魔剣異聞録~The Legendary Dark Slayer/Zero 作:月に吠えるもの
魔剣教団の本部は跳ね橋を隔てて二棟に分かれている。
アルブム大橋と接する超高層ビルのような北棟に比べて南棟はずっと小さいが、それでもちょっとした城くらいの規模はあった。
ダンテは数十分前に正面から堂々と進み入り、跳ね橋も跳び越えて南棟まで一気に侵入を果たしていた。
警備の騎士とは誰とも出会わず、本部内はガランとしていた。恐らく、潜入しているトリッシュが何らかの手配をしてくれたのだろうとダンテは当たりをつける。
別段、有難くもなかったが、とにかくすんなり侵入できたダンテは目的の代物を求めて探索をしていた。
「スパーダはねえか……」
今、ダンテがいるのは上層の一室だった。
フォルトゥナ城の城主の間とよく似た造りをしたそこは、どうやら教皇の私室らしかった。
色々な調度品があるが、それらには目も暮れず目的の魔具の姿を求める。だが、どこにもそれらしき影はない。
トリッシュには、この本部内のどこかにあるとだけ告げられており、物が物だけに重要な場所に置いてあると踏んでいたが、ここはどうやら外れのようである。
「爺さんの日記か……」
ふと目に付いた一冊の本を手に取り、後ろのページから開いてパラパラと流し見をしてみる。
だが、数ページもしない内にダンテは日記をポイと放り捨てた。
実にくだらないことしか書いてない。ただ、それだけだった。
その内容から、魔剣教団の教皇は本当にくだらないことしか考えていない、ただの老害だということを認識させたのみである。
再び相対したその時は、容赦なく狩ることをダンテは心に決めていた。
部屋を出ようとして、ダンテはピタリと足を止める。
「派手にやってんな……」
北の方から届いてきた強い魔力の波動。
それはダンテの身に流れる悪魔の血故に感応できるものだった。
だが、これがネロという少年のものではないことも実感できる。
「……キレてんのか?」
その波動は紛れもなく悪魔のものだ。だが、そこらに蔓延る有象無象などとは比べ物にならない。
静かながら威圧感に満ちたその波動は、今までダンテが感じたことのない凄みを宿している。
これ程の波動を発しているのが何者なのか、すぐに理解できた。
「……親父を怒らせたくはねえな」
乾いた笑みを零し、ダンテは部屋を立ち去って行った。
今この時、剣を交えた騎士団長が完膚なきまでに叩きのめされていることなど、ダンテには知る由もなかった。
◆
「うおっ!? な、何っ!?」
アグナスは目を見張り、驚愕する。
突如、自分の体が分厚い氷に包まれてしまい、動けなくなってしまう。
無傷な右半身に対して左半身は足から肩まで完全に凍りついていたのだ。
「き、き、貴様……!」
固められて自由に動けないアグナスはスパーダを睨みつけた。
レヴェナントのショットガンがいつの間にか握られ、腰だめに構えられている。
「そこでじっとしてろ」
アグナスがスメルオブフィアーを事前に用いていることはスパーダも魔力を感知して察していた。
故に本人を傷つけることも吹き飛ばすこともできないが、物理的な干渉それ自体が完全にシャットアウトされる訳ではない。
放たれたスラッグ弾はフロストハートにより氷の力を宿しており、アグナスの肉体を結界の表面から凍らせて固めるには充分だった。
――キンッ!!
狼狽するアグナスの右手を頭上から飛来した赤い光が掠めた。
掴んでいたキリエの髪の房の一部が切り裂かれ、解放された細い体がぐらりと横に傾きだす。
アグナスの足元にはナイフのように小さい幻影剣が突き刺さっていた。
「どけえぇぇぇっ!!」
鎧騎士達はキリエに駆け寄ろうとするネロを阻まんと次々に突撃を仕掛けてくる。
「おらおらおらあっ!!」
「ウィンド・ブレイク!」
タバサは再び発現したガンダールヴの魔人が立て続けに投げる槍と共に、自らも突風を叩き込んで鎧騎士達を退けていった。
「キリエ!」
ぐらつき倒れそうになるキリエに、ネロは必死に左手を伸ばそうとする。
「……ウオオオオオッ!!」
突然、アグナスが咆哮と共に眩い光を周囲に撒き散らしていた。
「ぐっ……!」
「何なの!?」
氷の破片と共に暴風のような圧力がネロを襲い、押し戻されそうになる。
ルイズ達も思わず顔を腕で覆って怯んでしまう。
『ぐおあっ!?』
だが、銃声と共にアグナスもまた呻いていた。
唯一微動だにしなかったスパーダは光の中にもう一発レヴェナントを発砲したのである。
「キリエっ!?」
気が付くと、キリエの姿はそこにはなかった。
「坊主! 左だ!」
狼狽えるネロはデルフの叫びに反応してそちらを向き、目を見張った。
キリエの体は今の衝撃で横に大きく吹き飛ばされ、高く宙に投げ出されていたのだ。
その先は広場の外縁のさらに外――落下すれば海上に真っ逆さまだ。
「キリエーーーーっ!!」
思わずネロは閻魔刀を放り捨て、ヘッドスライディングで一気に飛び込んでいた。
外縁に倒れ伏すと、そこから右手を精一杯に伸ばす。
幻影の腕が数倍にも巨大化して伸びるが、キリエを直接掴んでは握り潰してしまうかもしれない。ネロは咄嗟にそう判断し、キリエの落ちていく地点を狙って広げた掌でキャッチしようとした。
