、クレドは膝を突いたまま体を起こそうとするが、力が入らず叶わない。
スパーダとの距離はまだ数メートルもあったが、あの剣圧ならばこの程度の距離から振るっても同じことである。
「やめろおぉーーーーっ!!」
フォースエッジが振り下ろされた刹那、絶叫と共にネロは右手を伸ばした。
ギルガメスの籠手が光と共に消え去り、元の悪魔の右腕が露わになる。
伸ばした手の先からさらに大きな青白い光の腕が一気に伸びていた。
「もういい……! お願いだからやめてくれ!!」
幻影の腕はスパーダの右腕を包み込むように掴み、振り切る途中でピタリと動きを止めていた。
倒れたままのクレドは呆然としたままネロの方を見つめていた。
「あんただって、あれを見たから知ってんだろう。クレドは教皇に騙されているだけなんだ!」
悲痛な表情で訴えるネロをスパーダは再び一瞥しだす。
冷然とした面持ちこそ変わらないが、口元は微かに綻んでいた。
「兄さん!?」
突如、響いた女の声は本部に続く堂の方からのものだった。
ハッとネロが気付いてそちらを見やると、向かいの堂へ続く階段の手前に女が一人、立ち尽くしている。
「キリエ……!?」
そこにいたのは騎士団長クレドの妹にして、ネロが最も大切にする女性に違いなかった。
そして、今のネロにとっては、最も会いたくない相手でもあった。
作品の良かったところはどこですか?
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登場人物
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世界観
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読みやすさ
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話の展開
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戦闘シーン
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主人公の描写・設定
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悪魔の描写
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脚色したオリジナル描写・設定