魔剣異聞録~The Legendary Dark Slayer/Zero   作:月に吠えるもの

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Another Mission <赤の魔剣士、再び-Blame> 38章

アルブム大橋を渡り切り、本部の建物に三人は辿り着いていた。

間近で見る本部は目が眩んでしまいそうな程に高い建造物だ。

「ねえ、教皇はどこにいると思う?」

本部を見上げながらルイズは言う。

同じように本部を睨んでいるネロは僅かに眉を顰めた。

「分かんねえ。……だが、きっと南棟なのは間違いねえな」

本部自体は末端の騎士であるネロでも出入りできるが、いくつかの場所は立ち入りが禁止されていた。

北棟の上層部は技術局の者以外は立ち入れないし、南棟も奥の方までとなると幹部でなければ通ることは許されない。

「どうして分かるんだい?」

「勘さ。絶対来るなってクレドにきつく言われてたもんでね」

デルフの問いにネロは苦笑する。

クレドや幹部達は一体、奥で何をやっているのか常々気になってはいた。

冗談半分で色々なやましい想像をしたことがあるが、今となってはそれらの冗談が現実であった方が遥かにマシだっただろうと実感してしまう。

「あのジジイ。絶対、ぶっ飛ばしてやる……」

眉間に皺を寄せたままネロは本部の中へズンズンと進み入っていった。

 

北棟のエントランスは広大な大聖堂となっており、教団の一般信徒でも立ち入ることができる場所だ。

技術局に続く階段は東側にあるが、南棟はここを真っ直ぐ進んでいけばいい。

「どうしたの?」

聖堂の真ん中に来た辺りで突然ネロが立ち止まりだす。

ルイズとタバサは彼が右腕を押さえているのに気付いて気を張りつめさせた。

「よう。遅かったな」

二人が身構えようとした途端、聖堂内に男の声が響き渡った。

ネロもハッとして辺りを見回す中、南棟に続く出口横に人影の姿を見つける。

「お前は……!」

柱にもたれかかって腕を組む赤ずくめの男にネロは顔を顰めた。

ほんの数時間前に会ったばかりの、憎たらしい顔がそこにはあったのだ。

 

「ダンテ!?」

ルイズ達も驚き目を見張る。

背中に大剣を背負う銀髪の赤い服の男こそ、昨日に出会ったあのデビルハンターだった。

「名前、お嬢ちゃん達に言ってたっけ? ……まあ良いか」

一瞬、目を丸くしたダンテだったが、軽く肩を竦めるだけで気を取り直す。

「ところで、お嬢ちゃん達の保護者はどうしたんだ? 一緒にいるって聞いてたんだがな」

一行に歩み寄りながらダンテは尋ねてくるが、ルイズは軽く眉を顰めだす。

「〝(ディー)〟のこと? 彼なら別の用でいないわ」

(港が見えてきてるな。もうそろそろ向こうに着く頃だぜ)

海を渡るスパーダの視点は、デルフにしか分からないのだ。

「入れ違っちまったか。やれやれ……運が良いのか悪いのか……」

ダンテは頬を指で掻いて何故か小さく溜め息を漏らしている。

何やら残念そうな雰囲気であった。

 

「……悪いが、俺の方はもうあんたに用はなくてね。じゃあな」

ぶしつけに言い捨てたネロはダンテの横を通り過ぎようとする。

が、すれ違いざまにその左肩をダンテはがしりと掴んで歩みを止めていた。

「待ちなよ、坊や。俺はお前に用があって来たんだ」

「……離せよ!」

ネロは思わず振り払うとギルガメスで殴りかかろうとする。だが、ダンテは軽く体を逸らしてあっさりと避けてしまう。

「ははっ、こいつをこんな風に付けてるとはな。中々イカすじゃねえか」

ギルガメスの籠手と、装着される閻魔刀を目にするダンテは楽しげに笑いを漏らしだす。

ネロは苛立ちを隠さずダンテに食って掛かった。

「お前には関係ねえ。俺は急いでんだ。邪魔すんな!」

閻魔刀の柄に手をかけようとした途端、ポンと肩を強く叩かれる。

目の前のダンテは何も手を出していない。後ろを振り向くと、タバサが杖を自分の肩に突き出していた。

ネロが呆然とする中、タバサはダンテの方に向き直る。

「あなたも教団の壊滅を狙っているはず。わたし達と目的は同じ」

「……」

複雑そうにネロは顔を顰めていた。

ダンテの目的が自分達と同じであることはもはや明白だ。

ここで争っても何の意味もないと、そうタバサは言っているのだ。

ムカつく男ではあるが、ここは矛を収めるしかない。

 