「やべえぞ、坊主。ありゃあ、落ちるぜ」
「……っ!」
ネロの傍に駆け寄ってきたルイズでもはっきり分かる。ほんの僅かに距離が足りないことに。
あのままではキリエは指先を越えていってしまう。
「ど、ど、どうすんのよ!」
後ろではタバサがスパーダと一緒に絶え間なく襲ってくる鎧騎士達を退けている真っ最中で手が離せない。
「娘っ子の出番だろうが! 風のメイジだったら、こんな時どうするよ!?」
デルフの飛ばした叱咤にルイズはハッとして杖を抜く。
早口で呪文を唱えながら、幻影の腕を越えて落ちていくキリエ目掛けて振り抜くように杖を構えた。
「レビテーションっ!!!」
大声で叫ぶと共に、急降下しつつあったキリエの体が空中でピタリと静止した。
「――はぁ……」
ネロとルイズはお互いに安堵の溜め息を漏らして脱力する。
ルイズとしては元の世界で散々失敗していた魔法が上手くいったこともそうだし、ネロは大切な人が救えないかもと恐怖してしまいかけたのだ。
「まだ安心できねえぜ。ほら、娘っ子。あの嬢ちゃんを坊主の手に乗せんだ。俺達が連中を追い払ってる今のうちだぜ」
見れば次々とビアンコ・アンジェロ達が海上に墜落している。
ガンダールヴの魔人の投槍とスパーダの居合いの斬撃がキリエに群がろうとする鎧騎士達を次々に撃ち落とし、近づけさせなかった。
そして、タバサのエア・ハンマーはルイズ達を襲おうとする鎧騎士達を吹き飛ばし、同様に弾き出していく。
(慎重に……)
ルイズは息を呑みながら、浮かんだままうなだれるキリエの体を静かに浮き上がらせ、ネロの伸ばした大きな手の上に移動させていく。
「キリエ……」
そのまま腕を引き戻し、立ち上がったネロはキリエの体を抱き寄せた。
力なく頭が垂れるが息はしている。どうやら意識を失っているようだった。
それでもネロの顔は安堵に満ち溢れていた。
『き、き、き、貴様ら……!! わ、わ、悪足掻きをしやがって……!!』
アグナスの耳障りな喚き声が轟き、一行はそちらを振り向いた。
存在を忘れかけていたアグナスは変わり果てた姿へと変貌していた。
クレドが人間の姿を捨てたのと同じように、アグナスもまた人外へと姿を変えていたのだ。
「気持ち悪……」
「天使には程遠いねえ。白いベルゼバブだな」
クレドとは違い、その姿は昆虫を彷彿とさせており、背中には巨大な虫の翅を生やしている。
耳に小さな角を生やしたハエのような顔はとても天使の印象など感じられない。クレドのように純白を基調とした姿なのだが、グロテスクと壮麗さが入り混じった実に半端なものだった。
『ふんっ……!』
体の所々が凍りついていたが、一気に伸ばすとへばり付いていた氷を全て弾き飛ばす。
翅を羽ばたかせ、宙に浮かび上がったアンジェロ・アグナスはプルプルと全身を震わせていた。
『この役立たずめ! そもそも貴様が最初にし、し、し、しくじったせいで、な、な、な、何もかも台無しだ!!』
ようやく立ち上がっていたクレドに向けてアグナスは憎々し気に罵声を浴びせていた。
息を切らすクレドは反論もできないまま、肩を上下させている。
『貴様ら、だ、だ、ダンテ共々、私の精鋭で始末してやるからな!! 覚悟しておけ!! し、し、し、死ね! 死ね!! 死ね死ね死ね死ね!!!』
あらん限りの悪態と捨て台詞を吐き散らしたアグナスは高く浮上し、本部へと飛び去って行った。
「You shall die.(貴様が死んでろ)」
遠退いていくアグナスを見据えたままスパーダは冷然と言い放った。
「うるせえハエ野郎だぜ……」
「本当……」
ルイズ達も、タバサですらうんざりとして大きな溜め息を零した。
「キリエ……」
一方のネロはそんな喧騒などどこ吹く風とばかりに、愛する女性の体を抱き締めていた。
ここまでが本来想定していた第3章になります。
ただ、クレド戦の一連が想定以上にオーバーしてしまいました。
次の章はネロが捕まるまでですが、この章からはかなりアレンジや脚色が入っており、原作通りの流れにはならないのでご了承ください。
作品の良かったところはどこですか?
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登場人物
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世界観
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読みやすさ
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話の展開
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戦闘シーン
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主人公の描写・設定
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悪魔の描写
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脚色したオリジナル描写・設定