ダンテも苦笑しながら小さく肩を竦めると、タバサを見返しだす。

「昨日のことは水に流してくれるってことでいいのかな? お嬢ちゃん」

「休戦」

冷めた目付きで一言、タバサはそう呟いた。

昨日の一件を決して許している訳ではない。その事実にダンテは頭を掻きながら困ったように小さく溜め息を漏らす。

「あんた、一体ネロに何の用なのよ?」

パンドラの箱を足元に置いてルイズは尋ねた。

「何、難しい話じゃないさ。坊やの右手にある刀を返してもらいたくてな」

ちらりとルイズはネロのギルガメスに装着された閻魔刀に注目した。

元々大きめの刀なので、鞘の半分以上は肘から後ろに突き出している。

「返してもらうですって? この閻魔刀は元々……魔剣士スパーダが使ってた物よ」

一瞬、口をつぐんでルイズは今ここにはいないスパーダの名前を口にする。

(ディー)〟こと、スパーダも閻魔刀を手にしているが、この閻魔刀とは別物だ。だが魔剣士スパーダが持ち主であったことに変わりない。

「何だと? そんな話聞いてねえぞ」

「あんたはちょっと黙ってて」

魔法の剣としか聞かされていなかったネロは思わず驚いたが、ルイズに睨まれて押し黙る。

 

ダンテはしたり顔で微笑を浮かべて言う。

「知ってるさ。だが、少し前まで持ち主は違う奴だったんだぜ」

「何……?」

「まさか、あんたが前の持ち主って言うんじゃないでしょうね」

ネロだけでなく、ルイズも怪訝そうに顔を顰めだす。

「惜しいな、ピンクのお嬢ちゃん。正確には、俺の兄貴さ」

両手を腰に当ててダンテは軽く小首を傾げてみせる。

「兄?」

兄、と聞いてタバサも目を丸くした。

「そうさ。その刀は、俺の兄貴が生きてた時に使ってたモンだ。それがどういう訳か、こんな辺鄙な所に流れ着いたってことさ」

三人、特にルイズはダンテの話が些か信じられなかった。

ダンテがスパーダの愛剣を持っているだけでもおかしな話だというのに、その兄弟までもがもう一つの愛剣の所有者だなんて、いくらなんでも偶然にしてはできすぎている。

「まあ、ついでに言えばお嬢ちゃん達が今持ってるその箱と肩当てや、坊やの籠手は俺が持ってたモンなんだがな」

ルシフェルの肩当てはルイズの背に装着されている……ように見えるが、実際はデルフが魔力で持ち上げてくれているのだ。

この地で見つけた魔具が全てダンテの物だなどと、いくら何でも都合が良すぎる。

だが、ルイズはそのこととは別のことでダンテに食って掛かった。

 

「ちょっと待ってよ。この三つは、確かグロリアが持ってきたものよ」

数時間前にフェルムの丘の地獄門でルシフェルを見つけた際にスパーダは教えてくれたのだ。

彼が目を通したアグナスの資料には地獄門の動力に使われていた魔具は、あのグロリアという女が教団に献上したことが記されていたという。

それによって一気に幹部の座に就いたグロリアは、全く素性の分からない女らしい。……あくまで、教団にとっては。

「……あんた、グロリアの仲間なの?」

「ま、そんな所だな」

目を細めるルイズにダンテはあっさりとそう答えた。

「あの女が……?」

ネロもギルガメスや他の魔具の出自についてはミティスの森を抜ける道中で聞かされている。

昨夜に出会ったばかりの女が、まさかダンテの仲間だなどとは全く予想できなかった。

と、なるとあのグロリアはダンテの一派のスパイだということになる。ひょっとしたら、あの女の手引きでこの男は昨日に教皇を襲撃したのではないか。そんな考えがよぎりだす。

 

ネロが考え込んでいると、突然鈍い音が響いた。

「……っと、ずいぶんご機嫌斜めだな。お嬢ちゃん」

ルイズはダンテにずんずんと詰め寄ると、思い切り脛を蹴り上げてきたのだ。

その目付きは一気にきつくなっており、激しい怒りが渦巻いている。

なすがままになるダンテは身じろぎもしなかったが、目を丸くしてルイズを見下ろしていた。

「すっとぼけてんじゃないわよ! あんた達のせいで、このフォルトゥナが悪魔だらけになったってことなんじゃない!!」

激しく責めるルイズの言葉にダンテはおろか、ネロまでもが呆然と沈黙していた。

ルイズはびしりとパンドラの箱を指差しながらさらに怒鳴りつける。

「この魔具がここでどう使われてたのか知ってんの!? 地獄門から悪魔達を呼び出すのに使われてたのよ!」

元々アグナスの地獄門は大きな動力源となる魔具が無かったためにまともに悪魔を呼び出すことはできないはずだった。

ところが、グロリアが持ってきた魔具によって地獄門は動き出してしまい、結果的にフォルトゥナの地には悪魔達が多く蔓延るようになってしまったのだ。

グロリアは教団に取り入るために魔具を持ってきたようだが、住民に被害を出さないような行動や対策もしていない様子だった。

ルイズにしてみれば、意味もなく被害を助長させているようにしか思えない。

「あんた、ムンドゥスの何なのよ! あの女、魔帝ムンドゥスが作った悪魔でしょうが!!」

杖を抜き出してルイズはダンテの胸に突きつけた。

教団を壊滅させようとしているはずなのに、余計なことをして被害を密かに大きくしようとしている矛盾。

その意味が全く理解できなかった。

(敵なのか味方なのか、俺にもさっぱりだねえ)

 

――ムンドゥスの申し子の考えることなど判らんな。

 

デルフを介するスパーダは、溜め息交じりに吐き捨てていた。

 

「あいつが、悪魔……?」

ルイズの怒号をネロは唖然と見つめていた。

グロリアと出会った時、確かに右腕は反応していた。だが、それは他の悪魔達の気配を感じ取っているからだと思っていた。

確かに怪しい女ではあったが、完全に人間の姿をした悪魔などネロの想像の外だったので、グロリアの正体が悪魔などと考えを巡らせることもなかったのだ。

 

糾弾されるダンテは小さく溜め息を漏らすと片膝を立てて屈みだし、ルイズと視線を合わせる。

「……お嬢ちゃん。掃き溜めの中にいたからって、全部が心もない奴ばかりとは限らないんだぜ?」

その表情からは今までの軽薄な雰囲気が失せていた。

真っ直ぐにルイズを見返すその瞳はとても真剣だ。

「それに、あいつは今じゃ俺の大事な相棒だ。彼女が掃き溜め共と違うことは、俺が保証するぜ」

「……」

はっきりと告げるダンテにルイズは黙りこくる。

その真面目な眼差しや雰囲気はスパーダとよく似ていた。

自分のパートナーを強く信頼しているという意志が伝わってくる。

ルイズは不思議とそう感じることができるような気がした。

「……ま、今回ばかりはあいつに好き放題させてた俺にも責任があるな。嬢ちゃん達に手間をかけさせちまったし」

立ち上がったダンテは後頭部を描きながら小さく苦笑すると、ネロの方へ向き直った。

 

「さて、坊や。改めて、その刀を返してもらいたいんだが……」

ネロは軽く顔を顰めたが、ダンテは気にした風もなく続ける。

「――その前に、一仕事といくか?」

事も無げに言った直後、轟音と共に聖堂内が大きく揺れた。

 

――ウォオァァァアアアアアッ!!

 

三人が通ってきた背後の入り口から呻き声のような雄叫びが轟いていた。

 

作品の良かったところはどこですか?

  • 登場人物
  • 世界観
  • 読みやすさ
  • 話の展開
  • 戦闘シーン
  • 主人公の描写・設定
  • 悪魔の描写
  • 脚色したオリジナル描写・設定
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